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「欲しいものはないのか……?」
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「ギルオスク様、今日も来てくださったのですね」
ローゼリアが微笑む。俺を好きでたまらないという、いつもの顔だった。
「……ああ」
しかしその数値は下がっていた。
70を切っている。
今まで見ないふりをしていたが、ここまでくれば明らかだった。
俺に会えば会うほどに、ローゼリアの愛が下がっていく。
飽きたのか?
お前の愛はその程度のものだったのか?
俺は怒りを感じたが、それでも、他のどんな女よりも俺を愛しているのがローゼリアだった。今までが高すぎたに違いない。
それに俺が贈り物をすると上がるのだ。
結局は物か、というとそうではない。ローゼリアは金のかかったアクセサリーよりも、俺自身が用意したものを喜んだ。
たとえば庭に降り、手ずから花をつんで渡す。これをするとローゼリアの愛は多い時で20上がった。物ではなく、俺を愛している証拠だ。
「これを」
「まあ、ありがとうございます」
しかし花で上がる数値も少なくなってきているような気がするのだ。
だから今日は髪飾りを渡した。これは職人に、俺とローゼリアのイメージを伝えて作らせたものだ。
「この青は、君の瞳の色によく似ている」
「……ふふ。こんなに美しい色ではないけれど。……こちらの色は、もしかして?」
「ああ、俺の瞳の色だ」
「……素敵」
ローゼリアはうっとりとした顔をして、髪飾りを胸に抱いた。数値は? 上がっている。
このところでは最高の数値を記録した。やった!
「大事にしますわ」
「大事にしなくてもいい」
「え?」
「君が喜んでくれるなら、俺はそれで満足なんだ」
「まあ……」
だからこのまま、その数値を落とさないでくれ。
自分でもおかしなことになっていると思う。ローゼリアの数値が下がっていくと、自分の価値が下がったような気になってしまうのだ。
気にしすぎだ。
わかっている。だが下がっていく数値のことを思うと、俺らしくもないようなことをしてしまう。婚約者に媚びて絶えず贈り物をするなど……。
価値のある王子である俺のやるべきことではない!
わかっていても、だめなのだ。
数値が欲しいのだ。
ローゼリアの愛が欲しいのだ。
俺は今ではこの魔法を習わせた父上を恨んでさえいた。知らなければよかった。そうすれば何も気にすることなく、今まで通りに生きていたのだ。
……いや、だめだ。
愛のない女どもに時間を使うべき俺ではない。だからいいのだ。
いいはずだ……。
「母上のバラ園が見頃なんだ。持ちきれないほどのバラがある。今度、一緒に行かないか?」
「ええ! 楽しみにしておりますわ」
花の好きなローゼリアに媚びる自分が嫌になる。だが間違っていない、間違っていないのだと言い聞かせる。
俺を愛しているのはローゼリアだ。
それに俺は付き合ってやっているだけだ。婚約者に慈悲を持つ、聖人のような男なのだ、俺は。
これだけこの俺の時間を費やしているというのに、ローゼリアの数値はどんどん下がっていった。
何かをすれば上がるのだ。
それがわかっているから、上げようとしてしまう。だが結局、じりじり、いやらしいほどに少しずつ、最高の数値が下がり、最低の数値も下がっていく。
ついに60を切り、50代になった時には愕然とした。
「ロ、ローゼリア……」
「ギルオスク様、どうなさいましたの?」
今日もローゼリアは微笑んでいる。
いつもと変わらず、美しく、俺を愛している微笑みを浮かべている。なのに俺の視界にうつる数値は、あまりにぱっとしないものだ。
頭がどうにかなってしまいそうだった。
「何か、してほしいことはないか……?」
俺はただただ数値を上げたい一心で聞いた。
ああいっそ逆に、金がほしいとか、言ってくれればいい。そうすれば俺も失望できるかもしれない。
なのに言ってくれない。間違いようがなく、これがローゼリアの俺への愛なのだ。
「いいえ、ギルオスク様が、いてくださるだけで……」
「欲しいものはないのか……?」
頼むから言って欲しい。
それを叶えれば、少なくともその場の数値は上がるのだ。上下していればいい。このままズルズル下がっていくだけなど、とても耐えられない!
ローゼリアが微笑む。俺を好きでたまらないという、いつもの顔だった。
「……ああ」
しかしその数値は下がっていた。
70を切っている。
今まで見ないふりをしていたが、ここまでくれば明らかだった。
俺に会えば会うほどに、ローゼリアの愛が下がっていく。
飽きたのか?
お前の愛はその程度のものだったのか?
俺は怒りを感じたが、それでも、他のどんな女よりも俺を愛しているのがローゼリアだった。今までが高すぎたに違いない。
それに俺が贈り物をすると上がるのだ。
結局は物か、というとそうではない。ローゼリアは金のかかったアクセサリーよりも、俺自身が用意したものを喜んだ。
たとえば庭に降り、手ずから花をつんで渡す。これをするとローゼリアの愛は多い時で20上がった。物ではなく、俺を愛している証拠だ。
「これを」
「まあ、ありがとうございます」
しかし花で上がる数値も少なくなってきているような気がするのだ。
だから今日は髪飾りを渡した。これは職人に、俺とローゼリアのイメージを伝えて作らせたものだ。
「この青は、君の瞳の色によく似ている」
「……ふふ。こんなに美しい色ではないけれど。……こちらの色は、もしかして?」
「ああ、俺の瞳の色だ」
「……素敵」
ローゼリアはうっとりとした顔をして、髪飾りを胸に抱いた。数値は? 上がっている。
このところでは最高の数値を記録した。やった!
「大事にしますわ」
「大事にしなくてもいい」
「え?」
「君が喜んでくれるなら、俺はそれで満足なんだ」
「まあ……」
だからこのまま、その数値を落とさないでくれ。
自分でもおかしなことになっていると思う。ローゼリアの数値が下がっていくと、自分の価値が下がったような気になってしまうのだ。
気にしすぎだ。
わかっている。だが下がっていく数値のことを思うと、俺らしくもないようなことをしてしまう。婚約者に媚びて絶えず贈り物をするなど……。
価値のある王子である俺のやるべきことではない!
わかっていても、だめなのだ。
数値が欲しいのだ。
ローゼリアの愛が欲しいのだ。
俺は今ではこの魔法を習わせた父上を恨んでさえいた。知らなければよかった。そうすれば何も気にすることなく、今まで通りに生きていたのだ。
……いや、だめだ。
愛のない女どもに時間を使うべき俺ではない。だからいいのだ。
いいはずだ……。
「母上のバラ園が見頃なんだ。持ちきれないほどのバラがある。今度、一緒に行かないか?」
「ええ! 楽しみにしておりますわ」
花の好きなローゼリアに媚びる自分が嫌になる。だが間違っていない、間違っていないのだと言い聞かせる。
俺を愛しているのはローゼリアだ。
それに俺は付き合ってやっているだけだ。婚約者に慈悲を持つ、聖人のような男なのだ、俺は。
これだけこの俺の時間を費やしているというのに、ローゼリアの数値はどんどん下がっていった。
何かをすれば上がるのだ。
それがわかっているから、上げようとしてしまう。だが結局、じりじり、いやらしいほどに少しずつ、最高の数値が下がり、最低の数値も下がっていく。
ついに60を切り、50代になった時には愕然とした。
「ロ、ローゼリア……」
「ギルオスク様、どうなさいましたの?」
今日もローゼリアは微笑んでいる。
いつもと変わらず、美しく、俺を愛している微笑みを浮かべている。なのに俺の視界にうつる数値は、あまりにぱっとしないものだ。
頭がどうにかなってしまいそうだった。
「何か、してほしいことはないか……?」
俺はただただ数値を上げたい一心で聞いた。
ああいっそ逆に、金がほしいとか、言ってくれればいい。そうすれば俺も失望できるかもしれない。
なのに言ってくれない。間違いようがなく、これがローゼリアの俺への愛なのだ。
「いいえ、ギルオスク様が、いてくださるだけで……」
「欲しいものはないのか……?」
頼むから言って欲しい。
それを叶えれば、少なくともその場の数値は上がるのだ。上下していればいい。このままズルズル下がっていくだけなど、とても耐えられない!
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