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グレイグさんへの報告

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ランハートさんは僕をお屋敷の前まで送ってくれてそのまま騎士団の詰所の方に戻っていった。
忙しいのに仕事の途中で抜け出してきてくれたから仕事が残っているんだろうな。
申し訳なく思うけれど、ランハートさんのおかげでお店の設備についても準備ができそうだし、順調にいけば2ヶ月くらいでお店出せるかもって言ってくれたからすごく楽しみだ。

まずは厨房から作ってもらえたら、他の改修工事してもらっている間にケーキの試作品も作れるかなぁ……。
うん、やっぱ厨房から揃えてもらおう。

「ただいま帰りました~!」

僕は胸を躍らせながら、玄関で帰宅の挨拶をするとすぐにグレイグさんがきてくれた。

「ヒジリさま、おかえりなさいませ。おや、ランハートさまはご一緒ではないのですか?」

「ランハートさん、お屋敷に前まで送ってくださってそのままお仕事に行かれましたよ」

「そうでございましたか。ところで、ヒジリさま。焼き菓子はいかがでございましたか?」

「はい。すっごく美味しくてびっくりしました~!!」

「ふふっ。それは宜しゅうございました。紅茶をお淹れいたしますので、さぁ、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

リビングにあるソファーに腰を下ろすとすぐに香りの良い紅茶を運んできてくれて、僕はそれを飲みながら今日の報告をし始めた。

「あのお店、女性の方達がたくさんでしたね。やっぱり男性の方々は甘いものが苦手なんですか?」

「ご婦人方と比べるといささかそういう傾向はございますが、決して甘いものを召し上がらないというわけではございませんよ。殿方も比較的甘みの少ない焼き菓子は紅茶のお供にお召し上がりになります」

「なるほどー。じゃあ、砂糖の甘みを抑えたケーキなら男性にも食べてもらえるかなぁ……」

チーズケーキとかフルーツいっぱい乗せたタルトとかならイケるかも。
あとはビターなチョコケーキとか。
あ、ラム酒とかはあったりするかな?
ドライフルーツのラム酒漬けでパウンドケーキとか……うん、意外とイケるかも。

「ランハートさまはお召し上がりになりましたか?」

「はい。注文して僕が食べきれなかった分は全部食べてくださって……ランハートさんは男性の方でも甘いものはお好きな方なんですね」

僕が笑顔でそういうと、グレイグさんは『ふふっ。そうですね』と笑って言っているのが印象的だった。

「ヒジリさま。ご夕食はいかが致しましょう?」

「ごめんなさい。お菓子食べすぎて食事はあんまり入らないかもしれないです」

「そうでございますね。では果物だけお出し致しましょう」

「わぁーっ、僕果物大好きです!!」

ここにどんなフルーツがあるかも見ておけるし、味も確認できるしね。
夕食、フルーツでよかったかも。

それからしばらくしてテーブルに並べられたフルーツたち。
色とりどりで可愛いけど結構ひとつひとつが大きいな。

上にそのまま飾るのは女性には食べにくいかも。
人前であんまり大口開けて食べないだろうしな。
いろんな種類を小さく切って乗せるのは見栄えが良くなっていいかもね、うん。

「ヒジリさま、どうかなさいましたか?」

朝にお願いした通り、グレイグさんも一緒に席に着いてくれている。
僕がフルーツしか食べないからか、彼の前にはコーヒー以外置かれてないのが気になるけど。
そうだ、グレイグさんにもフルーツの感想を聞いてみよう。

「グレイグさんは苦手な果物はありますか?」

「いいえ。私は好き嫌いはございません。ヒジリさまはどれかお気に召したものはございましたか?」

「僕はこれが好きかな」

目の前にあったイチゴのでっかいのみたいなやつ、少し硬めだったけど味は間違いなくイチゴで美味しかった。
これ、こっちの人も好きな方なのかな?

僕がフルーツを食べる姿をコーヒーを飲みながら嬉しそうに眺めているグレイグさんにオレンジっぽいやつをフォークに刺して

「グレイグさんもどうぞ」

と差し出すと、『ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ』と突然激しく咳き込んだ。

「だ、大丈夫ですか?」

慌てて立ち上がってグレイグさんに近寄ろうとすると、

「も、申し訳ございません。もう大丈夫でございます」

と手で制されたので僕は席に戻った。

グレイグさんはポケットからハンカチを取り出して、口元を綺麗に拭ってから

「あの、少しお伺いしたいのですが……」

と僕に問いかけてきた。

「どうしたんですか?」

「先ほどのあの行為をもしや……ランハートさまにも?」

「先ほどの行為って……? ああ、食べさせようとしたことですか?
はい。味の感想が聞きたくて、僕の目の前にあったのでフォークに乗せて食べてもらったんです、けど……あ、あの……だ、ダメだったんでしょうか?」

僕が話すたびにグレイグさんの表情が驚きの表情に変わっていくのに気づいて恐る恐る尋ねると、

「いいえ、あの……何と申しますか、ダメだというわけではございませんが……外でのお食事で同じカトラリーを使ってお食事をされるのは、その何と言いますか、少しはしたなく見られることがございまして……」

と言いにくそうに教えてくれた。

「えっ? はしたない? ああーっ、だから周りがざわざわしてたんだ……。
騎士団長さんがそんなはしたないことしてたらそりゃあ周りも見ちゃいますよね……。
僕、ランハートさんに悪いことしちゃいましたね。もう一緒に食事をしてくれないかもしれないですね……」


「いいえっ! そんなことはございません!」

突然のグレイグさんの大声に驚いてしまったけれど、

「ランハートさまはヒジリさまとのお食事を喜ばれていたと思いますよ。
額に口づけをされる間柄のお二人でしたら問題はないかと存じます」

と笑顔を向けてくれた。

そっか、ランハートさんならいいんだ。
そうだよね、狭く深く知る相手だもんね。うん、うん。


僕はこれからもランハートさんと一緒に食事ができるんだと嬉しく思いながら、残っていた果物をグレイグさんと分けあって食べた。
もちろん、お皿にちゃんと移して。

全体的に酸っぱいのが多いフルーツを食べながらそれに合うカスタードクリームの配合を考え、僕の頭の中はこれから作るケーキのことでもういっぱいになっていた。
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