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ごめんなさい……
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船で石垣島へ戻り、レンタカーで今日の宿泊ホテルへと向かう途中、
「そういえば、竹富島で軽く食べるはずだったけど忘れてたな。ちょっとテイクアウトして食べながら行くか」
涼平さんの提案で車は集落の一番見晴らしの良さそうな場所にある店の前に止まった。
「えっ? ここ?」
てっきりファストフードかなんかだと思っていたのに、目の前にあるのは高級そうな門構えの焼肉屋さん。
「そう、ここ」
涼平さんはにこにこ笑いながら店の前に車を止め、俺の手を取り店の中へと入って行った。
「おーい! いるか?」
「社長! 突然どうかなさったんですか?」
涼平さんの声に店員さんたちがバタバタと駆け寄ってきた。
ええっ? 社長?
驚きすぎて声も出せない俺に、
『ふふっ。バレてしまったか』といたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
「ここは私の店なんだ。東京や福岡にも店があって、ここは国内5店舗目かな」
こんな高級っぽい焼肉屋さんが5店舗……。
俺、こんなすごい人に告白したりして身の程知らずだったかも。
ずーんと気持ちが下がってしまった俺に気付いたのかわからないけれど、涼平さんは慌てたように店員さんに頼み事をし始めた。
「悪いんだが、運転しながらでも食べられる軽食を作ってもらえないか? そこまでボリュームは無くていいから」
「わかりました。10分ほどあちらでお待ちください」
この店の責任者さんだろうか。
そう話すと、すぐに厨房の方へと歩いて行った。
残った店員さんに席に案内され、グラスに入ったさんぴん茶を手渡された。
涼平さんと食事をするようになってから安心したのか、他の人から手渡されたものも飲めるようになっていた。
俺はかなり喉が渇いていたらしく、気づけばゴクゴクと一気に飲み干してしまっていた。
「ここ、見晴らしもいいし素敵なお店ですね」
「そうなんだ。この場所に店を決めたのもこの景色が気に入ったからなんだ。朝陽くんが気づいてくれて嬉しいよ」
「あ、あの……俺、涼平さんがこんな凄い人だと思わなくて……あのさっき俺が言ったこと……迷惑なら気にしないでもらって……」
「朝陽くん! 何言ってるんだ?!」
「――っ」
涼平さんの聞いたこともないような強い口調に身体が強張ったのがわかった。
「ああ、ごめん。つい……」
「い、いえ……」
なんと言っていいのかわからなくて、俺たちはしんと静寂の中でただ外の景色を眺め続けていた。
「お待たせ致しました」
さっき厨房へ入って行ったあの店員さんが紙袋を手にやってきた。
涼平さんはさっとお財布から何枚かのお札を渡した。
「ああ、ありがとう。助かったよ。
これでみんな食事でもするといい」
「わあっ、ありがとうございます!」
喜ぶ店員さんたちの声を背に彼は俺の手を取り車へと戻った。
車が動き出してからしばらく沈黙が続いていたけれど、紙袋から漂う美味しそうな匂いに俺のお腹がまた弁えもせずに
『くぅぅー』と音を立てた。
「ふふっ。やっぱり君のお腹は正直だな。運転しながらと思ったが少し車を止めようか」
涼平さんは海の見える脇道に入り車を止めた。
紙袋から中身を取り出すと、丁寧に包みを外し俺に手渡してくれた。
中身はライスバーガーのようだ。
美味しそうな焼き肉がこれでもかというほどに詰め込まれていて、食欲をそそる。
「いただきまふっ」
我慢できずに挨拶の途中で齧りついてしまった。
はふっ、はふっ
「おいひぃ」
涼平さんは俺が食べるのをただじっと見つめていて、『良かった』と一言小さく呟いた。
そして、自分のライスバーガーを一口味わってからゆっくりと話を始めた。
「私はね、親が経営者なこともあってか昔から経営に興味があってね、大学時代に起業して運良くすぐに軌道に乗ったんだ。
だが、高校時代は実家の金やコネ目当てに、自分が起業してからはこっちの金やコネまで目当てに近寄ってくるものばかりで人が信じられなくなってきてたんだ。
朝陽くんだけだよ、変わらなかったのは……」
「えっ?」
「私が経営者だっていつ分かった?」
「だってさっき社長さんって……」
「ふふっ。自己紹介の時、話したはずだよ」
あっ、そういえば……
――社長だ、一応会社を経営してる
そう言ってた。
「そうそう、君が食いついたのは私の年齢だったな」
ふふっと笑う涼平さんの指摘にかぁーっと顔が赤くなってしまった。
「私が社長と分かれば取り入ろうとするものも多いというのに、君はあの そば でさえ払おうとした」
「でも、それは……」
「いいや、あんなの初めてだったんだ。
君は私のバックボーンに興味がないって思ったら嬉しくなってね。
元々君に話しかけたのは、好みだったからなんだ。
一目惚れってあるんだなって思ったよ。
だから、困ってるみたいだしそれに付け込もうかと思ったんだけど、社長だっていっても気に留める様子もないし、君をどうやって落とそうか悩んでた」
「そんな……」
涼平さんから出てくる言葉のひとつひとつに驚いて言葉にならない。
「ふふっ。だから、君に告白されて本当に嬉しかったんだよ。やっと捕まえたと思ったのに、社長だってバレて逆に逃げられるなんて思いもしなかった」
「涼平さん……」
「やっと君を手に入れたんだ。離したくない!」
涼平さんの強い言葉を聞いて俺もつい本音が出た。
「ごめんなさい…………」
「えっ?」
「俺も……ほんとは、はなれたくない、デス……」
そういった瞬間、涼平さんの口から
『はぁーーーっ』と大きな大きな溜め息が出た。
「涼平さん?」
「ごめんなさいっていうからフラれたと思ったよ。
焦ったーーっ」
「えっ? あっ、ごめんなさい」
「もう、ごめんなさいは禁止だから」
「はい。ごめんなさい……あっ」
「ふふっ。さっさと食べて行こうか」
少し冷えてしまったライスバーガーを夢中で食べると、車は一路ホテルに向けて走り出した。
「ふぇっ、ここ?」
辿り着いたホテルは、山道に突如現れた真っ白な壁の向こうにあるらしい。
駐車場に車を止め、涼平さんに手を引かれ壁の向こうへと進み、ジャングルのような南国の木々の間を抜けるとようやくホテルらしい建物が見えてきた。
「蓮見さま。いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
そう出迎えられ、すぐに部屋へと案内された。
案内される途中で涼平さんがこのホテルについて教えてくれた。
だけど……。
このホテルは1日1組しか泊まれなくて、部屋には専用のプールもついてるんだって。
他にも専用のコンシェルジュさんがいるからなんでもお願いしていいって。
ここではのんびりすごそうって言われても……なんか桁違いすぎて想像つかないよ。
ひとりでおたおたしながら、案内されるがままに連れて行かれた部屋は驚くほど広いリビングだった。
そこから海も、そして専用のプールも見える。
「わぁーーっ!!」
俺はもう何度目かわからない感嘆の声をあげることしか出来なかった。
荷物を置いてしばらくすると、
「朝陽くん、プールに入らないか?」
と誘ってくれた。
「でも、水着が……」
「誰に見られるわけでもないし、裸で良いだろう?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、そんなことを言ってくる。
「ええっ……でも、あの……」
狼狽えていると、涼平さんは『ふふっ』と笑って
「冗談だよ。すぐに水着を用意してもらおう」
とコンシェルジュへ電話をかけ始めた。
「悪いが水着を頼む。
あ、いや、選びに行こう。用意しておいてくれないか? ああ、頼むよ」
涼平さんに連れられて、ホテル内にあるお店へと向かう途中で
「俺、何でも良いですよ」
と言うと、
「いや、君の肌に着けるものだから私が選びたいんだ」
そう言われたら、俺には断ることなど出来なかった。
「そういえば、竹富島で軽く食べるはずだったけど忘れてたな。ちょっとテイクアウトして食べながら行くか」
涼平さんの提案で車は集落の一番見晴らしの良さそうな場所にある店の前に止まった。
「えっ? ここ?」
てっきりファストフードかなんかだと思っていたのに、目の前にあるのは高級そうな門構えの焼肉屋さん。
「そう、ここ」
涼平さんはにこにこ笑いながら店の前に車を止め、俺の手を取り店の中へと入って行った。
「おーい! いるか?」
「社長! 突然どうかなさったんですか?」
涼平さんの声に店員さんたちがバタバタと駆け寄ってきた。
ええっ? 社長?
驚きすぎて声も出せない俺に、
『ふふっ。バレてしまったか』といたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
「ここは私の店なんだ。東京や福岡にも店があって、ここは国内5店舗目かな」
こんな高級っぽい焼肉屋さんが5店舗……。
俺、こんなすごい人に告白したりして身の程知らずだったかも。
ずーんと気持ちが下がってしまった俺に気付いたのかわからないけれど、涼平さんは慌てたように店員さんに頼み事をし始めた。
「悪いんだが、運転しながらでも食べられる軽食を作ってもらえないか? そこまでボリュームは無くていいから」
「わかりました。10分ほどあちらでお待ちください」
この店の責任者さんだろうか。
そう話すと、すぐに厨房の方へと歩いて行った。
残った店員さんに席に案内され、グラスに入ったさんぴん茶を手渡された。
涼平さんと食事をするようになってから安心したのか、他の人から手渡されたものも飲めるようになっていた。
俺はかなり喉が渇いていたらしく、気づけばゴクゴクと一気に飲み干してしまっていた。
「ここ、見晴らしもいいし素敵なお店ですね」
「そうなんだ。この場所に店を決めたのもこの景色が気に入ったからなんだ。朝陽くんが気づいてくれて嬉しいよ」
「あ、あの……俺、涼平さんがこんな凄い人だと思わなくて……あのさっき俺が言ったこと……迷惑なら気にしないでもらって……」
「朝陽くん! 何言ってるんだ?!」
「――っ」
涼平さんの聞いたこともないような強い口調に身体が強張ったのがわかった。
「ああ、ごめん。つい……」
「い、いえ……」
なんと言っていいのかわからなくて、俺たちはしんと静寂の中でただ外の景色を眺め続けていた。
「お待たせ致しました」
さっき厨房へ入って行ったあの店員さんが紙袋を手にやってきた。
涼平さんはさっとお財布から何枚かのお札を渡した。
「ああ、ありがとう。助かったよ。
これでみんな食事でもするといい」
「わあっ、ありがとうございます!」
喜ぶ店員さんたちの声を背に彼は俺の手を取り車へと戻った。
車が動き出してからしばらく沈黙が続いていたけれど、紙袋から漂う美味しそうな匂いに俺のお腹がまた弁えもせずに
『くぅぅー』と音を立てた。
「ふふっ。やっぱり君のお腹は正直だな。運転しながらと思ったが少し車を止めようか」
涼平さんは海の見える脇道に入り車を止めた。
紙袋から中身を取り出すと、丁寧に包みを外し俺に手渡してくれた。
中身はライスバーガーのようだ。
美味しそうな焼き肉がこれでもかというほどに詰め込まれていて、食欲をそそる。
「いただきまふっ」
我慢できずに挨拶の途中で齧りついてしまった。
はふっ、はふっ
「おいひぃ」
涼平さんは俺が食べるのをただじっと見つめていて、『良かった』と一言小さく呟いた。
そして、自分のライスバーガーを一口味わってからゆっくりと話を始めた。
「私はね、親が経営者なこともあってか昔から経営に興味があってね、大学時代に起業して運良くすぐに軌道に乗ったんだ。
だが、高校時代は実家の金やコネ目当てに、自分が起業してからはこっちの金やコネまで目当てに近寄ってくるものばかりで人が信じられなくなってきてたんだ。
朝陽くんだけだよ、変わらなかったのは……」
「えっ?」
「私が経営者だっていつ分かった?」
「だってさっき社長さんって……」
「ふふっ。自己紹介の時、話したはずだよ」
あっ、そういえば……
――社長だ、一応会社を経営してる
そう言ってた。
「そうそう、君が食いついたのは私の年齢だったな」
ふふっと笑う涼平さんの指摘にかぁーっと顔が赤くなってしまった。
「私が社長と分かれば取り入ろうとするものも多いというのに、君はあの そば でさえ払おうとした」
「でも、それは……」
「いいや、あんなの初めてだったんだ。
君は私のバックボーンに興味がないって思ったら嬉しくなってね。
元々君に話しかけたのは、好みだったからなんだ。
一目惚れってあるんだなって思ったよ。
だから、困ってるみたいだしそれに付け込もうかと思ったんだけど、社長だっていっても気に留める様子もないし、君をどうやって落とそうか悩んでた」
「そんな……」
涼平さんから出てくる言葉のひとつひとつに驚いて言葉にならない。
「ふふっ。だから、君に告白されて本当に嬉しかったんだよ。やっと捕まえたと思ったのに、社長だってバレて逆に逃げられるなんて思いもしなかった」
「涼平さん……」
「やっと君を手に入れたんだ。離したくない!」
涼平さんの強い言葉を聞いて俺もつい本音が出た。
「ごめんなさい…………」
「えっ?」
「俺も……ほんとは、はなれたくない、デス……」
そういった瞬間、涼平さんの口から
『はぁーーーっ』と大きな大きな溜め息が出た。
「涼平さん?」
「ごめんなさいっていうからフラれたと思ったよ。
焦ったーーっ」
「えっ? あっ、ごめんなさい」
「もう、ごめんなさいは禁止だから」
「はい。ごめんなさい……あっ」
「ふふっ。さっさと食べて行こうか」
少し冷えてしまったライスバーガーを夢中で食べると、車は一路ホテルに向けて走り出した。
「ふぇっ、ここ?」
辿り着いたホテルは、山道に突如現れた真っ白な壁の向こうにあるらしい。
駐車場に車を止め、涼平さんに手を引かれ壁の向こうへと進み、ジャングルのような南国の木々の間を抜けるとようやくホテルらしい建物が見えてきた。
「蓮見さま。いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
そう出迎えられ、すぐに部屋へと案内された。
案内される途中で涼平さんがこのホテルについて教えてくれた。
だけど……。
このホテルは1日1組しか泊まれなくて、部屋には専用のプールもついてるんだって。
他にも専用のコンシェルジュさんがいるからなんでもお願いしていいって。
ここではのんびりすごそうって言われても……なんか桁違いすぎて想像つかないよ。
ひとりでおたおたしながら、案内されるがままに連れて行かれた部屋は驚くほど広いリビングだった。
そこから海も、そして専用のプールも見える。
「わぁーーっ!!」
俺はもう何度目かわからない感嘆の声をあげることしか出来なかった。
荷物を置いてしばらくすると、
「朝陽くん、プールに入らないか?」
と誘ってくれた。
「でも、水着が……」
「誰に見られるわけでもないし、裸で良いだろう?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、そんなことを言ってくる。
「ええっ……でも、あの……」
狼狽えていると、涼平さんは『ふふっ』と笑って
「冗談だよ。すぐに水着を用意してもらおう」
とコンシェルジュへ電話をかけ始めた。
「悪いが水着を頼む。
あ、いや、選びに行こう。用意しておいてくれないか? ああ、頼むよ」
涼平さんに連れられて、ホテル内にあるお店へと向かう途中で
「俺、何でも良いですよ」
と言うと、
「いや、君の肌に着けるものだから私が選びたいんだ」
そう言われたら、俺には断ることなど出来なかった。
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