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親友になれそうだ

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「香月は盛りすぎなんだよ。そんな大したことないんだから。恥ずかしいから止めろよ」
 
戸川くんは顔を少し赤らめながら、

「ほ、ほら。そろそろ早瀬さんを席に案内しないと! オーナーに紹介するなら個室がちょうど空いてるから、そちらにどうぞ」

「あ、そうだね。早瀬さん、こっちです」

彼はゆっくりとした足取りで個室へと案内してくれた。

その間も俺の手は彼の腰を支えている。
その様子に戸川くんは不思議に思ったらしい。

「なあ、香月、足怪我でもしてるのか?」

「うん。さっきちょっと捻っちゃって……」

「そうか。じゃあ、明日のバイト、俺 代わるから無理すんなよ」

「ありがとう。助かるよ」

「じゃあ、オーナーに声かけてくるから、香月は早瀬さんにオススメのメニュー紹介しておいて」

そういうと戸川くんはメニュー表を彼に渡して部屋から出て行った。

彼は料理メニュー表を開いて、オススメをいくつか教えてくれた。

俺はその中から、定番のプレッツェル、ヴルストソーセージの盛り合わせとサラダを選んだ。

他にもたくさん気になるものはあったが、時間が微妙な時間だったので、今回はこれらを二人で分けることにした。

戸川くんに注文を伝えると、すぐに料理が運ばれてきた。

「あー、やっぱりドイツといえばソーセージだな。ビールが飲みたくなるよ。今がまだ午前中なのが勿体無いな」

「今度は是非夜にも食べに来てください!」

「そうだな、そうさせてもらおう」

二人で美味しく食べていると、扉をノックする音が聞こえた。

『どうぞ』というと、部屋に入ってきたのは、俺よりも少し年上な30代前半の、彫りが深くブラウンの目をした口髭と顎髭がワイルドな、言わば清潔感溢れる野生の男と言った印象のイケメンだった。


「初めまして。この店のオーナーでアルフォンス=ベルガーと言います」

俺の目をじっと見つめ、さっと手を差し出してきたので俺も手を差し出し、彼の目を笑顔で見つめた。

「初めまして。小蘭堂の早瀬隆之と申します。よろしくお願いします」

少し強めの握手はドイツ式だ。
強ければ強いほど親愛の意味が含まれる。
お互いにきゅっと握って手を離した。
 
オーナーはドイツ式の挨拶をきちんと知る俺をどうやら気に入ってくれたようだ。

「ハル、素敵な友人だな。どこで知り合ったんだ?」

「実は今日初対面なんです」

「Oha! ほんとかい? とても仲の良い友人のように見えるよ!」

オーナーは俺の彼への想いに気づいているかのように、俺に向かってウインクしてきた。

俺はそんなにわかりやすい態度をしてるのか? と心配になってしまったがそんな動揺を笑顔で隠して、話しかけた。

「ベルガーさん、日本語とてもお上手ですね。香月くんとは今朝出会ったばかりなんですけど、いろいろと不思議な縁があって、このお店も紹介していただいたんですよ。このお店、とても雰囲気良くて居心地いいですね」

「おお、ありがとう! シュパースを気に入ってくれて嬉しいよ。ハルの友人なら、私のことはアルって呼んでくれないか?」

「ええ、喜んで!! 私も隆之、いや呼びにくいようならタカでもユキでもお好きなように」 

「じゃあ、ユキと呼ばせてもらおう。これからは私には敬語も必要ないよ。よろしく、ユキ」

「はい。こちらこそ、アル。よろしく!」

何となくだが、アルとは気が合いそうな気がする。

職種も違うから気を遣わなくてもいいし、すごく話しやすい雰囲気だな。
香月くんもこの店なら戸川くんもアルもいるからあの女はもちろん、変な輩にも付き纏われずにすみそうだ。
 
そうだ、アルにあの女の話をしておかないと。

そう思っていると、突然ガタッっと大きな音をさせて彼が立ち上がった。
 
「オーナー! ずるいですよ。  出会ってすぐに愛称呼びなんて! 僕の方が先に早瀬さんに出会ったのに……」

晴が頬っぺたをリスのようにぷくっと膨らませてアルに詰め寄る。
もしかして妬いてくれてるのか?

ほんとに可愛いな……可愛すぎるぞ。

「香月くん。君も私のことは何と呼んでくれても構わないよ。じゃあ、私も晴と呼んでいいかな?」

「え? 早瀬さんみたいな素敵な大人の人に晴と呼んでもらえたら嬉しいです。でも、良いんですか? 僕は早瀬さんの後輩になるのに……」

「社内ではまぁ名字読みが妥当だろうが、プライベートで何と呼ぼうか関係ないよ」

俺だって、晴に名前で呼ばれたいし。
晴に隆之って呼ばれたら嬉しくて飛び上がりそうだな、俺は。

晴は頬を赤くさせながら、パッと顔を輝かせ蕩けるような甘い笑顔を見せた。

「じゃあ、『隆之さん』って呼ばせていただきます。いいですか?」

こんな笑顔をさせながら、上目遣いで名前を呼ぶなんて反則だろ!
くーーっ。隆之は叫びそうになるのを必死で抑え、努めて冷静を装った。

「ああ。晴、よろしくな」

二人で笑顔で見合っていると、アルも俺にニカっと笑顔を向けてきた。

「ユキ、連絡先聞いてもいいかい?」

急に意味深な顔で連絡先を聞いてきたアルを不思議に思ったが、『ああ』と返事してジャケットの内ポケットからスマホを取り出した。

「あ、あの、僕も隆之さんと連絡先交換したいです。良いですか?」

「もちろんだよ!」

そう言うと、晴は嬉しそうに椅子に置いてあった鞄からスマホを取り出そうとしていた。

俺がアルに目を向けると、アルは親指を上に立ててウインクをして どうだ、うまくいっただろ? と言わんばかりの笑顔を見せた。

あー、なるほど。
わざと晴の前で連絡先を聞いて、妬かせたんだな。
おかげで晴となんなく連絡先を交換できた。
アルの気遣いに嬉しくなって、俺も笑顔で返した。


無事に晴とアルと連絡先を交換して、食後のコーヒーを飲もうとアルも席に誘った。

三人でテーブルにつき、戸川くんにコーヒーを持ってきてもらい、アルに今日の出来事を話して、晴に何か悪いことが起こらないよう頼む事にした。

「思い込みが激しい子のようだったから心配なんだ。バイト先であるここにも多分来るかもしれない。アル、晴に何か危害が及ばないように注意して見ていてもらえないか?」

「そうだな。大丈夫。リクにも話してみんなで注意しておくよ。何かあればすぐにユキに連絡する。だから、安心して」

「助かるよ。とりあえず明日はまだ足も治っていないだろうし、休ませてもらえるか?」

「あぁ、それはリクから聞いたよ。リクがハルの代わりに出てくれるって言うから、助かったよ」

「オーナー、ありがとうございます」

「ハル、早く治すために無理してはいけないよ。ユキに手助けしてもらうことも大事だよ」

晴はアルの言葉に一瞬言葉を詰まらせたが、恥ずかしそうにしながらも『はい』と小さく返事をした。

食後のコーヒーを堪能した俺たちは、ご馳走してくれると言うアルにお礼をいって店を出た。

おんぶをしようかと聞いてみたが、今はまだ歩けるので支えてもらうだけで大丈夫ですというので、来た時と同じように腰に手を回して支えてあげた。

とりあえず、これからのことを決めるために先に小蘭堂で晴のことを確認すべきだと思い、二人で会社にタクシーで向かうことにした。

「まだやるかどうか決めるんじゃなくて、あくまでも会社として大丈夫なのかを確認しに行くだけだから、それ聞いてからゆっくり考えよう」

「はい」

晴は緊張でいっぱいの顔をしていたがそれで安心したのか、少し肩の力を抜いてリラックスしたように見えた。

会社前でタクシーをおり、正面から中に入った。
エントランスを抜け、社員証カードを組み込んだICカードでセキュリティゲートを通る。
受付で晴の分のゲストカードを作ってもらい、ゲートを通って中に入った。

「あ、今更ですけど僕こんな格好で会社に入ったりして大丈夫なんですか?」

「内定しているとはいえ、まだ外部からのお客様扱いだから大丈夫だろう。急遽決まったことだし、俺がちゃんと伝えておくから心配しないで」

そう安心させて、俺は連絡をしておいた上司の元へ晴を連れて行った。

「結城さん。先程電話で少しお話ししましたが、リヴィエラの田村さんからリュウールのモデルに打診された香月くんを連れてきました」

「ああ、部長は会議室で待ってるから……と、この子が田村さん推薦の?  おお、さすが、彼の推薦だけあってリュウールの希望してきたイメージにぴったりそうじゃないか」

「はい。そうなんですけど、実は彼、来年度うちに入社予定だそうで」

「そうなのか? そういえば、人事のやつが言ってたな。天使みたいに可愛い子が学生とは思えない知識量と先を読む力に長けてて役員達の心を鷲掴みにしていたって。あれ、君だったんだ!」

「えっ、天使なんてそんな……」

やはり晴のことは話題になっていたか。

こんなに早く内定出すくらいだからな。
他にとられたら困ると早々に囲い込みにかかったか。
 これはもしかしたら、ポスターの件も容易くオッケーがでるかもしれないな。

「結城さん。とにかくリュウールの件、部長に話をしに行ってきていいですか?」

「ああ、そうだな。俺も一緒に行こう」

俺と晴は結城さんと一緒に部長の待つ会議室へと向かった。

「部長すみません、お待たせしました。早瀬、香月くん、入れ」

「失礼します」
「失礼します」

「あれ、君は! 面接の時の!」

「はい。先日は面接していただきありがとうございました。御社の採用内定のご連絡をいただき大変嬉しく思っております」

晴は丁寧なお辞儀と共に御礼の言葉を伝えた。

「いやいや、こちらこそ君のような優秀な学生に来てもらえる事になって嬉しいよ。期待してるよ」

「はい。ありがとうございます」

いつも厳しい桜木部長がこんなに褒めるとは。
 俺は珍しい状況にただただ驚くばかりだった。

「あの、部長。挨拶はその辺にして、リュウールのモデルの件についてお話ししたいんですがよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだな。そこに掛けて」

部長は向かい合わせになる席へ俺たちに座るように促した。

晴を俺と結城さんで挟む形で座った。

「それで、どういうことだ? リヴィエラの田村さんからリュウールのモデルについてこれ以上ない逸材を打診されたらしいという話は先ほど結城から聞いたが? もしかして、彼が?」

「はい。田村さんがリュウールの要望にあうモデルを探した結果、ここにいる香月くんしかいないと推薦されました。
本人は今日この話を聞いたばかりでやるかやらないかもまだ確定はしていないんですが、ただ香月くんは我が社に入社予定なので、その点についてリュウールのモデルとして大丈夫なのかということをまず確認してからという話になりまして判断を仰ぎにきた次第です。社としてはどのような見解を示しますか?」

「そうだな。うーん。確かに小蘭堂の人間が他社のモデルをすることは異例ではあるが、香月くんはまだ内定の身であるし、モデルとしての役割が入社後まで続くとしても社にとって不利益にはならないんじゃないか。まあ、私の一存で今すぐオーケーとはいかないが、恐らく社長を始め、取締会でも異論はでないと思う」 

「そうですね。確かに香月くんがモデルをすることで我が社にデメリットになることは考えられないですね。あとは、本人の気持ちの問題です。香月くんはモデルを仕事としてきたわけではないので、今朝急にこの話を聞いて動揺しています。リュウールは今月中には撮影まで進めていきたいと言っていましたが、香月くんに検討する時間をいただきたいと思います」

我が社としては部長の言う通り、恐らくオーケーの判断となるだろう。
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