異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

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番外編

特別企画 バレンタインデー前日編 甘い匂い <sideテオ>

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時系列的にはまだ二人目がわかっていない頃のお話になります。
特別編ですので、矛盾があってもスルーしてください(笑)

  *   *   *


わぁー、甘い匂いがする。
いつもの生クリームやケーキの甘さとは違う濃厚なチョコレートの香り。

お母さまはこの時期になると、必ずお店をお休みにしてチョコレートのお菓子ばかりを作り出す。
それを屋敷で働いている人や、騎士団の人たち、そして、お城にも持っていくんだ。
いつもはお母さまのお菓子を独り占めにしようとするお父さまもこの時だけは何も言わないんだよね。
不思議だ。

チョコレートは好きだけど、どうしてこの時期にだけこんなにもいっぱい作るんだろうう?
お母さまの作るフルーツたっぷりのタルトも、クリームがたくさん入ったシュークリームも大好きなのに。

今年こそはその理由を聞いてみようと思って、お菓子を作っているお母さまのところにやってきた。

「お母さま……」

「あっ、テオ。お昼寝から起きたの?」

「うん。お母さまがいなかったから尋ねたら、グレイグがお店にいるって教えてくれたの」

「そっか。ごめんね。こんなに時間が経ってるとは思わなくて……」

お母さまの目の前には山のようなチョコレートのマフィンが並んでいる。
しかもそれの一つ一つにいろんな色のチョコレートで飾り付けていく。

チョコレート色だったマフィンが、お母さまの手にかかると可愛くなって食べるのが勿体無いとさえ思ってしまう。
お母さまは本当に魔法使いみたいだ。

お母さまがマフィンの飾り付けを終えたタイミングで、僕はお母さまに抱きつきにいった。
いつも甘い匂いのするお母さまだけど、今日はチョコレートの匂いでいっぱいだ。

「ふふっ。どうしたの、テオ。甘えん坊さん。お母さまがいなくて寂しかった?」

「うん、寂しかった」

「ごめんね」

そう言ってギュッと抱きしめてくれるお母さまに

「お母さま……どうして、こんなにたくさんチョコレートのお菓子を作るの? どうしていつものケーキは作らないの?」

と尋ねてみた。

「ああ、そっか。テオにはまだ話していなかったかな。あのね。お母さまの故郷ふるさとにはバレンタインデーっていう行事があってね、その日は大切な人にチョコレートを贈る習慣があるんだよ」

「バレンタインデー?」

「そう。自分が大切に思っている人なら、家族でもお友達でも、それにいつもお世話になっている人にもみんなに贈るの」

「だから、お母さまはこんなにたくさんのお菓子を作るの?」

「そう。お母さまはみんなにお世話になって、大切にしてもらってここにいるからね。毎年ちゃんとお礼を伝えたいんだ」

「じゃあ、僕にも、僕の分もある?」

「ふふっ。あるよ、大丈夫。明日ちゃんとあげるからね」

「お母さまにとって、僕はどれくらい大切? お父さまよりも大切?」

そう尋ねると、お母さまは少し困った顔をしながらゆっくりと口を開いた。

「テオはお母さまとお父さまの大切な子どもでかけがえのない宝物だよ。テオの代わりは誰もいない」

「それじゃあ……」

「でもね、僕にとってランハートは特別な存在なんだ。テオとは比べられないんだよ。それはわかるよね?」

――跡継ぎには必ず一生にただ1人だけ心から愛する人が現れるの。
お父さまはずーーっとずーーーっと待ち続けて、ようやくお母さまと出会えたの。

以前、おばあさまにそう教えてもらったことがある。
そして、お父さまも

――お前が神の力で生まれてくれたとき、どれほど幸せを感じたかしれやしない。
ただ、私にとって一番大切なものがヒジリであることは一生変わらないのだ。

そう言っていた。

お母さまにとって、僕とお父さまはどちらも大切で、どちらも好きだってことだよね。
僕が一番じゃないのは寂しいけど、言ってみればどっちも一番ってことだもんね。

「うん、わかった」

「ふふっ。テオはいい子だね」

「ねぇ、お母さま……僕もグレイグやみんなにチョコレートのお菓子作りたい!!」

「そうか、そうだね。きっとみんな喜ぶよ」

それからお母さまに手伝ってもらいながら、僕は美味しそうなクッキーを作ってチョコレートで一人一人の名前を書いた。

「できたっ!!」

「上手にできたね。じゃあ、明後日一緒に配りに行こう!」

「えっ? 明後日? 明日じゃないの?」

そう尋ねると、お母さまはなぜか顔を真っ赤にして、

「い、いや。明日はちょっと……その、用事があるから、明後日にしようか」

と言っていた。

そうか、明日はお父さまと僕にチョコレートのお菓子をくれるって言っていたし忙しいんだろうな。

「わかった。明日のお母さまからのチョコ楽しみにしてるね」

そう言って抱きついたお母さまと僕の身体からは同じ甘いチョコの匂いがした。
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