春画を売ったら王子たちに食べられた

四季

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プロローグ

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 今日は日曜日で山沿いにある県立公園にスケッチに来ていた。ハイキングコースを歩いて少し人気のいないところでイーゼルを立てて鉛筆で絵を描いた。時々ハイキングする人たちが「こんにちは」と声をかけてくれる。子どもたちが絵を見て「お姉ちゃん、絵が上手」って言ってくれて嬉しくなったりもした。

 でもだんだんスケッチに集中して、薄暗くなったと気付いて辺りを見渡して……バカみたいに口を開けたまましばらく突っ立っていた。

 確かに木々の絵を描いていて、目の前にある景色は県立公園のハイキングコースにあった景色なんだけれど……違和感がすごい。なにここ、ジャングル? って周りには見たことのない木々が生えている。
 どれだけキャンパス見ていて周りを見ていなかったんだろう。普通周りを見て絵を描くでしょう! と少し前の自分に頭突きをしたくなる。

 慌ててイーゼルを片付けて荷物を持って、ハイキングコースの小路の方へ向かった。

「なんで?」

 道に外れると大変だと思ったから、ハイキングコースの見える場所で絵を描いていたのに小路がない。人が通った道すらない。

 携帯を出して現在地を確認しようとしたら「圏外」の表示。

「はあ~?」
 ショックで足腰の力がなくなってそのまま地面にヘニョヘニョと座り込んだ。少し落ち着こうと、自分に言い聞かせてもう一度周りを見渡す。

「はっ?」

 パタパタと羽の生えたウサギに似た動物が目の前を通り過ぎる。普通野性の獣って人間のこと、ビビって逃げるんじゃない? なのにこの羽ウサギ、里奈をバカにしたような目で見て石ころ扱いでスルーしていった。一瞬でも可愛いと思って損した。

 で、いきなり『ギャー』と可愛くない声を出して里奈くらいの大きさのトカゲに火を噴いた。
 トカゲ? 恐竜? なんでもいいけれど、口から竜巻出て火を押した。羽ウサギとデカトカゲがバトルを目の前でしている。

 ……認めよう。ここは日本じゃない。地球でさえない。

 羽ウサギもデカトカゲも里奈の存在はスルー。カオスだ……。

(いや私は石、透明人間。どうぞ私のことなど捨て置いてください)

 ええ、ありがたいことに里奈の存在は捨て置かれました。
 激しい二次元で見る魔法のバトルの結果は、可愛い羽ウサギの勝利だった。丸こげのデカトカゲを可愛い顔でバクバク食べた。そんな小さい体のどこに何十倍あったデカトカゲの肉が入るの?

 第一、ウサギは草食じゃなかったの?

 突っ込みたいことはたくさんあるけれど、自分はただの石。ちっぽけな石。どうぞここから消えてください。もう二度とウサギをモフモフしたいなんて思わないから。

 羽ウサギはちゃっかりゲップして、こっちをまたチラッとバカにしたように見て消えた。

 このままここにいたらどんな獣に食われるか分からない。

「誰か助けてー。遭難しましたー。迷子です! 無害なただの女です! 一応処女です。もうこの際、山賊で侮辱コースでもいい。いや、よくない。
 えっと。せめて奴隷商人に見つけられて娼館に売られるパターン。それも嫌だな。
 もう誰か助けてくださいーー。モブ男ブサ男キモ男オタク男、誰でもいいよ、助けてくださーーい。
 ええ、もうこの際選り好みをしないで求められればエッチだってしてあげるわ! って、最初から選り好みなんて贅沢できるだけモテるわけないって?

 うん、うん。そうだよ。あなたはすごい、大正解! 神さま、仏さま、異世界人さま、誰だれ様? 宇宙人さまーー、たーすーけーてーーーーーくだしゃい! ひっく、え~~ん、あばずれおかあ~しゃん、助けてーーひっく」

 喉が枯れるまで何度もこの世界へ連れて来た神様仏様、現地人様、モブ村人様、醜男様を呼んだけれど返事がなかった。涙が出そうなのを何度もこらえた。
 でもここで諦めるのはまだ早いはず。きっと異世界へ来た時に与えられた特別な力があるはず。里奈は聖女、勇者、特別なんだ……二十三歳になってかなりイタイけれど、この状況で涙が出そうで自分に言い聞かせないとここで野垂れ死しそうだった。
 
 きっとこの森を越えれば逆ハーレムが待っている。みんなが里奈を待っている。自分は特別、この世界を救う救世主。

 と、何度も何度も呟いて筋肉痛でパンパンになった足を一歩一歩前に踏んだ。

 まだ太陽が沈む前に運よく、羽ウサギのような獣に会うこともなく森を出れた。遠くに見える人里を目指して最後の力を出して歩いて……力尽きて地面とキッスした。

 最後に、きっと目を覚ました時は救出されて病院のベットでありますように。もし異世界から聖女な里奈を呼んだ人たちが心配した顔をして自分が起きるのを見守っていますように。
 ううん、ただ異世界トリップの夢を見ていただけの、二十三歳にもなって中二病の痛い病気が発病しただけでありますように。と、知っているすべての神さまにお祈りして意識を手放した。
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