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IQ指数2の会話

「うわぁぁああぁ……」

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 私たちは婚約まで済ませているカップルである。日本に同性婚の制度はないが、もし制度ができれば私たちは婚姻を結ぶつもりであるし、パートナーシップ制度を結べる都市への移住を考えているところでもある。
つまるところ、性的な行為も行っており、婚前交渉に値するのだが、そこへの批判は今時の若いカップルなんてみんな小学生から猿だぞと警鐘を鳴らすに留めておこう。

 ノンケ(異性愛者)のみなさんは、「タチ」「ネコ」と言う言葉を聞いたことがあるだろうか。
BL(ボーイズラブ、男性同士の恋愛を描いたもの)が一般化したことで、「攻め」と「受け」と言う言葉が広まりつつあるが、それと同じような意味だ。タチが攻め、ネコが受けである。
要するにする側か、される側かというところだ。
 よく、「どっちが男役なの」と言う質問をする人間がいるが、どちらも女役であって男役などない。だがする側かされる側かの話しであれば、ある程度決まっているカップルが多いだろう。
私たちの場合は「リバ」というもので、タチ(する側)、ネコ(される側)が時と場合によって変わったりする。これを念頭にいただけると読み進めやすいであろう。

 元々ロキと私は性行為を義務と捉えていた。加えて私だけが娯楽の側面も持つと思っていたくらいで、少なくとも両者にとって、愛が溢れて行う行為とは程遠いものであった。
 ところが、初めての心から相手を想う本気の恋愛に、相手の全ての反応を見たい・愛しいと思う気持ちと、全てをリラックスして委ね自分を開示して行為を行う快感の2つを覚えて、私たちは義務ではなく自ら進んで、それも頻繁に性行為を行うようになっていた。


「あぁ……うううぅ…あああ……。」
 呻き声を上げながらベッドの上でうずくまるのは私だ。ロキはそれを見てかわいそうなものを見る目で見た後に、アメリカのコメディアンが呆れ顔を作ったような表情でそっと肩を叩いてくる。
「うん、IQ2だねぇ。かわいそうにねぇ。」

 こんなことになったのも原因は全てロキにある。先ほどまでこの美女は私のことを物欲しげな顔で誘惑してきていたのだ。
もちろん私は乗り気になる。攻めたい。タチりたい。なんならお前がイッてもやめたくない。続きをさせてください。そんな気持ちで彼女に襲いかかる体制を取った。
……そこに向けられる“No"の視線。無言の圧。
ロキは元々タチである。ネコることは殆どなかった。私と交際する前に何度か、性行為が面倒でネコならと受け入れたことはあるらしいが、自ら相手を誘ってネコになるなんて天地がひっくり返っても有り得なかったという(セールストークでないことを祈っている)。
そんなロキの“No"は絶対である。根底から乗り気である時以外に触れようものなら怒った後に拗ねてしまう。
 だからこそ私はその視線を向けられると触れない。それを分かっていてこうしてたまにからかってくるのだ。
生殺し状態の私は、前述のような唸り声をあげて性欲を堪えるしかない。
「だめ……?」
恐る恐る確認をとってみる。
「ダメ。」
断固とした拒否。これ以上触れない。触ってくださいと言わせようとアレコレと試そうとするが、トライする前に中断される。
「うぅうううああ……ぁ…ぁ……」
こうして冒頭に戻る。私のIQは2どころかマイナスの状態である。そこのロキさん、ニヤニヤしながら観察しやがって分かっているぞ。と思い恨みを込めた視線を向けると、途端にすまし顔を作り始める。
それから私は、本気でロキが誘ってくる数日後を待つのだ。


「あああぁうわぁぁぁぁ……。」
 肝心の数日後、今度うめいているのはロキだった。私は両手で顔を覆った顔が愛しくて笑いそうになるのを堪えながら、精一杯かわいそうな人を見る目を作る。
「したいの?」
あえて聞く。
「……ノア、したい。」
にっこり笑って答える。
「ダメ。」
「そんなぁ!うわぁぁ……ぁあ……。」
そのまま前転して転がっていきそうなロキを視界で捉え、ロキはこの状態の私が見たかったのか、と納得する。確かに恋人が悶える姿は如何ともし難い魅力がある。これはいい。リピート確定だ。
 ただ一つだけ難点がある。私はロキのように断固とした“No"が言えないのだ。何故なら、ロキは相当なテクニシャンだからである。最初はそんな気分じゃなくても、触られるうちにスイッチが入ってしまう。触れ方からして今までの恋人たちとは格段に違う。深すぎるほどの愛も相まって、最高に気持ちが良くて、つい反応してしまうのだ。
ただロキはまだ、私の本気の“No"を自分の力で超えられるのを知らない。せいぜい少し乗り気だが形式上嫌と言っている程度の断り具合しか超えてこない。本当は何度か全く乗り気ではない日に彼女の力で超えて、結果的にいたしているのを知らない。気づかれたら終わりだ。私はこのうめく美女を見ることができなくなってしまう。
 加えて私はロキにおかしな性癖を植え付けてしまったようで、この子は私が嫌そうに拒否するのを心底喜んでしまうのだ。ますます犯したくなるらしい。気をつけないと、いつか“No"が“Yes"に変わる瞬間を見つけられてしまう。そうすると一巻の終わりだ。永遠に私のタチの番が来なくなってしまう。
元々タチ同士のタチの取り合いは想像以上にハードなのだ。そこは戦場だ、油断したら命を落とす。

そんな私のうちなる悩みに気づかず悶える彼女もまた、世界一可愛いのだった。
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