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俺の欲しかった言葉
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ポケットにスマホだけをいれて、部屋を出た。
彼はフロントに鍵を渡しドアマンさんに
「散歩に行ってくるよ」
と声をかけ歩き始めた。
この間もずっと手は繋いだままだ。
「こっちに良い場所があるんだ」
車も通れないような山道をどんどん進んでいくと、突然広場に出た。
「ほら、あそこ」
指さされた先を見ると、低いフェンスで囲われた建物がある。
「んっ? 何かの小屋?」
「ふふっ。近づいて見よう」
手を引かれ連れて行かれた小屋にはウサギたちが何羽も走り回っていた。
「ウサギ? こんなところに?」
「ああ、可愛いだろう。ここはウサギ専門のブリーダーをやっているところでね、環境の良い場所で出来るだけ放し飼いに近い状態で育ててるらしい。ホテルも含めてこの辺一帯はハブも入って来られないようにしているから、安心して遊ばせることが出来るんだよ」
彼の説明を聞きながらも俺は目の前にいるたくさんのモフモフたちに夢中になってしまっている。
「小屋の中に入って、ウサギと遊ぶかい?」
「いいんですか?!」
すっかりウサギに魅了されてしまっている俺を見てクスクスと笑いながら、『ちょっと待ってて』と小屋の隣にある事務所のようなところへ入って行った。
その間も俺はずっとフェンス越しにウサギたちが遊ぶ様子をみて癒されていた。
「いらっしゃい。また随分と可愛いお客さんを連れてきてくれたんだな」
声のする方を見ると長身の涼平さんと甲乙付け難いほどスタイルの良いイケメンさんが涼平さんと並んで歩いてくる。
この人がここのオーナーさん?
「あ、あの……初めまして。僕、南條朝陽と言います。涼平さんにここまで連れてきていただいて……」
「ああ、そんな緊張しないでいいよ。俺は浅香敬介。そこのホテルとこのウサギハウスのオーナーをしてるんだ。宜しくね」
「えっ? あのスゴいホテルのオーナーさん? しかも、ここのウサギハウスも?」
ビックリして涼平さんと浅香さんの顔を何度も何度も見た。
「あ、あの突然お邪魔してすみません。ホテルも予約もしてないのに勝手にくっついてきちゃって……その、」
テンパってしまって、ベラベラと余計なことを話してしまった。
何のことだが意味がわからないと言った様子の浅香さんに涼平さんが今までのことを教えたんだろう、
あー、なるほどと納得した様子で、
「あのね、俺と蓮見とは大学の同級生で、このホテルを開業するときにいろいろ世話になったんだ。だから、プライベートで沖縄に来る時にはうちのホテルを優先的に泊まってもらうようにしてるから、いつでも蓮見のために部屋は都合つけられるんだよ。だから、蓮見の部屋に泊まってもらっても何の支障もないから安心して泊まっていって」
優しくそう言われて、思わず目を潤ませてしまった。今の俺は優しい言葉に弱いんだ。
「おい、朝陽くんを泣かすなよ」
「えっ? ごめんね、何か気になったかな?」
「ちが、違うんです。すみません……。なんだか嬉しくなってしまって……」
「そう? それなら良いんだけど……。あれっ? そういえば君、どこかで見たような気が……?」
その言葉に一瞬時間が止まった気がした。
ヤバい。
どうしよう。
気づかれた。
どうする?
どうしたら良い?
グルグルと頭の中で自問自答を繰り返す。
が、何も答えられずにただ青褪めた顔で浅香さんから顔を逸らすしかできなかった。
息を吸うのも怖くてただひたすらに地面を眺めていた。
「あ、いや……俺の気のせいかな。ねぇ、可愛いウサギがたくさんいるから遊んでいってよ」
浅香さんの明るい声と頭にポンと置かれた手の温もりが、通らなくなっていた息の通り道をふっと広げてくれた。
「あ……ありがとう、ございます……」
必死に紡いだお礼の言葉に浅香さんはにこりと笑顔を見せ、ウサギたちのいる小屋の中へと入っていった。
「朝陽くん、騒がしいやつでごめんな。もう、あいつは大学時代から全然変わってなくて。ほら、あの真っ白いウサギがずっと朝陽くんを見てるよ。触って欲しいんじゃないかな」
涼平さんは俺を小屋の中へと連れていってくれた。
小屋に足踏み入れた瞬間、見慣れないものがやってきたと言わんばかりのウサギたちの中で、あの真っ白いウサギだけがトテトテと俺の方に近寄ってきた。
その場にしゃがみ込むと、真っ白いウサギは俺の靴をスンスンと嗅いでスリスリとし始めた。
「抱っこしても良いよ」
浅香さんがそう声をかけてくれたので、恐る恐る手を伸ばすとふわふわの毛並みがファサッと手を覆い尽くした。
そっと抱き上げ腕の中に入れると、ウサギはポフっとおさまって大人しく抱かれていた。
「うわっ、かわいい。柔らか~い」
頬を近づけてウサギの身体にスリスリしていると、
パシャリと写真を撮る音が聞こえた。
「えっ?」
「ああ、ごめん。あまりにもウサギとの戯れが可愛くてつい……」
「あの……別に良いんですけど、その……誰にも見せないでくださいね」
「ああ、もちろんだよ。私の中だけに留めておくさ」
それならいいかと気にせず、ウサギとしばらく遊んでいると
「そろそろホテルに戻ろうか」
と声をかけられた。
気づけば、もう夕焼けが始まり空が朱く染まってきている。
いつのまにこんな時間が経っていたんだろう。
俺は腕の中にいたウサギをそっと下ろして、小屋を出た。
「またいつでもこの子たちに会いに来てよ」
「ありがとうございます」
見送ってくれる浅香さんに手を振り、元の道を戻ってホテルへと帰った。
部屋へ戻るとすぐに
「歩き回って疲れただろう。温泉でゆっくりしようか」
と露天風呂へ連れて行かれた。
だいぶ日の落ちた露天風呂はさっきより暗く、これなら裸でも気にならないかもしれないと安堵してゆっくりと服を脱ぎ始めた。
「先に入ってるよ」
ガラッと引き戸を開けて外へ出ていく涼平さんの後ろ姿をチラリと覗き見ると、背中やお尻に無駄な肉もなく均整の取れた身体をしていてものすごく格好いい。
それに比べてひょろりと薄っぺらい自分の身体を少し恥ずかしく感じながら、タオルを腰に巻き彼の後に続いた。
ざっと身体を流して、風呂に浸かると程よい温度に思わずああーーっと声が出てしまった。
「ふふっ。やっぱり声出ちゃうよね。おじさんくさいって思われるかと我慢してたけど、いいか」
涼平さんは笑って俺よりも大きな声で『ああーーっ』と気持ちよさそうな声を上げた。
「ここから海が見えるだろう? 海を見ながら風呂に入るって最高の贅沢だと思わないか?」
「そうですね。大きな海を見ながらこんな気持ちいいお風呂に入ってると、悩んでるのがバカらしく思えてきますね」
「ああ。だから、私はこの部屋が好きなんだ」
濡れた髪をかき上げるその姿がとてつもなく格好良くて、目が離せなかった。
「あのさ、朝陽くんは……何か悩んでることがあるんじゃないか?」
「えっ? な、なんで?」
突然の質問に俺は思わず声が裏返ってしまった。
こんなのそうだと言ってるのと同じじゃないか。
さっきの浅香さんとの時のことで何かおかしいことに気づかれてしまったんだろうか。
自慢じゃないけど、自分の内面隠すなんていつもやってるのに、あの時は咄嗟に誤魔化すことができなかったんだよな。
はぁー、俺のバカ。
「今日数時間一緒に過ごしただけで、君がいつも周りのことを優先して考えてるってことも、何かをしてもらったらきちんと御礼が言える子だってことが分かった。そんな子がこんな行き当たりばったりの旅行なんか普通考えないだろう? 多分、抱え切れないほどの悩みや悲しみで心も身体も疲れきって現実から逃げ出したかったんじゃないのかなって思ったんだ」
涼平さんの言葉がじわじわと染み込んでくる。
さっきのことじゃなかったんだ。
ずっと俺の中身を見ていてくれたのか?
俺は俯いて何も言葉を返すことができなかった。
「私は君のことを何も知らないし、君も私のことは何も知らないだろう? お互い知らない者同士だから、何の気兼ねもなく心の内をぶち撒けてしまってもいいんじゃないか? 本当はね、君の行きたがってた西表島でゆっくりとこの話をしようと思っていたんだ」
「えっ……」
「あんまり早く私が君に悩みがあることに気づいてると知るのは嫌かもしれないと思ってね」
「じゃあ、なんで……?」
「さっきウサギと戯れている君を見て、早く君を苦しめている悩みから解放してあげたいって思ったんだ。朝陽くんは気づいていなかっただろうけど、あのウサギに助けてくれって素の君が訴えていたよ」
「そんなこと……」
あるわけない。俺がそんなこと……。
「見せてあげようか?」
俺の気持ちに気づいたのか、涼平さんはそう言うとザバッと風呂から出て脱衣所に行き、手に何かを持って戻ってきた。
「スマホ……」
「ああ。君がウサギと戯れている写真、気づかなかっただろうけどあれから何枚も撮ったんだ。ほら、見てごらん」
「――――っ!」
思わず手で口を覆ってしまった。
写真に映る俺は今にも泣きそうな顔で、必死に助けを求めているそんな風に見える表情だった。
「写真は真実を写すって言ってね、これが君の本当の姿、気持ちなんじゃないのかな」
「……っ……うっ……うっ……」
とめどなく溢れる涙に漏れ出る声を必死に押し殺していると、
「我慢しなくていいよ。辛い時は声を出して泣けば良いんだ。ここは誰にも聞かれないよ」
とぎゅっと抱きしめて背中を優しくさすってくれた。
その温もりが嬉しくて俺は大声をあげて泣いてしまった。
その間ずっと涼平さんは俺を抱きしめたまま、耳元で
「そう。大丈夫、もっと曝け出していいんだ」
と囁いてくれていた。
誰も助けてくれなかったのに、どうして涼平さんだけが俺の欲しかった言葉を言ってくれるんだろう……。
彼はフロントに鍵を渡しドアマンさんに
「散歩に行ってくるよ」
と声をかけ歩き始めた。
この間もずっと手は繋いだままだ。
「こっちに良い場所があるんだ」
車も通れないような山道をどんどん進んでいくと、突然広場に出た。
「ほら、あそこ」
指さされた先を見ると、低いフェンスで囲われた建物がある。
「んっ? 何かの小屋?」
「ふふっ。近づいて見よう」
手を引かれ連れて行かれた小屋にはウサギたちが何羽も走り回っていた。
「ウサギ? こんなところに?」
「ああ、可愛いだろう。ここはウサギ専門のブリーダーをやっているところでね、環境の良い場所で出来るだけ放し飼いに近い状態で育ててるらしい。ホテルも含めてこの辺一帯はハブも入って来られないようにしているから、安心して遊ばせることが出来るんだよ」
彼の説明を聞きながらも俺は目の前にいるたくさんのモフモフたちに夢中になってしまっている。
「小屋の中に入って、ウサギと遊ぶかい?」
「いいんですか?!」
すっかりウサギに魅了されてしまっている俺を見てクスクスと笑いながら、『ちょっと待ってて』と小屋の隣にある事務所のようなところへ入って行った。
その間も俺はずっとフェンス越しにウサギたちが遊ぶ様子をみて癒されていた。
「いらっしゃい。また随分と可愛いお客さんを連れてきてくれたんだな」
声のする方を見ると長身の涼平さんと甲乙付け難いほどスタイルの良いイケメンさんが涼平さんと並んで歩いてくる。
この人がここのオーナーさん?
「あ、あの……初めまして。僕、南條朝陽と言います。涼平さんにここまで連れてきていただいて……」
「ああ、そんな緊張しないでいいよ。俺は浅香敬介。そこのホテルとこのウサギハウスのオーナーをしてるんだ。宜しくね」
「えっ? あのスゴいホテルのオーナーさん? しかも、ここのウサギハウスも?」
ビックリして涼平さんと浅香さんの顔を何度も何度も見た。
「あ、あの突然お邪魔してすみません。ホテルも予約もしてないのに勝手にくっついてきちゃって……その、」
テンパってしまって、ベラベラと余計なことを話してしまった。
何のことだが意味がわからないと言った様子の浅香さんに涼平さんが今までのことを教えたんだろう、
あー、なるほどと納得した様子で、
「あのね、俺と蓮見とは大学の同級生で、このホテルを開業するときにいろいろ世話になったんだ。だから、プライベートで沖縄に来る時にはうちのホテルを優先的に泊まってもらうようにしてるから、いつでも蓮見のために部屋は都合つけられるんだよ。だから、蓮見の部屋に泊まってもらっても何の支障もないから安心して泊まっていって」
優しくそう言われて、思わず目を潤ませてしまった。今の俺は優しい言葉に弱いんだ。
「おい、朝陽くんを泣かすなよ」
「えっ? ごめんね、何か気になったかな?」
「ちが、違うんです。すみません……。なんだか嬉しくなってしまって……」
「そう? それなら良いんだけど……。あれっ? そういえば君、どこかで見たような気が……?」
その言葉に一瞬時間が止まった気がした。
ヤバい。
どうしよう。
気づかれた。
どうする?
どうしたら良い?
グルグルと頭の中で自問自答を繰り返す。
が、何も答えられずにただ青褪めた顔で浅香さんから顔を逸らすしかできなかった。
息を吸うのも怖くてただひたすらに地面を眺めていた。
「あ、いや……俺の気のせいかな。ねぇ、可愛いウサギがたくさんいるから遊んでいってよ」
浅香さんの明るい声と頭にポンと置かれた手の温もりが、通らなくなっていた息の通り道をふっと広げてくれた。
「あ……ありがとう、ございます……」
必死に紡いだお礼の言葉に浅香さんはにこりと笑顔を見せ、ウサギたちのいる小屋の中へと入っていった。
「朝陽くん、騒がしいやつでごめんな。もう、あいつは大学時代から全然変わってなくて。ほら、あの真っ白いウサギがずっと朝陽くんを見てるよ。触って欲しいんじゃないかな」
涼平さんは俺を小屋の中へと連れていってくれた。
小屋に足踏み入れた瞬間、見慣れないものがやってきたと言わんばかりのウサギたちの中で、あの真っ白いウサギだけがトテトテと俺の方に近寄ってきた。
その場にしゃがみ込むと、真っ白いウサギは俺の靴をスンスンと嗅いでスリスリとし始めた。
「抱っこしても良いよ」
浅香さんがそう声をかけてくれたので、恐る恐る手を伸ばすとふわふわの毛並みがファサッと手を覆い尽くした。
そっと抱き上げ腕の中に入れると、ウサギはポフっとおさまって大人しく抱かれていた。
「うわっ、かわいい。柔らか~い」
頬を近づけてウサギの身体にスリスリしていると、
パシャリと写真を撮る音が聞こえた。
「えっ?」
「ああ、ごめん。あまりにもウサギとの戯れが可愛くてつい……」
「あの……別に良いんですけど、その……誰にも見せないでくださいね」
「ああ、もちろんだよ。私の中だけに留めておくさ」
それならいいかと気にせず、ウサギとしばらく遊んでいると
「そろそろホテルに戻ろうか」
と声をかけられた。
気づけば、もう夕焼けが始まり空が朱く染まってきている。
いつのまにこんな時間が経っていたんだろう。
俺は腕の中にいたウサギをそっと下ろして、小屋を出た。
「またいつでもこの子たちに会いに来てよ」
「ありがとうございます」
見送ってくれる浅香さんに手を振り、元の道を戻ってホテルへと帰った。
部屋へ戻るとすぐに
「歩き回って疲れただろう。温泉でゆっくりしようか」
と露天風呂へ連れて行かれた。
だいぶ日の落ちた露天風呂はさっきより暗く、これなら裸でも気にならないかもしれないと安堵してゆっくりと服を脱ぎ始めた。
「先に入ってるよ」
ガラッと引き戸を開けて外へ出ていく涼平さんの後ろ姿をチラリと覗き見ると、背中やお尻に無駄な肉もなく均整の取れた身体をしていてものすごく格好いい。
それに比べてひょろりと薄っぺらい自分の身体を少し恥ずかしく感じながら、タオルを腰に巻き彼の後に続いた。
ざっと身体を流して、風呂に浸かると程よい温度に思わずああーーっと声が出てしまった。
「ふふっ。やっぱり声出ちゃうよね。おじさんくさいって思われるかと我慢してたけど、いいか」
涼平さんは笑って俺よりも大きな声で『ああーーっ』と気持ちよさそうな声を上げた。
「ここから海が見えるだろう? 海を見ながら風呂に入るって最高の贅沢だと思わないか?」
「そうですね。大きな海を見ながらこんな気持ちいいお風呂に入ってると、悩んでるのがバカらしく思えてきますね」
「ああ。だから、私はこの部屋が好きなんだ」
濡れた髪をかき上げるその姿がとてつもなく格好良くて、目が離せなかった。
「あのさ、朝陽くんは……何か悩んでることがあるんじゃないか?」
「えっ? な、なんで?」
突然の質問に俺は思わず声が裏返ってしまった。
こんなのそうだと言ってるのと同じじゃないか。
さっきの浅香さんとの時のことで何かおかしいことに気づかれてしまったんだろうか。
自慢じゃないけど、自分の内面隠すなんていつもやってるのに、あの時は咄嗟に誤魔化すことができなかったんだよな。
はぁー、俺のバカ。
「今日数時間一緒に過ごしただけで、君がいつも周りのことを優先して考えてるってことも、何かをしてもらったらきちんと御礼が言える子だってことが分かった。そんな子がこんな行き当たりばったりの旅行なんか普通考えないだろう? 多分、抱え切れないほどの悩みや悲しみで心も身体も疲れきって現実から逃げ出したかったんじゃないのかなって思ったんだ」
涼平さんの言葉がじわじわと染み込んでくる。
さっきのことじゃなかったんだ。
ずっと俺の中身を見ていてくれたのか?
俺は俯いて何も言葉を返すことができなかった。
「私は君のことを何も知らないし、君も私のことは何も知らないだろう? お互い知らない者同士だから、何の気兼ねもなく心の内をぶち撒けてしまってもいいんじゃないか? 本当はね、君の行きたがってた西表島でゆっくりとこの話をしようと思っていたんだ」
「えっ……」
「あんまり早く私が君に悩みがあることに気づいてると知るのは嫌かもしれないと思ってね」
「じゃあ、なんで……?」
「さっきウサギと戯れている君を見て、早く君を苦しめている悩みから解放してあげたいって思ったんだ。朝陽くんは気づいていなかっただろうけど、あのウサギに助けてくれって素の君が訴えていたよ」
「そんなこと……」
あるわけない。俺がそんなこと……。
「見せてあげようか?」
俺の気持ちに気づいたのか、涼平さんはそう言うとザバッと風呂から出て脱衣所に行き、手に何かを持って戻ってきた。
「スマホ……」
「ああ。君がウサギと戯れている写真、気づかなかっただろうけどあれから何枚も撮ったんだ。ほら、見てごらん」
「――――っ!」
思わず手で口を覆ってしまった。
写真に映る俺は今にも泣きそうな顔で、必死に助けを求めているそんな風に見える表情だった。
「写真は真実を写すって言ってね、これが君の本当の姿、気持ちなんじゃないのかな」
「……っ……うっ……うっ……」
とめどなく溢れる涙に漏れ出る声を必死に押し殺していると、
「我慢しなくていいよ。辛い時は声を出して泣けば良いんだ。ここは誰にも聞かれないよ」
とぎゅっと抱きしめて背中を優しくさすってくれた。
その温もりが嬉しくて俺は大声をあげて泣いてしまった。
その間ずっと涼平さんは俺を抱きしめたまま、耳元で
「そう。大丈夫、もっと曝け出していいんだ」
と囁いてくれていた。
誰も助けてくれなかったのに、どうして涼平さんだけが俺の欲しかった言葉を言ってくれるんだろう……。
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