気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ

文字の大きさ
28 / 59
第2章 少年期

8.ぎこちない

しおりを挟む
目を覚ますと、見慣れない白い天井が広がっていた。

「……あれ?」

瞬きを繰り返しながらノエルは記憶を辿る。昨夜、ルーベルトの部屋で話しているうちに言い合いになったことを思い出し、急激に目が覚めた。

「……ルー兄さんと、喧嘩……したんだ。」

今まで一度も兄たちと喧嘩なんてしたことがなかった。昨日、自分の気持ちを爆発させ、あのルーベルトに言い返したという事実が、まだ信じられなかった。
そのままルーベルトのベッドで眠ってしまったことに気づくと、さらに顔が熱くなる。

「……何やってるんだろ、僕……」

ノエルは両手で顔を覆い、布団の中に頭を埋めた。普段は穏やかで全てを受け入れてくれるルーベルトに、自分のことを思って言ってくれた言葉に、あんなに怒りをぶつけた自分が冷静になって考えてみると恥ずかしくて仕方がない。それに喧嘩自体をしたことが無いので、仲直りしたいのに、どうやって顔を合わせればいいのか分からない。

「……はぁ……」

小さく溜息をつきながら、ノエルはゆっくりと布団を蹴って起き上がった。


***


しばらくルーベルトを避け続けていたノエルは、昼食の時間になって仕方なくダイニングへ向かっていた。どんな顔をして兄と話せばいいのか全く分からないまま、足取りは重かった。

「あぁ、ノエルだ。一緒に食堂に行くかい?」

突然聞き慣れた柔らかい声が耳に届く。振り向くと、ルーベルトがいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

「……うん。」

ノエルは小さく頷くだけで、目を合わせられなかった。まるで昨日のことなんて何もなかったかのようなルーベルトの態度に、どう反応していいのか分からない。喧嘩をしてしまったのだから、もっとぎこちなくなると思っていたのに。

ノエルは俯き、口を開くこともできず、ただ廊下を歩き続けた。そのとき、前方からローレンツがこちらに向かって歩いてきた。

「兄さん、昨日からノエルを独り占めして抜け駆けか?」

「ロイ兄さん!」

ノエルはローレンツを見るや否や、慌てて彼の元へ駆け寄り、ルーベルトの前に立つ彼の服の裾をきゅっと握った。

「一緒にダイニング行こう!早く、早く!」

ローレンツは不思議そうにノエルを見下ろしたが、その視線が次第に険しいものへと変わる。ノエルが慌てて自分に縋ってきた理由に気づいたようだった。

「ノエル……。まさか、ルー兄さんに何かされたのか?」

「いいや、僕は何もしてないよ。」

ルーベルトはすかさず応じ、笑みを浮かべながらノエルに向き直った。

「ね、ノエル?」

その一言にノエルの顔がみるみる赤くなり、ますます俯いてしまう。ローレンツはすかさずノエルを抱き上げ、まるでルーベルトから守るように腕の中に収めた。

「このクソ兄……!」
ローレンツは低く吐き捨てると、ノエルをそのまま抱き上げ、ルーベルトを置き去りにして足早に食堂へ向かった。


ダイニングに到着しても、ノエルはローレンツの胸に顔を埋めたままだった。ルーベルトが何かノエルにしでかしたんだと思い込み、ルーベルトを睨みつけるローレンツとは対照的に、ノエルの心臓はバクバクと高鳴りっぱなしだ。

「……ねえ、ロイ兄さん。仲直りってどうやってするの…?」

「…やっぱりアイツが何かやらかしたんだな。ノエルが気にする必要はない。」

ノエルがそっと顔を上げると、ローレンツは険しい顔を緩め、優しくノエルの頭を撫でた。

「明日、俺は家に居てやれないから一緒に学園を見学しに行かないか?自主練習の時間なら問題ないはずだ。一日中あんな奴の近くに置いておけるか……」

「……うん、わかった。ありがとロイ兄さん…」

ノエルは小さく頷き、またローレンツの胸に顔を埋めた。


***


ローレンツの怒りを軽く受け流したルーベルトは、廊下を悠々と歩きながら先程の出来事を思い出していた。

ノエルが初めて自分の気持ちをぶつけてきた。

ルーベルトはふっと微笑む。いつも穏やかで従順だったノエルが、初めて兄に対して本音をぶつけたのだ。その瞬間、自分に対する信頼の厚さと、ノエルが成長している証を実感し、何となく嬉しかった。

喧嘩をしたつもりは全くなかった。
むしろ、ノエルの内面にある強さを見られたことが嬉しかった。ローレンツの怒りも、ノエルを想ってのことだと分かっている。そんな二人のやり取りを見て、ルーベルトは肩をすくめた。


本当に僕の弟達は可愛いよ。


軽く笑みを浮かべながら、ルーベルトも食堂へと向かった。ノエルとの距離が少し縮まったように思えた先程の出来事を胸に抱きながら。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
*あらすじを改稿し、タグを編集する予定です m(_ _)m後からの改稿、追加で申し訳ございません (>_<)  社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのだが…… *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

処理中です...