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ミシェルへの贈り物
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「ミシェルとリュカへの贈り物は何にしようか?」
「うーん、難しいです……」
「ならば、違う階も見てみよう」
階によって売っているものの種類も変わる。
いろいろと見てまわれば、きっと二人のプレゼントも見つかるに違いない。
嬉しそうにエスカレーターを上るユヅルが、
「あ、あのお店!」
と興奮したように、指差してみせた。
つられるようにそちらに視線を向けると、そこにはフランスで一番有名な高級ブランドの店があった。
「あの店が気に入ったのか?」
ユヅルにしては珍しい。
あんな高級店を知っているなんて……。
「あの馬車のマーク、ミシェルさんが持ってたヴァイオリンケースと同じです」
「ああ、なるほど……」
そう言われて納得する。
そういえばミシェルのヴァイオリンケースは、セルジュが特注で作らせたもので世界に二つとない、ミシェルのお気に入りだ。
「よく覚えていたな。あの店ならミシェルへの贈り物を見つけられるかもしれない。行ってみるか?」
「はい」
きっとユヅルはあの店がどれほどの価格帯なのかも知らないだろう。
ただ単純に見合うものを探そうとしているだけ。
そんなところも可愛くて仕方がない。
『ロレーヌさま。本日はお立ち寄りいただきありがとうございます』
『ああ、少し見させてもらおう。こちらから声をかけるまでは控えていてくれ』
『承知いたしました』
店員を下がらせて、ユヅルと二人で店内を見て回る。
「ユヅル、どうだ?」
「ここの革の匂い、すごくいい匂いですね」
「そうだろう。ここは元々は馬車や馬具を作っている工房だったんだ。その技術を使って、鞄や財布を作り出したと言われている。ここにある鞄は職人が手作業で作っているんだよ」
「へぇー、すごいですね。だから、こんなに優しい匂いがするんだ」
「優しい匂いか……。ユヅルは面白いことをいうな。ユヅル、何か気に入ったものがあればなんでもいうといい。私からの贈り物だ」
「えっ、そんな……エヴァンさんにはもういっぱい買ってもらってるのに……」
「あれは私が勝手に集めたものだ。たまにはユヅルが見ていいと思ったものを贈りたいのだよ。私のわがままを叶えてはくれないか?」
「えっ、あの……じゃあ、気に入ったのが、見つかったら……その時は、お願いします」
ああ、なんと謙虚なのだろう。
ここがその辺にいる者たちと、ユヅルとの決定的な違いなのだろうな。
その後もユヅルはゆっくりと店内を見てまわりながら、ある一点に目を止めた。
「何か気にいるものがあったか?」
「あれ! すっごく可愛いです」
そう言って駆け出して行ったのは、鮮やかな色で描かれたスカーフが並べられたコーナー。
ユヅルはその中の一枚を広げて見せた。
「わぁーっ、可愛いっ!!」
他の派手な色のスカーフたちに比べれば少し地味に感じるかもしれないそのスカーフには、可愛らしい絵が描かれている。
「ほお。これはまた、可愛らしいな」
「渦巻が見えたからヴァイオリンだと思って広げたんですけど、この天使……どことなくミシェルさんに似てませんか?」
そう言われれば、ヴァイオリンを弾いているこの天使の姿、栗色の髪といい、顔の印象といい、似ているような気もする。
「確かに似ているかもしれないな」
「これなら、喜んでくれるかも……。あ、でももう持ってたりしないでしょうか?」
「それはないと思うが、一応聞いてみるか」
私は店員を呼び、このスカーフのことを尋ねると、どうやらこのデパートの創業200周年を記念して作られたもののようで、こちらでしか販売されていないそうだ。
セルジュが行くのはいつもパリ本店だから大丈夫だろう。
それを告げると、ユヅルは嬉しそうに
「じゃあ、ミシェルさんへの贈り物はこれにします!」
と笑顔を見せた。
その笑顔に店員がほんのり頬を染めていたのを見過ごしはしなかったが、触れたわけではないのでよしとしよう。
贈り物を包んでもらっている間に、ユヅルと店内を見ていると、
「わぁ、これすごくかっこいい!」
と目を止めたものがあった。
「ああ、時計か。ユヅルが気に入ったのならお揃いで買おう」
「えっ、良いんですか?」
「ああ。さっきも言っただろう? 気に入ったものを贈りたいって。時計なら、ユヅルとお揃いでつけていられる。同じ時を刻むんだ」
そういうと、ユヅルの目が輝いた。
「エヴァンさんと……同じ時を刻む……わぁ、それ素敵です!」
喜ぶユヅルを見ながら、店員にこれも包んでくれるように頼んだ。
ユヅルは嬉しそうに私に寄り添って、
「エヴァンさん、大切にします」
と時計のことを言ってくれたのだろうが、私を大切にすると言われたようで、私の心は温かくなっていた。
あとはリュカの分か。
このデパートではもう見つからないかもしれない。
「ユヅル、他の店に行ってみようか?」
そう促すと、ユヅルは小さく頷いた。
「ここで決めきれなくてごめんなさい……」
「ふふっ。気にすることはないよ。ユヅルが一生懸命選んでいるからこそだろう?」
少し落ち込んでいるユヅルを連れ、車に戻り、とりあえずロレーヌ家行きつけの店に向かうことにした。
その途中、
「あ、エヴァンさん。あそこで何かやってますよ!」
と窓の外を見ながら興奮したように私に声をかけてくる。
「んっ、どれだ? ああ、あれはクリスマスマーケットだよ」
「クリスマスマーケット?」
「ああ。説明するより、行ってみたほうがいいか。ユヅル、行くか?」
「わぁ、行きたいです!!」
すぐに車を止めさせ外に出ると、
『エヴァン、ここは流石に封鎖できないぞ。大丈夫か?』
とジョルジュが心配そうに声をかけてくる。
『お前がいるから大丈夫だろう?』
『はぁー、わかった。できるだけ我々から離れるなよ』
『ああ、わかっている。頼むぞ』
ジョルジュは私たちのすぐ後ろに。
そのほかの警備隊は人混みに溶け込むように周りで守ってくれている。
そんなことはつゆも知らないユヅルは私の腕に絡みつきながら、嬉しそうにクリスマスマーケットの中へ進んで行った。
「うーん、難しいです……」
「ならば、違う階も見てみよう」
階によって売っているものの種類も変わる。
いろいろと見てまわれば、きっと二人のプレゼントも見つかるに違いない。
嬉しそうにエスカレーターを上るユヅルが、
「あ、あのお店!」
と興奮したように、指差してみせた。
つられるようにそちらに視線を向けると、そこにはフランスで一番有名な高級ブランドの店があった。
「あの店が気に入ったのか?」
ユヅルにしては珍しい。
あんな高級店を知っているなんて……。
「あの馬車のマーク、ミシェルさんが持ってたヴァイオリンケースと同じです」
「ああ、なるほど……」
そう言われて納得する。
そういえばミシェルのヴァイオリンケースは、セルジュが特注で作らせたもので世界に二つとない、ミシェルのお気に入りだ。
「よく覚えていたな。あの店ならミシェルへの贈り物を見つけられるかもしれない。行ってみるか?」
「はい」
きっとユヅルはあの店がどれほどの価格帯なのかも知らないだろう。
ただ単純に見合うものを探そうとしているだけ。
そんなところも可愛くて仕方がない。
『ロレーヌさま。本日はお立ち寄りいただきありがとうございます』
『ああ、少し見させてもらおう。こちらから声をかけるまでは控えていてくれ』
『承知いたしました』
店員を下がらせて、ユヅルと二人で店内を見て回る。
「ユヅル、どうだ?」
「ここの革の匂い、すごくいい匂いですね」
「そうだろう。ここは元々は馬車や馬具を作っている工房だったんだ。その技術を使って、鞄や財布を作り出したと言われている。ここにある鞄は職人が手作業で作っているんだよ」
「へぇー、すごいですね。だから、こんなに優しい匂いがするんだ」
「優しい匂いか……。ユヅルは面白いことをいうな。ユヅル、何か気に入ったものがあればなんでもいうといい。私からの贈り物だ」
「えっ、そんな……エヴァンさんにはもういっぱい買ってもらってるのに……」
「あれは私が勝手に集めたものだ。たまにはユヅルが見ていいと思ったものを贈りたいのだよ。私のわがままを叶えてはくれないか?」
「えっ、あの……じゃあ、気に入ったのが、見つかったら……その時は、お願いします」
ああ、なんと謙虚なのだろう。
ここがその辺にいる者たちと、ユヅルとの決定的な違いなのだろうな。
その後もユヅルはゆっくりと店内を見てまわりながら、ある一点に目を止めた。
「何か気にいるものがあったか?」
「あれ! すっごく可愛いです」
そう言って駆け出して行ったのは、鮮やかな色で描かれたスカーフが並べられたコーナー。
ユヅルはその中の一枚を広げて見せた。
「わぁーっ、可愛いっ!!」
他の派手な色のスカーフたちに比べれば少し地味に感じるかもしれないそのスカーフには、可愛らしい絵が描かれている。
「ほお。これはまた、可愛らしいな」
「渦巻が見えたからヴァイオリンだと思って広げたんですけど、この天使……どことなくミシェルさんに似てませんか?」
そう言われれば、ヴァイオリンを弾いているこの天使の姿、栗色の髪といい、顔の印象といい、似ているような気もする。
「確かに似ているかもしれないな」
「これなら、喜んでくれるかも……。あ、でももう持ってたりしないでしょうか?」
「それはないと思うが、一応聞いてみるか」
私は店員を呼び、このスカーフのことを尋ねると、どうやらこのデパートの創業200周年を記念して作られたもののようで、こちらでしか販売されていないそうだ。
セルジュが行くのはいつもパリ本店だから大丈夫だろう。
それを告げると、ユヅルは嬉しそうに
「じゃあ、ミシェルさんへの贈り物はこれにします!」
と笑顔を見せた。
その笑顔に店員がほんのり頬を染めていたのを見過ごしはしなかったが、触れたわけではないのでよしとしよう。
贈り物を包んでもらっている間に、ユヅルと店内を見ていると、
「わぁ、これすごくかっこいい!」
と目を止めたものがあった。
「ああ、時計か。ユヅルが気に入ったのならお揃いで買おう」
「えっ、良いんですか?」
「ああ。さっきも言っただろう? 気に入ったものを贈りたいって。時計なら、ユヅルとお揃いでつけていられる。同じ時を刻むんだ」
そういうと、ユヅルの目が輝いた。
「エヴァンさんと……同じ時を刻む……わぁ、それ素敵です!」
喜ぶユヅルを見ながら、店員にこれも包んでくれるように頼んだ。
ユヅルは嬉しそうに私に寄り添って、
「エヴァンさん、大切にします」
と時計のことを言ってくれたのだろうが、私を大切にすると言われたようで、私の心は温かくなっていた。
あとはリュカの分か。
このデパートではもう見つからないかもしれない。
「ユヅル、他の店に行ってみようか?」
そう促すと、ユヅルは小さく頷いた。
「ここで決めきれなくてごめんなさい……」
「ふふっ。気にすることはないよ。ユヅルが一生懸命選んでいるからこそだろう?」
少し落ち込んでいるユヅルを連れ、車に戻り、とりあえずロレーヌ家行きつけの店に向かうことにした。
その途中、
「あ、エヴァンさん。あそこで何かやってますよ!」
と窓の外を見ながら興奮したように私に声をかけてくる。
「んっ、どれだ? ああ、あれはクリスマスマーケットだよ」
「クリスマスマーケット?」
「ああ。説明するより、行ってみたほうがいいか。ユヅル、行くか?」
「わぁ、行きたいです!!」
すぐに車を止めさせ外に出ると、
『エヴァン、ここは流石に封鎖できないぞ。大丈夫か?』
とジョルジュが心配そうに声をかけてくる。
『お前がいるから大丈夫だろう?』
『はぁー、わかった。できるだけ我々から離れるなよ』
『ああ、わかっている。頼むぞ』
ジョルジュは私たちのすぐ後ろに。
そのほかの警備隊は人混みに溶け込むように周りで守ってくれている。
そんなことはつゆも知らないユヅルは私の腕に絡みつきながら、嬉しそうにクリスマスマーケットの中へ進んで行った。
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