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38. 期待してた
しおりを挟む待ちに待った土曜日・朝
目が覚めてすぐにスマホの通知を確認する。20分ほど前に葉大から「来るとき教えて」という内容の連絡が入っていた。返信をしようにも指が言うことを聞かず、誤字だらけになってしまうのがもどかしくて通話ボタンを押す。呼び出し音がすぐにぷつりと途切れた。
「よーだい…」
「久!おはよ、早いね、正直起きんの昼過ぎかと思ってた」
「……ん…はよ…」
まだ7時半だからむしろお前は早すぎんだなんてぼやけた頭で布団に伏したまま思う。
「寝起き?声がもしょもしょしてる」
「ん………」
「久―?………寝た?」
「…ねてない」
「寝てんね」
柔らかい笑い声が聞こえてその穏やかさがさらに俺をまどろみの中へと誘い込む。
「久、寝ちゃうの?」
「………ねない、けど5分だけ…」
「それ寝るやつ。久、俺んちで寝ていいから一旦起きて」
「ゔー… 」
沼にはまったように重い体を両腕で持ち上げて布団から剥がす。冷たい空気が体を撫ぜてまた布団に戻りたい衝動に駆られる。だが、ここで動かなかったらもう多分あと二時間は動けないことは想像に難くない。重い体を引きずりながら開かない瞼を擦る。
「ん…起きた…、準備していくから待ってろ」
「おお、久が俺に会うために起きんの頑張ってんのめっちゃ嬉しい」
普段より気持ちせかせかと風呂に入ったり服を着たりして家から出る。家を出たことを連絡し、顔をあげると少し先から見慣れた人物がこちらへ駆け寄ってくる。
「久!」
嬉しそうにすごい勢いでこちらへ走ってくるものだから抱きしめられるんじゃないかなんて少し期待をしてほんの少し腕を広げる。期待に反して俺の二歩くらい先のところでピタリと止まって手が頬を撫でる。
「まだ外出たばっかなのに赤くない?可愛い」
「待ってろっつったのに」
「五日ぶりに久に会えると思ったらつい」
「お前がインフルになんて罹ったせいでな。もう全快?」
「たまに咳出るけどそれ以外は全快ってとこかな。今日はどうする?どっか行ったりする?」
「え」
「ん?」
お前の家に直行するつもりでしかなかったけど…。いちゃいちゃするつもりしかなかったけど…いや、病み上がりだし、ベッドでどうこうはなくても恋人的な距離にいたい。
「あー…特にないし…………葉大んちでよくね」
「そうしようか」
葉大の家に着いた後も抱きしめられたり距離は近かったりするもののちゅーのひとつもない。それとなくアピってみても気付いてないんだかスルーしてるんだかわからないし、今もテレビを見ながらソファーに横並びに座って手を触るだけでそれ以上の何のアクションもない。出禁明けで期待してきた結果がこれかと若干腹が立ってきた。理不尽な苛立ちだとはわかってる。それでもインフルと一緒に性欲まで消し飛んだのか?なんて思う自分がいる。
じわじわと恥より「なんだこいつ」という感情が勝ってきた。わざわざ朝早く起きて何もなく帰るとかあるんだろうか。
「葉」
「なーに久。寝る?」
寝るってそういう意味か?なんて考えてみるけど、おそらく違うだろう。
「いやここまで来て寝るとかないだろ。な、なんもしねぇの?俺結構そのつもりで今日」
「する、しよ」
「はっ?」
はっとした顔でこちらを見てすぐに葉大の自室へと腕を引かれる。急展開に思考が追い付かない。本当になんなんだ。
「えっ、は、何?誘われたかったってこと?」
「違う。治ったけど万が一久にうつしたら嫌だしあんまそういうことしないほうがいいかなって思ってた。けどそんな可愛いこと言われたら無理。気きかなくてごめん」
「はあ?そんなこと気にしてたのお前。五日も待ってんだから大丈夫だろもう」
「そうだよな」
手際よく素肌が暴かれていく。この際ムードがないことなんて許してやろう。早く触れてほしい。触れたい。そんな気持ちが先行して顔を顔に近づけた…が、口を手で覆われて押さえられて思わず葉大を睨みつける。めちゃくちゃ腹立つ。
「や、ほんとごめん。うつさないかなってつい」
「おっまえいい加減にしろよ!えっちはいいのにちゅーはダメとかどこぞの俺みたいだな⁉」
口に当てられた手を自分の手と絡め、空いた手で葉大の頭を逃げられないよう固定して勢いのままに唇を重ねる。唇を離すとあっけにとられたようなアホ面と目が合って少し優越感があった。
「ほらもう一回も二回も変わんないだろっ!もし俺にうつしたらお前が責任とってこの部屋で面倒見ろ!それでいいだろ。散々俺に我慢させといてやっとできると思っんむっ……ぅ……うん…」
口内を侵される久しぶりの感覚に頭が蕩けてくる。気持ちよくて自分が欲しかったのがこれなのだと思い知らされる。
「っは…ごめん久」
「んッ…ぅん…は、あ…いいって」
混ざりあった唾液が溢れる前にこくりと喉を鳴らして飲み込む。自分の立てたその音にさえぞくぞくする。我慢できないみたいに唇を貪るくせに触れる指は優しくて心地いい。葉大の指の通った場所が熱を持ったみたいに熱い。
「ほんと好き」
「っ…俺も、好き」
「かわい…、ちゃんと慣らそうな」
自分でした時とは全く違う感覚に声が抑えられなくてコクコクと頷いて返事をする。
「久、力抜ける?…口開けて」
「葉、…ふ…っあ………んっんう…も、いい、いいから」
「焦らしてるわけじゃないんだけどな」
「知ってる、けど…っ…俺ばっかされてんのっ、あ…」
硬くなったものをぐっと押し付けられて息を呑む。視線をあげると熱のこもった目に吸い込まれる。
「じゃあ挿入れていい?」
「っ、いい」
中を押し拡げていた指が引き抜かれて切ない声が漏れる。そして熱く硬いモノが押し当てられた。ぬぷりと入り込んできたそれは中をギチギチに埋めながら遠慮なく俺の悦い場所を擦る。
「ん…ッ、っ…う、ぁ…」
「ふ…ッ久ん中気持ちいい。」
「っ…ぃ、い…!きもち…いっ、ん…ンっ」
久しぶりの快感に全身が打ち震える。葉大が俺を見つめるその眼差しが余計にその気持ちよさを引き立てる。肌と肌のぶつかる音と潤滑剤の濡れた音に紛れる荒い呼吸に耳を澄ませる。
「よぉ。ン…ぁっ…もっと、っ…」
「ッ…」
「おッ!あっ、…んんっ…ッ…あ…っ…そこ、いくっ…ん、イッ…!」
一段と激しくなった動きに揺さぶられて絶頂へと押し上げられていく。腰や内ももをなぞる手も体に触れる唇も俺を満たす全てが心地いい。突き上げられながら下腹部を熱い手で優しく押される。自分でもきゅうっと中を締めたのがわかってしまって腕で顔を隠して視線を逸らす。
「…う…っ…んぁっあっ…」
「んっイっていーよ。可愛い、久」
大きな快感の波を逃がしたくて体を反らしたいのに葉大に押さえつけられて思うように動けない。思考もままならず首を振って精いっぱい身をよじって甘いそれを受け止める。
「んっあ…ッ、あ、ぁあっ!」
「ッ…俺も出そ………ンッ…は」
中を満たしていた大きいそれが引き抜かれてぽっかりとした切なさだけが残る。前髪をかきあげるように撫でられて視線をあげると、こちらを見つめる妖美な目と視線が交わる。じっとりと濡れた額も荒い呼吸音も食むように触れる唇も全部が俺に効く。
「…葉大いつもよりきつそう」
「きつくないよ。全然まだできる、ってか足りない」
「病み上がりで無理すんなって、んむっ…」
「…してない、気持ちよさそうにしてる久を前にしてもうすんなってほうが無理」
すこしムッとした様子で唇から首へ、鎖骨へとゆっくりと唇を落としていく。
「終わりとか言ってないだろ、…ッ最後まで聞けよ」
首元に埋められていた顔を引きはがして強引にベッドに仰向けに寝かす。
「お前病み上がりなんだからさ、大人しく寝てろよ。…俺がしてやるから」
「へえっ⁉久が⁉」
聞いたこともないアホみたいな声を発して瞬きのひとつもしないその様子にこちらが狼狽える。
「な、なにを?…いや、久がしてくれるっていうんならなんでも受け入れる覚悟ではいるんだけど」
「いや…変な勘違いすんなよ」
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