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比呂の言葉
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「本当、おいしかったよ。ありがとう。先生にもお礼を言っておいて」
比呂の満足そうなその言葉通り、分け合って食べた食事は果物まで全て空になった。
でも、本当に美味しかった。
昨日の夜から、先生の食事しか口にしていない。
でも飽きるどころか、今夜は何が食べられるんだろうとそんなことを考えてしまっている自分がいる。
今はお試しで同居ってことになってるけど、俺……もし同居しないことになったらどうなるんだろう。
先生の食事が食べられなくなる。それがすごく寂しいと思ってしまった。
「隼人。どうかした?」
「あ、いや。なんでもない」
「なんでもないって表情じゃなかったけど」
そう言ってグッと顔を近づけてくる。
純粋な目で見つめられると、隠しておけないと思ってしまうのはどうしてなんだろうな。
「いや、先生のご飯が美味しすぎて困るなって、ちょっと思っただけ。あんまり美味いのに慣れすぎると自分の料理が味気なくなるんじゃないかって思ってさ」
「ああ、そういうこと? 確かにそうかも。というかさ、美味しいのもそうだけど……」
比呂が意味深な笑みを浮かべる。
「なんだよ」
「隼人は一人で食事するのが嫌になってきてるんじゃないの?」
「えっ?」
「球磨先生と一緒の食事が楽しかったんじゃない?」
そう言われてハッとする。
確かにいつも、家だと黙々と食事してた。
お腹が減ったから食べなきゃって、何かお腹に入れておかないとって。
そんな義務感もありながら食べてたけど……
昨日の夜も今朝もすごく楽しかった。
「実はさ……先生の家に一緒に暮らさないかって提案されてて……」
「えっ? それってどういうこと?」
「あ、いや。さっきのおっきな犬、アレックスっていうんだけど、アレックスの世話を頼まれてさ。って言っても一緒に遊んだりするだけなんだけど。その代わりに、先生の家に住んで食事も食べさせてくれるっていう話なんだ」
俺の話に最初は怪訝な表情を浮かべていた比呂だったけど、この後も改めて詳しく説明すると、一気に表情が明るくなった。
「いい話じゃん! 隼人ってば、集中しすぎるとすぐに食事も疎かにするし密かに心配してたんだよ。お医者さんがついてるなら安心だし、いろいろ教えてもらえるじゃない。お試しなんて言ってないですぐに決めたら?」
比呂はかなり乗り気でそう言ってくれるけれど、先生のことを考えたらそんな簡単に決められない気がする。
「でもさ、俺にばっかりメリットある同居だと、先生が疲れるんじゃないかって思ってさ。ほら、毎食作ってもらって、今朝みたいに送ってもらってさ。帰りも基本迎えにきてくれるって……かなり手間だろ?」
「え、でも先生は喜んでるんじゃないの?」
「そう言ってはくれたけどさ……それを本気で受け取るのもどうかって思って……」
「隼人は気にしすぎだって。そもそも嫌なら最初から提案なんかしないって。家に入れた時点で、隼人を気に入ってると思うけどね」
俺のことを気に入っている……
比呂のその言葉にどきっとする。
「それに、アレックスだっけ? 犬って、飼い主の気持ちを汲み取るっていうから、球磨先生が気を遣ってるってわかったら、隼人には懐かないと思うけどな。アレックスに気に入られてる時点で、もう隼人は家族みたいに思われてるよ」
「そう、かな……?」
「絶対そうだって。いいと思うよ。俺、隼人の一人暮らしちょっと心配だったから、これで安心できるよ」
比呂にそこまで心配されていたことに驚きつつ、俺はとりあえず頷いた。
「そろそろ、講義が始まるよ。行こう」
二人でバタバタと片付けて、講義に向かう。
その間もずっと俺は先生のことを考えていた。
午後の講義を全て終えて、スマホを取り出すと先生からのメッセージが入っていた。
<今朝の場所で待ってるよ。慌てなくていいから終わったらおいで>
おいでって……その優しい言葉に、胸が熱くなる。
俺……本当にどうしちゃったんだろう。
「隼人。帰ろう」
「ああ、うん。コレットさんはもう来たのか?」
「うん。今朝の場所にいるって。隼人の迎えは?」
「先生も着いてるらしい。コレットさんと同じ場所にいるってさ」
そう言って俺たちは、一緒に裏門に向かった。
遠くからでもわかる。
大きな車に長身の男性が二人。
その二人が俺たちを見て、手を振るのが見えた。
比呂の満足そうなその言葉通り、分け合って食べた食事は果物まで全て空になった。
でも、本当に美味しかった。
昨日の夜から、先生の食事しか口にしていない。
でも飽きるどころか、今夜は何が食べられるんだろうとそんなことを考えてしまっている自分がいる。
今はお試しで同居ってことになってるけど、俺……もし同居しないことになったらどうなるんだろう。
先生の食事が食べられなくなる。それがすごく寂しいと思ってしまった。
「隼人。どうかした?」
「あ、いや。なんでもない」
「なんでもないって表情じゃなかったけど」
そう言ってグッと顔を近づけてくる。
純粋な目で見つめられると、隠しておけないと思ってしまうのはどうしてなんだろうな。
「いや、先生のご飯が美味しすぎて困るなって、ちょっと思っただけ。あんまり美味いのに慣れすぎると自分の料理が味気なくなるんじゃないかって思ってさ」
「ああ、そういうこと? 確かにそうかも。というかさ、美味しいのもそうだけど……」
比呂が意味深な笑みを浮かべる。
「なんだよ」
「隼人は一人で食事するのが嫌になってきてるんじゃないの?」
「えっ?」
「球磨先生と一緒の食事が楽しかったんじゃない?」
そう言われてハッとする。
確かにいつも、家だと黙々と食事してた。
お腹が減ったから食べなきゃって、何かお腹に入れておかないとって。
そんな義務感もありながら食べてたけど……
昨日の夜も今朝もすごく楽しかった。
「実はさ……先生の家に一緒に暮らさないかって提案されてて……」
「えっ? それってどういうこと?」
「あ、いや。さっきのおっきな犬、アレックスっていうんだけど、アレックスの世話を頼まれてさ。って言っても一緒に遊んだりするだけなんだけど。その代わりに、先生の家に住んで食事も食べさせてくれるっていう話なんだ」
俺の話に最初は怪訝な表情を浮かべていた比呂だったけど、この後も改めて詳しく説明すると、一気に表情が明るくなった。
「いい話じゃん! 隼人ってば、集中しすぎるとすぐに食事も疎かにするし密かに心配してたんだよ。お医者さんがついてるなら安心だし、いろいろ教えてもらえるじゃない。お試しなんて言ってないですぐに決めたら?」
比呂はかなり乗り気でそう言ってくれるけれど、先生のことを考えたらそんな簡単に決められない気がする。
「でもさ、俺にばっかりメリットある同居だと、先生が疲れるんじゃないかって思ってさ。ほら、毎食作ってもらって、今朝みたいに送ってもらってさ。帰りも基本迎えにきてくれるって……かなり手間だろ?」
「え、でも先生は喜んでるんじゃないの?」
「そう言ってはくれたけどさ……それを本気で受け取るのもどうかって思って……」
「隼人は気にしすぎだって。そもそも嫌なら最初から提案なんかしないって。家に入れた時点で、隼人を気に入ってると思うけどね」
俺のことを気に入っている……
比呂のその言葉にどきっとする。
「それに、アレックスだっけ? 犬って、飼い主の気持ちを汲み取るっていうから、球磨先生が気を遣ってるってわかったら、隼人には懐かないと思うけどな。アレックスに気に入られてる時点で、もう隼人は家族みたいに思われてるよ」
「そう、かな……?」
「絶対そうだって。いいと思うよ。俺、隼人の一人暮らしちょっと心配だったから、これで安心できるよ」
比呂にそこまで心配されていたことに驚きつつ、俺はとりあえず頷いた。
「そろそろ、講義が始まるよ。行こう」
二人でバタバタと片付けて、講義に向かう。
その間もずっと俺は先生のことを考えていた。
午後の講義を全て終えて、スマホを取り出すと先生からのメッセージが入っていた。
<今朝の場所で待ってるよ。慌てなくていいから終わったらおいで>
おいでって……その優しい言葉に、胸が熱くなる。
俺……本当にどうしちゃったんだろう。
「隼人。帰ろう」
「ああ、うん。コレットさんはもう来たのか?」
「うん。今朝の場所にいるって。隼人の迎えは?」
「先生も着いてるらしい。コレットさんと同じ場所にいるってさ」
そう言って俺たちは、一緒に裏門に向かった。
遠くからでもわかる。
大きな車に長身の男性が二人。
その二人が俺たちを見て、手を振るのが見えた。
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