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6sideミシェル
しおりを挟む翌朝。ミシェルはブルーム公爵家の前にいた。昨日王妃の部屋から戻ってすぐに明日の朝迎えに行くという知らせをだした。
フィオナは割と早い時間に登校するのは知っていたので早すぎず遅すぎずの時間を狙って行けばもう少しでフィオナの準備が整うと言われた。
エントランスには入らずアプローチの近くで待っていると「お待たせしました」とフィオナの声が聞こえた。
「おはよう。急にごめんね。これからはちゃんとしようとおも……」
「おはようございます。ミシェル殿下。お久しぶりでございますな」
「お、おはようございます、ブルーム公爵」
フィオナの声に振り向きながら答えるとそこにはフィオナと父親であるブルーム公爵が立っていた。
「殿下が我が娘を迎えにいらっしゃるのは初めてですな」
はははと陽気に笑うがその目は笑っていない。
(これはどっちだ?婚約解消を聞いている?いない?)
「どうか今更だとは思わずに今後は送り迎えをさせてもらいたいと思っていますがいいでしょうか?」
「ええもちろん。ようやく婚約者らしくなってきましたな、まあ今更感は否めませんが」
「返す言葉もないですよ」
ミシェルは曖昧に笑い内心でこれは多分聞いてない、と確信した。
もし解消のことを聞いていたら今後は送り迎えは結構と断られるはずだから。
「殿下、そろそろ参りましょう。お父様の話は長くなりますわ」
「おお、そうだった。いっておいで、フィオナ。ミシェル殿下頼みましたぞ」
「ええ。もちろん。さあフィオナ行こう、手をとって」
「はい」
二人で馬車に乗り込むのをブルーム公爵が微笑みながら見送った。
「昨日のことは考えてくれましたの?」
馬車が走り出すと、フィオナがそう聞いてきた。
ミシェルは小さく頷く。
「……婚約解消はしたくない。……フィオナがしたいというならば仕方ないと思うけど、そうじゃないよね?」
期待をこめてその横顔を見つめれば小さく微笑む。
「フィオナ……」
「殿下がこれからどう行動されるか。それを見てから決めたいと思います」
きっぱりとしたフィオナの言葉にミシェルは気圧されるようにただ頷いた。
学園について馬車を降りると周囲がざわついた。
今まで一緒に登校してこなかった二人が初めて一緒に来たのだから当然だ。
「……殿下とフィオナ様だわ……」
「……不仲なのではなかったのかしら?」
「レイリア嬢に心変わりしたんじゃなかったっけ?」
「レイリア様、この間私が王妃になるのかもしれないわよ、って言ってなかったかしら?」
ひそひそ交わされる声には看過できないものもあったがひとまずミシェルはフィオナに手を差し出した。
「フィオナの教室まで送るよ。それくらいの時間はあるよね」
「ええ。……殿下もし明日以降も迎えに来て下さるなら少し早めに来てカフェでお茶でもいたしませんか?」
「いいのかい!?とても嬉しいよフィオナ」
フィオナからの誘いにミシェルは笑みを隠せなかった。
「15分……いえ20分早くというのは……」
「フィオナさえ良ければ30分早めに登校してカフェでゆっくり話したいのだけれど」
ミシェルは30分早起きをすればいいだけだ。王宮の侍女や護衛は24時間体制なので彼らに早く起きてもらう必要はない。
ミシェルの身支度が早くなる分、少し手順が変わるかもしれないが。
しかしフィオナはミシェルよりも身支度に時間がかかるし使用人のシフトがずれる可能性がある。
それを踏まえてフィオナの意向をたずねたのだが。
「……私ももっと長くお話したいと思っておりました。早く来て下さるのは嬉しいです」
「ほ、本当かい!?良かった!じゃあ明日からは30分ほど早く着くようにするからね」
「ええ。わかりました」
そんな約束事をしていると淑女クラスに着いた。
「じゃあフィオナ。良い一日を。あ、そうだランチ一緒にどうかな?君の友人たちも良ければ一緒に」
というか私が混ぜてもらう形になるのだけども、と少し情けなさそうにミシェルが笑う。
「わかりました。皆に伝えておきます。……少し口の悪いのもいますが、よろしいですか?」
「君の仲間たちは私に思うことも多いだろうから覚悟しておくよ。ああ、王族専用の個室を準備しておくから何を言っても大丈夫だよ」
食堂であるカフェテリアの奥には王族専用の6名ほど入れる個室がある。ミシェルはいつも一人で昼食をとっていたら使う必要を感じていなかった。
というかすっかり忘れていたのだ。個室を使えばレイリアに付きまとわれることもなかったのだなと後から気づいた。
何か言いたげにこちらを見たフィオナにミシェルはにこりと笑う。
「王族専用個室は定員が六名でね。僕とフィオナ、アラン・ローズとカート、ディアナ・ヒギンズ嬢とナタリア・レンフィールド嬢、この六人以外は入れないようにしておくよ」
「かしこまりました」
「じゃあまたお昼に」
「ええ。楽しみにしておりますわ」
フィオナと別れて文官クラスへ向かう。
ざわざわと聞こえてくる声に本当に自分は何も見えてなくて聞こえてなかったのだなと思う。
レイリアが勝手に次期王妃の可能性をほのめかしていることは本当だったのだなとショックだった。
勝手にそんなことを言っているレイリアが悪いのは当り前だが、そう誤解させたミシェルにも非があると今ではわかる。
とはいえ次期王妃をほのめかすのはもはや罪だ。いくら付きまとわれるのを放置していたとはいえミシェルはそんなこと一言も口にしていない。
そもそもフィオナという婚約者がいるうちから言っているのはかなりおかしい。もしミシェルが心変わりをしたとしても何も言われないうちから口に出すべきことではない。
昨日の報告書の通りだったなとミシェルはあらためて気を引き締め直した。
ミシェルが教室についたとき始まりのチャイムが鳴ったためレイリアはいつもの挨拶に来なかった。残念そうな視線を感じはしたが話さずにすんだことにミシェルはほっとする。
直接対決は時間がある昼休憩までしたくなかったが、かといってつきまとわれるのをもう放置はできない。
幸い1時間目の後は選択授業でミシェルは剣術、レイリアは刺繍か何かの淑女教育の方だったはず。
付きまとわれる前にさっさと移動して、教室にはギリギリに戻ろう。
ああそうだ、アラン・ローズにランチの話をしておこう。そのままアランにべったりくっついていればいい。
いささか情けないことを考えつつも中途半端にレイリアにかまう気はない。
ランチタイムに一気にケリをつけるつもりだった。
剣術の授業は騎士科棟の訓練場で行われる。同学年の騎士科と合同だ。
ミシェルはアランとカールが一緒にいるのを見つけて傍に寄った。
「やあ、邪魔させてもらうよ」
「殿下」
アランとカールが礼をとろうとしたのをミシェルは手で制す。
「畏まらないでくれ、学園内は基本平等だ」
「ですが」
「いいから。そうだ、今日の昼フィオナとランチの約束をしているんだ」
「はあ。では今日は俺たちはフィオナ抜きで」
「いや、だから君たちも一緒にどうかなって。いつものメンバーに私を混ぜてほしい。王族専用の個室に案内するから」
アランとカールが顔を見合わせた。
「フィオナ……フィオナ嬢はそのことを?」
「もちろんフィオナの許可はとってあるよ。だから安心していつも通りに過ごしてほしい」
「少々口の悪いのもいますが……」
「もちろんそれもフィオナから聞いて覚悟の上だ。君たちも思うことがあれば遠慮なく言ってほしい」
その言葉にアランとカールは再び顔を見合わせた。
「それと、アラン・ローズ伯爵令息」
「はい」
「すまないが今日一日君と行動を共にさせてくれ、ああ、変な意味じゃなくてランバート嬢避けだ」
少し情けない表情にカールが目を向ける。
「どういうことでしょうか?フィオナと仲直りとみせかけて今まで通りランバート嬢を侍らせるおつもりでしょうか?」
「おい、カール」
たしなめようとするアランにミシェルは大丈夫だ、と微笑む。
「いや、昼の長い休憩の時に一気に蹴りをつけたいだけだ。食堂でね」
「食堂で?」
「ああ。うちのクラスではランバート嬢が私にまとわりついているだけというのはわかってくれているようだが、
他所のクラスではそうではないのだろう?」
カールを見ると苦々しく頷く。
「騎士科では殿下がレイリア嬢に乗り換えそうだから忠誠を誓う相手がフィオナ嬢からレイリア嬢になりそうだ、などと」
「魔法学科にはランバート嬢の友人がいるらしくレイリアが殿下の婚約者になりそうだと吹聴しているようです」
「そうかありがとう。だから食堂ではっきり言った方がいいと思ってね」
「公衆の面前でランバート嬢に何を仰るおつもりで?」
「そりゃ、まあひとまず謝るよ。面倒だと放置して君をつけあがらせてしまって申し訳ないってね、その後は」
そこまで言った時教師に呼ばれた。
「次、ミシェル・アクアランド、対戦相手はカール!」
「おっと手合わせは私たちのようだ、行こう」
ミシェルとカールが訓練場の真ん中で木剣を合わせた。
騎士科でも上位に入るカールはミシェルに全く歯が立たなかった。
「守るはずの相手が一番強いじゃねえか」
カールが悔しそうに言い、ミシェルは笑った。
剣術の授業の後アランと一緒に行動してレイリアを寄せ付けなかった。
そうするとレイリアがクラスから浮いているのがよくわかった。
私もあの浮き方をしてたんだな、とミシェルは今更ながらに思う。
ミシェルがアランと話しているのに一度は割り込もうとした。
しかしアランが『殿下と打ち合わせ中だから』と断った。
レイリアは何の打ち合わせなのか、自分も何か役に立てるのではと食い下がったが、騎士科と合同訓練の打ち合わせだといえばすごすごと引き下がった。
「アランは頼りになるな」とミシェルが言えば「殿下が無頓着すぎるんですよ」と返されて苦笑した。
そんな軽口が楽しかった。
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