3 / 4
第一章 真宮家 対 天沢家
二話 自転車
しおりを挟む
6月3日 月曜日 その日は小雨だった。
最近雨が多いなぁ····· まあ梅雨だから仕方ない。
私は制服に着替え、家を出た。学校に行くのだ。小雨だから大丈夫だろうと家を出て自転車に乗る。濃い赤色の自転車で少し年季の入ったものだが、使い心地は抜群だ。
平坦な道を自転車でかけて行く。ポツポツと顔に当たる水滴はまだ少し寒い朝の空気と共に私の体温を奪っていった。手が冷たい。
華の京高等学校。この華京町と言う場所に基づいて作られた、そのまんまのネーミングの公立学校。校門をくぐり、いつもの場所に自転車を置く。私は2年1組だ。教室に入る。始業式があってもう1ヶ月ちょっとは立っているのだが、私に話しかけてくるのは、鷲尾 優だけだった。別に友達を作りに来ているわけではないので構わないのだが。
鷲尾家は華京六家には入っていないがそれなりに強い名門家で名前の通り鷲を飼っている。鷲尾 優は鷲尾家の長男だった。
「おはよー 純ー♪」
相変わらずさっぱりと話しかけてくる。
私はこいつといるのが嫌だった。まず、気に食わないのは外見だ。鷲尾家は鷲を使って戦う一族だ。だからかは分からないがこいつは肩に鷲を乗っけている。そしてチャラいのだ。明るい茶髪の髪の毛に銀色のひし形のネックレスとピアス。そして肩に鷲を乗っけているものだから目立つ。私は別に好き好んで目立ったりしようとは思わないのだ。
そして態度。いつもニコニコしていて、軽い。冗談が多く、こいつの言うことは嘘か本当か分からない。
「また鷲を連れてきて、先生に怒られるよ。」正直怒られてろと思ったが、一様忠告してあげた。
「あっ大丈夫ー!せんせー来る前には教室の窓から飛ばすから♪」
やっぱりこいつは気に入らない。
休み時間になる度に窓を開けては鷲を呼ぶ。なんかよくわからない笛を吹いて。
別にどうでもいいけれど鷲を呼ぶ度に窓開け、笛を鳴らすので気になるのだ。
んっ·····窓と言えば·····
「そう言えば4月ぐらいに3組の教室の窓がわられる事件あったらしいけど···それってあんたじゃ·····」
「やってないよ!酷いなーいくら僕でもそんな無闇やたらに窓を破壊してる訳じゃないから」
相変わらずヘラヘラと笑いながら語る。
早く先生来ないかな·····
ドアがあき、先生が入ってきた。
2年1組の担任山本先生だ。体育の先生でがっちりとした体型だ。大男と言う言葉が良く似合う。鷲尾の肩の鷲を見るとすぐ「こらっ鷲尾ーー!!!」よく響く声だ。「あっどもっす。」ヘラヘラと煽っていくスタイルだ。無意識なのか。故意的なのか。窓を開けて鷲を飛ばす鷲尾。
そんな2人のやり取りを横目に見ながら私は1時間目の準備を始めた。
昼になり、学食でご飯を食べる。月曜日はハンバーグだ。
ーそう言えば、昨日の石···
それはポケットに入れている。
ポケットに手を伸ばしてみた。
あのよく分からない衝動はあれから少ししたら収まった。だが、あの男の子に会いたいと言う気持ちはまだ収まっていない。
手がかりを探したいのだか、何かいい案がある訳でも無い。どうやって見つけようか·····
背景やセリフはしっかり覚えているのに、あの男の子の首から上はどうしても思い出せない。
そんなことをぼんやり考えていると、正面に鷲尾が座ってきた。
「よっ来ちゃった♡」来ちゃったじゃねぇ。相変わらずヘラヘラ笑っている。
「そう言えば聞いたよー戦争になりそうなんでしょ?てかもうなってる?冷戦状態?」はてなが多い。ん?戦争·····
「天沢家と。」そう言えば昨日姉さんがそんなことを言っていた。
「そうだった·····」
「そうだったって·····まさか·····忘れてたの!?」いちいちオーバーリアクションだなこいつは。
「覚えてるよ。忘れるわけないじゃん。」
「だよねー!流石の僕でもびっくりしちゃう」何だか癪に障る言い方だ。そしてまたヘラヘラ笑う。
「天沢家ね~仲良くは出来ないな~」
「だろうね。」鷲尾家は水無家の傘下にある家だ。そして水無家とは真宮家や天沢家と同じで華京六家の一つ。水がない家つまり火の魔法を使う一族である。
水の魔法を使う天沢家とは犬猿の仲だそうだ。
「いや、僕は別に平和主義だからさっ!仲良くしてもいいんだよ。でも家的にね~父さんに怒られちゃうよ。」
名門家は色々と大変だ。私もだか。
「あっ噂をすれば·····」横を見ると天沢家次男 天沢 陸 が歩いていた。確か3年2組。一つ歳上だ。2年2組にも 天沢 美帆と言う天沢家 長女がいる。
あの一族は白い髪の毛に青い目をしているので、遠目から見ても何となく分かる。
「いや、目立つよね~」
「ちょっねぇ。少し静かにしてよ聞こえるじゃん。」それに朝のお前も人の事言えないぐらい目立ってたから。私はあまり感情的になることはないがこれは少し焦る。もし、私のせいでさらに天沢家と真宮家に亀裂が入ってしまったら大変だ。
食べ終わったので鷲尾を置いてさっさと教室に戻る。
朝は雨が降っていたがやんでいた。
本当に天沢家と戦争が始まるのだろうか。まだ決まったわけではない。私は教室までの廊下を重い足を動かして歩いた。
帰り道。私は赤い自転車が止めてあるいつもの場所に行った。だが、そこに自転車は置いてなかった。おかしいな·····ここにあるはずなのに·····誰かが間違えて持って行ってしまったのだろうか·····だが自転車には鍵がかかっている。辺りをきょろきょろと見渡す。突然、声をかけられた。
「何してんの?そこ、邪魔なんだけど·····」
少しきついが、大きなつり目に長い赤毛の髪。二つにくくっている。確実に美人の部類に入る顔なのだか、睨まれると怖い。
「すいません。ちょっと自転車を探していて·····」
「ないの?何年生?」
「2年です·····」
「同い年じゃない。敬語じゃなくていいのに。」いやいや初対面の人にいきなりタメ口はないでしょ。もしかしたら年上かもしれないじゃん。
「何組なの? 名前は?」
「真宮 純·····2年1組。」
「真宮·····」
そうつぶやくと彼女の顔が険しくなった。私の苗字を聞いたからか。この苗字に反応するということはどこかの名門家か。だが、私が知る限りではこんな子は知らない。苗字を聞いたら分かるかもしれないが。
「名前なんて言うの?」
·····2秒の沈黙が長く感じられた。
「鬼頭 佳織」
理解した。鬼頭家だ。華京六家の一つ。だが、鬼頭佳織なんて知らない。鬼頭家は確か、長男の鬼頭 昨夜 長女の鬼頭 美鶴しかいなかったはずだ。
「真宮 純·····知ってるわよ。真宮家の次女でしょ?鬼頭家も知ってるわよね?私は鬼頭佳織 。鬼頭家の分家で長女よ。」
分家か。真宮家は鬼頭家とはそんなに関わりがない。だから深くは知らなかったが、確か鬼頭家は本家と分家がはっきりしていて、互いに凄く中が悪いということは聞いたことがあった。
「てか、自転車、ないんでしょ?手伝ってあげるわ。どんなの?」
えっ·····見た目のイメージから少しきつい性格をイメージしていたが見かけに寄らず優しいらしい。いや、何か裏があるのかも。だが、鬼頭家の分家が真宮家に優しくして得られるものなんて特に考えつかない。
「いいの?」
「ええ。捜し物を見つけるのは得意なの。今、ちょうど暇だし。色々あって家に帰れないからさ。」何があったのだろうか·····だがそれを聞くのは野暮な気がした。それに理解した。彼女は暇を潰したいのだ。
「どんな自転車なの?」
「濃い赤色の自転車。なんか薔薇みたいな色の。」
「····もしかしてだけどさ」また少し鬼頭佳織の顔が険しくなった。
「何?」
「さっき天沢 美帆が持ってた·····」
「どういう事?」
「さっき天沢 美帆が自転車を運んでたから。乗ったりせずに持ち上げて運んでるからなんかおかしいと思ってたの。」
「そういう事か·····」彼女は天沢家と真宮家にあったことを知っているのだろうか。
「どうしてかしら·····間違って持ってったかんじではないわよね。」
知らないようだ。だが、この問題どうしようか·····私が下手に行動して戦争を起こしてしまえば、姉さんや兄さんに迷惑を掛けてしまうし·····
「話に行きましょう。」
「えっ·····」
なんでこの子は明らかに面倒くさそうなの人の問題に首を突っ込めるのだろう·····
「私、生徒会長してるの。」
なるほどこういうタイプか·····
「間違えだったらそれでよし。いじめなんてあったら生徒会長として許さないわ」
また、鷲尾 優とは違う意味で面倒臭いタイプかもしれない·····
「それでさ·····どこに向かってたの?天沢 美帆は」
「さあ·····でも少なくとも校門の方ではなかったわ。家に帰った訳じゃないと思うの。」
天沢 美帆は何を考えているのだろう。そもそもこれは家の命令なのだろうか·····だが、私の自転車を盗むなんてことをやった所で何かある訳ではないだろう。天沢家のお偉いさんもそんな命令するはずがない。つまりこれは天沢 美帆 が単独でやってる可能性の方が高い。もしかしたらバトルになるかもしれない。鬼頭さんも華京六家の一つだ。天沢家のことも知っている····。そろそろ勘づいてもいいだろう。
「ねぇ··天沢家って華京六家の一つよね?あんたのとこと同じで。」
「うん。そうだけど」やはり何かあったことは勘づいている。
「なんで自転車取られたの?」なるほど·····直接質問してくるパターンか
とりあえず、鷲尾が知ってたし、隠してもそんなに意味は無いけど。そうペラペラとこっちの情報を喋るほどバカでもない。
「さあ、赤い自転車が欲しかったんじゃない?」
「その可能性もあるわね。私が人の物を勝手に取ってはいけないって教えてあげなくちゃ」信じてる·····?!いやそんなはずはない·····冗談を冗談で返したんだ。
「で、どうする?」
「えっ」
「えっ じゃないわよ。何か手がかりないの?」手がかり·····まだ帰ってないなら教室にいるはず·····
「とりあえず、2年2組の教室に行ってみるとか·····」
「なるほどね」そう言って走り出す。いや、走る必要ないでしょ。そう思いながら鬼頭佳織について行く。もし、天沢 美帆がバトル仕掛けて来たらどうするんだよぉ·····刀がないので魔法で戦うしかない·····相手は水の魔法を使う·····2対1なので負けることはないと思うが、分からない。鬼頭佳織の実力も謎だし。そんな不安をかかえ走っているとすぐに2年2組の教室の前に来てしまった。
教室のドアの前、人がいることを悟られないように小さな声で「開けるね」とささやく。321で開けよう。3····· 2··
ガラッ·····鬼頭佳織が生き良いよくドアを開ける·····
「ちょっ」思わず口から言葉が漏れた。この子は本当に大丈夫なのだろうか·····
教室を見渡す。人影が一つ。ビンゴだ。天沢 美帆だった。白く長い髪に青い瞳。ここは慎重に話を切り出さなければ、果たして一言目は何を言うべきか····
「ねぇ天沢 美帆·····あんた真宮純の自転車とったでしょ。」ストレートだな。鬼頭佳織。
私は鬼頭 佳織を見つめる。多分疲れたザコキャラみたいな顔をしている事だろう。私ってこんなに感情表現豊かな方だっけ·····
そして天沢 美帆はしらばっくれるのか、それともいきなり攻撃を仕掛けてくるか····
「うん。とった!」いさぎよいな。天沢 美帆りでもここからだ····· 仕掛けて来るかと思った時、いきなり来た·····水が細長く線のように一直線に私達の方に飛んでくる。私はしゃがみこんで避ける。やばい·····教室でバトル始まっちゃったよ。制服だし·····鬼頭佳織の方を見る、横に避けていた。一直線の水が鬼頭佳織を追う、だが、直前で避けて行く、流石に鬼頭家だ。やはりそれなりに戦えるのだろう。
「水の水圧ってね。結構強いんだよ。私はそんなに知らないけどさ、大量の水を使って物体にぶつけたらね、大きなビルとか簡単に破壊出来たんだ~」バトル中に会話をはじめるだなんて随分余裕がある。鬼頭と天沢の距離が1m以内になった時だった。
「大量の水をね、ぶつけるの」
その言葉と同時に水量が一気に増えた。鬼頭 佳織が押し流される。そしてそのまま黒板に強く頭をぶつけた。そのせいか頭から少し血を流してる。
「いったぁ···」
相性が悪い·····鬼頭家は確か通常の人間には出せないような強靭なパワーを使える一族だ。地面をカチ割ったり、建物を破壊したりしている所を何度か見たことがある。つまり接近戦。だが、相手は中距離戦?いや遠距離か。
私の風の魔法は中距離戦だ。仕方がない·····私が行くしか。
「美帆っ!」生き良いよく教室に入ってきたのは天沢 陸だった。
「大きな音がしたから·····妹がごめんね。」妹と同じで白い髪と青い瞳。眼鏡は掛けていないが真面目そうな人だ。
「教室が水浸しじゃないか·····」
「お兄ちゃん·····」天沢家は家とは違って家族同士で敬語とかそんな肩苦しいかんじではないようだった。
「どういうつもり·····?」少し怒ったような顔で鬼頭 香織が言う。この子は年上に対してもタメ口なのか·····
「いや、鬼頭 佳織ちゃんだよね?ごめんね。頭の怪我大丈夫?真宮 純ちゃんも·····自転車、自転車置き場に戻しといたから。」何故か事情は知ってるらしい。
「自転車が俺の教室に置いてあってさ。ちょっとおかしいなって思ったんだ。そしたら美帆が朝言ってたことを思い出してさ」
「朝、言ってたこと?」計画性があるようだ。
「真宮 純の自転車を奪ってやるみたいなこと。すぐさま自転車置き場に戻して駆けつけたわけ。」
「お兄ちゃんなんで?私、お兄ちゃんのために·····」
「美帆っ!」何か言いかけて止められた。
「本当に妹がごめんな。実はこれさ、うちのお家元の命令でやった訳じゃなくて俺達が勝手にやった事なんだよね·····」
「真宮の人には言わないでおきます。お互いのため」私もそんなに好戦的な人ではない。もし、この事件を姉さんや兄さんに言うと戦争が始まりかねない。言えないのだ
「ありがとう。助かるよ。保健室付き合おうか?」
「結構です。私がいれば」
「ちょっと、私は別に保健室に行かなくたってこんな傷ほっとけば治るわよ。」鬼頭 佳織が言う。フルネームで呼ぶのに疲れた。
「佳織。傷残るよ。」そう言ってそそくさと教室を出る。その時に天沢 陸が口を開いた
「今回は戦わなかったけど、次、2人だけで会う時は戦う時だから。」
私は無言でドアを閉めた。
廊下の窓は空いていて少し生暖かい風が吹いている。教室の片付け大変だろうな
「純」
不意に佳織が言った。
「何?」
「呼んでみただけ」カップルか。なんなんだこの会話は
「だってさ私の事、呼び捨てで呼んでくれたでしょ。だから私も呼んであげたのっ」何なんだなんか照れてるし·····
でもなんか面白い子だなぁと思った。佳織は。捜し物は得意って言ってたし、きっと手伝ってくれるだろう、石の男の子のことも探して貰おうかな…なんて。
こうして波乱万丈な今日は膜を閉じた。
最近雨が多いなぁ····· まあ梅雨だから仕方ない。
私は制服に着替え、家を出た。学校に行くのだ。小雨だから大丈夫だろうと家を出て自転車に乗る。濃い赤色の自転車で少し年季の入ったものだが、使い心地は抜群だ。
平坦な道を自転車でかけて行く。ポツポツと顔に当たる水滴はまだ少し寒い朝の空気と共に私の体温を奪っていった。手が冷たい。
華の京高等学校。この華京町と言う場所に基づいて作られた、そのまんまのネーミングの公立学校。校門をくぐり、いつもの場所に自転車を置く。私は2年1組だ。教室に入る。始業式があってもう1ヶ月ちょっとは立っているのだが、私に話しかけてくるのは、鷲尾 優だけだった。別に友達を作りに来ているわけではないので構わないのだが。
鷲尾家は華京六家には入っていないがそれなりに強い名門家で名前の通り鷲を飼っている。鷲尾 優は鷲尾家の長男だった。
「おはよー 純ー♪」
相変わらずさっぱりと話しかけてくる。
私はこいつといるのが嫌だった。まず、気に食わないのは外見だ。鷲尾家は鷲を使って戦う一族だ。だからかは分からないがこいつは肩に鷲を乗っけている。そしてチャラいのだ。明るい茶髪の髪の毛に銀色のひし形のネックレスとピアス。そして肩に鷲を乗っけているものだから目立つ。私は別に好き好んで目立ったりしようとは思わないのだ。
そして態度。いつもニコニコしていて、軽い。冗談が多く、こいつの言うことは嘘か本当か分からない。
「また鷲を連れてきて、先生に怒られるよ。」正直怒られてろと思ったが、一様忠告してあげた。
「あっ大丈夫ー!せんせー来る前には教室の窓から飛ばすから♪」
やっぱりこいつは気に入らない。
休み時間になる度に窓を開けては鷲を呼ぶ。なんかよくわからない笛を吹いて。
別にどうでもいいけれど鷲を呼ぶ度に窓開け、笛を鳴らすので気になるのだ。
んっ·····窓と言えば·····
「そう言えば4月ぐらいに3組の教室の窓がわられる事件あったらしいけど···それってあんたじゃ·····」
「やってないよ!酷いなーいくら僕でもそんな無闇やたらに窓を破壊してる訳じゃないから」
相変わらずヘラヘラと笑いながら語る。
早く先生来ないかな·····
ドアがあき、先生が入ってきた。
2年1組の担任山本先生だ。体育の先生でがっちりとした体型だ。大男と言う言葉が良く似合う。鷲尾の肩の鷲を見るとすぐ「こらっ鷲尾ーー!!!」よく響く声だ。「あっどもっす。」ヘラヘラと煽っていくスタイルだ。無意識なのか。故意的なのか。窓を開けて鷲を飛ばす鷲尾。
そんな2人のやり取りを横目に見ながら私は1時間目の準備を始めた。
昼になり、学食でご飯を食べる。月曜日はハンバーグだ。
ーそう言えば、昨日の石···
それはポケットに入れている。
ポケットに手を伸ばしてみた。
あのよく分からない衝動はあれから少ししたら収まった。だが、あの男の子に会いたいと言う気持ちはまだ収まっていない。
手がかりを探したいのだか、何かいい案がある訳でも無い。どうやって見つけようか·····
背景やセリフはしっかり覚えているのに、あの男の子の首から上はどうしても思い出せない。
そんなことをぼんやり考えていると、正面に鷲尾が座ってきた。
「よっ来ちゃった♡」来ちゃったじゃねぇ。相変わらずヘラヘラ笑っている。
「そう言えば聞いたよー戦争になりそうなんでしょ?てかもうなってる?冷戦状態?」はてなが多い。ん?戦争·····
「天沢家と。」そう言えば昨日姉さんがそんなことを言っていた。
「そうだった·····」
「そうだったって·····まさか·····忘れてたの!?」いちいちオーバーリアクションだなこいつは。
「覚えてるよ。忘れるわけないじゃん。」
「だよねー!流石の僕でもびっくりしちゃう」何だか癪に障る言い方だ。そしてまたヘラヘラ笑う。
「天沢家ね~仲良くは出来ないな~」
「だろうね。」鷲尾家は水無家の傘下にある家だ。そして水無家とは真宮家や天沢家と同じで華京六家の一つ。水がない家つまり火の魔法を使う一族である。
水の魔法を使う天沢家とは犬猿の仲だそうだ。
「いや、僕は別に平和主義だからさっ!仲良くしてもいいんだよ。でも家的にね~父さんに怒られちゃうよ。」
名門家は色々と大変だ。私もだか。
「あっ噂をすれば·····」横を見ると天沢家次男 天沢 陸 が歩いていた。確か3年2組。一つ歳上だ。2年2組にも 天沢 美帆と言う天沢家 長女がいる。
あの一族は白い髪の毛に青い目をしているので、遠目から見ても何となく分かる。
「いや、目立つよね~」
「ちょっねぇ。少し静かにしてよ聞こえるじゃん。」それに朝のお前も人の事言えないぐらい目立ってたから。私はあまり感情的になることはないがこれは少し焦る。もし、私のせいでさらに天沢家と真宮家に亀裂が入ってしまったら大変だ。
食べ終わったので鷲尾を置いてさっさと教室に戻る。
朝は雨が降っていたがやんでいた。
本当に天沢家と戦争が始まるのだろうか。まだ決まったわけではない。私は教室までの廊下を重い足を動かして歩いた。
帰り道。私は赤い自転車が止めてあるいつもの場所に行った。だが、そこに自転車は置いてなかった。おかしいな·····ここにあるはずなのに·····誰かが間違えて持って行ってしまったのだろうか·····だが自転車には鍵がかかっている。辺りをきょろきょろと見渡す。突然、声をかけられた。
「何してんの?そこ、邪魔なんだけど·····」
少しきついが、大きなつり目に長い赤毛の髪。二つにくくっている。確実に美人の部類に入る顔なのだか、睨まれると怖い。
「すいません。ちょっと自転車を探していて·····」
「ないの?何年生?」
「2年です·····」
「同い年じゃない。敬語じゃなくていいのに。」いやいや初対面の人にいきなりタメ口はないでしょ。もしかしたら年上かもしれないじゃん。
「何組なの? 名前は?」
「真宮 純·····2年1組。」
「真宮·····」
そうつぶやくと彼女の顔が険しくなった。私の苗字を聞いたからか。この苗字に反応するということはどこかの名門家か。だが、私が知る限りではこんな子は知らない。苗字を聞いたら分かるかもしれないが。
「名前なんて言うの?」
·····2秒の沈黙が長く感じられた。
「鬼頭 佳織」
理解した。鬼頭家だ。華京六家の一つ。だが、鬼頭佳織なんて知らない。鬼頭家は確か、長男の鬼頭 昨夜 長女の鬼頭 美鶴しかいなかったはずだ。
「真宮 純·····知ってるわよ。真宮家の次女でしょ?鬼頭家も知ってるわよね?私は鬼頭佳織 。鬼頭家の分家で長女よ。」
分家か。真宮家は鬼頭家とはそんなに関わりがない。だから深くは知らなかったが、確か鬼頭家は本家と分家がはっきりしていて、互いに凄く中が悪いということは聞いたことがあった。
「てか、自転車、ないんでしょ?手伝ってあげるわ。どんなの?」
えっ·····見た目のイメージから少しきつい性格をイメージしていたが見かけに寄らず優しいらしい。いや、何か裏があるのかも。だが、鬼頭家の分家が真宮家に優しくして得られるものなんて特に考えつかない。
「いいの?」
「ええ。捜し物を見つけるのは得意なの。今、ちょうど暇だし。色々あって家に帰れないからさ。」何があったのだろうか·····だがそれを聞くのは野暮な気がした。それに理解した。彼女は暇を潰したいのだ。
「どんな自転車なの?」
「濃い赤色の自転車。なんか薔薇みたいな色の。」
「····もしかしてだけどさ」また少し鬼頭佳織の顔が険しくなった。
「何?」
「さっき天沢 美帆が持ってた·····」
「どういう事?」
「さっき天沢 美帆が自転車を運んでたから。乗ったりせずに持ち上げて運んでるからなんかおかしいと思ってたの。」
「そういう事か·····」彼女は天沢家と真宮家にあったことを知っているのだろうか。
「どうしてかしら·····間違って持ってったかんじではないわよね。」
知らないようだ。だが、この問題どうしようか·····私が下手に行動して戦争を起こしてしまえば、姉さんや兄さんに迷惑を掛けてしまうし·····
「話に行きましょう。」
「えっ·····」
なんでこの子は明らかに面倒くさそうなの人の問題に首を突っ込めるのだろう·····
「私、生徒会長してるの。」
なるほどこういうタイプか·····
「間違えだったらそれでよし。いじめなんてあったら生徒会長として許さないわ」
また、鷲尾 優とは違う意味で面倒臭いタイプかもしれない·····
「それでさ·····どこに向かってたの?天沢 美帆は」
「さあ·····でも少なくとも校門の方ではなかったわ。家に帰った訳じゃないと思うの。」
天沢 美帆は何を考えているのだろう。そもそもこれは家の命令なのだろうか·····だが、私の自転車を盗むなんてことをやった所で何かある訳ではないだろう。天沢家のお偉いさんもそんな命令するはずがない。つまりこれは天沢 美帆 が単独でやってる可能性の方が高い。もしかしたらバトルになるかもしれない。鬼頭さんも華京六家の一つだ。天沢家のことも知っている····。そろそろ勘づいてもいいだろう。
「ねぇ··天沢家って華京六家の一つよね?あんたのとこと同じで。」
「うん。そうだけど」やはり何かあったことは勘づいている。
「なんで自転車取られたの?」なるほど·····直接質問してくるパターンか
とりあえず、鷲尾が知ってたし、隠してもそんなに意味は無いけど。そうペラペラとこっちの情報を喋るほどバカでもない。
「さあ、赤い自転車が欲しかったんじゃない?」
「その可能性もあるわね。私が人の物を勝手に取ってはいけないって教えてあげなくちゃ」信じてる·····?!いやそんなはずはない·····冗談を冗談で返したんだ。
「で、どうする?」
「えっ」
「えっ じゃないわよ。何か手がかりないの?」手がかり·····まだ帰ってないなら教室にいるはず·····
「とりあえず、2年2組の教室に行ってみるとか·····」
「なるほどね」そう言って走り出す。いや、走る必要ないでしょ。そう思いながら鬼頭佳織について行く。もし、天沢 美帆がバトル仕掛けて来たらどうするんだよぉ·····刀がないので魔法で戦うしかない·····相手は水の魔法を使う·····2対1なので負けることはないと思うが、分からない。鬼頭佳織の実力も謎だし。そんな不安をかかえ走っているとすぐに2年2組の教室の前に来てしまった。
教室のドアの前、人がいることを悟られないように小さな声で「開けるね」とささやく。321で開けよう。3····· 2··
ガラッ·····鬼頭佳織が生き良いよくドアを開ける·····
「ちょっ」思わず口から言葉が漏れた。この子は本当に大丈夫なのだろうか·····
教室を見渡す。人影が一つ。ビンゴだ。天沢 美帆だった。白く長い髪に青い瞳。ここは慎重に話を切り出さなければ、果たして一言目は何を言うべきか····
「ねぇ天沢 美帆·····あんた真宮純の自転車とったでしょ。」ストレートだな。鬼頭佳織。
私は鬼頭 佳織を見つめる。多分疲れたザコキャラみたいな顔をしている事だろう。私ってこんなに感情表現豊かな方だっけ·····
そして天沢 美帆はしらばっくれるのか、それともいきなり攻撃を仕掛けてくるか····
「うん。とった!」いさぎよいな。天沢 美帆りでもここからだ····· 仕掛けて来るかと思った時、いきなり来た·····水が細長く線のように一直線に私達の方に飛んでくる。私はしゃがみこんで避ける。やばい·····教室でバトル始まっちゃったよ。制服だし·····鬼頭佳織の方を見る、横に避けていた。一直線の水が鬼頭佳織を追う、だが、直前で避けて行く、流石に鬼頭家だ。やはりそれなりに戦えるのだろう。
「水の水圧ってね。結構強いんだよ。私はそんなに知らないけどさ、大量の水を使って物体にぶつけたらね、大きなビルとか簡単に破壊出来たんだ~」バトル中に会話をはじめるだなんて随分余裕がある。鬼頭と天沢の距離が1m以内になった時だった。
「大量の水をね、ぶつけるの」
その言葉と同時に水量が一気に増えた。鬼頭 佳織が押し流される。そしてそのまま黒板に強く頭をぶつけた。そのせいか頭から少し血を流してる。
「いったぁ···」
相性が悪い·····鬼頭家は確か通常の人間には出せないような強靭なパワーを使える一族だ。地面をカチ割ったり、建物を破壊したりしている所を何度か見たことがある。つまり接近戦。だが、相手は中距離戦?いや遠距離か。
私の風の魔法は中距離戦だ。仕方がない·····私が行くしか。
「美帆っ!」生き良いよく教室に入ってきたのは天沢 陸だった。
「大きな音がしたから·····妹がごめんね。」妹と同じで白い髪と青い瞳。眼鏡は掛けていないが真面目そうな人だ。
「教室が水浸しじゃないか·····」
「お兄ちゃん·····」天沢家は家とは違って家族同士で敬語とかそんな肩苦しいかんじではないようだった。
「どういうつもり·····?」少し怒ったような顔で鬼頭 香織が言う。この子は年上に対してもタメ口なのか·····
「いや、鬼頭 佳織ちゃんだよね?ごめんね。頭の怪我大丈夫?真宮 純ちゃんも·····自転車、自転車置き場に戻しといたから。」何故か事情は知ってるらしい。
「自転車が俺の教室に置いてあってさ。ちょっとおかしいなって思ったんだ。そしたら美帆が朝言ってたことを思い出してさ」
「朝、言ってたこと?」計画性があるようだ。
「真宮 純の自転車を奪ってやるみたいなこと。すぐさま自転車置き場に戻して駆けつけたわけ。」
「お兄ちゃんなんで?私、お兄ちゃんのために·····」
「美帆っ!」何か言いかけて止められた。
「本当に妹がごめんな。実はこれさ、うちのお家元の命令でやった訳じゃなくて俺達が勝手にやった事なんだよね·····」
「真宮の人には言わないでおきます。お互いのため」私もそんなに好戦的な人ではない。もし、この事件を姉さんや兄さんに言うと戦争が始まりかねない。言えないのだ
「ありがとう。助かるよ。保健室付き合おうか?」
「結構です。私がいれば」
「ちょっと、私は別に保健室に行かなくたってこんな傷ほっとけば治るわよ。」鬼頭 佳織が言う。フルネームで呼ぶのに疲れた。
「佳織。傷残るよ。」そう言ってそそくさと教室を出る。その時に天沢 陸が口を開いた
「今回は戦わなかったけど、次、2人だけで会う時は戦う時だから。」
私は無言でドアを閉めた。
廊下の窓は空いていて少し生暖かい風が吹いている。教室の片付け大変だろうな
「純」
不意に佳織が言った。
「何?」
「呼んでみただけ」カップルか。なんなんだこの会話は
「だってさ私の事、呼び捨てで呼んでくれたでしょ。だから私も呼んであげたのっ」何なんだなんか照れてるし·····
でもなんか面白い子だなぁと思った。佳織は。捜し物は得意って言ってたし、きっと手伝ってくれるだろう、石の男の子のことも探して貰おうかな…なんて。
こうして波乱万丈な今日は膜を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる