216 / 227
第十四章 未来へ向かって
5 青き姫御子
しおりを挟む
青い卵にごく微かなヒビが入ったとき、卵のケースはちょうどローティから魔王へ返されようとしているタイミングだった。ローティは慌てて、リョウマのところへすっ飛んできた。
「パッ、パパ! 卵が、卵が孵りそうですっ!」
「えっ!」
リョウマは執務机の前で飛び上がると、ローティとともに一目散に駆けだした。ダンパら護衛の面々が後に追いすがるのはいつもの光景だ。近頃ではすっかり王宮の人々もこんな様子に慣れてしまったのか、驚きよりは微笑ましいといった顔で見送ってくれている。
「エルッ! 卵が孵りそうって──」
叫びながらエルケニヒの執務室に飛び込んだリョウマだったが、すぐに魔王が「シッ」と唇の前に指を立てたので口を結んだ。
執務室の中では、少し離れた場所から魔王付きの文官や執事ガガノフ、そのほか護衛の武官らが固唾を飲んでなりゆきを見守っていた。
執務室の上、卵のケースのそばに、下の部分だけ布にくるまれた卵が置かれている。
(おお……!)
その少し斜め上部あたりに、確かにうっすらと亀裂が入っているのが見えた。
「先ほどから、あまり変化がない。わりとのんびりした性格の子なのかも知れぬ」
「そ、そーなんか……」
リョウマとローティはそれぞれ魔王の両隣に座って、ともに卵を見つめつづけた。やがて、本当に長い時間をかけてその子の姿が見え始めた。
「わあっ。青い……!」
ローティが感嘆の声をあげる。その通りだった。卵そのものも宝石のようだと思ったが、生まれてきたドラゴンの幼体であるその子もまた、宝石のように美しい鱗を持っていた。ローティのように、背びれや角の先は金色に変わっており、夢のように美しい。
生まれた第二子のドラゴンの子は、幼名を「サフィー」と名付けられた。なにしろサファイアを思わせる深い青色の体色だからだ。人の姿がとれるようになり、性別がはっきりしたところで改めて名づけをおこなうことになった。
長時間、孵化を見つめ続けて疲れただろうに、ローティはもう有頂天もいいところだった。
「生まれた、生まれた、生まれた……!」
そう叫びながら、もう王宮じゅうを跳ねまわった。
おかげで王宮にいるすべての人々は、公式の発表を待つまでもなく魔王の第二子の誕生を知ることになった。
「サフィーもお肉、好きだよね? どのお肉がいい? お兄様が切り分けてあげるよ」
まだ翼もくしゃくしゃで、もたもたとはいずり回るぐらいのことしかできないサフィーを、ローティは今まで以上に世話したがった。幸いにも、サフィーはローティのときほどやんちゃではなく、世話のしやすい子だった。おかげで子育ての手間が少し減り、リョウマも多少は自分の仕事に集中できる時間が増えた。
例によって卵から孵った王の子のための披露のパーティ等々も行われ、また数か月が過ぎた。
そうしてまたもやローティがリョウマのところへ飛び込んでくることになった。
「リョーパパ! サフィーが! サフィーが!」
「えっ。どうしたのローティ」
「ひ、人型になりましたあっ!」
「えっ。マジ!?」
またもやローティと、そのほか護衛のみなさんとともに赤子のための部屋に駆けつけると、すぐに魔王もやってきた。
「おお……!」
リョウマが抱いているその子を受け取り、抱き上げて魔王は微笑んだ。
「これはまた、美しい子だ」
「うん」
魔王の言う通りだった。子どもは濃紺の髪と金色の爬虫類の瞳をもつ、玉のように美しい子だったのだ。髪の先はローティに似て、やっぱり少し金色がかっている。
そしてリョウマはとあることに気づいた。
「それに……女の子、みたいだな」
「ああ。間違いない。姫御子だ」
「おっ、女の子……」ローティが大きな目をさらに大きくしてじっとこちらを凝視している。「妹……と、いうことですか?」
「ああ、そうなるな」
「わああいっ」
ローティが今度こそ、翼を広げて庭へ飛び出し、上空を飛び回り始めた。
「いもうと、いもうと! ぼくの可愛いいもうとだー! やったあああ!」
「こら、ローティ! あんまり騒ぎすぎんなよー」
と一応注意はしたのだが、そのときにはすでにローティは、王宮のあちこちにある銅像や飾り屋根などにぶつかって、「ぱりーん」だの「ガシャーン」だのいう騒音を立てまくっていた。
「パッ、パパ! 卵が、卵が孵りそうですっ!」
「えっ!」
リョウマは執務机の前で飛び上がると、ローティとともに一目散に駆けだした。ダンパら護衛の面々が後に追いすがるのはいつもの光景だ。近頃ではすっかり王宮の人々もこんな様子に慣れてしまったのか、驚きよりは微笑ましいといった顔で見送ってくれている。
「エルッ! 卵が孵りそうって──」
叫びながらエルケニヒの執務室に飛び込んだリョウマだったが、すぐに魔王が「シッ」と唇の前に指を立てたので口を結んだ。
執務室の中では、少し離れた場所から魔王付きの文官や執事ガガノフ、そのほか護衛の武官らが固唾を飲んでなりゆきを見守っていた。
執務室の上、卵のケースのそばに、下の部分だけ布にくるまれた卵が置かれている。
(おお……!)
その少し斜め上部あたりに、確かにうっすらと亀裂が入っているのが見えた。
「先ほどから、あまり変化がない。わりとのんびりした性格の子なのかも知れぬ」
「そ、そーなんか……」
リョウマとローティはそれぞれ魔王の両隣に座って、ともに卵を見つめつづけた。やがて、本当に長い時間をかけてその子の姿が見え始めた。
「わあっ。青い……!」
ローティが感嘆の声をあげる。その通りだった。卵そのものも宝石のようだと思ったが、生まれてきたドラゴンの幼体であるその子もまた、宝石のように美しい鱗を持っていた。ローティのように、背びれや角の先は金色に変わっており、夢のように美しい。
生まれた第二子のドラゴンの子は、幼名を「サフィー」と名付けられた。なにしろサファイアを思わせる深い青色の体色だからだ。人の姿がとれるようになり、性別がはっきりしたところで改めて名づけをおこなうことになった。
長時間、孵化を見つめ続けて疲れただろうに、ローティはもう有頂天もいいところだった。
「生まれた、生まれた、生まれた……!」
そう叫びながら、もう王宮じゅうを跳ねまわった。
おかげで王宮にいるすべての人々は、公式の発表を待つまでもなく魔王の第二子の誕生を知ることになった。
「サフィーもお肉、好きだよね? どのお肉がいい? お兄様が切り分けてあげるよ」
まだ翼もくしゃくしゃで、もたもたとはいずり回るぐらいのことしかできないサフィーを、ローティは今まで以上に世話したがった。幸いにも、サフィーはローティのときほどやんちゃではなく、世話のしやすい子だった。おかげで子育ての手間が少し減り、リョウマも多少は自分の仕事に集中できる時間が増えた。
例によって卵から孵った王の子のための披露のパーティ等々も行われ、また数か月が過ぎた。
そうしてまたもやローティがリョウマのところへ飛び込んでくることになった。
「リョーパパ! サフィーが! サフィーが!」
「えっ。どうしたのローティ」
「ひ、人型になりましたあっ!」
「えっ。マジ!?」
またもやローティと、そのほか護衛のみなさんとともに赤子のための部屋に駆けつけると、すぐに魔王もやってきた。
「おお……!」
リョウマが抱いているその子を受け取り、抱き上げて魔王は微笑んだ。
「これはまた、美しい子だ」
「うん」
魔王の言う通りだった。子どもは濃紺の髪と金色の爬虫類の瞳をもつ、玉のように美しい子だったのだ。髪の先はローティに似て、やっぱり少し金色がかっている。
そしてリョウマはとあることに気づいた。
「それに……女の子、みたいだな」
「ああ。間違いない。姫御子だ」
「おっ、女の子……」ローティが大きな目をさらに大きくしてじっとこちらを凝視している。「妹……と、いうことですか?」
「ああ、そうなるな」
「わああいっ」
ローティが今度こそ、翼を広げて庭へ飛び出し、上空を飛び回り始めた。
「いもうと、いもうと! ぼくの可愛いいもうとだー! やったあああ!」
「こら、ローティ! あんまり騒ぎすぎんなよー」
と一応注意はしたのだが、そのときにはすでにローティは、王宮のあちこちにある銅像や飾り屋根などにぶつかって、「ぱりーん」だの「ガシャーン」だのいう騒音を立てまくっていた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる