異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

文字の大きさ
31 / 40
番外編

父の願い

しおりを挟む
思い出したかのように番外編を書いていますが……久々の更新、楽しんでいただければ嬉しいです♡


  *   *   *


「テオ、出かけるとしようか」

「わぁーい! あれ? お母さまは一緒じゃないの?」

「ヒジリは体調を崩しているから、寝かせておこう」

「えっ……でも、お母さまを残していくのは可哀想だよ。僕、今日は行かなくてもいい。我慢できるよ」

あれほど騎士団の訓練を見学に行くのを楽しみにしていたというのに。
ヒジリを心配してそんなふうに言ってくれるのか。
ああ、テオは本当に心優しい子に育ってくれたな。

「いい子だな、テオは。だが、ヒジリがテオに騎士団を見学してきた感想を聞かせて欲しいと言っているんだ。ヒジリの願いを叶えてやろう」

「お母さまが? うん、じゃあ僕しっかり見学する!」

「ああ、そうしてくれ。じゃあ、行こうか」

「ねぇ、お父さま。帰りにお母さまの好きなフルーツを買って帰ろう」

「それはいいな。テオが選んだものならヒジリも喜ぶだろう」

「じゃあ、お父さま。早く行こう!」

「ああ、わかった、わかった」

テオに力強く引っ張られながら部屋を出た。

「グレイグ、行ってくる。ヒジリのことを頼むぞ」

「はい。お任せください」

グレイグがいてくれて本当に助かる。
お腹に子が宿ったばかりのヒジリを置いて出かけることができるのもグレイグがいてくれるからこそだ。

「お父さま。僕、お父さまと馬に乗りたいな」

「そうか、じゃあ馬で行くとしよう」

中庭の奥にある厩舎に向かい、愛馬を出してもらうとテオは嬉しそうに近づいた。

うちの馬たちはヒジリのことをかなり気に入っていて、決して驚かせたりしないのだが、それはヒジリの息子であるテオにとっても同じようで、テオが今よりもずっと小さな頃から近くに行かせても決して怖がらせたりすることはない。

「ほら、テオ。おいで」

テオを抱き上げて、一緒に飛び乗ると

「わぁー、高い!」

とはしゃいだ声をあげる。

ふふっ。反応がヒジリに似ていて可愛らしいな。

最初は怖がらせないようにゆっくりと歩を進め、少しずつ慣らしていく。

「わぁ、風が気持ちいいね。お父さま」

「ああ、そうだろう。お前ももう少し大きくなったら自分専用の馬を持つことになる。その時は一緒に遠出でもしようか」

「うん! 楽しみ! でもお母さまは?」

「ああ、ヒジリなら問題ない。私と一緒に乗るのだからな」

「えー、お父さまばっかりずるい! 僕もお母さまを乗せる!!」

「可愛らしいヒジリを一緒に乗せたいテオの気持ちはよくわかるが、ヒジリは私のものだからな。お前は将来の伴侶のためにとっておけ。初めて馬に乗せる相手は運命の相手にしたほうがいい」

私の言葉にテオはなんとも解せないと言った顔をしていたが、いつか必ず私が言っていたことを理解できる日が来るだろう。
そう、私がヒジリと出会ったあの時のように、運命の相手と出会えたその時に。

テオはどんな相手と巡り合うのだろうな。
その時、ヒジリはどう思うだろう。
大切な息子を取られたと悲しむだろうか?

いや、ヒジリに限ってそれはないな。
きっと大喜びすることだろう。
だから、私もヒジリの隣でテオの幸せを喜ぶとしよう。

「さぁ、ついたぞ」

テオを抱きかかえて降ろすと、テオは嬉しそうにキョロキョロと辺りを見回した。

詰め所にはよく連れて行っているが、特別訓練場はもっと幼い頃に何度か連れて行ったくらいか。

「お父さま。早く行こう!」

「ああ、わかった。ほら、入り口はあっちだぞ」

テオの手をとって、入り口から中に入ると、

「そこ! 遅れてるぞ!!!」

と威勢のいい騎士団長・フィンの声が聞こえる。

「わぁ! すごい! フィンさん、かっこいいね!」

「ああ、そうだな。頑張っているようだな」

騎士団長をフィンに譲ったと言っても、まだまだ私のほうが力は上なのだが……そんなことを言うのも大人げない気がして、フィンを褒めては見るものの、キラキラとした目でフィンを見つめているテオの姿を見ているとちょっと面白くない。

「フィン!」

声をかけると、フィンは私たちのもとに駆け寄ってきた。

「団長! 今日はテオさまとご見学ですか?」

「ああ、それよりもいい加減団長はやめないか。今の団長はお前だろう?」

「いえ。私は団長がいらっしゃらない間を預かっているだけですから。次回の遠征訓練にもご参加いただけるのでしょう?」

「ああ、そのつもりだが日程は変更するかもしれないな」

「何かご予定でもおありなのですか?」

「うーん、まぁその時が近づけば話すとしよう」

「はい」

フィンはそう言いながらも気になっている様子だったが、ヒジリに子が出来たのを話すにはまだ時期尚早だからな。
ヒジリとも話してからにしなければ。


「それよりも、少しの間でいい。テオを訓練に入れてくれないか?」

「えっ? テオさまを、ですか?」

「ああ。父親だからいうわけではないが、この子には騎士としてのセンスがあると思っている。ここで少し体験させてやることはテオにとっても良い経験になると思うのだ」

「お父さま! いいの?」

「ああ、だが決して無茶をしてはいけない。いいか、フィンの言うことをよく聞くんだ」

「はいっ!!」

「と言うわけでフィン、頼むぞ」

「承知しました。ではテオさま。こちらにどうぞ」

もうすぐ6歳になるテオは体格のいい騎士たちの中に入ると埋もれてしまうほどの小ささだが、私も初めて剣を持ったのは同じ頃だった。

たとえ少し怪我をしても、きっと楽しんでくれるに違いない。

いつかこの国を、そしてヒジリとこれから生まれてくる弟か妹を守れるほどの力を身につけてくれたら……。
それが父の願いだ。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。