春画を売ったら王子たちに食べられた

四季

文字の大きさ
3 / 49

1ー1

しおりを挟む


 この世界に来たのは、特別に選ばれたわけでも誰かのオマケの巻き込まれでもなく、ただの迷い込みだった。神隠しだったのかな。もちろん誰の説明を受けていない。一体誰を恨んだらいいの?
 目が覚めた場所は汚い寂れた小屋の辛うじて板の上だった。
 
 里奈を拾ってくれたのは、窶れたガリガリのおばさんで決してキラキラ白馬の王子様や氷の美貌魔法使いじゃない。年齢は五十歳くらい。お城で洗濯下女として働いていて、ちょうど里帰りしていた時に里奈を見つけた。

 と、理解したのは異世界トリップして半年後だった。

 言葉が通じなかったからだ。言語理解力のスキルなどなかった。今までこんなに勉強したことがないくらい必死に勉強してかろうじて状況判断できるくらいないなった。
 聞き取りはかなりできるようになったけれど、話すのは上手にできなくて、ますます幼い子どもに思われる。



 里奈を拾ってくれたおばさんはハンナさんと言う。里奈が魔力が少なかったから捨てられた子だと思って引き取ってくれた。
 魔力のある人は他人の魔力の強さが分かるらしい。
 ハンナお母さんの弟が里奈が魔力が少ないとハンナさんに教えた。 

 ハンナさんも魔力がほとんどない非人だ。魔力がほとんどない人は「非人」と呼ばれる。奴隷でもない。非人って人間否定されている感じがして胸クソだ。はっきり言って美味しさゼロの最悪異世界トリップ版を体験中。奴隷じゃなくてよかったじゃん、って言われるかもしれないけれど……風呂にも満足に入れない世界は里奈にとっては最悪だった。
 魔石に魔力を通さないと水も火も使えない。電流が魔力だって。

 非人は魔力で生活魔法を使えない人間のことだ。なぜか非人は女性しかいない。非人に確定された女性たちは国に保護される。国民の1パーセントもいない貴重な存在なのに蔑まれている。

 保護と言っても下女としての仕事場を与えられる代わりに、生活に必要な魔石を優先的に格安でもらえる。非人は子どもを産む確率が少ないから独身が多い。
 魔力が釣り合わないと妊娠しにくいらしい。
 下女の下仕事をしたくない非人たちは、最終的に娼婦になったり妾になったりしている。

 ハンナお母さん、彼女は結婚できなくて子どもがいなかったから、里奈のことを自分の娘と受け入れてくれた。
 最初に彼女に教わった言葉が「ハンナお母さん」だった。彼女はお城の洗濯場で働いている。お城で下女として働いている非人たちの寮で生活している。

 ハンナお母さんは里奈が行き倒れた近くの村で普通の農民として生まれた。でも十五歳になっても魔力が全然増えなかった。成人するまで魔力は増えるらしい。
 成人式の魔力検査は非人の保護のためにされたしきたりだが、いつの間にか差別になっていた。
 ハンナお母さんの両親は彼女を一生養えないし、村人の男性は誰も彼女を嫁に欲しがらなかった。農民の多い村では子どもの産みにくい非人をもらおうと思う者はいない。
 
 童顔の里奈は、この国でも子どもと思われた。拾われてハンナお母さんの世話になってからしばらくして魔力検査のために役所に行った。魔力が少ないのは分かっていたけれど、非人の手続きのために調べないといけない。
 そして魔力検査の時の年齢も分かるみたいだった。もちろん言葉の通じない里奈は、ハンナお母さんが一生懸命ジェスチャーで教えてくれた。
 例えば子どもや大人を指して年齢のことを伝えてくれた。魔力のことはさっぱり分からなかったけれど、なんとなく周りでみんなが魔法を使っていて分かった。

 魔石から水や火が出たのも驚いたけれど、人が魔法を使っていて今でも驚いて慣れることがない。

 魔力検査をした係の人とハンナお母さんが驚いた顔をしてしばらく里奈を見ていた。その後、検査をした係のおじさんが他の役人を呼んで他の魔力検査器で調べ直した。魔力検査器は水晶に手をのせるだけだ。
 ちなみにこの魔力検査器に年齢と魔力数値が同時に表れるらしい。

 後で分かったけれどみんなが驚いていたのは、年齢もだけれど魔力がゼロだったからだ。非人たちに魔力ゼロの人はいない。彼女たちには少なくても魔力があるから魔石に少量でも魔力を流せる。
 だから魔力ゼロの里奈は水も火も魔石から出せない。

(終わった……)

 この世界は魔力に頼ってい生活しているから、井戸で水を汲んだり火石を使ったりなんてない。他の人に頼って生活するか、小川の近くで自活するしかなかった。火も頑張って木でおこしたり……。考えただけ無理だ。

 結局、ハンナお母さんに助けてもらって生活するしかなかった。
 まあ、こんな事情は言葉を覚えた半年後に教えてもらったんだけれど。
 二十三歳で魔力ゼロで言葉の話せない里奈のことをハンナお母さんや非人の同僚たちは可愛がってくれた。言葉も何度も繰り替えして教えてくれる。

 どこか遠い国から連れ去られた、とみんな勘違いしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...