運命の出会いは空港で 〜クールなイケメン社長は無自覚煽りの可愛い子ちゃんに我慢できない

波木真帆

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運命の出会い

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それから数日経っても彼のことが頭から離れず、面接の日、俺は9時の出発だというのになぜか3時間以上も前に羽田に着いてしまった。

こんなこと初めてだな。
俺が1人の人間にこんなに執着することなどないはずなんだが……。
自分でも不思議に思うほど、俺は<藤乃 航>という人物に心惹かれている。
まだ会ったこともないのに……。

そう、俺が知っているのはあのメールに書かれた彼がこれまで生きてきた経歴だけだというのに、なぜだか俺の心を掴んで離さないんだ。

まぁ、それも彼に会えばわかることだ。
思い描いていたものと違いすぎてがっかりするのか、それとも……。

いずれにしても、結局大多数の応募はあったが彼以外に書類審査を通過したものはいなかったんだ。
砂川の人を見る力は信用している。
あの事件云々は関係なく、彼が最初に砂川の目に止まったのは間違いではない。
俺が思い描いていたものと違おうがなんだろうが、うちの会社にとって必要な人材であればいい。


ー社長、今日の面接には遅れずにきてくださいね。

ーわかってるよ。心配するな。実はもう空港にいるんだ。

ーえっ? まだ7時前ですよ? いくらなんでも早すぎでは?

ーああ。そうなんだが……つい、な。

ー……そうですか。わかりました。どうぞお気をつけてお越しください。

ーああ。じゃあな――うわっ。

心配性な砂川の電話を切ったところで角を曲がろうとした時、突然身体に何かがぶつかってきたような衝撃があった。

立っていられた俺と違って、ぶつかってきた子の方が後ろに吹っ飛んでいく様子を見て慌てて

「すまない、大丈夫か?」

と彼に近づき声をかけハッとした。

彼のスーツには真っ白なアイスクリームが無惨にもべちゃっと潰れてくっついてしまっていたのだ。

とんでもないことをしてしまったと思った。
こんな時間に空港にいるスーツを着た大学生。
これから就活か、それともインターンか。

いずれにしてもこんなスーツではいけないだろう。

汚れたスーツが元に戻るわけでもないし、謝罪しても意味がない。
何か打開策を考えなければと思いつつも、俺の口からは謝罪の言葉しか出てこない。
それほどまでにとんでもないことをしでかしてしまったんだ。

俺がこんな失敗をするなんて……よっぽど面接の彼のことを思いすぎて注意力が散漫になってしまっているのかもしれない。

そんな自己嫌悪に陥っていると、ぶつかった彼はアイスまみれになった自分のスーツを見て一瞬『ああっ』と残念そうな表情を浮かべたものの、俺に対して怒鳴るわけでも騒ぎ立てるでもなく、『自分がちゃんと前を見ていなかったので、すみません』と逆に俺に謝ってきた。

しかも、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、自分の汚れたシャツを拭う前に汚れた床をきれいに拭い取ってその場から立ち去ろうとしていた。

彼の行動に俺は驚きを隠せなかった。

こんな心のきれいな人間見たことがない。

俺はただただ驚いてしまったんだ。

自分のことよりも、その汚れた床で誰かが滑って怪我をしてしまうことを心配したその行動。
そして、起きてしまったことを怒鳴るわけでも騒ぐわけでもなくただ自分にも非があったと納得するその姿勢。
その全てに俺は心を打たれたんだ。

こんな子をそのまま放り出すことなんて俺にはできない。
全て俺の責任だ。
俺が彼のスーツを用意してあげなければ……。

そんな衝動に駆られ俺は彼の手をとり、いつも飛行機が出発するまでの間使わせてもらっている部屋に彼を連れ込んだ。

聞けば、彼の出発時間は9時だという。
それならば十分間に合うと思った俺は急いで空港行きつけのテーラーの東堂とうどうに連絡をし、東堂が来るまでの間、部屋に備え付けられているシャワーに入るように促した。
着替えがないと拒む彼を言葉巧みに誘導し、シャワーを使わせている間に東堂に持ってきてもらったバスタオルと下着、そしてバスローブをシャワールームに置いておいた。

「急に呼び出して悪かったな」

「いいえ、倉橋さまのお呼び出しでしたらいつでも伺いますよ」

「ありがとう。それで早速なんだが、今シャワーに入っている彼が出てきたら、彼のサイズを測ってそれに合うスーツを用意して欲しいんだ。少し小さめだが、用意できるか?」

「サイズを測ってみませんとなんとも言えませんが、ある程度でしたらすぐに詰めることも可能でございますし、大丈夫かと存じます」

「そうか、助かる。彼のスーツを私の不注意で汚してしまってな」

「そうでございましたか……」

東堂とそんな会話をしていると、シャワールームの方から『あの……』と声が聞こえた。
急いでそちらを振り向くと、濡れてしっとりした髪から雫を少し垂らし、ほんのりと頬を赤く染めた彼がこちらを覗っているのが見え、急いで彼の元に駆け寄った。

顔を見ると、頬にさっきまで見当たらなかった大きな青痣があるのが見えた。
これは……生まれつきのものではないな。
ぶつかってから時間が経っているように見えるそれは、俺とぶつかった時のものではないだろう。

これは誰かに殴られたものか?

おそらく化粧で隠していたのだろうな。
それがシャワーで流れたのか……。

一瞬で状況を把握し、彼には気づかれないように笑顔を見せた。

そしてテーラーの東堂の元へと案内し、彼のサイズを測るように申し付けた。
東堂もまた彼の頬の痣に一瞬ハッとした表情を浮かべたが、やはりそこはプロ。
すぐに笑顔で語りかけ、彼を安心させていた。

彼は新しいスーツを買うということに少し抵抗を感じているようだったが、俺が弁償するからと伝えてもすぐにその話に飛びつこうとはせず、後で支払うと言い張った。

普通の人間なら、服を汚されそれを弁償すると言われたらすぐに飛びつきそうなものなのだが、彼はどうやら違うようだ。
ここでごねても彼は納得しないだろう。
ならば、とりあえず了承しておけばいい。
そう思った俺は彼に『わかった』と言って、東堂にサイズを測らせた。

サイズを測っている間も俺は彼から目を離さなかった。
別に東堂が彼に何かするかもしれないなどと考えているわけではない。
彼の為人が知りたかったのだ。

彼はサイズを測る東堂に戸惑いながらもきちんとお礼を言っていた。
それが言おうと思って言っているのではなく、自然に口から溢れているという印象だ。

この子、好感が持てるな。
こういう子がうちの会社にいてくれたらな……そう思ってしまうほどに、彼の印象はよかった。

そして、それ以上に目を惹いたのが彼の可愛らしい顔立ちだ。
黒目が大きくぱっちりとして少し潤んだ瞳。
鼻筋の通った小さな鼻。
赤い口紅でも塗っているかのような艶々とした唇。
そのどれもが俺の心を掴んで離さない。
20歳やそこらと思しき年齢が少しネックだが、今の時代15以上離れていても俺の財力を持ってすれば恋人くらいにはなれるんじゃないか?

偶然とはいえ、こんな可愛らしい子と知り合えたのはラッキーかもしれない。
俺は自分が彼のスーツを汚してしまったということも忘れて、彼との出会いに心を弾ませていた。
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