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第2章 少年期
9.仲直り
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今日は一日中、ノエルに避けられていた。
正確には「無視」というよりも、「意識的に逃げられていた」と言うべきか。
僕のほうを何度もチラチラと伺っては、目が合うとすぐに目をそらして逃げる、その繰り返しだった。
避けられる理由には心当たりがある。昨日、ノエルが初めて僕に反論してくれた、あの「小さな喧嘩」のせいだろう。
僕としては喧嘩のつもりなど毛頭無く、むしろ喜ばしい出来事だった。普段なら、ノエルはどんなに理不尽なことでも受け入れてしまう。そんな彼が、初めて感情をむき出しにして僕にぶつかってくれた。それが嬉しかった。
しかし、ノエルは違ったようだ。 一日中避けられ、僕への視線は気まずそうで、どこか泣きそうな表情だった。
けれど、どうしてだろう。 そのノエルが今、僕の目の前に立っている。
***
時を少し遡る。
自室にこもっていた僕は、山のような手紙を整理していた。卒業パーティーの後、届いた手紙の返事を書いている。 本来なら父様の仕事にあたるが僕自身、今は卒業して特に何もすることがない。暇つぶしにと、引き受けた。
もちろん、僕に当てられたお茶会やパーティーの誘いが圧倒的に多い。だが、そのついでにノエルやロイにも送られてくる誘いがとにかく厄介だった。特に断れないような家柄の相手には、礼儀として参加せざるを得ない。それが実に面倒だった。しばしば魔法で燃やしてやろうかと頭をよぎった。そんな風に溜息をつきながら手紙を書いていると、突然扉がノックされた。
こんな時間に誰だろう?名乗りもせずにノックだけで訪ねてくるなんて非礼なやつだ。
「誰だ?」
低めの声で尋ねると、扉の向こうから小さな声が返ってきた。
「……ノ、ノエル、です。」
思いがけない名前に、身体が動いた。
「ノエル?どうした?入っておいで。」
扉を開けると、そこにいたのは今にも泣き出しそうなノエルだった。
「だ、だって……ひっく……僕がおしゃべり、し、なか……たから、おこってる……ごめなさい……!」
涙をぽろぽろと零しながら、ノエルが謝り始めた。
どうやら、今日一日中僕を避けていたことを気にしているらしい。おそらく、僕が低いトーンで返事をしたのを怒っていると勘違いしたのだろう。
扉の前出立ちすくむその小さな身体を抱きしめながら、僕は思った。泣いているノエルは、いつも以上に愛らしい。濡れた睫毛の隙間から覗く琥珀色の瞳、ほんのり上気した頬。小さな体をぎゅっと抱きしめながら、僕はノエルの耳元で優しく言葉をかけた。
「ノエル、君は何も悪くないよ。僕のほうこそごめんね?」
背中を撫でていると、ノエルは少し落ち着きを取り戻したようだった。けれど、その口からさらに驚きの言葉が飛び出してきた。
「……あ、のね……っ、して欲しいこと、あるの……」
「うん、ゆっくりでいいよ。」
促すと、ノエルは赤くなった目をゆっくりと持ち上げて、小さな声でこう言った。
「……ぎゅー、して……?」
その言葉を聞いて、僕は思わず笑みを浮かべた。
「もちろん、喜んで。」
もう一度ノエルをぎゅっと抱きしめる。 ノエルの体温は小さくて、柔らかくて、愛おしい。
「……ルーにぃに、あのね……ちゅ、してほしいの……あの……」
きっと、彼の言いたいのはいつもしているおやすみのキスのことだろう。僕はノエルの額にそっと唇を押し当てた。
「これでいいかな?」
「……うん……ありがと。」
ノエルは満足げに笑ったけれど、その笑顔に隠しきれない照れが混じっている。
頬にも軽くキスを落とし、そのままノエルの背中を優しく撫でていた。やがてノエルは安心したのか、僕の腕の中で静かに眠りについてしまった。顔を見れば、疲れたのか、穏やかな寝息を立てている。
「本当に……うちの天使には敵わないね。」
そう呟きながら、僕はノエルを抱き上げ、自室に戻して丁寧に寝かせた。整えた布団の中にそっと寝かせると、額に軽いキスを落とす。
「おやすみ、ノエル。」
天使のような寝顔を見つめてから、僕は静かに部屋を出た。部屋に戻り、再び机に向かうと、手紙の山が変わらず僕を待ち構えていた。だけど、不思議と心は満たされていて、手紙の処理も少しだけ楽しく感じられたのだった。
僕のほうを何度もチラチラと伺っては、目が合うとすぐに目をそらして逃げる、その繰り返しだった。
避けられる理由には心当たりがある。昨日、ノエルが初めて僕に反論してくれた、あの「小さな喧嘩」のせいだろう。
僕としては喧嘩のつもりなど毛頭無く、むしろ喜ばしい出来事だった。普段なら、ノエルはどんなに理不尽なことでも受け入れてしまう。そんな彼が、初めて感情をむき出しにして僕にぶつかってくれた。それが嬉しかった。
しかし、ノエルは違ったようだ。 一日中避けられ、僕への視線は気まずそうで、どこか泣きそうな表情だった。
けれど、どうしてだろう。 そのノエルが今、僕の目の前に立っている。
***
時を少し遡る。
自室にこもっていた僕は、山のような手紙を整理していた。卒業パーティーの後、届いた手紙の返事を書いている。 本来なら父様の仕事にあたるが僕自身、今は卒業して特に何もすることがない。暇つぶしにと、引き受けた。
もちろん、僕に当てられたお茶会やパーティーの誘いが圧倒的に多い。だが、そのついでにノエルやロイにも送られてくる誘いがとにかく厄介だった。特に断れないような家柄の相手には、礼儀として参加せざるを得ない。それが実に面倒だった。しばしば魔法で燃やしてやろうかと頭をよぎった。そんな風に溜息をつきながら手紙を書いていると、突然扉がノックされた。
こんな時間に誰だろう?名乗りもせずにノックだけで訪ねてくるなんて非礼なやつだ。
「誰だ?」
低めの声で尋ねると、扉の向こうから小さな声が返ってきた。
「……ノ、ノエル、です。」
思いがけない名前に、身体が動いた。
「ノエル?どうした?入っておいで。」
扉を開けると、そこにいたのは今にも泣き出しそうなノエルだった。
「だ、だって……ひっく……僕がおしゃべり、し、なか……たから、おこってる……ごめなさい……!」
涙をぽろぽろと零しながら、ノエルが謝り始めた。
どうやら、今日一日中僕を避けていたことを気にしているらしい。おそらく、僕が低いトーンで返事をしたのを怒っていると勘違いしたのだろう。
扉の前出立ちすくむその小さな身体を抱きしめながら、僕は思った。泣いているノエルは、いつも以上に愛らしい。濡れた睫毛の隙間から覗く琥珀色の瞳、ほんのり上気した頬。小さな体をぎゅっと抱きしめながら、僕はノエルの耳元で優しく言葉をかけた。
「ノエル、君は何も悪くないよ。僕のほうこそごめんね?」
背中を撫でていると、ノエルは少し落ち着きを取り戻したようだった。けれど、その口からさらに驚きの言葉が飛び出してきた。
「……あ、のね……っ、して欲しいこと、あるの……」
「うん、ゆっくりでいいよ。」
促すと、ノエルは赤くなった目をゆっくりと持ち上げて、小さな声でこう言った。
「……ぎゅー、して……?」
その言葉を聞いて、僕は思わず笑みを浮かべた。
「もちろん、喜んで。」
もう一度ノエルをぎゅっと抱きしめる。 ノエルの体温は小さくて、柔らかくて、愛おしい。
「……ルーにぃに、あのね……ちゅ、してほしいの……あの……」
きっと、彼の言いたいのはいつもしているおやすみのキスのことだろう。僕はノエルの額にそっと唇を押し当てた。
「これでいいかな?」
「……うん……ありがと。」
ノエルは満足げに笑ったけれど、その笑顔に隠しきれない照れが混じっている。
頬にも軽くキスを落とし、そのままノエルの背中を優しく撫でていた。やがてノエルは安心したのか、僕の腕の中で静かに眠りについてしまった。顔を見れば、疲れたのか、穏やかな寝息を立てている。
「本当に……うちの天使には敵わないね。」
そう呟きながら、僕はノエルを抱き上げ、自室に戻して丁寧に寝かせた。整えた布団の中にそっと寝かせると、額に軽いキスを落とす。
「おやすみ、ノエル。」
天使のような寝顔を見つめてから、僕は静かに部屋を出た。部屋に戻り、再び机に向かうと、手紙の山が変わらず僕を待ち構えていた。だけど、不思議と心は満たされていて、手紙の処理も少しだけ楽しく感じられたのだった。
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