運命の出会いは空港で 〜クールなイケメン社長は無自覚煽りの可愛い子ちゃんに我慢できない

波木真帆

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よかったら話してみないか?

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必要なサイズを測り終え、東堂たちは一度店へと戻って行った。
スーツを用意してもらう間、彼と部屋に2人残り、せっかくだからと彼のことを聞き出すことにした。
見た感じだと彼は高校生くらいにしか見えないが、スーツを着ていたところを見るとおそらく就活中の学生か、インターンか……いずれにしてもかなりの童顔だ。

そういえば、まだ名前も聞いていなかったな。
こんな大事なことを忘れていたなんて俺としたことが……。

騒つく心を抑え必死に冷静を装いながら、『少し君のことを尋ねてもいいか?』というと、

「そうだ……すみません。俺、名前も伝えずに……。俺……いや、私、藤乃ふじのわたるといいます」

と少し焦った表情を見せつつも、にこやかな笑顔を浮かべ名前を教えてくれた。

「えっ……」


『藤乃 航』
それはここ数日俺の頭から離れなかった名前。
まさか……。
目の前にいる彼があの・・藤乃航?
うそだろっ……。

俺はなんとも言えないこの奇跡のような出会いに胸の高鳴りを抑えることができなかった。
もしかしたら奇跡的に同姓同名かもしれないという可能性は捨てきれないが、ほぼ間違いないだろう。
この広い羽田でこんな形で彼と出会うことになるとは……これは運命じゃないか?
そうだ、これは運命だ!!
出なければこんな奇跡のような偶然なんか起こるわけがない!

「あの……何か?」

頭の中で一瞬にして彼との甘い未来が浮かんで思わずにやけそうになってしまったのを、心配そうな表情を浮かべた藤乃くんに訝しんだ声をかけられ、咄嗟に『いい名前だ』と言ってごまかした。

藤乃くんの目が俺の名前を待っているのを感じ、名前を言おうとして考えた。

彼くらい優秀な子なら今から面接に行く会社の社長の名前を当然知っているだろう。
だが、藤乃くんには今はまだ俺が面接に行く予定の会社の社長だと知られたくない。
俺は騙すことになって悪いとは思いつつ、『倉 祐悟』と名乗った。

藤乃くんのにこやかな笑顔を見つつ、俺は更に核心に迫ることにした。

そう、彼がここからどこに行くのかが分かれば、彼があの・・藤乃航本人なのか、それとも奇跡的に同姓同名なのかがわかるはずだ。

声が上擦りそうになるのを必死に押さえながら、俺は藤乃くんに行き先を尋ねた。

「西表島です。ここから石垣島まで言ってそこから船に乗っていくみたいで……本当のこと言うと、こんな遠出するのかなり久しぶりで遊びで行くわけじゃないんですけど、すごく楽しみです」

「――っ!」

ふわっとした無邪気な顔を無防備に見せる藤乃くんに心の中で『なんだ、その顔可愛いすぎだろっ!』と悶えながら、彼があの『藤乃 航』なのだと確信した。

ということは、この子は23歳? 
おい、マジかよ……。

でも、だとしたら俺との差は14歳。
ならまだセーフか?

まぁ年齢問題はともかく、もう一つ気になるのは藤乃くんの頬の青痣だ。
転んでできたとは思えないその傷には何かがあるはずだ。

俺は『言いたくないなら言わなくてもいいが……』と前置きした上で、頬の青痣について尋ねてみた。
藤乃くんは一瞬にして顔を青褪め、言おうかどうしようかと悩んでいるようだったが、
『よかったら話してみないか?』と声をかけると、少しホッとした表情を見せ、『実は……』と語り始めた。

彼に何があったのかを知れるチャンスだと思った瞬間、よりにもよってそのタイミングで扉が叩かれた。

相手が東堂だとわかってはいてもこのなんとも言えないタイミングに『くそっ!』と少し苛立ってしまったが仕方がない。
藤乃くんに『後で話を聞く』と声をかけ東堂を中へ入れた。

東堂が用意した数着のスーツ。

ああ、藤乃くんにはどれもよく似合いそうだが……うーん、そうだな。
彼の白肌にはネイビーが映えるか。
バスローブから出ていた綺麗な鎖骨や細い腕や足を思い出す。
あの柔らかな白肌をネイビーのスーツで覆い隠して、それを脱がせるのもいい。

そんなよこしまなことを考えながら、俺はネイビーのスーツを選んだ。

東堂は俺の邪な気持ちを察したかのようにそれが一番映えるシャツと共に彼に手渡して着替えるように促した。

着替えから出てきた藤乃くんは少し恥ずかしそうにしていたが、やはり俺が選んだだけあってよく似合っている。

急がせてしまった東堂に礼を言うと、『倉さま」と本名を言われて慌てて咳払いで誤魔化したが、どうやら藤乃くんには聞こえていなかったみたいで安心した。
まだここでバレるわけにはいかないからな。

東堂が部屋を出て行って、藤乃くんはスーツの代金が……と困った様子だったが、もうすでに支払いは終えている。
元々俺がスーツを汚したんだから彼に払わせるつもりなど毛頭ない。
大体、こんなスーツの10着や20着、俺からすれば微々たるものだ。
普通ならプレゼントすると言われれば喜びそうなものなのに、藤乃くんは恐縮しきりな様子だ。

ここで言い合っていても仕方がない。
『なら、代金を支払う代わりに暇つぶしに付き合ってもらえないか?』と声をかけた。
行き先が同じだから長いフライト時間の話し相手になってほしいというと、少し悩んでいたようだったが、最後には『自分でよければ……』と了承してくれた。

よし。これで西表に到着するまでの間ゆっくり話を聞くことができる。

俺はすぐに藤乃くんの航空券を俺と同じビジネスクラスに変更し、席も隣同士にしておいた。

藤乃くんは会社から用意された航空券を勝手に変更することに心配していた様子だったが、元々これは俺が……いや、正確に言えばうちの会社が用意したものなのだがら、変更してもなんの問題はない。

ただの交通手段だから変更しても問題ない、貯めているマイルも失効したら勿体無いだろうととってつけたような理由で言い含めると藤乃くんは納得してくれた。
納得してくれたのは嬉しいが、こんなにも素直に信じてくれるこの子がだんだん心配でたまらなくなってきた。

この子、本当に大丈夫か?
よく今まで無事でいられたな。
これからは俺が守ってやるからな。
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