大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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甘い誘惑

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「ユヅル、クリスマスプレゼントの交換をするのだろう? 今から皆に贈るプレゼントを買いに行こう」

「えっ!! いいんですか?」

「ああ。自分の目で探した方がきっといいものが見つかるだろう」

「わぁー、嬉しいっ!!」

「ふふっ。そんなに嬉しいか?」

「はい。だって、エヴァンさんと一緒に行けるんですから……」

ああ、なんと可愛いことを言ってくれるのだろう。
愛おしさが募る。

早速ユヅル用に仕立てた冬服とコートを着せると、

「わぁ、このコート可愛いですね」

と嬉しそうに笑う。

「フランスの冬は寒いからな。これ以外にもいくつかコートを準備しておかないとな」

「コートって一枚で着回すものじゃないんですか?」

「フランス人は衣装にはこだわりを持っているからな。コートだけでも7~8枚は当たり前だ。長さの違いだったり、素材違いだったり、それに外出の目的だったりでもコートを変えるのが当然なんだよ」

「へぇー、フランスの人ってお洒落なんですね」

「ああ、ユヅルの服は私がすべて選んであげるから心配しないでいい」

「はい。嬉しいです」

私色に染めようとしている私の邪な気持ちなど全然気づいていないのだろうな。
だが、それでいい。
他の者たちが一切ユヅルに手出しができなければいいんだ。

「ああ、プレゼント何にしようかな」

初めてのプレゼント選びをかなり楽しみにしているようだ。
正直私以外のことでこんなにも嬉しそうな表情を見るのは少々嫉妬心が湧き上がる。

だが、嫉妬心はあれども、皆、自分の伴侶が喜ぶ顔が見たいのだ。
ユヅルにしても、日本の友人達にしても、我々の選んだ伴侶には今まで辛い目に遭ってきた子達が多い。
その子達がここでのクリスマスを楽しみにしているというのに、それを私たちの嫉妬心で邪魔をしたくない。
ここでの思い出を大切にして、また二人で思い出を作っていけばいい話なのだから。

きっと今頃、皆も可愛い伴侶と共に贈り物探しの旅に出かけていることだろう。

ユヅルの専属護衛であるリュカは、ユヅルのプレゼント交換のメンバーに入っているため、今日は特別にジョルジュ率いる警備隊のメンバーとジュールが一緒についていくことになっている。

ユヅルはほとんど屋敷から出していなかったから、大喜びだ。
本当に愛らしい。

玄関前につけた車にユヅルを抱き上げたまま乗り込む。
最初こそ、戸惑っている様子だったが、数回繰り返せばこれが当たり前なのだと思ってくれたようだ。

ふふっ。
本当にユヅルは純粋で素直な子だ。

「エヴァンさん、どこに行くんですか?」

『Trèfle à quatre feuilles だよ』

『え、っと……トレフル ア きゃとる ふいゆ?』

「ふふっ。日本でいうデパート、かな。ここならいろんなものが揃っているから、選びやすいだろう?」

「わぁっ! 僕、デパート初めてです!」

「そうなのか?」

「はい。住んでた街にはデパートはなかったですし、そもそも高いものばかりあるっていうイメージなので……」

「そうか……だが、今日行くところはリーズナブルなものばかりだから気にしないで好きなものを選びなさい」

「はい」

ユヅルはそう返してはいたが、きっと、気にするだろうな。
金など有り余るほどあるのだから、何も気にしないでいいのだが……。

まぁ、ユヅルのそういうところが愛おしくてたまらないのだがな。

とりあえず今日は気にすることはないだろう。
なんといってもジョルジュにアレ・・を頼んでいるのだからな。


「さぁ、着いたぞ」

「わぁー、ここがデパート! ねぇ、エヴァンさん、すっごくおっきぃっ!」

「くっ――!」

ユヅルがおっきぃと発するだけで愚息が昂るなんて。
性を覚えたばかりの少年でもあるまいしなんてことだ。

すぐに服の中で首を擡げようとする愚息を叱りつけながら、

「そうだな。さぁ、寒いから中に入ろう」

と急いで中へと案内した。

「わぁーっ、いい香りがします」

「ああ、百貨店の一階は化粧品売り場になっているからな。香水もたくさん置いてあるんだ」

「本当だ! でもエヴァンさんの香りはないみたい」

「わかるのか?」

「はい。だって、エヴァンさんの香りですから。わからないわけないです」

「さすがユヅルだな。私の香水は調香師に専用のものを作らせているから、一般には売っていないんだ」

「そうなんですね、ふふっ。よかった」

「よかった?」

「はい。だって……誰かがエヴァンさんと同じ香りを纏ってるなんて、いやじゃないですか?」

「ユヅル――っ」

ああ、ユヅルが嫉妬してくれたのだ。
なんと嬉しいことだろう。

嬉しすぎてユヅルを抱き寄せ、ピッタリと寄り添いながら奥へと進んでいく。

「そういえば、ヨーロッパの人って香水をつけている方が多いって聞きましたけど、僕もつけたほうがいいんですか?」

「ふふっ。ユヅルは必要ない。私はユヅルのそのままの香りが好きなんだ」

「なんか、恥ずかしいです……」

「恥ずかしがることはない。ほら、こんなにいい香りがしてる」

ユヅルの首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐと、まだ汗もかいていないユヅルの甘い匂いが香ってくる。

「んっ、だめぇ……っ」

首筋に私の首筋が当たって感じてしまったのか、ユヅルが甘い声を漏らす。

その瞬間、警備たちの顔が一気に赤くなったのがわかった。

ギロッと睨みつけると一瞬でおさまったが、

「旦那さま。少しオイタがすぎますよ」

と逆にジュールから小声で苦言を呈される。

どうやらユヅルとの外出ではしゃいでいたのは私の方だったようだ。
今日の目的はあくまでもプレゼント選び。

そこからは自分の欲望を抑えることに必死になっていた。
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