シロワニの花嫁

水野あめんぼ

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本編

第七話:朝の風景と大浴場

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グラスを手に取って酒を注ぎながら明澄の顔を思い出し砕波は……、

「――あの顔が快感に溺れる姿をぜひ拝みたいもんだ、きっといい顔をするだろうな」
「ねっ、アタシの眼に嘘偽りはありませんでしたでしょっ?」

下卑た笑いを浮かべてグラスに入った酒を煽る。
蛸の下半身を持った青年は、自分は嘘を言っていなかっただろうと砕波に言う。

「――あぁ。詠寿あんな野郎に置いとくなんてもったいねえな、きっといい身体に違いない」

個人的な見解では明澄はきっと感度がいいと、詠寿の花嫁に置いとくのはもったいないと口元から垂れる酒を舌で拭いながら砕波はそう呟いた。

「可哀そうに……あんたのような支配欲の塊のようなヤリチン人魚に気に入られるんじゃそこの坊やみたいにひぃひぃ言われるのが落ちでしょうに」
「――うるせぇよ、ノゼル。」

ノゼルと呼ばれた蛸の下半身を持った青年は、品のない言葉を並べて気絶している召使いの少年を見ながら砕波を皮肉った。

「というか何で人化薬飲んでわざわざやってるんですかい、人魚同士なら飲まなくても出来るでしょ?」
「“予行練習”だよ、“予行練習”。それより……衛兵たちのガードを良く抜けられたな。」

話を替えてノゼルと呼ばれた少年はわざわざ人間の姿をさせてセックスしているのかと呆れたように聞くと砕波はこれは人間とのセックスに慣れておくための予行練習だと答え、ノゼルに半分自分のせいではあるが王宮の衛兵たちの監視をよく抜けられたと褒める。

「まぁね、でもあのがいた時にゃ正直焦りやした。アタシはウツボが大嫌いなんでね」

くっくっくっ……

「タコなだけにか?」
「笑い事じゃないですよ、さっきアタシの気配に気付いたのか兵士長あいつ、アタシのいるところまで後戻りしてきやがったんですよ?」
「確かに、勘は良いからなあの兵士長は……お前が捕まったら俺も色々と困るからな。」

自分の魚種である蛸の天敵の魚種であるウツボの下半身を持つ兵士長を鬱陶しかったとノゼルが零し、
砕波がそれについてからかうと兵士長に危うくばれそうになったとノゼルは返し、砕波はノゼルが気付かれかけたが捕まらなかったことに関しては安堵していることをノゼル本人に伝える。

「まぁ、これに用心してアタシはしばらく来ないですよ……王宮ここには。いいっすね? アスミ様はアンタの好きにすりゃあいい」

そしてノゼルはこれ以降王宮への忍び込みは避けるようにすると言い残すと同時に、情報料を貰い明澄をその後どうするかはもう干渉しないとノゼルは念を押してそそくさと帰って行った。

部屋には気絶した召使いの少年と砕波だけが残されていた。

テーブルに置いてあった酒を手に持って個室に有る浴場に赴き、砕波は一人鮫の姿に戻っていた。
そして砕波は一人、酒を煽りながら明澄の顔や自分に言い放った言葉や姿勢を思い出すと。

(明澄……か)

くくく……

「欲しいぜ……何が何でもな」

舌なめずりをして黒い笑みを浮かべながら、己の支配欲と所有欲を煽らせる明澄の存在を喉から手が出るほど欲しいと望んでいた。

・・・

『うぅ……ひっく、ひっく』

『大丈夫、もう助けは呼んだ。』

――あの男に襲われて泣いていたボクに誰かがボクに声を掛ける。

『安心しろ、もう大丈夫だから……』

――彼はただ泣いてばかりいたボクに頭を撫でて優しく声を掛けてくれた……。

(ーー待って、貴方の名前を聞かせて!)

「――待って! ……?」

目が覚めると自分が軟禁されている部屋の天井が見えた。

よく見ると自分は汗だらけで枕を汚していた、どうやらあの時の夢をまた見ていたようだ。
トラウマとなったあの事件の夢を、トラウマを植え付けられた時に優しく傍にいてくれたの夢を……。

目覚めが悪くも目がさえてしまい、明澄は起き上がって背伸びをする。
窓を開けて町の情景を眺めてみた。

朝の町には昨日ほどではないが町に住む人魚たちが目を覚まして働き始めようとしている姿がちらほら見えた。体操したり、店を開ける準備をする者等町の人魚たちが今日という日を迎える準備をしている。

人魚界の空を見上げると朝日と思わしき光が人魚界を照らしている。
視界が水面でゆらゆらしていて太陽の存在は確認できないものの、朝陽が指していることは何となくわかる。人魚にも朝や昼、夜などの時間の感覚はあるようだ。

(人魚も人と同じ、朝や夜の感覚はあるのか……)

明澄は町を観察しながら、人魚たちの生態は姿かたちが違うだけで自分たち人間とほぼ同じなのだなと心の端で思う。明澄がぼんやりと人魚界の朝の風景を窓から眺めていると……、

「――おはようございます、明澄様の身支度の用意を手伝いに伺いました。」
「ようし、扉をノックしろ。」

扉越しにクリアの声が聞こえてきて、扉の前で見張り番をしていた衛兵たちに用件を伝えたようだ。
衛兵たちはクリアの要件を了承しすぐ入るように促した。

――コンコン

「失礼します、クリアです。身支度の用意を手伝いに参りました、入っても構いませんか?」

「どうぞ。」

ノックの後にクリアの声が聞こえ、クリアが入室の許可を貰おうとする声が響き明澄はクリアの入室を許可した。

「――失礼します。」

――かちゃっ

「おはようございます、明澄様。体のご加減はいかがですか?」

クリアは一礼して入室してきた、クリアは朝礼とともに身体の具合を聞いて来た。

「ーーおはよう。具合は大丈夫、ありがとう。」

明澄は、クリアの気遣いに感謝する。

「明澄様、昨日はいろいろあって体を洗うこともままならなかったでしょう? 浴室はこの部屋にもありますけど大浴場に行った方が早いのでそちらに向かいましょう。」
「――そんな場所があるの?」

クリアは砕波の件で体を洗うことが出来なかった明澄に、大浴場に向かって身を清めるよう提案をしてくる。大浴場が人魚の世界にもあるのと人魚たちにも身体を浄める習慣があるとは思わず、明澄はそう聞いた。

「ーーはい、王族も代々利用なされている大浴場です。係の者もそちらに待機していますので今回はこちらを使って体をお浄めくださいと厳生様が……。」

 厳生から、明澄が起きたら明澄の体を洗って綺麗にするよう言いつけられているとクリアは明澄に伝える。この個室にも浴室があるならそっちを使いたかったが、そこまで用意されて厳生にも言われているなら仕方ないと思った明澄は……、

「わかったよ、大浴場がどういう場所か気になるし」
「ーーでは、ご案内します。ついてきてください」

人魚たちがどうやって体を洗うのかどういう構造なのかも少し興味があった為、了承した。
明澄はクリアに言われたとおりついて行くことにした。

――数分位クリアについて行って歩いていくと右側に大きな扉があり、クリアがそこで立ち止まる。

そしてクリアが先に扉を開け「ここです。」と言って中に入るように促した。

言われたとおりにそろりと中に足を踏み入れると、数人の召使いの人魚たちが待機していてこちらが大浴場につながる脱衣所に入った途端、人魚たちが視線をこちらに集中させる。

「ーーっ」

自分を待っていたとばかりにこちらを見てくる召使いたちに明澄も驚く。

「明澄様をお連れしました、後はよろしくお願いします。」
「ーーあぁ、クリア。後は任せて?」

「――えっ?」

(まさかこの人魚ひとたちが体を洗うの……!?)

もしかして彼らが自分の身体を洗うのかと今更ながら気付いた、係と言ってもてっきりタオルの用意や湯加減を見てくれるだけのもの思っていたからだ。

クリアは待機していた召使い達に明澄の入浴の世話を頼んだ後……、

「僕は明澄様の御召し物を持って後から来ます、ゆっくり体をお浄めください。」
「でも……」
 
心配させない様に促しているのか、クリアは明澄が体を洗ってもらっている間は着る物を選んで持ってくることを話した。召使いたちに身体を洗ってもらうとは思わず、明澄は不安が拭えない明澄は戸惑ってクリアの手を握る。

「彼らはガラ・ルファ……湯治のプロです。痛い真似は絶対しません、安心してください。」

クリアは安心して他の召使いの人魚たちに身を任せるよう説得する。

「ガラ・ルファって……!?」

“ドクターフィッシュ”……人間の古い皮膚の角質を食べるという魚だ、フィッシュセラピーと呼ばれる足湯に良く使われる魚である、クリアは湯治係の人魚たちの魚種がそのドクターフィッシュことガラ・ルファの人魚たちであると教えられ明澄は驚く。

「さぁさ、我々に任せてください。時間も押してますから」
「――あっ、ちょっと!」

 すると待機していた人魚の一人が明澄のクリアを握っていた手を引き放し、明澄の上の服を脱がし始めた。

赤子のように服を脱がされる恥ずかしさに明澄は戸惑いを隠せない。

「クリア、後は任せて明澄様の御召し物を……」
「ーーあっ、はい。すみません、明澄様……一旦失礼します。」

 もう一人の人魚がクリアに早く明澄の着る服を用意するように言いつけたのでクリアは明澄を一人にすることに申し訳なさそうに謝ると、脱衣場を後にした。

「あっ、あの……一人で脱げますから!」

ボトムを脱がされ、下着まで取られかけた明澄は恥ずかしさのあまりに叫んだ。
そう言うと脱衣所にいた人魚たちはぴたりと明澄の服を脱がそうとする手を止めた。

「……」
「――あの、あんまりこっちをみないで。」

止めてくれたのは良いものの湯治係の人魚たちはじっと明澄が脱ぐのを待ってみている。
視姦されている気分になって嫌になった明澄は、顔を赤くしながら湯治係の人魚たちにお願いした。

「――では、そちらの方をお使いください」

人魚の一人がシャワー室らしき個室に案内した後……、

「脱いだらこの籠にお入れください、後で持っていきますので……」

 “籠”と言った大きすぎるアワビの貝殻のような物を湯治係の人魚の一人が持って来て、そう言いつけてそれを置いた。準備が出来たら言ってくれと言い残し、湯治係達は一度シャワー室を退室した。

戸惑いながらも衣服をすべて脱いで腰元にあらかじめ用意されていた一枚のタオルを腰に巻いて、シャワー室から出た。

「あの、出来ましたけど」
「それでは、大浴場へ……」

一応準備が出来たと明澄が言うと、湯治係の人魚たちは明澄に大浴場に入る様促す。

「! ――わぁっ」

大浴場に目をやると王族が使うという浴場は古代ローマの浴場のような造りになっている代物だった。
 王族が使うのだからただの浴場ではないことは予想していたものの、浴場の造りの素晴らしさに感嘆の声をあげてしまう。

――ちゃぷっ

「あれっ? 暖かいかも……!?」

水風呂かと思って恐る恐る湯船に浸かると、人が浸かれる位の温度の暖かさをもった風呂だった。

「温水に変える魔法薬が入っている入浴剤が入っているのです。ーーでは、少し失礼します。背中をわたくしめの方に向けてください」

「ーーへっ!? あっ、あの……一人で出来ます」
「いいえ、遠慮なさらず。」

湯治係の人魚の一人が湯船にたまった水に温もりがあるのは入浴剤の効果だと明かしながら明澄に近づき、自分の方に背中を向けるように促してきたため、焦って湯治係の人魚に一人で洗うと言ったが湯治係は遠慮するなと体を洗い始める。

――ビクッ

「あっ、ちょ……!」
「――動かないでください、大丈夫です。」

背中を洗われてくすぐったさで思わず身体が跳ね上がってしまった、身体を洗う湯治係の人魚は暴れないよう言い聞かせながらも明澄の背中を洗い流す。

ごしごしごし……

(あっ、気持ち良いかも……)

身体を洗われることに抵抗はあったものの、あまりの気持ちよさに思わず抵抗を緩めてしまう。

「痒いところがあれば申してくださいませ。」
「…… はい。」

身体を洗っている湯治係の人魚がそう聞きながら淡々と明澄の身体を指の間から先まで洗って行ったのだった。結局、体の隅々まで湯治係の人魚たちに洗われてしまった。

――それから数分後、明澄の入浴が終わりを迎えそうになった頃……。

カチャ……

「あっ、終わったみたいですね……お疲れ様です。」

クリアが大浴場につながる脱衣所に赴き明澄の身体を洗い終わった事に気付いて大浴場から脱衣所に帰って来たのを見計らい、労いの言葉を掛けた。
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