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第4章 憎しみの結末
第180話 兄の思い
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~エリック視点~
「兄、ですか。今更兄弟の絆を語りあうつもりは俺にはありませんよ」
「アレク……」
私の言葉はアレクの心には届くことはない。そう告げられたような言葉に、私は弟の名前を呼ぶことしかできなかった。
ミーシャに出会ったことで、私は家族の大切を知った。だからこそ、二人にしてしまった仕打ちの重さを理解できたのだ。私が二人に何かをしてあげたところで、その罪が無くなるとは思っていない。
「エリック・カールストン!」
ハイデリッヒ先生に名を呼ばれ、試合会場に行く前にもう一度アレクの顔に目を向ける。アレクは他人を見るような目で私の事を見つめ返してきた。その瞳から逃げるように、私は顔を逸らし、その場から立ちあがる。
「……はい」
「第6試合を始める!会場へと移動しろ!」
先生に案内されるがまま、私は控室でていき会場へと向かっていった。
先生と二人、会話をすることもなくただひたすらに歩いていく。コツコツと足音だけが鳴り響く中、ここに居るはずのない男の姿が視界に映った。男は私が来るのを待っていたのか、含んだ笑みを浮かべながら私の名前を呼んだ。
「エリック。お前の役目、分かっているな?」
父上に話しかけられた私は歩みを止め、その場で深々と頭を下げる。
「分かっております」
「そうか、ならいいのだ」
私の返事を聞いた父上は嬉しそうに笑顔を作り、納得したように頷いて見せる。その後もさらに会話を続けようとする父上だったが、ハイデリッヒ先生が私達の間に割って入り、それを制した。
「カールストン卿。ここは部外者の立ち入りを禁じているはずですが?」
「部外者だと?私はそこにいるエリック・カールストンの親だ。緊張しているであろう我が子に、一声かけてやらんとする親を、君は部外者と言うのかね?」
「幾ら御両親であろうとも、選手の集中を妨げる可能性があります。全選手に対し同じ対応を取らせていただいておりますので、どうかお引き取りを」
ハイデリッヒ先生の言葉が気に入らなかったのか、父上は先生を睨みつけながら喋りかける。先生はそれを気にも留めず、憮然とした態度でその場を動こうとはしなかった。だがそれを見た父上の眉がピクピクと動き始めたのを見て、私は急いで先生を手でどける。父の怒りに触れれば、先生といえど立場を危ぶまれる可能性があるのだ。
「先生。父上と話をさせて戴けませんか?直ぐに終わりますので」
「息子もこう言ってるではないか。何か問題でもあるのかね?ハイデリッヒ君」
「……試合開始まで僅かですので、手短にお願いいたします」
先生はそう言うと私と父の間から離れていき、距離をとったところでこちらを見守るように止まった。父上は鼻を鳴らして不満を露にしていたが、時間が無いことは理解しているようで、私の方を見ると眉間にシワを寄せながら喋り始めた。
「いいか、エリック。お前には悪いが準決勝でアレクに負けて貰うぞ。その結果、アレクの方が後継ぎとして相応しいと民衆に知らしめるのだ!そうしてアレクをカールストン家に迎い入れ、公爵家と縁を結ぶ。上手くいけば王家に取り入ることも不可能ではない!」
そう語る父上の目はキラキラと輝いていた。自身の胸に秘めた野望を叶える時が来たのだと言わんばかりに強く語る口元が、ひどく歪んでいることにも気づかずに。
そんな父上を見て、私は後悔していた。幼い頃に憧れた存在は、自分の望みを叶える為ならば、我が子ですら道具にしてしまう狂人だった。その狂人のために、弟とアリス様を傷つけてしまったのだ。何度悔やんでも、悔やみきれない。しかし──
「……分かっております」
再度頭を下げながら、父上の言葉に賛同の返事をする。憎むべき相手なのに、抵抗することが出来ない無力な自分が情けない。
「なら良い。アレクに負けるまでは、全ての試合で圧倒的に勝利を収めるのだ!その方がアレクの強さがより引き立つからな!……ふふふ。まさか、あやつがこんなにも役に立つ日が来るとは。やはり私の子はこうでなくては!!」
高らかに笑う父上の声が、会場へと続く道に響き渡る。その不快な声が、私の鼓膜を揺らす度、父に対する憎悪の感情が増していくのが分かった。
「私は戻るとする。くれぐれも負けるようなことが無いようにな!」
父上はそう言うと、ハイデリッヒ先生に一瞥をくれることもなく出口の方へと歩き出していく。その背中に、最後の望みを託して問いかけた。
「父上!」
「……なんだ」
私の呼びかけに、父上はめんどくさそうに振り返る。最早私の事など、利用できる駒としか思っていないのだろう。その駒がわざわざ自主的に行動をするのが、煩わしいのだ。そんな冷たい瞳に見つめられながらも、私は声を振り絞って父上に尋ねる。
「アレクとアリス様がどうやって婚約にまで至ったか、ご存知ですか?」
震える声で発した言葉は、私の精一杯の反抗だった。自分が傷つけた存在が、どのようにして再会し、今の関係にまで戻れたのか。その内容を知っているのであれば、二人の仲に介入しようなどとは思えないはず。もしかしたら父上は、それを知らずに目論見を企てているのかもしれない。
そんな淡い期待を持つのも、且つては憧れ尊敬していた父だからである。
だがその淡い期待も、父上の醜い笑みによって崩れ落ちていった。
「知っているが、だから何だというんだ?私の野望を叶える為にはそんなものどうでもよい。くだらない話をするな」
父上は私の問いかけに呆れたように笑うと、再び出口へと向かって歩き出してしまった。その背中を見つめる私の瞳は、どんな色をしていただろうか。自然と右手が上がっていき、その背中に杖先を向ける。そして喉から言葉が出かかった瞬間──
「……やめておけ」
様子を見ていたハイデリッヒ先生が声をかけてきたことで、私はハッとその言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと杖を下ろし、息を吐く。もう少し先生の声が遅ければ、雷の刃が父の背中を刻んでいたところだった。
そうならなかったものの、私の思いはゆるぎないモノとなった。弟を守るために、私は負けてはならないのだと。
「兄、ですか。今更兄弟の絆を語りあうつもりは俺にはありませんよ」
「アレク……」
私の言葉はアレクの心には届くことはない。そう告げられたような言葉に、私は弟の名前を呼ぶことしかできなかった。
ミーシャに出会ったことで、私は家族の大切を知った。だからこそ、二人にしてしまった仕打ちの重さを理解できたのだ。私が二人に何かをしてあげたところで、その罪が無くなるとは思っていない。
「エリック・カールストン!」
ハイデリッヒ先生に名を呼ばれ、試合会場に行く前にもう一度アレクの顔に目を向ける。アレクは他人を見るような目で私の事を見つめ返してきた。その瞳から逃げるように、私は顔を逸らし、その場から立ちあがる。
「……はい」
「第6試合を始める!会場へと移動しろ!」
先生に案内されるがまま、私は控室でていき会場へと向かっていった。
先生と二人、会話をすることもなくただひたすらに歩いていく。コツコツと足音だけが鳴り響く中、ここに居るはずのない男の姿が視界に映った。男は私が来るのを待っていたのか、含んだ笑みを浮かべながら私の名前を呼んだ。
「エリック。お前の役目、分かっているな?」
父上に話しかけられた私は歩みを止め、その場で深々と頭を下げる。
「分かっております」
「そうか、ならいいのだ」
私の返事を聞いた父上は嬉しそうに笑顔を作り、納得したように頷いて見せる。その後もさらに会話を続けようとする父上だったが、ハイデリッヒ先生が私達の間に割って入り、それを制した。
「カールストン卿。ここは部外者の立ち入りを禁じているはずですが?」
「部外者だと?私はそこにいるエリック・カールストンの親だ。緊張しているであろう我が子に、一声かけてやらんとする親を、君は部外者と言うのかね?」
「幾ら御両親であろうとも、選手の集中を妨げる可能性があります。全選手に対し同じ対応を取らせていただいておりますので、どうかお引き取りを」
ハイデリッヒ先生の言葉が気に入らなかったのか、父上は先生を睨みつけながら喋りかける。先生はそれを気にも留めず、憮然とした態度でその場を動こうとはしなかった。だがそれを見た父上の眉がピクピクと動き始めたのを見て、私は急いで先生を手でどける。父の怒りに触れれば、先生といえど立場を危ぶまれる可能性があるのだ。
「先生。父上と話をさせて戴けませんか?直ぐに終わりますので」
「息子もこう言ってるではないか。何か問題でもあるのかね?ハイデリッヒ君」
「……試合開始まで僅かですので、手短にお願いいたします」
先生はそう言うと私と父の間から離れていき、距離をとったところでこちらを見守るように止まった。父上は鼻を鳴らして不満を露にしていたが、時間が無いことは理解しているようで、私の方を見ると眉間にシワを寄せながら喋り始めた。
「いいか、エリック。お前には悪いが準決勝でアレクに負けて貰うぞ。その結果、アレクの方が後継ぎとして相応しいと民衆に知らしめるのだ!そうしてアレクをカールストン家に迎い入れ、公爵家と縁を結ぶ。上手くいけば王家に取り入ることも不可能ではない!」
そう語る父上の目はキラキラと輝いていた。自身の胸に秘めた野望を叶える時が来たのだと言わんばかりに強く語る口元が、ひどく歪んでいることにも気づかずに。
そんな父上を見て、私は後悔していた。幼い頃に憧れた存在は、自分の望みを叶える為ならば、我が子ですら道具にしてしまう狂人だった。その狂人のために、弟とアリス様を傷つけてしまったのだ。何度悔やんでも、悔やみきれない。しかし──
「……分かっております」
再度頭を下げながら、父上の言葉に賛同の返事をする。憎むべき相手なのに、抵抗することが出来ない無力な自分が情けない。
「なら良い。アレクに負けるまでは、全ての試合で圧倒的に勝利を収めるのだ!その方がアレクの強さがより引き立つからな!……ふふふ。まさか、あやつがこんなにも役に立つ日が来るとは。やはり私の子はこうでなくては!!」
高らかに笑う父上の声が、会場へと続く道に響き渡る。その不快な声が、私の鼓膜を揺らす度、父に対する憎悪の感情が増していくのが分かった。
「私は戻るとする。くれぐれも負けるようなことが無いようにな!」
父上はそう言うと、ハイデリッヒ先生に一瞥をくれることもなく出口の方へと歩き出していく。その背中に、最後の望みを託して問いかけた。
「父上!」
「……なんだ」
私の呼びかけに、父上はめんどくさそうに振り返る。最早私の事など、利用できる駒としか思っていないのだろう。その駒がわざわざ自主的に行動をするのが、煩わしいのだ。そんな冷たい瞳に見つめられながらも、私は声を振り絞って父上に尋ねる。
「アレクとアリス様がどうやって婚約にまで至ったか、ご存知ですか?」
震える声で発した言葉は、私の精一杯の反抗だった。自分が傷つけた存在が、どのようにして再会し、今の関係にまで戻れたのか。その内容を知っているのであれば、二人の仲に介入しようなどとは思えないはず。もしかしたら父上は、それを知らずに目論見を企てているのかもしれない。
そんな淡い期待を持つのも、且つては憧れ尊敬していた父だからである。
だがその淡い期待も、父上の醜い笑みによって崩れ落ちていった。
「知っているが、だから何だというんだ?私の野望を叶える為にはそんなものどうでもよい。くだらない話をするな」
父上は私の問いかけに呆れたように笑うと、再び出口へと向かって歩き出してしまった。その背中を見つめる私の瞳は、どんな色をしていただろうか。自然と右手が上がっていき、その背中に杖先を向ける。そして喉から言葉が出かかった瞬間──
「……やめておけ」
様子を見ていたハイデリッヒ先生が声をかけてきたことで、私はハッとその言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと杖を下ろし、息を吐く。もう少し先生の声が遅ければ、雷の刃が父の背中を刻んでいたところだった。
そうならなかったものの、私の思いはゆるぎないモノとなった。弟を守るために、私は負けてはならないのだと。
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