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第一章 黒髪の皇子
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しおりを挟むその第一報に接したとき、ベータは惑星アッカマンの自分の根城で例によってさまざまの情報収集をしていた。
(なんだと……?)
ユーフェイマス宇宙連邦の公式ニュースサイトでは、あの大海戦で友軍が勝利したことを大々的に報じていた。そして、友軍の後方に起こった不思議な事件について触れ、そこに参戦していたスメラギの皇子がそれに巻き込まれて不運にも行方不明になったことを告げていた。
(ふざけるな。一体、どういうことだッ……!)
一瞬目の前が暗くなり、次に襲ってきたのは激しい怒りと、そして恐ろしい後悔だった。
(何をやってるんだ、バカ皇子──!)
そうして。
その後ベータはユーフェイマス軍の救命部隊に潜り込み、タカアキラ殿下捜索にまで加わって宇宙の方々を探し回ることになった。しかしそこで得られたのは、どうしようもない隔靴掻痒の思いばかりでしかなかった。
◇
「ちゃんと説明して欲しいの、ブラッド」
「アレックスはどうしたの? 忙しいだけって言うけど、本当?」
「そうだよ。ブラッドは知ってるんだろ?」
「みんな心配しているの。だってこんなに長い間、アレックスが来てくれないなんてことなかったもの」
「マサトビだって、なんだか青い顔をしてちゃんと答えてくれないし」
(あンの、ちびぽっちゃり博士──)
ベータは心の中で舌打ちをする。
もちろん対象はあのマサトビという恩寵博士だ。
惑星オッドアイの子らの住処で、ベータは今、この星に住む子らのうちの比較的年嵩の子供たちに囲まれていた。最前からそのつもりだったらしく、他の小さい子供らは少し前から外へ遊びに出されている。
(だから、無理だと言ったんだ。あのおっさんにこれは荷が重いってな)
そうなのだった。
あの後、まだアルファが行方不明になる前に、ベータは一度この惑星でその恩寵博士に会った。アルファの協力者でその幼い頃から彼のことを知っているというその男は、小柄でふくふくした体形の、ひどく親しみやすい御仁だった。
しかしその分と言うべきか、ハードな状況に対応するための心胆という点ではどうにも弱さが抜けず、善人には違いないのだがベータからすれば甚だ頼りない感じに見えた。それに、色白で太めの体であるせいか実際の年より若くは見えるのだが、それでもすでに初老の域のはずだった。
マサトビは「そうですか、あなたがあのベータ殿」と言って、ひどく嬉しそうにこちらの手を取って笑ってくれた。すでにあのアルファから話を聞いていたということらしい。
「でん……あ、いやアレックス殿のお眼鏡に叶うたお方とあらば、是非もありませぬ。どうぞどうぞ、これからも子らのことをよろしゅうお頼み申し上げまする」
この男、これ以降も何度かアルファをベータの前で「殿下」呼ばわりしそうになっては吃ってみたり咳ばらいをしてみたりと大変忙しいのだった。なにやらもう見るからに「いい人」というしかないような男なのだ。
「このマサトビ、いかにも力不足ではありますれど、粉骨砕身、で……ア、アレックス殿のお手伝いをさせていただきまする。子らのため、あなた様にもどうぞどうぞ、よろしゅうお頼み申し上げまする」
そう言って直衣姿のこの小柄な男から深々と頭を下げられてしまっては、ベータももはや苦笑するほかはなかった。
しかしながら。
アルファがあの大海戦で行方不明になってからというもの、ベータがこの惑星に来ることは非常に気の重くなる仕事になった。
はじめのうち、「あいつは今ちょっと仕事が忙しいんだ」とか「だから俺がしばらく代わりに来ることになった」とかと言を左右にしていたベータだったが、やがて年嵩の子供たちに取り囲まれて、こうして事実を吐かされることになってしまったのである。
それは、あの大海戦終結から半年ほどがたった頃のことだった。
「ブラッド。本当のことを教えてちょうだい」
彼らの住処である建物の中の食堂にあたる部屋で、もっとも年嵩の女の子、ユウナが静かな声で問い詰めてくる。年嵩だとは言ってもせいぜいが十を少し出たぐらいの年齢だ。
いつも思うのだが、女はこんな年齢でもまったくもって侮れない。こちらがいくら普段通りの顔でいるつもりでも、どこから手掛かりを拾い上げてくるものか「この人はいつもと違う」とあっさりと見抜いてしまう。まったくもって、侮れない。
結局ベータは、様々に悩んだ末にアルファが陥っている事態について本当のことを彼らに話した。いつまでも事実を隠蔽していても仕方がない。彼らとて、親もなく、これから厳しい外界で生きていかねばならない身の上だ。
ただでさえ完全体のヒューマノイドである上に、かの<燕の巣>の出身者で見目のよい子らなのである。自分の置かれている状況を正確に把握して、自分の身は自分で守る訓練をしていかねば、今後、到底生きてなど行けないのだから。ましてや今は、最大の庇護者であったアルファが不在になっている。
「まさか……アレックスが」
「戦艦が、攻撃されて爆発って──」
「そのまま、行方不明だなんて……!」
事実を話した時、さすがのユウナも愕然として絶句した。周囲にいた少年少女たちも真っ青になって沈黙する。
「俺も何度か、その宙域に探しには行ったんだがな。手がかりはなにも見つからない。逆に言えば『死んだ』という証拠もないんだが」
「そんなっ……! あたりまえよ!」
ユウナよりは少し年下で、ややはねっかえりの少女が叫ぶ。
「アレックスがそんなこと、ぜったいないものっ……!」
「そうだよ! きっと大丈夫だよ!」
「アレックスは……アレックスはし、……しんだり、しないもん……!」
言いながら、周囲の子供たちの声がぐずぐずと涙に濡れ始める。ベータはもはやたまらなくなり、「もちろんだ」と言いながら座っていた椅子から立ち上がって子供たちに背を向けた。
「俺も、もう少し探すつもりだ。だからチビたちにはまだ言うな」
「……わかったわ」
唇をかみしめるようにしてユウナがうなずく。
「こんなこと、小さい子たちになんて、とても言えないわ。きっと大泣きして、大変なことになってしまうもの」
「そ、そうだよな……」
別の少年が悄然とうなずく。
みな、今にも泣きだしたいのを必死にこらえている顔だった。胸にごまかしようのない痛みを覚えつつ、しかしベータは意識的に軽い声を出して笑って言った。
「まあ、そんなに心配するな。そのうちひょっこり帰ってくるさ」と。
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