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王妃の覚悟
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(懐かしいものねえ)
ユーファミアはうっすらと目を開き、自分の身を金色の光が包んでいるのを見た。すぐさま没入できたこの感覚は、ほんの少し前まではなかった。
つまりリーリエが祈っていた間は、神の目はユーファミアから遠ざかっていた。
(わたくしのこと、まだ覚えていらしたの?)
神がどのようなものであるのか、ユーファミアは知らない。
祈りが届けば体が輝く。たったそれだけの反応で、神を知ることなどできない。得体の知れない、人知を超えたものが存在しているとわかるだけだ。
「お、おお……」
「聖女……」
「聖女様」
「神よ」
ユーファミアを囲む人々が武器を捨て、その場にひざまずいた。
現金なものだ。本当に神を信じていたのなら、武器を突きつけて消失の前まで引きずり、脅迫して祈らせるなどするだろうか。
(わからなくもないけれど)
消失した世界は純然たる闇となり、ユーファミアの前に広がっている。
見れば震えるばかりの闇だ。本能的な恐怖を感じずにいられない。これが迫ってくる生活の中で、まともな心など保てなかっただろう。
だが、わずかながらその闇は後退したように見えた。途切れた地面に、新たな土が繋がろうとしている。
(場所も関係ないわけじゃないみたいね)
教会で祈れば果てにまで届く。
けれどこの場の祈りは、あきらかにこの場を即座に修復している。ただし、ユーファミアが祈り続ける限り。
長く祈りを捧げていない、衰え、肥えた体は少しの時間でもつらい。
(まあ……仕方ないわねえ)
覚悟はしていたことだ。むしろ状況はいいだろう。もっとひどい状況で、祈りを強要され、叶えられず殺される可能性もあった。
それでもユーファミアはここに来なければならなかった。
民が強く救いを求める、この機会しかない。
かつてこの果ての国は、ひとりの王女の祈りにより生まれた。けれど王家の文献を紐解けば、王女とともに民も祈っていたのだ。
王女は確かに神に愛されただろう。だが、ひとりではなかった。
ユーファミアはそれを再現したかった。細い糸だが、そこにしか聖女を救い、国を正しく戻す道はない。
本来ならばリーリエの仕事だ。
けれど彼女には祈る意味がない。何も得られずに祈り続けてきた彼女に、誰も更に祈れなどという権利はない。
ユーファミアは、まがりなりにも王妃という立場を得て、美味しいものを食べ、楽しいことをしてきたのだ。
それを返せと言われれば、このくらいは。
「お許しください」
「ああ、聖女様」
とはいえ。
馬車を襲い、ユーファミアを乱暴に、消失に突き落とす勢いでこの場に連れてきた。そして祈りを捧げろと言った。
彼らを甘やかす気もないのだ。
「許しが欲しければ祈りなさい!」
ユーファミアは強く言った。
「誰の祈りであれ、いつかは届くでしょう」
すると彼らは一人一人、地に膝をついて祈り始めた。その祈りはあまりに弱い。ユーファミアが感じ取ったそれは、天にははるかに届かない。
それでもいくつもの祈りが集まり始め、わずかずつ天を目指した。
ユーファミアが祈り続ける少し前のこと。
リーリエとユーファミアの旅路は、予定よりもずっと早くに終わった。消失が迫ってきたので、つまりは目的地の方から近づいてきたのだ。
しかしそれは混乱の中にたどり着いたという意味だ。
「おばさま……」
リーリエは森の中で震えていた。
馬が射られて悲鳴をあげ、馬車が止まる寸前に、ユーファミアと侍女はリーリエを馬車から押し出した。
「動いてはいけません」
「で、でも……おばさまが……!」
「失礼」
「むぐっ……」
優秀な侍女に後ろから口を押さえられ、リーリエはただ、無法者達がユーファミアを連れて行くのを見ているしかなかった。
果ての地が近づき、逃げる人々が道を行き交っている。護衛たちは彼らが近づかぬよう、馬車の前に集まっていた。
馬を射られ、馬車が止まればいっそう護衛と離された。その隙に、彼らは素早くユーファミアを連れていったのだった。
「……ユーファミア様はこのようなことも想定しておいでです」
「えっ……?」
「祈りを広げるには不可欠なことだと。馬車の周囲の護衛を見ましたか? あれはユーファミア様のご意思を知っていて、さらわせたのです。今はお命に危険がないよう、後を追っています」
「そんな……なぜ。祈りを広げる……?」
「私も追います。さ、リーリエ様。こちらへ」
侍女はてきぱきとリーリエを立たせ、元の馬車の中に戻した。馬の蹄の音が近づく。
「護衛が戻ってきます。リーリエ様はユーファミア様の客人として、ここにいてください。いいですか、教会のものに近づいてはなりません」
「私もおばさまのところへ……」
「それはいけません。ユーファミア様にはお考えがあります。どうかゆめゆめ、邪魔されませんよう」
ユーファミアはうっすらと目を開き、自分の身を金色の光が包んでいるのを見た。すぐさま没入できたこの感覚は、ほんの少し前まではなかった。
つまりリーリエが祈っていた間は、神の目はユーファミアから遠ざかっていた。
(わたくしのこと、まだ覚えていらしたの?)
神がどのようなものであるのか、ユーファミアは知らない。
祈りが届けば体が輝く。たったそれだけの反応で、神を知ることなどできない。得体の知れない、人知を超えたものが存在しているとわかるだけだ。
「お、おお……」
「聖女……」
「聖女様」
「神よ」
ユーファミアを囲む人々が武器を捨て、その場にひざまずいた。
現金なものだ。本当に神を信じていたのなら、武器を突きつけて消失の前まで引きずり、脅迫して祈らせるなどするだろうか。
(わからなくもないけれど)
消失した世界は純然たる闇となり、ユーファミアの前に広がっている。
見れば震えるばかりの闇だ。本能的な恐怖を感じずにいられない。これが迫ってくる生活の中で、まともな心など保てなかっただろう。
だが、わずかながらその闇は後退したように見えた。途切れた地面に、新たな土が繋がろうとしている。
(場所も関係ないわけじゃないみたいね)
教会で祈れば果てにまで届く。
けれどこの場の祈りは、あきらかにこの場を即座に修復している。ただし、ユーファミアが祈り続ける限り。
長く祈りを捧げていない、衰え、肥えた体は少しの時間でもつらい。
(まあ……仕方ないわねえ)
覚悟はしていたことだ。むしろ状況はいいだろう。もっとひどい状況で、祈りを強要され、叶えられず殺される可能性もあった。
それでもユーファミアはここに来なければならなかった。
民が強く救いを求める、この機会しかない。
かつてこの果ての国は、ひとりの王女の祈りにより生まれた。けれど王家の文献を紐解けば、王女とともに民も祈っていたのだ。
王女は確かに神に愛されただろう。だが、ひとりではなかった。
ユーファミアはそれを再現したかった。細い糸だが、そこにしか聖女を救い、国を正しく戻す道はない。
本来ならばリーリエの仕事だ。
けれど彼女には祈る意味がない。何も得られずに祈り続けてきた彼女に、誰も更に祈れなどという権利はない。
ユーファミアは、まがりなりにも王妃という立場を得て、美味しいものを食べ、楽しいことをしてきたのだ。
それを返せと言われれば、このくらいは。
「お許しください」
「ああ、聖女様」
とはいえ。
馬車を襲い、ユーファミアを乱暴に、消失に突き落とす勢いでこの場に連れてきた。そして祈りを捧げろと言った。
彼らを甘やかす気もないのだ。
「許しが欲しければ祈りなさい!」
ユーファミアは強く言った。
「誰の祈りであれ、いつかは届くでしょう」
すると彼らは一人一人、地に膝をついて祈り始めた。その祈りはあまりに弱い。ユーファミアが感じ取ったそれは、天にははるかに届かない。
それでもいくつもの祈りが集まり始め、わずかずつ天を目指した。
ユーファミアが祈り続ける少し前のこと。
リーリエとユーファミアの旅路は、予定よりもずっと早くに終わった。消失が迫ってきたので、つまりは目的地の方から近づいてきたのだ。
しかしそれは混乱の中にたどり着いたという意味だ。
「おばさま……」
リーリエは森の中で震えていた。
馬が射られて悲鳴をあげ、馬車が止まる寸前に、ユーファミアと侍女はリーリエを馬車から押し出した。
「動いてはいけません」
「で、でも……おばさまが……!」
「失礼」
「むぐっ……」
優秀な侍女に後ろから口を押さえられ、リーリエはただ、無法者達がユーファミアを連れて行くのを見ているしかなかった。
果ての地が近づき、逃げる人々が道を行き交っている。護衛たちは彼らが近づかぬよう、馬車の前に集まっていた。
馬を射られ、馬車が止まればいっそう護衛と離された。その隙に、彼らは素早くユーファミアを連れていったのだった。
「……ユーファミア様はこのようなことも想定しておいでです」
「えっ……?」
「祈りを広げるには不可欠なことだと。馬車の周囲の護衛を見ましたか? あれはユーファミア様のご意思を知っていて、さらわせたのです。今はお命に危険がないよう、後を追っています」
「そんな……なぜ。祈りを広げる……?」
「私も追います。さ、リーリエ様。こちらへ」
侍女はてきぱきとリーリエを立たせ、元の馬車の中に戻した。馬の蹄の音が近づく。
「護衛が戻ってきます。リーリエ様はユーファミア様の客人として、ここにいてください。いいですか、教会のものに近づいてはなりません」
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