冷たい婚約者が「愛されたい」と言ってから優しい。

狼狼3

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祝福祭

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 右を見れば屋台。
 左を見れば屋台。
 子供の嬉しそうな声や悲しそうな声があちこちから聞こえたり、少し歩けば肉の匂いや甘い匂いがする祝福祭をやっている広場を、浴衣姿でいつもより大人らしくなったベリーと私は歩いていた。

「それじゃあ、次はあれを食べようか。」
「うん。食べよ。食べよ。」

 手を繋いでいる方とは違う手の方でベリーが指差す先にあるかき氷を見て、私はベリーに肩を寄せながら頷く。ベリーの顔を見ると、祝福祭という独特の雰囲気もあるからか、少し肩を寄せるだけで直ぐに頬を紅く染める。その事実は、ベリーに好かれていることを実感出来る要因の一つで、暇さえあればベリーをからかって私は遊ぶが、あの日の誤解を解いて以降更に私とベリーの仲は深まった。

「それじゃあ、これ下さい。」
「はい。どうもありがとうね。」

 顔を紅く染めたベリーは、かき氷屋の店員から受け取ったかき氷を受け取ると、スプーンでシロップのよく掛かった部分をすくって私の口に近付ける。恥ずかしさからスプーンは震えていて、氷を落とさないように素早く私は氷を口に入れると、口の中に甘い味と何か暖かい物が心の中で満ち足りていく。

 毎年のように訪れている祝福祭。このかき氷も毎年のように食べているので、もう完璧に味を覚えてしまっているが、今まで食べたかき氷よりベリーから渡されたかき氷は一番美味しかった。別に、シロップが特上の物に変わった訳でもないし、元々の氷が変わった訳でもない。ただ、かき氷は食べると冷えていく筈なのに、心は何処かポカポカとする。
 
 味なんて関係ない。
 ベリーに食べさせられているということが、ただ嬉しかった。

「それじゃあ、今度は私のを食べて?」
「う、うん。」

 今使ったスプーンで、ベリーの持つかき氷の少し崩れた天辺てっぺんをすくうと、スプーンをそのままベリーの口元に近付けていく。このまま私の近付けたスプーンをベリーが口に入れれば、間接キスだ。

 ベリーはそのことに気が付いているのか、明らかにさっきよりも顔が紅くなっている。間接キスが嫌な訳じゃないだろうけど、恥ずかしさからか中々に口を開けようとしない。かき氷屋の店員さんは明らかにこちらを見ていて、そんなベリーの様子を楽しそうに見つめている。

 そんなベリーに私は微笑み、スプーンを開かない口に無理矢理入れた。

「!!」
「どう?美味しい?」
「…恥ずかし過ぎて味が…」

  紅くなった頬を掻きながら恥ずかしそうにそう言うベリーに、私の胸は更に熱くなる。ベリーは私よりも身長が高くて、浴衣を着ているからいつもより大人っぽいけど、そのような表情をされると可愛いとしか思えなくなる。…仕草可愛い過ぎじゃないですか?

「味が分からなかったなら、もう一回食べなきゃ駄目だよね?」
「も、もう大丈夫だから!!」
「そんなこと言ってぇ~早く口を開けてよ。」

 私はシロップの掛かっていない場所をすくって、再び顔を真っ赤に染めるベリーに近付けた。


■■■■


「花火綺麗だね。」
「うん。綺麗。」

 炸裂音を立てながら、夜空を飾る星のように様々な色の一瞬の花を咲かせ、夜空に吸い込まれては、また大きな花を咲かせる花火。現在、私とベリーが居るのは川原の階段。あの後様々な屋台を回り、沢山の遊戯や食事を楽しんだ後、そろそろ花火の時間になるということで、人が集まりだした川原の階段に私とベリーは腰を下ろしていた。

「………」
「………」

 屋台を巡っていた時と違って、会話のほぼ無い空間。
 周りでは、子供達や酒を持った大人達が花火が上がる度に大きく声を上げるが、私とベリーでは声を上げることはない。いつもなら会話が無いことに、気まずさと話をしたいという感情が浮かび上がってくるが、花火の独特な雰囲気の中ではそのような感情は浮かび上がってこなかった。

「……ティアラは、今日の祝福祭楽しかった?」
「楽しかったよ。」

 少し間が空いた後、ベリーから話し掛けられた言葉に頭を回らせる。
 今日の祝福祭が楽しくない訳がない。毎年のように断わられていた祝福祭が初めて出来たんだし、何より食べさせ合いっこも出来た。それに、ベリーと綺麗な花火を見ることが出来たしーー

「ーーでもさ、まだ祝福祭終わってないよね?」
「うん? 確かに、今見てる花火がまだあるね。」
「そうじゃなくて……まだ貰ってないでしょ?」
「貰ってない?」
「……これ見ても分からないかな?」
「ゆ、指輪!?」
 
 ベリーの口に釣られて隣を見てみると、ベリーの手には夜空に浮かぶ花火を反射する小さなリングのような物が見える。夜ということもあり見えにくいけれど、宝石のような物がリングの先端に付いているベリーの手に持つ物は、どうしても指輪のように見えた。

「ど、どうしたのそれ?」
「ーー受け取ってくれる?」
「!?」


 真っ暗な為よく見えないけれど、ベリーはその指輪を掴んで私の元に近付けてくる。そのベリーの動作に、私の胸は動きが速すぎるあまり壊れそうになる。近付けてくるベリーもそのようになっているのだろうか。夜だから今のベリーの表情が見えなくてそれを確かめられないのは残念だけど、嬉し過ぎて変な顔になっているだろう私の顔を見られないのは良かったと思う。
 
 ……で、でも。
 ほ、本当に受け取ってもいいの?
 
「……もしかして、指輪欲しくなかった?」
「そ、そんな訳じゃ。」
「なら、受け取ってよ!!」
「!?」

 ベリーに指輪を左の薬指に通されると同時に、大きな花火が大きな炸裂音を立てながら夜空に咲き誇る。
 突然大きな炸裂音を出して夜空に咲き誇った花火に上を向くと、夜空に浮かび上がる文字に目を大きく開く。驚きから、今まで見たことのない花火から指輪を入れているベリーに目を向けると、突然柔らかな何かが唇に触れてーー

「!?」
「大好きだよ。」

 どこまでも続く夜空に広がる、大好きという文字。
 夜空に広がると同時に、歓声を上げてこちらを見てくる子供や酒を片手に持つ大人達を含めた多数の人々。

 ーーう、嬉しい。
 
 間接キスで動揺していたのが嘘だと思いたくなる程大胆な行動をしたベリーに、私も仕返しというようにそっと唇を近付ける。そんな私を、顔が今までで一番紅いベリーは優しく抱き締めるーー





 夜空に広がる大好きという文字は、いくら立っても夜空に吸い込まれまることはなさそうだった。


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