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第14話 鍵
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その日の村は、妙にざわついていた。
道を行く人の足取りが少し速く、
挨拶の声もどこか上ずっていた。
「王都から、また誰か来るらしいよ」
「しかも……偉い人。魔導師団の上の方とか……」
噂は、焚き火の炎のようにゆらゆらと広がっていった。
ユイは、丘の上からその空気を見下ろしていた。
「……動いたな」
隣で草を編んでいたリルが、顔を上げる。
「また、王都の人……?」
「今回は、前とは違う。たぶん、“確認”じゃなく、“確保”が目的だ」
「確保……って、ユイを?」
「可能性は高いね」
けれど、ユイの声は、驚くほど落ち着いていた。
一度、“誰かのために力を使う覚悟”を決めたその人間は、
もう――何を恐れることもなかった。
◇ ◇ ◇
そして、日が沈む頃。
王都からの使者が、村に到着した。
今度は馬車ではない。
空を裂いて降り立った、魔導師団直属の転移魔法陣。
その中央に立っていたのは、一人の女。
白銀の髪、赤い法衣、鋭い瞳。
その視線は、人を測るための“道具”のように冷たい。
「……ふむ。予想よりも、“普通”だな」
彼女がそう言った相手は――ユイだった。
「あなたが、“ユイ”。魔族との適合性が高く、
王都の予言書にも記されていた存在」
「予言、ね」
ユイは微笑みながら言った。
その笑顔は、どこか乾いていた。
「じゃあ、僕の存在は“未来”にとって都合がいいの? それとも――邪魔?」
「――まだ、未定だ」
女は言った。
「私は【第一階位・観測官エリシア】。
あなたの“真価”を、ここで見極めるよう命じられている」
◇ ◇ ◇
夜。
村の集会所で、エリシアはユイとふたりきりで対面していた。
「君の力は、“こちら側”の魔術体系では説明できない。
けれど、“向こう側”――つまり、魔族の古い血に近い波動を持つ」
「つまり、僕は“人間じゃないかもしれない”ってこと?」
「可能性はある」
「でも、僕の心は、ちゃんと“人”のままだよ」
エリシアは一瞬、目を伏せて――
小さく笑った。
「そうだな。“心”が人かどうか。……それは、君の唯一の武器だろう」
その夜、彼女はユイに言った。
「君には、二つの道がある」
「ひとつは、王都へ同行し、力を解析される道」
「もうひとつは、このまま村に残り、しかし“管理下の観測対象”として制限される道」
「つまり、どっちにしても、“自由”じゃなくなるんだね」
「そうだ」
エリシアは迷いもなく答えた。
「ただ――君がこの世界の“鍵”であることは、すでに否定できない事実だ」
◇ ◇ ◇
その夜、ユイは眠れなかった。
村の外れで、ひとり星を見上げていた。
リルの声が、背後から届く。
「……悩んでる?」
「悩まない理由が、見つからないよ」
「どんな決断でも、わたし、後悔しないよ。
ユイが選ぶなら、わたしはそれを信じる」
ユイはゆっくり振り返って、
そして小さく笑った。
「ありがとう。リルがいるだけで、僕の“選択肢”は、ひとつ増えた気がするよ」
空には、流れ星がひとつ走った。
この世界は、もうユイを“見逃してはくれない”。
でもそれでも。
――彼は、選ぼうとしていた。
自分の手で。自分の心で。
道を行く人の足取りが少し速く、
挨拶の声もどこか上ずっていた。
「王都から、また誰か来るらしいよ」
「しかも……偉い人。魔導師団の上の方とか……」
噂は、焚き火の炎のようにゆらゆらと広がっていった。
ユイは、丘の上からその空気を見下ろしていた。
「……動いたな」
隣で草を編んでいたリルが、顔を上げる。
「また、王都の人……?」
「今回は、前とは違う。たぶん、“確認”じゃなく、“確保”が目的だ」
「確保……って、ユイを?」
「可能性は高いね」
けれど、ユイの声は、驚くほど落ち着いていた。
一度、“誰かのために力を使う覚悟”を決めたその人間は、
もう――何を恐れることもなかった。
◇ ◇ ◇
そして、日が沈む頃。
王都からの使者が、村に到着した。
今度は馬車ではない。
空を裂いて降り立った、魔導師団直属の転移魔法陣。
その中央に立っていたのは、一人の女。
白銀の髪、赤い法衣、鋭い瞳。
その視線は、人を測るための“道具”のように冷たい。
「……ふむ。予想よりも、“普通”だな」
彼女がそう言った相手は――ユイだった。
「あなたが、“ユイ”。魔族との適合性が高く、
王都の予言書にも記されていた存在」
「予言、ね」
ユイは微笑みながら言った。
その笑顔は、どこか乾いていた。
「じゃあ、僕の存在は“未来”にとって都合がいいの? それとも――邪魔?」
「――まだ、未定だ」
女は言った。
「私は【第一階位・観測官エリシア】。
あなたの“真価”を、ここで見極めるよう命じられている」
◇ ◇ ◇
夜。
村の集会所で、エリシアはユイとふたりきりで対面していた。
「君の力は、“こちら側”の魔術体系では説明できない。
けれど、“向こう側”――つまり、魔族の古い血に近い波動を持つ」
「つまり、僕は“人間じゃないかもしれない”ってこと?」
「可能性はある」
「でも、僕の心は、ちゃんと“人”のままだよ」
エリシアは一瞬、目を伏せて――
小さく笑った。
「そうだな。“心”が人かどうか。……それは、君の唯一の武器だろう」
その夜、彼女はユイに言った。
「君には、二つの道がある」
「ひとつは、王都へ同行し、力を解析される道」
「もうひとつは、このまま村に残り、しかし“管理下の観測対象”として制限される道」
「つまり、どっちにしても、“自由”じゃなくなるんだね」
「そうだ」
エリシアは迷いもなく答えた。
「ただ――君がこの世界の“鍵”であることは、すでに否定できない事実だ」
◇ ◇ ◇
その夜、ユイは眠れなかった。
村の外れで、ひとり星を見上げていた。
リルの声が、背後から届く。
「……悩んでる?」
「悩まない理由が、見つからないよ」
「どんな決断でも、わたし、後悔しないよ。
ユイが選ぶなら、わたしはそれを信じる」
ユイはゆっくり振り返って、
そして小さく笑った。
「ありがとう。リルがいるだけで、僕の“選択肢”は、ひとつ増えた気がするよ」
空には、流れ星がひとつ走った。
この世界は、もうユイを“見逃してはくれない”。
でもそれでも。
――彼は、選ぼうとしていた。
自分の手で。自分の心で。
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