イケメンスパダリ社長は僕の料理が気に入ったようです

波木真帆

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番外編

直己さんの実家※ <中編>

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「ライリーの熱烈歓迎も終わったことだし、そろそろ話でもしようか。佳都くんともゆっくり話したいし」

お父さんの言葉に僕たちはリビングへと移動した。ソファーに案内されると、すぐにお母さんが紅茶を運んできてくれた。

「ありがとうございます。あの、これ……僕が焼いたマドレーヌなんですが、召し上がっていただければ嬉しいです」

忘れないうちにと作って持ってきたお菓子を手渡すと、

「あらっ! 嬉しい。私、焼き菓子に目がなくてね~、早速いただきましょう」

と目を輝かせて喜んでくれた上に、綺麗なお皿に並べてテーブルの真ん中に置いてくれた。

お父さんもお母さんもすぐに僕のマドレーヌに手を伸ばして

「ああ、美味しいな。佳都くんは本当に料理が上手なんだな」

「本当に。お菓子作りまでできるなんて! 今度七海にも教えてやってちょうだい」

と2人して褒めてくれた。

「そういえば七海はどうしたんだ?」

「ああ、今日は翔太くんと映画行くって。夕方には帰るって言ってたからお前たちもその時間までここにいるといい。夕食を一緒に食べよう」

お父さんはにっこりと笑ってそう誘ってくれたけれど、

「夜は佳都と家でゆっくり過ごそうと思ってたんだが」

と直己さんは少し機嫌が悪そうだった。

「佳都くんはどうだ? うちで一緒に食事をして帰らないか? それまで直己の部屋でゆっくりしてもいいし」

「そうね、直己のアルバムも見せてあげるわ!」

「わぁっ、見たいです!! 直己さん……いいですか?」

僕は直己さんを見上げながら頼んでみると、

「くっ――! し、仕方ないな。じゃあ夜までゆっくりして帰ろうか」

と許してくれた。

「わぁーっ、直己さんありがとうっ!! 大好きっ!!」

僕は嬉しさのあまり隣に座っていた直己さんに抱きついてしまった。

「佳都……」

直己さんは嬉しそうに僕を抱き止めてくれたけれど、

「いいなぁ、若いっていうのは……」

と声が聞こえて、お父さんたちの前だということを思い出した。

「あっ、すみません――わっ、直己さんっ!」

急いで離れようとしたけれど、直己さんが僕を抱きしめたまま離そうとしない。

「ちょ――っ」

「いつもは私の膝の上にいるんだから、ここでもいつも通りでいいだろう」

「でも、お父さんとお母さんの前なのに……」

「ああ、私たちのことは気にしなくていいよ。いつも通りでいいから」

お父さんにそう言われて、直己さんも嬉しそうだ。結局なぜか僕はそのまま直己さんの膝に乗せられたまま、お父さんとお母さんに紹介され、話をすることになってしまった。

「佳都くんは直己が大学で師事していた佐倉教授の息子さんなんだってね」

「はい。父は家庭で仕事の話をする人ではなかったので、直己さんの話は聞いたことはなかったのですが、直己さんは父との思い出があるようで嬉しく思っています」

「私は直己から佐倉教授の話は伺っていたよ。直己が会社を起業させるときにも随分と相談に乗ってくださっていたようでね、直己の会社がうまく行ったのも君のお父上のおかげだろう」

「いえ、それは違います。確かに父の教えは直己さんのお仕事の役に立ったのかもしれませんが、成功したのは直己さん自身の頑張りです。直己さんはいつも患者さんのことを考えて勉強されてますから。僕、直己さんを尊敬してるんです」

「佳都……」

「あ、ごめんなさい。なんか偉そうなことを言ってしまって……」

「いや、そんなことはない。君みたいに直己のことをよく理解してくれている人がパートナーになってくれて嬉しいよ。ありがとう。直己、いい子を見つけたな」

「ああ、俺には勿体無いくらいのいい子だよ」

直己さんは僕をぎゅっと抱きしめてくれた。お父さんもお母さんも優しい目で僕たちを見てくれている。僕は家族として認めてもらえたんだと思うと嬉しくてたまらなかった。

それからしばらくの間、談笑していると

「そろそろ部屋でゆっくりさせてもらうよ」

と直己さんが僕を抱きかかえたまま立ち上がった。

「直己さん、下ろしてっ」

慌てて下ろしてもらおうとしたけれど、

「ああ、いいよ。佳都くん、そのまま直己の部屋まで行ったらいい」

とお父さんに言われてしまい、結局部屋まで連れて行かれてしまった。

「七海たちが来たら呼びに行くから」

という言葉に直己さんはわかったと返事をして部屋へと入っていった。入った瞬間、ふわりと直己さんの匂いがした。

「わぁ、ここが直己さんが過ごしてた部屋ですか?」

「ああ、そうだ。大学から一人暮らし始めたから出て行って10年以上になるか」

「へぇ、でもちゃんと全部残してあるんですね」

「まぁ、年に何回かは泊まることもあるからな」

「あ、僕直己さんのアルバムみたいです!!」

「ああ、そうだったな。だが、その前に……」

急に直己さんの顔が近づいてきたと思ったら、僕にキスをしてきた。しかも重ね合わせるだけじゃない濃厚なヤツ。

「んんっ……んっ」

クチュクチュと舌が動き回るのを感じながら直己さんの甘いキスに酔いしれていた。

蕩けるような甘く長いキスに唇が離れたときには少しぐったりとしてしまったけれど、

「佳都が両親の前で嬉しいことを言ってくれたから、ずっとキスしたくて仕方がなかった」

と言われて嬉しかった。

「直己さん……僕もキスしたかった」

「佳都……愛してるよ」

僕は直己さんの大切なものに囲まれながら、もう一度濃厚なキスを楽しんだ。


「わぁっ! 直己さんの制服、学ランだったんですね、かっこいい!!」

「うちは伝統校だからね、今でもずっと学ランのはずだよ。だから、卒業式の時は大変だったぞ。第二ボタンを欲しいっていう子がよその学校からも来て、悠木と観月と三人で逃げ回ったもんだよ」

直己さんはアルバムを見ながら懐かしそうに話をしているけれど、僕は直己さんが誰かに第二ボタンをあげたのかが気になって仕方がない。もう十年以上も前のことでモヤモヤするなんておかしいけれど、でもなんか嫌だ。

「どうした?」

「……ですか?」

「えっ? なんて?」

「誰かに、ボタン……あげたん、ですか……?」

「えっ、いや……」

僕の質問に直己さんは急に言葉に詰まって、ああ、やっぱり誰かにあげたんだって思った。きっとその人は直己さんとの思い出を胸に今でもそのボタンを大切にとってるんだろうな……。

「あの、佳都……」

「ごめんなさい、ちょっと気になっただけで……もう大丈夫なので」

もうその話題を終わらせたくてアルバムを閉じようとすると、

「違うんだ、ボタンは誰にもあげてない」

と僕の手を掴んでそう言ってくれた。

「えっ? 誰にも……あげてない??」

「ああ。そうだ。親友たちと卒業前から決めてたんだ。もし、将来大切な人ができて昔のアルバムを見せたときに今時珍しい学ランを見てきっと第二ボタンの話になるだろうって。そのときに誰かにあげたのを知ったらきっとその大切な人が悲しむから、お互いに誰にもあげないでおこうって。だから、私の第二ボタンはここにあるよ」

直己さんはそう言って立ち上がると、机の引き出しから小さな小箱を開けて見せてくれた。その中には本当にボタンが一つ入っていた。

「あのとき話したのと同じ状況になってびっくりして咄嗟に言葉が出なかったんだ。佳都を驚かせてしまって申し訳ない」

「そう、だったんだ……」

僕の早とちりで誤解して僕の方こそ申し訳ない。

「ごめんなさい」

「いや、いいんだ。それよりも、佳都……このボタン。もらってくれるか?」

「いいんですか?」

「ああ、佳都以外にはあげたくないよ」

直己さんはそういうと笑顔で僕の手に箱ごと乗せてくれた。十年以上の時を経て、僕の手にやってきた直己さんのボタン。僕はこの時の喜びを一生忘れない。
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