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第4章 憎しみの結末
第174話 爽やかな邪魔者
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「いやーそれにしても凄かったな、『魔空挺』!あんなに大きいとは思ってもみなかったよ!」
『王帝武闘大会』の前夜祭として行われる懇親会。両学園の代表者が集うその会で、俺は興奮未だ冷めやらぬといった様子でアリスに話しかけていた。
今日の昼時、帝国側の生徒達や来賓を乗せた『魔空挺』が王都の着陸場へと到着した。初めて見る『魔空挺』に大興奮の俺だったが、アリスやユウナは何度か乗ったことがあるらしく、冷めたような瞳で俺のことを見ていた。
「はいはい!もう何回も聞いたわよ!どうせ私達も来年はアレに乗れるんだからいいでしょ?」
「そうだけどさぁ。いいよなーアリスとユウナは!何回も乗ってるんだから!」
俺の言葉に呆れたアリスは、「食事をとってくるわ」と言って俺の傍から離れて行ってしまった。ユウナは陛下の隣でお偉いさん方と談笑しているし、ヴァルトはニコと一緒に楽しそうにしているから邪魔は出来ない。
「暇だな……」
アリスが帰ってくるまでの間、どうするかと悩んでいると、会場の隅っこで屍のようになっている女性を見つけた。俺はアッポウジュースを片手に、女性の元へと歩み寄っていく。
「ネフィリア先生、大丈夫ですか?」
俺に声をかけられたネフィリア先生は、顔をあげて虚ろ虚ろした瞳で俺の事を見つめてきた。
「ああ……アレク君ですか。先生は元気ですよぉ、ほらぁぁ」
そう言って力拳を作るそぶりを見せながら、覇気のない声で返事をするネフィリア先生。懇親会のために用意された最高級アッポウジュースも、今の先生の視界に映っていないようだ。
「お疲れのようですね」
「あははははは。別に疲れてなんかいないですよぉ。昨日の朝に結界の仕様変更を依頼されたんですぅ。特急で仕上げなくちゃいけなくてですねー、徹夜で完成させたんですよぉ」
乾いた笑みを浮かべるネフィリア先生。どこか憎しみのような感情が伝わってきているのだが、これは触れない方が良いのだろう。
「そ、そうだったんですか。それは大変でしたね」
「いえいえー。本当は大会関係者として懇親会に居なくてはいけないんですけど、先生は少し疲れちゃったので、お家に帰って寝ることにしますぅ」
そう言うと折角持ってきたアッポウジュースに口をつけることもせず、ネフィリア先生はよろよろと歩いて行ってしまった。その先生と入れ替わるように食事を持ってアリスが帰ってきた。
「今にも死にそうな先生が居たんだけど、なにかあったの?」
「徹夜で仕事だったそうだ。どの世界でも理不尽な目に合うのは現場の人間なんだ」
哀愁漂うネフィリア先生の背中を見送る中、俺は前世の職場を思い出していた。無理難題を押し付けてくる上司は現場の苦労を知らず、いつだって辛い目に合うのは現場の俺達だった。今度先生に最高級のアッポウジュースを差し入れしてやろう。
「?よくわからないけど、アレクも食べる?これ美味しいわよ」
俺の呟きに疑問符を浮かべながら、アリスは自分が手に持っていたお肉を指さした。
「いいのか?それじゃあ──」
皿の上にのっていたフォークを掴もうとすると、俺の手よりも早くアリスの手がフォークを掴んだ。ここで意地悪してくるのかと思ったのだが、どうやらアリスの狙いは違ったらしい。アリスは肉にフォークを刺した後、俺の顔の前にそれを移動させた。
「ふぅ……あ、あーん!」
フォークを持った手がプルプルと震えながら俺の口へと近づいてくる。思わずアリスの方へと顔を向けるが、顔を真っ赤に染めたアリスの瞳から『食べなさい!』という無言のメッセージが伝わってきた。
「あ、あーん」
なぜこの行為の際、人間が『あーん』と口にしてしまうのだろうか。この言葉を口にすることで寧ろ恥ずかしさがグレードアップしているとしか思えない。
そんなことを考えつつも、アリスが食べさせてくれた肉を大切に味わうように噛み締めていく。誰が調理したかわからんが、この行為が味を深めるスパイスになることを俺は知った。
「ど、どう?おいしい?」
「おいしいよ。ってアリスが作ったわけじゃないだろ?」
「私が食べさせてあげたんだから、より美味しく感じたに決まってるでしょ!ほら、次はアレクの番!」
そう言ってアリスは俺にフォークを渡してくる。俺はアリスがしてくれたように、フォークを肉にさし、彼女の口へと運んでやった。お互いが『あーん』をし合うなど、バカップルのような気もするが、正直言って悪くない気分なのでそんなことは気にしない。
武闘大会の懇親会だというのに、俺とアリスが居る空間だけピンク色で包まれてしまっている。そんな二人の世界を遠目で見ていた人間が、俺達の元へと歩み寄ってきた。
「随分とお楽しみのようで!!」
片手にお皿を持ちながら、にこやかに笑うユウナ。俺が握っていたフォークを一瞥した後、アリスの方へ顔を向ける。
「私が王女としての務めを果たしている最中に、二人は仲良く食べさせあいっこですか」
「別にいいじゃないこのくらい。ユウナもして貰えばいいでしょ?」
「勿論そのつもりできました!さぁアレク!私に『あーん』して下さい!」
そう言ってユウナは自分が持ってきた料理を差し出す。少し恥ずかしさも薄れた俺は、何の抵抗もなく彼女の口へと料理を運んでいく。
「あーん」
俺に料理を食べさせて貰ったユウナは、満足そうに笑いながら口を動かしていた。そんな幸せな空間を満喫しながら、俺は会場で談笑する生徒達に視線を向ける。見たことのある顔の生徒が、見たことのある生徒と楽しそうに会話をしているのを見て、少し驚いてしまった。
会場の中心に線を引いたかのように、帝国側とフェルデア王国で分かれてしまっているのだ。互いの仲を深めるために開催された会なのに、これでは意味がない。
「なぁ、向こうの生徒と少し話してみないか?帝国がどんな国なのかも知っときたいし」
俺がそう提案すると、アリスとユウナは帝国側をちらりと見た後に険しい表情を浮かべた。
「多分馬鹿にされると思うわよ。帝国は職業差別が激しいから。『解体屋』なんて聞いたこともないでしょうし」
「それに大会前ですから。戦う相手と仲良くしようとは思わないんじゃないでしょうか……」
アリスとユウナの話を聞き、俺は自分が馬鹿にされる未来を想像した。俺は自分がどれだけ馬鹿にされようが何とも思わないのだが、きっと二人は怒るだろうし、嫌な気分になることは間違いないだろう。
折角三人で楽しめているのだから、嫌な気分になると分かっている場所に、わざわざ行く必要は無い。
「それもそうだな。じゃあ俺達は俺達で楽しむとするか!」
二人の事を考え、今日は楽しもうと決めた。ピンク色の空間に包まれ、談笑を始める俺達三人。誰も邪魔などしようとも思わないその空間に、とんでもない邪魔者が襲来した。
「アリス様!ここに居らしたのですね!随分と探しましたよ!」
爽やかな男の声が俺達の会話に割って入ってきた。その声の方を見ると、見たこともない男がアリスを見つめて笑っていた。誰だコイツ。俺のアリスに何の用だ。
俺が警戒心をむき出しにする中、アリスの口からとんでもない名前が告げられる。
「お久しぶりですね、ハロルド殿下。お元気そうで何よりです」
ハロルド殿下。そう何を隠そうこの男こそ、アリスと婚姻を結ぶ予定だった男だったのである。
『王帝武闘大会』の前夜祭として行われる懇親会。両学園の代表者が集うその会で、俺は興奮未だ冷めやらぬといった様子でアリスに話しかけていた。
今日の昼時、帝国側の生徒達や来賓を乗せた『魔空挺』が王都の着陸場へと到着した。初めて見る『魔空挺』に大興奮の俺だったが、アリスやユウナは何度か乗ったことがあるらしく、冷めたような瞳で俺のことを見ていた。
「はいはい!もう何回も聞いたわよ!どうせ私達も来年はアレに乗れるんだからいいでしょ?」
「そうだけどさぁ。いいよなーアリスとユウナは!何回も乗ってるんだから!」
俺の言葉に呆れたアリスは、「食事をとってくるわ」と言って俺の傍から離れて行ってしまった。ユウナは陛下の隣でお偉いさん方と談笑しているし、ヴァルトはニコと一緒に楽しそうにしているから邪魔は出来ない。
「暇だな……」
アリスが帰ってくるまでの間、どうするかと悩んでいると、会場の隅っこで屍のようになっている女性を見つけた。俺はアッポウジュースを片手に、女性の元へと歩み寄っていく。
「ネフィリア先生、大丈夫ですか?」
俺に声をかけられたネフィリア先生は、顔をあげて虚ろ虚ろした瞳で俺の事を見つめてきた。
「ああ……アレク君ですか。先生は元気ですよぉ、ほらぁぁ」
そう言って力拳を作るそぶりを見せながら、覇気のない声で返事をするネフィリア先生。懇親会のために用意された最高級アッポウジュースも、今の先生の視界に映っていないようだ。
「お疲れのようですね」
「あははははは。別に疲れてなんかいないですよぉ。昨日の朝に結界の仕様変更を依頼されたんですぅ。特急で仕上げなくちゃいけなくてですねー、徹夜で完成させたんですよぉ」
乾いた笑みを浮かべるネフィリア先生。どこか憎しみのような感情が伝わってきているのだが、これは触れない方が良いのだろう。
「そ、そうだったんですか。それは大変でしたね」
「いえいえー。本当は大会関係者として懇親会に居なくてはいけないんですけど、先生は少し疲れちゃったので、お家に帰って寝ることにしますぅ」
そう言うと折角持ってきたアッポウジュースに口をつけることもせず、ネフィリア先生はよろよろと歩いて行ってしまった。その先生と入れ替わるように食事を持ってアリスが帰ってきた。
「今にも死にそうな先生が居たんだけど、なにかあったの?」
「徹夜で仕事だったそうだ。どの世界でも理不尽な目に合うのは現場の人間なんだ」
哀愁漂うネフィリア先生の背中を見送る中、俺は前世の職場を思い出していた。無理難題を押し付けてくる上司は現場の苦労を知らず、いつだって辛い目に合うのは現場の俺達だった。今度先生に最高級のアッポウジュースを差し入れしてやろう。
「?よくわからないけど、アレクも食べる?これ美味しいわよ」
俺の呟きに疑問符を浮かべながら、アリスは自分が手に持っていたお肉を指さした。
「いいのか?それじゃあ──」
皿の上にのっていたフォークを掴もうとすると、俺の手よりも早くアリスの手がフォークを掴んだ。ここで意地悪してくるのかと思ったのだが、どうやらアリスの狙いは違ったらしい。アリスは肉にフォークを刺した後、俺の顔の前にそれを移動させた。
「ふぅ……あ、あーん!」
フォークを持った手がプルプルと震えながら俺の口へと近づいてくる。思わずアリスの方へと顔を向けるが、顔を真っ赤に染めたアリスの瞳から『食べなさい!』という無言のメッセージが伝わってきた。
「あ、あーん」
なぜこの行為の際、人間が『あーん』と口にしてしまうのだろうか。この言葉を口にすることで寧ろ恥ずかしさがグレードアップしているとしか思えない。
そんなことを考えつつも、アリスが食べさせてくれた肉を大切に味わうように噛み締めていく。誰が調理したかわからんが、この行為が味を深めるスパイスになることを俺は知った。
「ど、どう?おいしい?」
「おいしいよ。ってアリスが作ったわけじゃないだろ?」
「私が食べさせてあげたんだから、より美味しく感じたに決まってるでしょ!ほら、次はアレクの番!」
そう言ってアリスは俺にフォークを渡してくる。俺はアリスがしてくれたように、フォークを肉にさし、彼女の口へと運んでやった。お互いが『あーん』をし合うなど、バカップルのような気もするが、正直言って悪くない気分なのでそんなことは気にしない。
武闘大会の懇親会だというのに、俺とアリスが居る空間だけピンク色で包まれてしまっている。そんな二人の世界を遠目で見ていた人間が、俺達の元へと歩み寄ってきた。
「随分とお楽しみのようで!!」
片手にお皿を持ちながら、にこやかに笑うユウナ。俺が握っていたフォークを一瞥した後、アリスの方へ顔を向ける。
「私が王女としての務めを果たしている最中に、二人は仲良く食べさせあいっこですか」
「別にいいじゃないこのくらい。ユウナもして貰えばいいでしょ?」
「勿論そのつもりできました!さぁアレク!私に『あーん』して下さい!」
そう言ってユウナは自分が持ってきた料理を差し出す。少し恥ずかしさも薄れた俺は、何の抵抗もなく彼女の口へと料理を運んでいく。
「あーん」
俺に料理を食べさせて貰ったユウナは、満足そうに笑いながら口を動かしていた。そんな幸せな空間を満喫しながら、俺は会場で談笑する生徒達に視線を向ける。見たことのある顔の生徒が、見たことのある生徒と楽しそうに会話をしているのを見て、少し驚いてしまった。
会場の中心に線を引いたかのように、帝国側とフェルデア王国で分かれてしまっているのだ。互いの仲を深めるために開催された会なのに、これでは意味がない。
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俺がそう提案すると、アリスとユウナは帝国側をちらりと見た後に険しい表情を浮かべた。
「多分馬鹿にされると思うわよ。帝国は職業差別が激しいから。『解体屋』なんて聞いたこともないでしょうし」
「それに大会前ですから。戦う相手と仲良くしようとは思わないんじゃないでしょうか……」
アリスとユウナの話を聞き、俺は自分が馬鹿にされる未来を想像した。俺は自分がどれだけ馬鹿にされようが何とも思わないのだが、きっと二人は怒るだろうし、嫌な気分になることは間違いないだろう。
折角三人で楽しめているのだから、嫌な気分になると分かっている場所に、わざわざ行く必要は無い。
「それもそうだな。じゃあ俺達は俺達で楽しむとするか!」
二人の事を考え、今日は楽しもうと決めた。ピンク色の空間に包まれ、談笑を始める俺達三人。誰も邪魔などしようとも思わないその空間に、とんでもない邪魔者が襲来した。
「アリス様!ここに居らしたのですね!随分と探しましたよ!」
爽やかな男の声が俺達の会話に割って入ってきた。その声の方を見ると、見たこともない男がアリスを見つめて笑っていた。誰だコイツ。俺のアリスに何の用だ。
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途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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