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4sideミシェル(ちょっと短めです)
しおりを挟むけれど風が涼しさを帯び始めた頃、フィオナからとんでもない提案が飛び出した。
『婚約解消』それはまさに寝耳に水の言葉だった。
『私も面倒になりましたの』そう言って去っていったフィオナの後ろ姿を見送って、初めて『他人の視点』というものに気づいた。
自分が人との関わりを面倒と思うように、フィオナはミシェルとの婚約を面倒だという。
何故か最初はわからなかった。幼い頃に一目惚れをして周囲から祝福されて婚約を結んだ。
王家もフィオナのブルーム公爵家も喜んでいた。
あれから10年。何故今更そんなことを、と思いかけてふとフィオナがよく言っていたことを思いだした。
『将来を見据えて側近を何名か傍においてはいかがでしょうか?』
『レイリア様をあまり近くに置きすぎては誤解されます。距離を保っていただきたく思います』
誤解など勝手にする方が悪い、そう思っていたけれど、自分の態度が誤解を生んでいたのだ。
何故フィオナには性別も爵位も越えた友人ができ、自分は孤独なのか。
それはミシェルが人と仲良くなりたいと思わないからだ。ミシェルが垣根を越えた付き合いを望もうとしなかったからだ。
自分に近づいてくるものは皆、どうせ王族と仲良くなって甘い汁を吸おうとしている者ばかりだ、と決めつけた。
だからミシェルのそっけない対応にもめげずに距離をつめたジョシュアとレイリアが残ったのだ。
しかしそれはジョシュアやレイリアが損得抜きに近づいたからではない。
ミシェルが相手のことを吟味しなかったからだ。だから距離感を測れないような愚者だけが残ったのだ。
フィオナは相手をきちんと吟味しておそらく相手からも吟味されて友情を得たのだ。
始業開始のチャイムが鳴っても裏寂しい中庭にミシェルはたたずむ。
不意にミシェルの視界の裏寂しい中庭が突如として色を持った。いや中庭がではなく、ミシェルの世界が、だ。
全て灰色に見えていた。もちろんそれはあくまでイメージだ。でも色彩は意味を持たず、他人はどれも同じだった。
フィオナから突き放されて初めて中庭には秋の花が無いのだ、だから裏寂しく思うのだ、と分かった。
フィオナは大事な婚約者だ。初めて会ったときからずっと好きだったのに、自分はずっと彼女を蔑ろにしていたのだ。
レイリアは何か勘違いをして付きまとう邪魔な令嬢だ。しかし彼女が勘違いをするのは自分が強く突き放さなかったからだ。
彼女を勘違いさせたままにしておくのは彼女のみならず周囲の誤解を招く。誤解が噂になり噂があたかも真実のように振舞いだす。
「俺は、なんて愚かだったんだろう」
ぽつりと呟いたとき、意識して使っていた『私』という一人称が消えた。
神童と呼ばれていた幼少期。以後も特に努力せず何でもできた。できると思っていた。勉学も剣術もマナーも乗馬も何もかも。
どれも世辞抜きで素晴らしいと褒められた。だけれどそれがなんだというのだろうか。成績もずっとトップだし学園内の剣術大会には強すぎるから出るなと言われる。
けれど腹心の一人も作れなければ婚約者の心ひとつ留められない。
面倒だと全てを放置した結果がこれだ。
「……いや、まだ遅くない、まだ頑張ればきっとフィオナをもう一度振り向かせられる」
本当にそうなのか自信はない。けれどずっとしてこなかった努力するのだ。どうしたらいいのかわからないけれど。
「そうだまずはレイリア嬢だ。彼女をなんとかしなければ。それから今更だけどフィオナたちの仲間に入れてもらえるだろうか」
結局フィオナの周りに優秀な者たちが集まっている。それに優秀なのはランチのメンバーだけではない他にもフィオナと親しい者たちがいる。
「俺は今から頑張ればいいんだ」
子供の頃にフィオナが言っていた『努力はいつ始めてもいいんです。それが必要になったときで』という言葉を思いだす。
なんでもできる神童と呼ばれていたけれど体格は普通だったから重たい長剣を扱うことはできなかった。
だからあの時初めて努力しようとした、けれど体格的に無理なものは無理だった。
あの時初めて『頑張らないとできない』ことに直面した。だが実際は頑張ったところで子供の手には余る剣だった。
その時にフィオナが言ったのだ『今できないからと言って無理しなくても大きくなってからでいいのです』と。
ずっと人と関わることを避けていた。
もう面倒などとは言わない。面倒など言っている場合ではなかったと今更気づいた。
それを遅いという者もいるだろう。けれど遅いからといってやらないという選択肢はない。
「もし、ダメだとしてもやれることはやったのだと後悔しないように」
今のままフィオナを失えば後悔する未来しかない。
あがきもせずにただ時が過ぎるのを待てば失う未来しかないのだから。
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