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第2章 少年期
8.ぎこちない
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目を覚ますと、見慣れない白い天井が広がっていた。
「……あれ?」
瞬きを繰り返しながらノエルは記憶を辿る。昨夜、ルーベルトの部屋で話しているうちに言い合いになったことを思い出し、急激に目が覚めた。
「……ルー兄さんと、喧嘩……したんだ。」
今まで一度も兄たちと喧嘩なんてしたことがなかった。昨日、自分の気持ちを爆発させ、あのルーベルトに言い返したという事実が、まだ信じられなかった。
そのままルーベルトのベッドで眠ってしまったことに気づくと、さらに顔が熱くなる。
「……何やってるんだろ、僕……」
ノエルは両手で顔を覆い、布団の中に頭を埋めた。普段は穏やかで全てを受け入れてくれるルーベルトに、自分のことを思って言ってくれた言葉に、あんなに怒りをぶつけた自分が冷静になって考えてみると恥ずかしくて仕方がない。それに喧嘩自体をしたことが無いので、仲直りしたいのに、どうやって顔を合わせればいいのか分からない。
「……はぁ……」
小さく溜息をつきながら、ノエルはゆっくりと布団を蹴って起き上がった。
***
しばらくルーベルトを避け続けていたノエルは、昼食の時間になって仕方なくダイニングへ向かっていた。どんな顔をして兄と話せばいいのか全く分からないまま、足取りは重かった。
「あぁ、ノエルだ。一緒に食堂に行くかい?」
突然聞き慣れた柔らかい声が耳に届く。振り向くと、ルーベルトがいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「……うん。」
ノエルは小さく頷くだけで、目を合わせられなかった。まるで昨日のことなんて何もなかったかのようなルーベルトの態度に、どう反応していいのか分からない。喧嘩をしてしまったのだから、もっとぎこちなくなると思っていたのに。
ノエルは俯き、口を開くこともできず、ただ廊下を歩き続けた。そのとき、前方からローレンツがこちらに向かって歩いてきた。
「兄さん、昨日からノエルを独り占めして抜け駆けか?」
「ロイ兄さん!」
ノエルはローレンツを見るや否や、慌てて彼の元へ駆け寄り、ルーベルトの前に立つ彼の服の裾をきゅっと握った。
「一緒にダイニング行こう!早く、早く!」
ローレンツは不思議そうにノエルを見下ろしたが、その視線が次第に険しいものへと変わる。ノエルが慌てて自分に縋ってきた理由に気づいたようだった。
「ノエル……。まさか、ルー兄さんに何かされたのか?」
「いいや、僕は何もしてないよ。」
ルーベルトはすかさず応じ、笑みを浮かべながらノエルに向き直った。
「ね、ノエル?」
その一言にノエルの顔がみるみる赤くなり、ますます俯いてしまう。ローレンツはすかさずノエルを抱き上げ、まるでルーベルトから守るように腕の中に収めた。
「このクソ兄……!」
ローレンツは低く吐き捨てると、ノエルをそのまま抱き上げ、ルーベルトを置き去りにして足早に食堂へ向かった。
ダイニングに到着しても、ノエルはローレンツの胸に顔を埋めたままだった。ルーベルトが何かノエルにしでかしたんだと思い込み、ルーベルトを睨みつけるローレンツとは対照的に、ノエルの心臓はバクバクと高鳴りっぱなしだ。
「……ねえ、ロイ兄さん。仲直りってどうやってするの…?」
「…やっぱりアイツが何かやらかしたんだな。ノエルが気にする必要はない。」
ノエルがそっと顔を上げると、ローレンツは険しい顔を緩め、優しくノエルの頭を撫でた。
「明日、俺は家に居てやれないから一緒に学園を見学しに行かないか?自主練習の時間なら問題ないはずだ。一日中あんな奴の近くに置いておけるか……」
「……うん、わかった。ありがとロイ兄さん…」
ノエルは小さく頷き、またローレンツの胸に顔を埋めた。
***
ローレンツの怒りを軽く受け流したルーベルトは、廊下を悠々と歩きながら先程の出来事を思い出していた。
ノエルが初めて自分の気持ちをぶつけてきた。
ルーベルトはふっと微笑む。いつも穏やかで従順だったノエルが、初めて兄に対して本音をぶつけたのだ。その瞬間、自分に対する信頼の厚さと、ノエルが成長している証を実感し、何となく嬉しかった。
喧嘩をしたつもりは全くなかった。
むしろ、ノエルの内面にある強さを見られたことが嬉しかった。ローレンツの怒りも、ノエルを想ってのことだと分かっている。そんな二人のやり取りを見て、ルーベルトは肩をすくめた。
本当に僕の弟達は可愛いよ。
軽く笑みを浮かべながら、ルーベルトも食堂へと向かった。ノエルとの距離が少し縮まったように思えた先程の出来事を胸に抱きながら。
「……あれ?」
瞬きを繰り返しながらノエルは記憶を辿る。昨夜、ルーベルトの部屋で話しているうちに言い合いになったことを思い出し、急激に目が覚めた。
「……ルー兄さんと、喧嘩……したんだ。」
今まで一度も兄たちと喧嘩なんてしたことがなかった。昨日、自分の気持ちを爆発させ、あのルーベルトに言い返したという事実が、まだ信じられなかった。
そのままルーベルトのベッドで眠ってしまったことに気づくと、さらに顔が熱くなる。
「……何やってるんだろ、僕……」
ノエルは両手で顔を覆い、布団の中に頭を埋めた。普段は穏やかで全てを受け入れてくれるルーベルトに、自分のことを思って言ってくれた言葉に、あんなに怒りをぶつけた自分が冷静になって考えてみると恥ずかしくて仕方がない。それに喧嘩自体をしたことが無いので、仲直りしたいのに、どうやって顔を合わせればいいのか分からない。
「……はぁ……」
小さく溜息をつきながら、ノエルはゆっくりと布団を蹴って起き上がった。
***
しばらくルーベルトを避け続けていたノエルは、昼食の時間になって仕方なくダイニングへ向かっていた。どんな顔をして兄と話せばいいのか全く分からないまま、足取りは重かった。
「あぁ、ノエルだ。一緒に食堂に行くかい?」
突然聞き慣れた柔らかい声が耳に届く。振り向くと、ルーベルトがいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「……うん。」
ノエルは小さく頷くだけで、目を合わせられなかった。まるで昨日のことなんて何もなかったかのようなルーベルトの態度に、どう反応していいのか分からない。喧嘩をしてしまったのだから、もっとぎこちなくなると思っていたのに。
ノエルは俯き、口を開くこともできず、ただ廊下を歩き続けた。そのとき、前方からローレンツがこちらに向かって歩いてきた。
「兄さん、昨日からノエルを独り占めして抜け駆けか?」
「ロイ兄さん!」
ノエルはローレンツを見るや否や、慌てて彼の元へ駆け寄り、ルーベルトの前に立つ彼の服の裾をきゅっと握った。
「一緒にダイニング行こう!早く、早く!」
ローレンツは不思議そうにノエルを見下ろしたが、その視線が次第に険しいものへと変わる。ノエルが慌てて自分に縋ってきた理由に気づいたようだった。
「ノエル……。まさか、ルー兄さんに何かされたのか?」
「いいや、僕は何もしてないよ。」
ルーベルトはすかさず応じ、笑みを浮かべながらノエルに向き直った。
「ね、ノエル?」
その一言にノエルの顔がみるみる赤くなり、ますます俯いてしまう。ローレンツはすかさずノエルを抱き上げ、まるでルーベルトから守るように腕の中に収めた。
「このクソ兄……!」
ローレンツは低く吐き捨てると、ノエルをそのまま抱き上げ、ルーベルトを置き去りにして足早に食堂へ向かった。
ダイニングに到着しても、ノエルはローレンツの胸に顔を埋めたままだった。ルーベルトが何かノエルにしでかしたんだと思い込み、ルーベルトを睨みつけるローレンツとは対照的に、ノエルの心臓はバクバクと高鳴りっぱなしだ。
「……ねえ、ロイ兄さん。仲直りってどうやってするの…?」
「…やっぱりアイツが何かやらかしたんだな。ノエルが気にする必要はない。」
ノエルがそっと顔を上げると、ローレンツは険しい顔を緩め、優しくノエルの頭を撫でた。
「明日、俺は家に居てやれないから一緒に学園を見学しに行かないか?自主練習の時間なら問題ないはずだ。一日中あんな奴の近くに置いておけるか……」
「……うん、わかった。ありがとロイ兄さん…」
ノエルは小さく頷き、またローレンツの胸に顔を埋めた。
***
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ノエルが初めて自分の気持ちをぶつけてきた。
ルーベルトはふっと微笑む。いつも穏やかで従順だったノエルが、初めて兄に対して本音をぶつけたのだ。その瞬間、自分に対する信頼の厚さと、ノエルが成長している証を実感し、何となく嬉しかった。
喧嘩をしたつもりは全くなかった。
むしろ、ノエルの内面にある強さを見られたことが嬉しかった。ローレンツの怒りも、ノエルを想ってのことだと分かっている。そんな二人のやり取りを見て、ルーベルトは肩をすくめた。
本当に僕の弟達は可愛いよ。
軽く笑みを浮かべながら、ルーベルトも食堂へと向かった。ノエルとの距離が少し縮まったように思えた先程の出来事を胸に抱きながら。
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