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本編
第八話:兵士長
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明澄が湯治係達に連れてこられながら脱衣所に移動する。
「あっ、クリア……今明澄様の体をきれいにし終わったところだから髪と身体を拭き終わるまで少し待っていて」
湯治係の一人がクリアに気付き、明澄の身体を今洗い終わったところだと言うことを伝え、少し時間が欲しいと伝え、クリアはそれを了承する。明澄は体を洗われて気持ちよさで頭がぼうっとしたままだった。
湯治係達はタオルで明澄の体についている水滴を拭き取り、明澄を椅子に座らせると髪をタオルで丁寧に乾かし始める。
「思ったより気持ちよかった……」
「――大丈夫でしたでしょう?」
余韻にまだ浸りたそうに明澄は感想を言うと、にっこりと笑顔を浮かべながらクリアは水を入れたコップを差出す。
「そもそも私たちは王家に配属しているのですから、腕がそれなりになければ王宮にはいられません」
「そうですよね……」
先程明澄の身体を洗った湯治係が、髪を乾かしている湯治係に櫛を渡しながらそう言った。
よくよく考えたら、王家に仕えているのだからクリアも含めてここの使用人たちはそれなりのスペックを持っているのは当たり前なのだろうと明澄は頭の端で思っていた。
「――明澄様、今日はこちらにお着替えください」
「これ……?」
そう言ってクリアは服を広げてくれるがクリアが持って来た服はバスローブにも浴衣にも似たような薄い生地で出来た服だった、その服に明澄は目を丸くする。
「――すみません。今、人間に化けた時に下に穿くものの出来上がりが少し遅れているそうで……少しこれで我慢してください。」
クリアが申し訳なさそうに明澄に着せるハズだった服がまだ仕上がっていないため、浴衣やバスローブに似たような服であることを申し訳なさそうに詫びる。
――しかし、下着はぎりぎり用意されているみたいだった。
「まぁ、仕方ないよ……下着があるだけまだマシだし」
明澄は、出来ていないのならばクリアが持って来た服で我慢することを了承する。
「では、服を着たら言ってくださいまし。もし着替え方が分からないなら我々を呼んでくだされば結構です。」
「――えっ?」
「我々の眼が気になりますでしょう?」
湯治係の一人がさっきのようにシャワー室で着たらこっちに来てほしいと言ってきた、どうやら湯治係たちのそれなりの気遣いらしい。
服をクリアから貰った湯治係が貝殻の籠に服を入れてそう言った。
明澄はシャワー室の個室に入り、クリアの持って来た服を着たが紐の結び方がいまいち決まらず、紐を結ぶ所だけ湯治係の者にお願いしたのだった。
「――また身体を洗って欲しければ、我々におっしゃってくださいませ。」
湯治係の全員がそう言って脱衣所から出る明澄を見送った。
「では、お部屋に戻りましょう。お食事が用意されているはずです……」
「そういえば先輩は……、詠寿さんは?」
クリアから朝食の用意が出来ているので部屋に戻るように言われ、明澄は部屋を案内されながらもクリアに詠寿は今の時間帯は何をしているのか聞いた。
「――詠寿様は、今の時間帯なら朝のお食事をなさっているはずです。厳生様によれば食事の後武術の稽古をするらしいので……」
今の時間帯ならば詠寿は朝食を摂っているはずと、クリアは知っている限りの詠寿の情報を明澄に伝えた。聞く限りでは王家の跡取りらしいスケジュールをこなしているようだった。
ただ一つ、気になる点があった……。
「……詠寿さんは、まだご両親にボクの事伝えていないの?」
自分は“人魚族の掟”に従った詠寿に連れてこられたため、王である詠寿の父親は自分の事は把握済みなのかクリアに聞いてみる。
「一応言ってはいるみたいです、しかし……紹介するにはまだ時間をくれと要望したと聞きました。」
クリアは詠寿の父である王に明澄の事は知られていることと、詠寿がちゃんと明澄を紹介するまで時間を欲しいと父である王に願い出たと聞いたことを話す。
「――着きますよ。」
クリアは明澄が使っている部屋にもうすぐ着くことを知らせる。
顔をあげると明澄の部屋を警備している衛兵二人が少し退屈そうに壁に寄り掛かっている。
「食事はもう担当の者が部屋の中に運んである。」
「ーー分かりました、お疲れ様です。」
衛兵たちはクリアが明澄をつれて来た姿を見つけると食事がもう部屋に運ばれていることを伝える。
部屋に入るとテーブルにはすでに食事が用意されていた。
――ガチャン
部屋に入った瞬間、衛兵に扉を閉められた。
「後、詠寿様が武術のお稽古が終わり次第明澄様とお話したいことや見せたいものがあるとおっしゃっていましたよ。」
「そう……」
詠寿は稽古が終わり次第明澄にしてやりたいことがいろいろあるらしいとクリアは伝言を伝える。
「――じゃあ、稽古の時間終わるまで時間をつぶせるものが欲しいかな。」
呼ばれるまでの時間つぶしになるものが欲しいと、明澄はクリアに頼むことにした。
「言われてみれば、少しお暇を持て余すかもね……本とか言っていただければ持ってきますよ。」
クリアは二人っきりになったのを見越して少しため口になり、食事が終わったら自分が何か持ってくると約束する。
「……衛兵に用件を言えばいいのかな?」
「扉の傍に立っている衛兵に一度言っていただければ、衛兵たちが僕達使用人に言ってくれるはずだから。」
もし何かあれば衛兵に伝えろと言う詠寿の言葉を思い出した明澄は確認したくてクリアに一度聞くと見張り番の衛兵に言えば衛兵が使用人たちの誰かに明澄の代わりに要件を伝えてくれるはずだとクリアは答えた。
「お稽古が終わり次第、厳生様がこちらにいらっしゃると思います。……もし、何かあれば呼んでください。」
クリアは詠寿の稽古が終わり次第、厳生が明澄の部屋を尋ねるはずだと伝え、もしなにか不備や頼みごとがあれば呼んでほしいとクリアは言う。
「何から何までありがとう、いただきます。」
「ーーでは、ごゆっくりお召し上がりください。」
色々としてくれるクリアに明澄は感謝の言葉を述べた後食事が置いてあるテーブルに腰を掛ける。
クリアはそう言って部屋を去って行った。
――数十分後……。
「……ふぅ、ご馳走様。」
明澄は一人食事を終えて満腹感に浸っているのもつかの間、食器を片付けて貰おうと席を立った。
扉の向こうにいるはずの衛兵に伝えようと扉をノックしてみる。
「――どうかなさいましたか?」
「食事が終わったから、食器を片づけて貰えませんか?」
衛兵の一人が少し扉を開けて返事を返してきたので、明澄が衛兵に用件を伝える。
「――分かりました、ここを通った使用人に下げさせます。」
衛兵が部屋を横切った使用人を呼び止めて食器を下げさせると用件を了承して扉を閉めようとしたが……、
「それと、厳生さんが来るまで暇だからクリア君に本か何か持って来てほしいと言ってください。」
図々しいかもしれないが、部屋には軟禁状態で詠寿の許可やよっぽどのことがない限り部屋を出ることは許されない為、衛兵に使用人に頼んで時間を潰せるものを持って来てほしいと願い出た。
「ーー分かりました。」
衛兵は部屋から出たいと願い出なかったせいか、この件についてはあっさり了承してくれた。
数分後、食器を片付けに来た使用人がサービスワゴンらしき滑車を押しながら入ってきて、食器を次々とサービスワゴンらしき滑車に乗せて片付けてくれた。使用人がテーブルを拭いてすべて皿を片付け追えた同時にクリアも何冊かの本と小道具みたいなものを持って来てくれたのだった。
「――お待たせしました、人魚界の歴史に関わる本とクラフト作りの小道具と材料をお持ちしました。」
クリアが要望通り時間を潰せそうなものを持って来てくれた。
「人魚界の歴史についてはまだ知らないことたくさんあるでしょうし、よければ。」
「――ありがとう。」
人魚界についてまだまだ明澄は知らない為、クリアはそんな明澄のために持って来てくれていたのだった。
「クラフト作り? なにそれ面白そう!」
明澄はクラフト作りに興味を示した、クリアが蓋を開けると材料には手芸に使う糸や飾り付け用の貝殻やら小さな木材やサンゴ等が入った箱と糊と思わしきものに入れた瓶がある。
「サンゴや貝殻を使って自分のオリジナルのアクセサリーを作る手芸ですよ、ミサンガや首飾りを作ることも出来るんです。……やってみますか?」
「――うん。」
「では、一緒に作りながらやりましょう」
クリアはマリンクラフト作りをやってみたいか聞いて来た、もともと海に関する手芸品が好きだった明澄はすぐ頷き、クリアは実践するために席に着こうとテーブルを指差した。
「――では、お好きなサンゴか貝殻を選んでください」
席に着くとクリアは早速作り方を教えてくれた、クラフト作りは思ったより楽しくて時間を忘れて行った。
「――あっ、厳生様……どうぞ。」
「「――!」」
見張り番の衛兵は厳生が姿をあらわすなり声を上げたので、扉越しに聞こえる衛兵たちの声は厳生が来たことを教えてくれた。
「――来たみたいですね。」
――コンコン
「――明澄様、詠寿様の武術の稽古が終わりましたので詠寿様の元へご案内します。部屋に入っても?」
クリアが呟くと厳生がノックする音と、入室許可を貰おうとする声が部屋に響き渡った、明澄は慌てて席を立ち、クリアもそれにつられるように席を立った。
「どうぞ……」
――カチャッ
「おや、クリアもいたのですか?」
「ーーあっ、はい。ボクが暇を持て余さないようクラフト作りを教えてほしいって言ったんです。」
入出許可を貰うと厳生は入出して来ると同時にクリアがいたことに気付き、明澄はクリアが部屋にいた理由を代わりに話す。理由を聞いて納得はしていたが感嘆の声の表情が薄いためあまり興味はなさそうだった。
「――では、詠寿様の元に行きましょう。クリア……詠寿様と明澄様の飲み物を訓練所まで持ってきなさい」
「あっ、はい……」
厳生は明澄に詠寿がいるところに行こうと促し、続けてクリアに稽古で疲れている詠寿のための飲み物と明澄にも何か飲み物を持ってくるように命じる。クリアは厳生の命令を了承し厨房に急いだ。
「ーーでは、行きましょう。」
厳生は明澄に詠寿の元まで行くよう急かされ明澄は言われた通り、厳生に誘導されて移動した。
部屋を出て厳生の後について行くと、広い部屋へとたどり着く。
そこには何十人もの傭兵が武術や剣術の訓練をしており、気合いを入れる声が飛び交う。
その中に詠寿の姿があり、詠寿は稽古の相手をしていたと思われる傭兵とともに息を切らしている。
詠寿と傭兵たちの訓練する姿に唖然としていると……、
「――王子、明澄様をお連れしましたよ。」
「……あぁ、すまないな。」
「――いいえ。」
厳生が詠寿に明澄を連れてきたことを報告する、厳生にお礼を言いながら詠寿は息を整え終わったのを見越して立ち上がり……
「すまないな明澄、兵士長がお前を一目見たいと言ってな」
兵士長が明澄をどんな人物が見たいと言いだしたため呼んだという理由を話し、急に呼び出したことを詫びる。
「――おぉ、噂の明澄様が!?」
詠寿の相手をしていた男が明澄を連れてきたことを聞くと、待っていたと言わんばかりにすぐさま立ち上がり明澄の顔をじっくり見た。
相手をしていた男は詠寿より背が高く背びれ、尾びれ、尻びれがつながっている独特の下半身を持つ黄緑色の下半身を持つ人魚の男だった。
「……貴方様が明澄様で?」
「――えっ!? はっ、はい。」
詠寿の相手をしていた男が明澄を目にすると明澄本人か確かめて来た為、明澄は慌てて答える。
「おぉ……さすが王子、お目が高い。お美しい方だ。お話で聞いていたより美人だ……王子も気に入る訳ですな」
「――やめなさい、アリヴ。」
明澄を一目見るなり男はうっとりとした顔をする、アリヴと呼ばれた男は言葉に困惑する明澄を見てからかうように呟くと、厳生がそれを呆れながら注意する。そしてアリヴと呼ばれた詠寿の相手をしていた男は明澄に一礼すると……、
「申し遅れました、初にお目にかかります。明澄様……私、この王宮で兵士長を務めさせてもらっています、“アリヴ”と申します。呼ぶときはアリヴとおっしゃってくださいませ」
兵士長もといアリヴは明澄に先程砕けた口調とは違い、従者らしい丁寧な言葉遣いで自己紹介をした。
「えっと、見た感じ“ウツボ”……?」
「――おや? 私の魚種を当ててしまうとは……その通り、私の下半身は“グリーンモレイ”というウツボの仲間ですよ。」
明澄はアリヴの魚種が独特のひれから見てウツボなのか聞いて来るとアリヴは自分がグリーンモレイと呼ばれるウツボの人魚だということを明かした。
「あっ、クリア……今明澄様の体をきれいにし終わったところだから髪と身体を拭き終わるまで少し待っていて」
湯治係の一人がクリアに気付き、明澄の身体を今洗い終わったところだと言うことを伝え、少し時間が欲しいと伝え、クリアはそれを了承する。明澄は体を洗われて気持ちよさで頭がぼうっとしたままだった。
湯治係達はタオルで明澄の体についている水滴を拭き取り、明澄を椅子に座らせると髪をタオルで丁寧に乾かし始める。
「思ったより気持ちよかった……」
「――大丈夫でしたでしょう?」
余韻にまだ浸りたそうに明澄は感想を言うと、にっこりと笑顔を浮かべながらクリアは水を入れたコップを差出す。
「そもそも私たちは王家に配属しているのですから、腕がそれなりになければ王宮にはいられません」
「そうですよね……」
先程明澄の身体を洗った湯治係が、髪を乾かしている湯治係に櫛を渡しながらそう言った。
よくよく考えたら、王家に仕えているのだからクリアも含めてここの使用人たちはそれなりのスペックを持っているのは当たり前なのだろうと明澄は頭の端で思っていた。
「――明澄様、今日はこちらにお着替えください」
「これ……?」
そう言ってクリアは服を広げてくれるがクリアが持って来た服はバスローブにも浴衣にも似たような薄い生地で出来た服だった、その服に明澄は目を丸くする。
「――すみません。今、人間に化けた時に下に穿くものの出来上がりが少し遅れているそうで……少しこれで我慢してください。」
クリアが申し訳なさそうに明澄に着せるハズだった服がまだ仕上がっていないため、浴衣やバスローブに似たような服であることを申し訳なさそうに詫びる。
――しかし、下着はぎりぎり用意されているみたいだった。
「まぁ、仕方ないよ……下着があるだけまだマシだし」
明澄は、出来ていないのならばクリアが持って来た服で我慢することを了承する。
「では、服を着たら言ってくださいまし。もし着替え方が分からないなら我々を呼んでくだされば結構です。」
「――えっ?」
「我々の眼が気になりますでしょう?」
湯治係の一人がさっきのようにシャワー室で着たらこっちに来てほしいと言ってきた、どうやら湯治係たちのそれなりの気遣いらしい。
服をクリアから貰った湯治係が貝殻の籠に服を入れてそう言った。
明澄はシャワー室の個室に入り、クリアの持って来た服を着たが紐の結び方がいまいち決まらず、紐を結ぶ所だけ湯治係の者にお願いしたのだった。
「――また身体を洗って欲しければ、我々におっしゃってくださいませ。」
湯治係の全員がそう言って脱衣所から出る明澄を見送った。
「では、お部屋に戻りましょう。お食事が用意されているはずです……」
「そういえば先輩は……、詠寿さんは?」
クリアから朝食の用意が出来ているので部屋に戻るように言われ、明澄は部屋を案内されながらもクリアに詠寿は今の時間帯は何をしているのか聞いた。
「――詠寿様は、今の時間帯なら朝のお食事をなさっているはずです。厳生様によれば食事の後武術の稽古をするらしいので……」
今の時間帯ならば詠寿は朝食を摂っているはずと、クリアは知っている限りの詠寿の情報を明澄に伝えた。聞く限りでは王家の跡取りらしいスケジュールをこなしているようだった。
ただ一つ、気になる点があった……。
「……詠寿さんは、まだご両親にボクの事伝えていないの?」
自分は“人魚族の掟”に従った詠寿に連れてこられたため、王である詠寿の父親は自分の事は把握済みなのかクリアに聞いてみる。
「一応言ってはいるみたいです、しかし……紹介するにはまだ時間をくれと要望したと聞きました。」
クリアは詠寿の父である王に明澄の事は知られていることと、詠寿がちゃんと明澄を紹介するまで時間を欲しいと父である王に願い出たと聞いたことを話す。
「――着きますよ。」
クリアは明澄が使っている部屋にもうすぐ着くことを知らせる。
顔をあげると明澄の部屋を警備している衛兵二人が少し退屈そうに壁に寄り掛かっている。
「食事はもう担当の者が部屋の中に運んである。」
「ーー分かりました、お疲れ様です。」
衛兵たちはクリアが明澄をつれて来た姿を見つけると食事がもう部屋に運ばれていることを伝える。
部屋に入るとテーブルにはすでに食事が用意されていた。
――ガチャン
部屋に入った瞬間、衛兵に扉を閉められた。
「後、詠寿様が武術のお稽古が終わり次第明澄様とお話したいことや見せたいものがあるとおっしゃっていましたよ。」
「そう……」
詠寿は稽古が終わり次第明澄にしてやりたいことがいろいろあるらしいとクリアは伝言を伝える。
「――じゃあ、稽古の時間終わるまで時間をつぶせるものが欲しいかな。」
呼ばれるまでの時間つぶしになるものが欲しいと、明澄はクリアに頼むことにした。
「言われてみれば、少しお暇を持て余すかもね……本とか言っていただければ持ってきますよ。」
クリアは二人っきりになったのを見越して少しため口になり、食事が終わったら自分が何か持ってくると約束する。
「……衛兵に用件を言えばいいのかな?」
「扉の傍に立っている衛兵に一度言っていただければ、衛兵たちが僕達使用人に言ってくれるはずだから。」
もし何かあれば衛兵に伝えろと言う詠寿の言葉を思い出した明澄は確認したくてクリアに一度聞くと見張り番の衛兵に言えば衛兵が使用人たちの誰かに明澄の代わりに要件を伝えてくれるはずだとクリアは答えた。
「お稽古が終わり次第、厳生様がこちらにいらっしゃると思います。……もし、何かあれば呼んでください。」
クリアは詠寿の稽古が終わり次第、厳生が明澄の部屋を尋ねるはずだと伝え、もしなにか不備や頼みごとがあれば呼んでほしいとクリアは言う。
「何から何までありがとう、いただきます。」
「ーーでは、ごゆっくりお召し上がりください。」
色々としてくれるクリアに明澄は感謝の言葉を述べた後食事が置いてあるテーブルに腰を掛ける。
クリアはそう言って部屋を去って行った。
――数十分後……。
「……ふぅ、ご馳走様。」
明澄は一人食事を終えて満腹感に浸っているのもつかの間、食器を片付けて貰おうと席を立った。
扉の向こうにいるはずの衛兵に伝えようと扉をノックしてみる。
「――どうかなさいましたか?」
「食事が終わったから、食器を片づけて貰えませんか?」
衛兵の一人が少し扉を開けて返事を返してきたので、明澄が衛兵に用件を伝える。
「――分かりました、ここを通った使用人に下げさせます。」
衛兵が部屋を横切った使用人を呼び止めて食器を下げさせると用件を了承して扉を閉めようとしたが……、
「それと、厳生さんが来るまで暇だからクリア君に本か何か持って来てほしいと言ってください。」
図々しいかもしれないが、部屋には軟禁状態で詠寿の許可やよっぽどのことがない限り部屋を出ることは許されない為、衛兵に使用人に頼んで時間を潰せるものを持って来てほしいと願い出た。
「ーー分かりました。」
衛兵は部屋から出たいと願い出なかったせいか、この件についてはあっさり了承してくれた。
数分後、食器を片付けに来た使用人がサービスワゴンらしき滑車を押しながら入ってきて、食器を次々とサービスワゴンらしき滑車に乗せて片付けてくれた。使用人がテーブルを拭いてすべて皿を片付け追えた同時にクリアも何冊かの本と小道具みたいなものを持って来てくれたのだった。
「――お待たせしました、人魚界の歴史に関わる本とクラフト作りの小道具と材料をお持ちしました。」
クリアが要望通り時間を潰せそうなものを持って来てくれた。
「人魚界の歴史についてはまだ知らないことたくさんあるでしょうし、よければ。」
「――ありがとう。」
人魚界についてまだまだ明澄は知らない為、クリアはそんな明澄のために持って来てくれていたのだった。
「クラフト作り? なにそれ面白そう!」
明澄はクラフト作りに興味を示した、クリアが蓋を開けると材料には手芸に使う糸や飾り付け用の貝殻やら小さな木材やサンゴ等が入った箱と糊と思わしきものに入れた瓶がある。
「サンゴや貝殻を使って自分のオリジナルのアクセサリーを作る手芸ですよ、ミサンガや首飾りを作ることも出来るんです。……やってみますか?」
「――うん。」
「では、一緒に作りながらやりましょう」
クリアはマリンクラフト作りをやってみたいか聞いて来た、もともと海に関する手芸品が好きだった明澄はすぐ頷き、クリアは実践するために席に着こうとテーブルを指差した。
「――では、お好きなサンゴか貝殻を選んでください」
席に着くとクリアは早速作り方を教えてくれた、クラフト作りは思ったより楽しくて時間を忘れて行った。
「――あっ、厳生様……どうぞ。」
「「――!」」
見張り番の衛兵は厳生が姿をあらわすなり声を上げたので、扉越しに聞こえる衛兵たちの声は厳生が来たことを教えてくれた。
「――来たみたいですね。」
――コンコン
「――明澄様、詠寿様の武術の稽古が終わりましたので詠寿様の元へご案内します。部屋に入っても?」
クリアが呟くと厳生がノックする音と、入室許可を貰おうとする声が部屋に響き渡った、明澄は慌てて席を立ち、クリアもそれにつられるように席を立った。
「どうぞ……」
――カチャッ
「おや、クリアもいたのですか?」
「ーーあっ、はい。ボクが暇を持て余さないようクラフト作りを教えてほしいって言ったんです。」
入出許可を貰うと厳生は入出して来ると同時にクリアがいたことに気付き、明澄はクリアが部屋にいた理由を代わりに話す。理由を聞いて納得はしていたが感嘆の声の表情が薄いためあまり興味はなさそうだった。
「――では、詠寿様の元に行きましょう。クリア……詠寿様と明澄様の飲み物を訓練所まで持ってきなさい」
「あっ、はい……」
厳生は明澄に詠寿がいるところに行こうと促し、続けてクリアに稽古で疲れている詠寿のための飲み物と明澄にも何か飲み物を持ってくるように命じる。クリアは厳生の命令を了承し厨房に急いだ。
「ーーでは、行きましょう。」
厳生は明澄に詠寿の元まで行くよう急かされ明澄は言われた通り、厳生に誘導されて移動した。
部屋を出て厳生の後について行くと、広い部屋へとたどり着く。
そこには何十人もの傭兵が武術や剣術の訓練をしており、気合いを入れる声が飛び交う。
その中に詠寿の姿があり、詠寿は稽古の相手をしていたと思われる傭兵とともに息を切らしている。
詠寿と傭兵たちの訓練する姿に唖然としていると……、
「――王子、明澄様をお連れしましたよ。」
「……あぁ、すまないな。」
「――いいえ。」
厳生が詠寿に明澄を連れてきたことを報告する、厳生にお礼を言いながら詠寿は息を整え終わったのを見越して立ち上がり……
「すまないな明澄、兵士長がお前を一目見たいと言ってな」
兵士長が明澄をどんな人物が見たいと言いだしたため呼んだという理由を話し、急に呼び出したことを詫びる。
「――おぉ、噂の明澄様が!?」
詠寿の相手をしていた男が明澄を連れてきたことを聞くと、待っていたと言わんばかりにすぐさま立ち上がり明澄の顔をじっくり見た。
相手をしていた男は詠寿より背が高く背びれ、尾びれ、尻びれがつながっている独特の下半身を持つ黄緑色の下半身を持つ人魚の男だった。
「……貴方様が明澄様で?」
「――えっ!? はっ、はい。」
詠寿の相手をしていた男が明澄を目にすると明澄本人か確かめて来た為、明澄は慌てて答える。
「おぉ……さすが王子、お目が高い。お美しい方だ。お話で聞いていたより美人だ……王子も気に入る訳ですな」
「――やめなさい、アリヴ。」
明澄を一目見るなり男はうっとりとした顔をする、アリヴと呼ばれた男は言葉に困惑する明澄を見てからかうように呟くと、厳生がそれを呆れながら注意する。そしてアリヴと呼ばれた詠寿の相手をしていた男は明澄に一礼すると……、
「申し遅れました、初にお目にかかります。明澄様……私、この王宮で兵士長を務めさせてもらっています、“アリヴ”と申します。呼ぶときはアリヴとおっしゃってくださいませ」
兵士長もといアリヴは明澄に先程砕けた口調とは違い、従者らしい丁寧な言葉遣いで自己紹介をした。
「えっと、見た感じ“ウツボ”……?」
「――おや? 私の魚種を当ててしまうとは……その通り、私の下半身は“グリーンモレイ”というウツボの仲間ですよ。」
明澄はアリヴの魚種が独特のひれから見てウツボなのか聞いて来るとアリヴは自分がグリーンモレイと呼ばれるウツボの人魚だということを明かした。
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