異世界グルメ旅 ~勇者の使命?なにソレ、美味しいの?~

篠崎 冬馬

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第005話:チートスキルは偉大です

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 俺の日常は屋台から始まる。屋台を出す場所は決められているため、神スキルで召喚した屋台はそのままだ。閉めるときは折りたたんで鍵を掛けている。朝起きて屋台に向かい、神スキルで食材を召喚し、それを調理する。ホットドッグ二〇〇本、焼きそばドッグ、玉子ドッグは一〇〇本ずつ用意する。わずか三時間足らずでそれらは完売し、二〇〇〇ルドラ、金貨二枚分の売上になる。原価率は二五%程度なので、一日の儲けは一五〇〇ルドラだ。日本円にすると十五万円程度である。

「カトーさん、凄いですね! 屋台ランキングでは上位ですよ!」

 商工ギルドの受付嬢に、その日の売上が入った袋を手渡す。両替のためだ。銅貨2千枚なんて重すぎて使えない。金貨一枚と銀貨八枚、銅貨二〇〇枚にする。この数日で俺の屋台が王都内でも話題になり始めているそうで、他の屋台店主が買いに来たこともあった。

「でも、勿体無いですね。夕方も開店できれば、もっと売上が伸びるのに……」

「仕入れと仕込みの問題から、それは難しいですね。それに、他にやりたいこともありますから」

 俺は笑って、両替した二〇〇〇ルドラを受け取り、ギルドを後にした。時間はまだ昼前であった。そして宿に戻ったら早速、神スキル〈アルティメット・キッチン〉を使う。




「四八……四九……五〇ッ!」

 ドサッと床に崩れる。腕立て伏せ連続五〇回をようやく実現した。三日前は三〇回も出来なかった。そこから考えると、少しは成長しているのだろうか?

「汝のいた世界では〈異世界転生オレtsueee!〉なるものが流行っていたそうじゃな? じゃが現実ではそんなモノはない。岩を砕くほどの力で殴れば、骨が保たぬ。骨まで鍛えるとなれば、それは日々の暮らしを見直さねばならぬ。汝は人非ざる力に至る素質・・を持っておるが、それを目覚めさせるか、腐らせるかは汝の努力次第じゃ」

 ポテトチップス「コンソメ味」をパリパリ食べながら、のじゃロリが説教する。口端からポロポロと屑が落ちる。駄女神は、食事のマナーもダメらしい。

「ホレッ! しっかり走るのじゃ!」

「そ、そんなことより…… ここに居て良いのかよ? し、仕事しろよっ」

 筋肉トレーニングが終わったら、次はマラソンだ。持久力を付けるためにひたすら走る。ヘスティアも横を並走するが、まったく息が切れず、涼しい顔のままだ。

「フフンッ…… 妾とて仕事をしておるぞ? そもそも神とは、個体ではない。汝が目にしている妾は、妾の一部でしか無い。他の部分で、妾はしっかりと働いておるわ」

「じ、じゃぁなんで……ここにいるんだよ?」

「決まっておろう? 美味いものを食べたいからじゃっ」

 カカカと笑う駄女神をジロと睨んで、俺は黙って走り続けた。ツッコむ気力すら湧かない。もう無理と思ったところから、もう一週だけ走る。そして崩れる。

「ウム。まぁ少しは強くなっておるぞ? この調子で頑張れば、ミジンコから蛙くらいには成長するであろう。では、馳走になったな」

 ヘスティアの姿が消える。やがて息が整った俺は、重い身体を起こして食事の支度を始める。湯を完全に沸騰させてから水を一差しして火を止め、そこに鳥のササミ肉を入れる。予熱で火を通す間に、梅肉ソースを作る。梅干し、みりん、米酢、めんつゆ、刻んだ大葉を混ぜて完成だ。別の鍋で豆乳を温め、蒸したジャガイモと刻んだベーコン、玉ねぎを入れる。即席のヴィシソワーズもどきのスープだ。

「まぁ、プロテイン代わりだな」

 タンパク質や他の栄養素、ジャガイモで糖質も摂れる。酢漬けにした人参を齧りながら、今後について考えていた。




「お前ぇさん、一体なにをやったんだ? 二週間前とは身体が違うじゃねぇか」

 武器屋の親父は、初心者用の弓を引いた途端、俺の腕や腰を叩いて確認しはじめた。二週間の連続トレーニングで、腹筋は浮き上がり、二の腕もしっかりと力瘤ができた。女神ヘスティアの加護は、ある意味ではチートであった。筋肉トレーニングとプロテイン鶏のささみの効果により、筋力も体力も倍増したように感じた。

「よし。コレなら問題ねぇだろ。ギルドに行って、弓の指導を受けるがいいぜ。それで初級者になれる」

 弓を背負い、矢が入った筒を肩に掛ける。ついでに短剣なんかも買っておく。なんだかんだで金貨五枚になったが、悪い買い物ではない。

「どうせファンタジーを愉しむのなら、やっぱり戦わないとな」

 俺は気軽な調子で、狩人ギルドへと向かった。




「見習い等級での登録から始まります。最初に金貨一枚を収めていただきます。これは狩人になるための指導を受ける費用と考えてください」

 一〇〇〇ルドラ、日本円で十万円である。技術指導料と考えると、決して割高ではない。素直に金貨を支払うと、見習い登録書を渡された。夏休み公園体操のスタンプカードみたいな紙であった。

「指導を受けると、指導官がサインをしてくれます。これが規定以上に貯まれば、見習い等級から初級狩人になります。普通の人は、だいたい一ヶ月くらいですね。頑張ってください」

 狩人ギルドの裏手には、隣接する冒険者ギルドと共同で使用している「訓練場」がある。剣と盾を持って模擬戦をする冒険者たちなどがいた。俺は弓を持っている狩人らしき男に、練習場の場所を尋ねた。塀に囲まれた場所を教えられる。

「ちょうど一列空いたところだ。教えてやる」

 禿げ上がった頭をした中年の男に連れられて、弓を構える場所に向かった。一〇メートルほど先の地面に小さな的のようなものが立てかけられていた。さらにその先にも、同じような的がある。

「ここでは弓の基本を教えている。止まっている的に当てるのは、基礎中の基礎だからな。まずは最も近い場所にある的からだ。ここに当てられるようになれ」

 指導官はそう言って、自分の弓を構えた。キリキリと弦が音を立てる。手を離すと、タンッという音がする。的の中央に矢が命中していた。

「何事も経験だ。まずはやってみろ」

 俺は頷き、見様見真似で矢を番える。的を狙って右手を放すと、矢はヘロヘロとあらぬ方向に飛んでいった。

「手先で狙っているため、身体の軸がブレている。一本の鉄棒が身体を通っていると思え。腕で狙うのではなく、身体を回して狙うんだ。脳天と金玉が常に一直線になっているように意識しろ」

「なるほど。解りやすい説明だ」

 言われたことを意識して、もう一度構える。すると不思議な感覚になった。「何となくこんな感じか?」という感覚を持ったのだ。そのまま手を離すと、矢は真っ直ぐに飛び、的のど真ん中に命中した。

「ほう…… 次をやってみろ」

 差し出された矢を番える。ニ射、三射も的の真ん中に命中した。四射目からは独自に試すことにした。足を前後させ、上半身を思いっきり前に倒して、横向きで放つ。四射目も的に命中する。次は思いっきり仰け反りながら放つ。これもど真ん中に命中した。

「……お前、何やってるんだ?」

「ん? 狩りってのは、常に真っ直ぐに立った状態で矢を放てるとは限らないだろ? 木々の間から無理な姿勢で放つこともあるかもしれない。そのための練習をしてみたのさ。まぁ、大体の感覚は掴んだ」

「天才か? お前…… 取り敢えずもっと距離のある的を狙ってみろ。まぁ、結果は見えているがな」

 禿げた頭を撫でながら、男は苦笑いした。




 練習のための練習など意味はない。神スキル「アルティメット・キッチン」でヘスティアを呼び出した俺は、巨大プリンと引き換えに練習に付き合わせることに成功した。ヘスティアを中央に、二〇メートルほど距離をとって弧を描くように周囲を駆ける。陶製の丸皿が宙を舞う。走りながらそれに矢を射掛ける。皿が次々と割れる。神スキルで買った五十枚は、あっという間に無くなった。

「むはぁっ! このプリンというのはプルプルしていて美味いのじゃぁ~」

 神スキルで取り寄せた「バケツプリン」にスプーンを突き刺しながら、のじゃロリは悶えていた。今回、自分で作らなかったのは、この「バケツ」が欲しかったからだ。コレがあれば、今後は自分で作ることもできるだろう。

「問題は、狩りで獲った獲物をどうやって運ぶかだな。アルティメット・キッチンの〈ストッカー〉を使うか? だが入り口以上に大きなモノは入らないしな……」

「ん? 魔導具〈収容袋〉を使えば良いではないか。ホレ、あそこに浮いておるぞ?」

 のじゃロリは、上空に浮いている少し汚れた革袋をスプーンで指した。手元に取り寄せて口を明けてみると、真っ白な空間が見える。

「魔導具というのは、魔物から得られる魔石を利用した道具じゃ。この収容袋は、魔族のみが使える時空間魔術が組み込まれておる。袋の中では、時の流れが緩やかになり、かつ口よりも大きなモノでも吸引することができる。容量もそれなりに大きなものじゃ」

「……いや、聞くからに凄まじく貴重な道具に思えるが?」

「作れるのが魔族のみじゃからの。ダンジョンの深部などでなければ手に入らぬ。まぁ、盗まれる心配はしなくて良いぞ? ソレはお主のスキルで生み出されたものじゃから、お主以外は使えぬ。それより、神である妾がこうして助言してやったのじゃ。美味いモノを捧げて、感謝すべきではないか?」

 のじゃロリが、チラチラと横目で見てくる。俺は肩を竦めて、真っ白な空間内にドーンと座している「厨房」へと向かった。





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