星のオーファン

るなかふぇ

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第七章 兄二人

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 その夜から、ツグアキラは兄に抱かれるようになった。
 最初のうち、兄の強力な<恩寵>によって彼の思うままにされただけの関係だったそれは、慣れるに従って少しずつ近しいものになった。少なくとも、ツグアキラはそう思っていた。
 実際、しばらく経つと兄は<傀儡>を使うこともしなくなった。それはまあツグアキラの方で兄の求めに逆らうことがなかったことが大きいのだとは思うけれども。

 ツグアキラは求められるまま兄のものをしゃぶり、彼の前に足を開いて自分のそこをほぐし、嬌声を上げることも厭わなかった。命じられれば寝た状態の兄の腰に跨って自ら腰を振ることもした。自分の体はその頃には、それで兄が楽しげにこちらを見つめ、興が乗ればやがて激しく突き上げてくれることに、とっくに快楽を見出していた。
 兄は紛れもない嗜虐の人だった。しかし、ほかの卑しい側女やら男妾の少年たちとは違い、自分にだけは流血を見るような酷い扱いをしなかった。それらの少年少女については、冷酷な扱いに耐えきれずに命を落とし、桶に入れられてひっそりと宮中から外へと出される者が後を絶たなかったにも関わらずだ。

(私だけは特別なのだ。兄上は、私のことだけは特別に見てくださっている)

 当然、ツグアキラはそう考えるようになっていった。
 どんな形でも良かった。自分が誰かの「特別」であること。それがどんなに自分を支えてくれるものかを、ツグアキラは初めて知った。

(私は、兄上のものだ。兄上だけのものなのだ──)





 しかし。
 成人の儀を終えた弟タカアキラがその報告のために父や兄のもとにやって来た時、事態は変わった。あの美しい弟は、一瞬にしてその場にいたすべての者の心を奪った。
 それは、あの兄をしても同様だった。
 さすがに目立った様子ではなかったものの、日々、褥までも共にしているツグアキラにはすぐに分かった。兄がその目を驚かされ、じっと弟を見つめていることが。そして明らかにその心を動かされていることがだ。その目の奥には明らかな欲情がひそんでいた。

 弟はただ、成人としての正装をしてごく素直な声と言葉で皆に挨拶をしただけだった。そのことはよく分かっている。しかしただそれだけのことが、ツグアキラの胸を深くえぐった。
 なんという、美しく高貴な姿か。それは単に外見だけのことでなく、内側から溢れ出てくるものだということがツグアキラにでさえすぐに知れた。涼やかな声は優しく清らかで、言葉のすみずみにまでその心根の温かさが滲んでいる。

(そんなもの、当然だ──)

 袖の内で握りしめた拳が震えてくるのを覚えながら、ツグアキラは思った。
 幼い頃からあの母に大切にされ、愛情のすべてを注がれて育った弟。その心のどこに、暗い感情が芽生える隙があっただろう。だれかを傷めつけて嬉しがる、卑しく湿った気持ちが生まれる理由があっただろうか。
 そんな少年がこれほど清らかな美しい身体と心を手に入れて、健やかな瞳で父や兄を見つめているのは、至極当然のことなのに。父も兄も、周囲の大臣たちまでが耳目を奪われ心を虜にされて、少しぼんやりと彼を眺めているばかりだ。
 親の仇でも睨むようにして彼を見つめてしまわないよう、目をそらすだけで精一杯だった。このような公の場でこんな感情を表に出しても、自分にいいことはひとつもない。さすがにそのぐらいの分別はあった。

 厭わしい。
 厭わしい──。

 そんな気持ちは、その後もしぼむどころかどんどん重みを増して、やがてツグアキラの理性を圧倒することになる。
 実際、紙一重のところだったのだ。あの時、タカアキラが自身の私財を投じて惑星を購入し、さらにそこに「購入」した<燕の巣>の子らを住まわせているという事実が発覚する直前、兄はどうにかしてあの末弟を己が褥に呼び込もうと考えていたのだから。
 その頃にはすでにあの<燕の巣>の女ヒナゲシが皇太子妃として兄のもとに入内し、自分の計略によって死に追いやられていた。兄は自分が寝物語に囁いた言葉を次第に信じてくれたのだ。事実、あの女が自分の<恩寵>を隠して兄のもとに嫁したのは本当のことだったのだから当然の成りゆきである。自業自得と言ってもいい。

(兄上は、私のものだ。私のもの、私のもの、私のものだ……!)

 何人なんぴとたりとも、兄の心を得てはならない。兄の最も傍にいるべきは、この自分なのだから。
 あのかたくななお心をお慰めできるのは、この自分を措いてほかにはない。
 そうでなければならないのだから。

 ただ、幸いなことにタカアキラに関しては、あの兄をしても簡単にはいかなかった。弟には優れた<恩寵>があり、兄の<傀儡>をもってしてもそう簡単に体を操ることは出来なかったからである。実際、兄は何度かそんなことを試してみたようなのだ。しかし、兄と弟の力は拮抗していた。さほど大きな上下関係がない場合、互いの<恩寵>の影響を相手に及ぼすのは難しくなるもののようなのだ。
 しかしそれも工夫次第。兄はそんな風に考えているようだった。

 だから、ツグアキラは焦っていた。
 一刻も早く、あの弟を兄から引き離さねばならない。<燕の巣>の子らの顛末があってユーフェイマス宇宙軍に「出向」のような形になった弟を、ただそれだけで済ますのでは飽き足りなかった。そんなことをしてみたところで、ほんの数年もすれば弟は舞い戻ってきてしまう。それではただ、問題を先送りにしただけだ。

 そんなときだった。
 ツグアキラの耳にこっそりと、こんなことを囁く者があったのだ。

「殿下。ザルヴォーグ側に潜ませているこちらの間諜の中に、使えそうな者どもがおりまするのですが──」と。
 
 

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