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本編
第十八話:ある女人魚との約束
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そしてリョウジは紫色の薬が入った瓶を明澄に見せ、その薬数本とその薬が入っていると思われる注射が入ったケースを厳生に手渡した。仕草からして、もしもの為ということだろう。
「――だが、まだ抑制することしか出来ない。クローディオとその兄貴であるクエシスはこの悪癖を完全に治そうとしているんだが……なかなか手強いやつでね。クエシスは治すヒントがないか人魚界をでて人間界に行っちまったんだ」
しかしまだ抑制することしか出来ず悪癖は今の段階では完全に治すことが出来ないことと、リョウジの恩人の一人にして大魔導師・クエシスは悪癖を探すヒントを捜しに、薬の研究を弟であるクローディオに任せて人間界へ行ってしまったことをリョウジは明かした。
「大魔導師クエシスがクローディオさんのお兄さん!?」
「あぁ、クローディオは5人兄弟のうちの次男坊でクエシスは長男。他の兄弟もいろんなところで元気にやってるみたいだが、四男坊だけはグレて家出しちまっているみてぇで音信不通なんだって。確か……“ノゼル”って言ったかな?」
「――話、大分ずれてますよ。」
クローディオとクエシスが兄弟である事実に明澄は驚くと、リョウジがクエシスの兄弟についてや家庭事情を話すと厳生が話がずれていると突っ込みを入れて話を戻すように促す。
「――あっ、悪い悪い……戻そう。んで、俺もその悪癖治す薬の製造に協力してるんだ。」
「へぇ……」
そして自分も海洋生物の生態の研究とともに、悪癖を治す薬の開発に協力していることをリョウジは話す。
「――それが、妻との……リヴェラとの約束だったからね」
「リヴェラさんって前にも話していたリョウジさんが若い時に船が大時化で難破して溺れかけていたのを助けてくれた女人魚?」
そして悪癖を治すことはリヴェラとの約束でもあるためこの人魚界に滞在しているとリョウジは明かすと、前に話していたリョウジの妻になった命の恩人でもある女人魚の事か明澄は確認する。
「あぁ、そうだ。リヴェラは王子のお世話係だった女で……そこにいる厳生のお姉さんでもあるんだ」
「――!?」
「“サツキマス”……いいや“アマゴ”って言った方がいいかな? その魚の人魚でね、リヴェラは……俺にとっても王子にとっても拠り所だった。俺にはもったいないくらいの良い奥さんだった」
リョウジは厳生と妻であるリヴェラは実は姉弟であることを明かし、リョウジはリヴェラとの出会いと思い出話をし始めた。
「――十三年前に俺は人魚界に来た後、高熱に苦しんでね。リヴェラとクエシスは仕事の合間を縫って必死で俺を看病してくれたんだ。高熱から完治した後色々な事を教えてくれてね……」
人魚界に流れ着いた後、当時高熱で倒れていたリョウジをリヴェラとクエシスは仕事の合間を縫って看病してくれたのだと言う。
「先代国王……詠寿サマのお祖父様も人間に対してはとてもいい人魚でね。人魚界を知らない俺に好きなだけこの人魚界にいていいと言ってくれた。リヴェラは人間を毛嫌いする一部の人魚たちの眼も気にせず俺に優しく接してくれた。」
実は詠寿の亡くなった祖父とも面識があり、好きなだけ人魚界にいていいと言ってくれたことやリヴェラは人間を嫌う人魚たちの眼を気にせず自分に優しくしてくれたとリョウジは過去を続けて話す。
「――俺は彼女が何かしらクエシスと研究をしていることを知って研究室を覗いて何の研究か聞いた、そして俺はここで悪癖の事を知ったんだよ」
元々研究室はクエシスが使っていた場所で、リョウジはこの時に悪癖の正体や悪癖を治す研究をしていることを知ったと言う。
「……リヴェラは王子のこの持病を治せないかっていつも悩んでいたよ、『これが付いて回るのなら王子が可哀そうだ』って言ってね」
「――!」
リョウジは、生前のリヴェラは詠寿の性格をよく知っている立場から、この悪癖に苦しみ続けて生きていくことになる詠寿の将来を考えると胸を痛めていた事を明かした。
「でも俺は、彼女のその瞳は王子のためだけのモノじゃない気がしてね……」
「――?」
「聞いたのさ、どうしてそこまで悪癖を治すことにこだわるのかね……」
『リヴェラ、君がそこまでして悪癖を治そうと躍起になる理由を聞かせてくれないか?』
理由が詠寿だけではなく他にもあると睨んだリョウジは、駄目元で他に隠されていた理由をリヴェラ本人に問いかけたという。
「彼女は鮫の人魚の悪癖治しにこだわる理由は他にもあることをちゃんと教えてくれた」
『私には鮫の人魚の友達がいたの……、彼女はネムリブカって呼ばれる鮫の人魚だった』
鮫の人魚だった友達の事もあったからだと、リヴェラは正直に話してくれたらしい。
「聞けばリヴェラの友人は血を流した恋人を悪癖が出てしまったせいでさらに深手を負わせてしまったらしい、その事で深く傷ついた彼女の友達は自責のあまりに毒を飲んで自殺しちまったんだって……」
リヴェラの友人が悪癖が出たことで恋人に深手を負わせてしまったことにショックを受け、服毒自殺してしまったことも理由の一つだったらしく、リヴェラ自身はもう友人のような悲劇を生むようなことになって欲しくなかったらしい。
「彼女は『友達を支えてあげられなかった罪滅ぼし』と言ったが……俺は彼女のそのひたむきな姿に惹かれて人魚界に残ることを決心し彼女とプロポーズしたんだ。」
リョウジは、そんなリヴェラの人柄に惹かれてついに告白まで焚き付けたくらいにまで彼女に惚れていったと明かす。
「――でも、最初は断られたんだ。」
「――えっ、どうして……!?」
「自分が人魚だったこともそうだったみたいですが、姉は……幼少のころから病に侵されていて長くは生きられないって言われていたんです」
最初に球根を申し込むと断られたらしく、その理由を問うと厳生が代わるようにリヴェラもリョウジのことを思うとリョウジが種族が違う理由で白眼視されることを気にして悩んでいた事や病弱で長くは生きられない身体だった為、自分がリョウジの嫁の資格があるはずないと思っていた節があったと話す。
「――でも、姉も本心ではリョウジさんに惹かれていたんですよ。」
長く生きられない身体ではリョウジと夫婦の時間は長く過ごせない、リヴェラは心の中ではリョウジの事は好きでもリョウジの事を半ば諦めていたのだと厳生は話した。
「俺は言ったよ、『そんなこと構いやしない、君と残りの時間をこの人魚界とともに捧げる。夫婦の時間を君と過ごしたいんだ。』って……俺の心はここで決心したんだ。他にはあまり歓迎されていなくても俺はリヴェラが傍にいてくれればそれでよかった」
全ての人魚に歓迎されなくても、種族が違っても構わない。
ただ愛するリヴェラの限られた命が尽きるまで夫婦としての時間を過ごしたいと彼女に告げたと、リョウジは話した。
「彼女は俺に言ったよ……」
『ーー貴方を好きになって良かった。』
「――ってね。」
「……」
リヴェラが笑顔で涙を流しながら自分に言った言葉を思い出して懐かしんでいた。
「――でも」
「……?」
突然、何かを嫌な思い出を思い出したようにリョウジの顔が曇り始める。
――ガシャン!
『リヴェラ……!』
リョウジの脳内にリヴェラが倒れた光景が浮かび上がった。忘れもしない突然の別れ。
「……数年後、リヴェラが危篤状態に陥った。ただでさえ体が弱いのに研究の手伝いと王子の世話係までしていたのが堪えたんだろうって、医者に言われた。」
「――!?」
リョウジはリヴェラとの夫婦の時間は思ったより早く終わりを告げたことを話した、危篤に陥った原因は重度の過労に病弱な体がついて行けなかったのだったという。詠寿が大人になる前に早く薬を完成させたかった彼女は焦って無理を続けたのだろうとのことだった。
リョウジはリヴェラが危篤状態に陥った時に、自分たちに彼女が訴えたあの言葉を思い出していた……。
『お願い、あなた……王子を、詠寿様の、鮫の悪癖を治す薬を必ず作ってあげて? 王子は優しすぎるうえに不器用でもろい方だから……心配なの』
『わかった。必ず成功させて鮫の人魚たちの悪癖治してやるから……!』
危篤状態の中、リヴェラは夫であるリョウジにそうお願いしてきた。
リョウジは涙を流しながら手を握って約束を守ると宣言する。
『姉さん……』
『厳生……王子をお願いね、私の分まで、しっかり支えてあげて。王子には支えになってくれる人が必要なの。王子がもし、人間を好きになったら……貴方が王子の恋の行方をしっかり見守ってあげて欲しいの』
『わかった、分かったよ……お姉さん』
危篤状態の姉を横で見ていた厳生がリヴェラに声を掛けると、リヴェラは自分の代わりに王子を支えてあげてほしいと弟である厳生にお願いしてきた。
厳生は必死で頷いて姉の代わりに詠寿を支えると約束する。
『リヴェラ……!』
『王子、人間に恋をした人魚は報われないという話があるけど私は……あれは“嘘”だと思います。』
危篤状態を聞きつけ、駆けつけた詠寿に息を切らしながらリヴェラは詠寿に伝えたいことを伝えようとする。リヴェラは昔から人魚は人間に恋をすると報われずに終わるという言葉に疑問を抱いていたが、自分の中で漸く答えが見つかったと話す。
『だって私は、リョウジに愛されて幸せだったんだもの。』
『――!』
そしてリヴェラは言った、リョウジに愛されて“幸せ”だったと……。
『王子……鮫の人魚だからって、恋に見境なんてつけないで? あなたを受け入れてくれる人間が必ずいる。リョウジみたいに……種族が違くたって構わないと言ってくれる大切な人が、貴方にもできるはずだから……それを信じて。人魚が人に恋することは絶対に悪い事じゃないから……“愛”に種族なんて、ないんですよ?』
『――っ』
自分がリョウジに出会えて結婚までできたように、もし詠寿が人間を好きになってもその恋を種族が違うからと言って諦めないでほしいと人魚が人間に恋をすることは決していけないことではないと、リヴェラは詠寿に教えた。
『王子……貴方の幸せを、祈っています。』
リヴェラは詠寿に笑顔を向け、リョウジの方を向くと……
『リョウジ、愛してくれてありがとう。』
リョウジにそう告げて息を引き取った、享年28歳という若い生涯を彼女は閉じた。
・
・
・
リヴェラがどんな人物だったかリョウジは語り終えた後……、
――ポロッ
「――だから何としてでも悪癖を治さなきゃいけないんだ。治せなきゃ、俺は彼女に顔を合わせられないじゃねえか!」
涙を流しながらリョウジはリヴェラの為にも研究を何とか完成させなければいけないのだと話す。
厳生の目にも、涙の筋が流れていた。
「リョウジさん……」
涙を流して過去とリヴェラとの約束を自分に語ってくれたリョウジの姿に、明澄は
胸を締め付けられるような気持ちに襲われた。そして話を聞かせて貰って色々わかった……。
厳生の詠寿に対する忠誠心が強い理由は姉との約束もあるからだと、鮫の人魚の悪癖がどれだけ
鮫の人魚の心を苛むのかも、優しい心の持ち主の鮫の人魚ほどこの悪癖に苦しむことになる、明澄はそう直感した。
――そして厳生は少し前に自分にこう言った……、
『詠寿様は……この悪癖で貴方を傷つけるのではないかと不安視されていました。』
詠寿が悪癖でいつか自分を傷つけるのではないのかと懸念していたと。
「先輩……」
もしそれが本当なら明澄は信じたかった。
詠寿は、悪癖でいつか自分を傷つける事になるのではと怯えていたくらい本来はとても優しい性格な人魚なのだと。そちらが本当の詠寿の姿だと……。
「差し控えなければ、貴方には……もう一つ見てもらいたいものがあるんですが」
そして涙を拭うと厳生はもう一つ見てほしいものがあると告げるが……、
――ガチャン!
「――厳生、タイムリミットだ!」
ショットが突然慌てたように中庭に駆けつけ、厳生にそう告げる。
「王子が、帰ってこられたのですね?」
「あぁ……お帰りになられた! もう厳生も明澄様ももう戻った方がいい!」
詠寿が帰って来たことをショットが息を切らしながら告げ、もう明澄は部屋に戻っていた方がいいと話す。
「――だが、まだ抑制することしか出来ない。クローディオとその兄貴であるクエシスはこの悪癖を完全に治そうとしているんだが……なかなか手強いやつでね。クエシスは治すヒントがないか人魚界をでて人間界に行っちまったんだ」
しかしまだ抑制することしか出来ず悪癖は今の段階では完全に治すことが出来ないことと、リョウジの恩人の一人にして大魔導師・クエシスは悪癖を探すヒントを捜しに、薬の研究を弟であるクローディオに任せて人間界へ行ってしまったことをリョウジは明かした。
「大魔導師クエシスがクローディオさんのお兄さん!?」
「あぁ、クローディオは5人兄弟のうちの次男坊でクエシスは長男。他の兄弟もいろんなところで元気にやってるみたいだが、四男坊だけはグレて家出しちまっているみてぇで音信不通なんだって。確か……“ノゼル”って言ったかな?」
「――話、大分ずれてますよ。」
クローディオとクエシスが兄弟である事実に明澄は驚くと、リョウジがクエシスの兄弟についてや家庭事情を話すと厳生が話がずれていると突っ込みを入れて話を戻すように促す。
「――あっ、悪い悪い……戻そう。んで、俺もその悪癖治す薬の製造に協力してるんだ。」
「へぇ……」
そして自分も海洋生物の生態の研究とともに、悪癖を治す薬の開発に協力していることをリョウジは話す。
「――それが、妻との……リヴェラとの約束だったからね」
「リヴェラさんって前にも話していたリョウジさんが若い時に船が大時化で難破して溺れかけていたのを助けてくれた女人魚?」
そして悪癖を治すことはリヴェラとの約束でもあるためこの人魚界に滞在しているとリョウジは明かすと、前に話していたリョウジの妻になった命の恩人でもある女人魚の事か明澄は確認する。
「あぁ、そうだ。リヴェラは王子のお世話係だった女で……そこにいる厳生のお姉さんでもあるんだ」
「――!?」
「“サツキマス”……いいや“アマゴ”って言った方がいいかな? その魚の人魚でね、リヴェラは……俺にとっても王子にとっても拠り所だった。俺にはもったいないくらいの良い奥さんだった」
リョウジは厳生と妻であるリヴェラは実は姉弟であることを明かし、リョウジはリヴェラとの出会いと思い出話をし始めた。
「――十三年前に俺は人魚界に来た後、高熱に苦しんでね。リヴェラとクエシスは仕事の合間を縫って必死で俺を看病してくれたんだ。高熱から完治した後色々な事を教えてくれてね……」
人魚界に流れ着いた後、当時高熱で倒れていたリョウジをリヴェラとクエシスは仕事の合間を縫って看病してくれたのだと言う。
「先代国王……詠寿サマのお祖父様も人間に対してはとてもいい人魚でね。人魚界を知らない俺に好きなだけこの人魚界にいていいと言ってくれた。リヴェラは人間を毛嫌いする一部の人魚たちの眼も気にせず俺に優しく接してくれた。」
実は詠寿の亡くなった祖父とも面識があり、好きなだけ人魚界にいていいと言ってくれたことやリヴェラは人間を嫌う人魚たちの眼を気にせず自分に優しくしてくれたとリョウジは過去を続けて話す。
「――俺は彼女が何かしらクエシスと研究をしていることを知って研究室を覗いて何の研究か聞いた、そして俺はここで悪癖の事を知ったんだよ」
元々研究室はクエシスが使っていた場所で、リョウジはこの時に悪癖の正体や悪癖を治す研究をしていることを知ったと言う。
「……リヴェラは王子のこの持病を治せないかっていつも悩んでいたよ、『これが付いて回るのなら王子が可哀そうだ』って言ってね」
「――!」
リョウジは、生前のリヴェラは詠寿の性格をよく知っている立場から、この悪癖に苦しみ続けて生きていくことになる詠寿の将来を考えると胸を痛めていた事を明かした。
「でも俺は、彼女のその瞳は王子のためだけのモノじゃない気がしてね……」
「――?」
「聞いたのさ、どうしてそこまで悪癖を治すことにこだわるのかね……」
『リヴェラ、君がそこまでして悪癖を治そうと躍起になる理由を聞かせてくれないか?』
理由が詠寿だけではなく他にもあると睨んだリョウジは、駄目元で他に隠されていた理由をリヴェラ本人に問いかけたという。
「彼女は鮫の人魚の悪癖治しにこだわる理由は他にもあることをちゃんと教えてくれた」
『私には鮫の人魚の友達がいたの……、彼女はネムリブカって呼ばれる鮫の人魚だった』
鮫の人魚だった友達の事もあったからだと、リヴェラは正直に話してくれたらしい。
「聞けばリヴェラの友人は血を流した恋人を悪癖が出てしまったせいでさらに深手を負わせてしまったらしい、その事で深く傷ついた彼女の友達は自責のあまりに毒を飲んで自殺しちまったんだって……」
リヴェラの友人が悪癖が出たことで恋人に深手を負わせてしまったことにショックを受け、服毒自殺してしまったことも理由の一つだったらしく、リヴェラ自身はもう友人のような悲劇を生むようなことになって欲しくなかったらしい。
「彼女は『友達を支えてあげられなかった罪滅ぼし』と言ったが……俺は彼女のそのひたむきな姿に惹かれて人魚界に残ることを決心し彼女とプロポーズしたんだ。」
リョウジは、そんなリヴェラの人柄に惹かれてついに告白まで焚き付けたくらいにまで彼女に惚れていったと明かす。
「――でも、最初は断られたんだ。」
「――えっ、どうして……!?」
「自分が人魚だったこともそうだったみたいですが、姉は……幼少のころから病に侵されていて長くは生きられないって言われていたんです」
最初に球根を申し込むと断られたらしく、その理由を問うと厳生が代わるようにリヴェラもリョウジのことを思うとリョウジが種族が違う理由で白眼視されることを気にして悩んでいた事や病弱で長くは生きられない身体だった為、自分がリョウジの嫁の資格があるはずないと思っていた節があったと話す。
「――でも、姉も本心ではリョウジさんに惹かれていたんですよ。」
長く生きられない身体ではリョウジと夫婦の時間は長く過ごせない、リヴェラは心の中ではリョウジの事は好きでもリョウジの事を半ば諦めていたのだと厳生は話した。
「俺は言ったよ、『そんなこと構いやしない、君と残りの時間をこの人魚界とともに捧げる。夫婦の時間を君と過ごしたいんだ。』って……俺の心はここで決心したんだ。他にはあまり歓迎されていなくても俺はリヴェラが傍にいてくれればそれでよかった」
全ての人魚に歓迎されなくても、種族が違っても構わない。
ただ愛するリヴェラの限られた命が尽きるまで夫婦としての時間を過ごしたいと彼女に告げたと、リョウジは話した。
「彼女は俺に言ったよ……」
『ーー貴方を好きになって良かった。』
「――ってね。」
「……」
リヴェラが笑顔で涙を流しながら自分に言った言葉を思い出して懐かしんでいた。
「――でも」
「……?」
突然、何かを嫌な思い出を思い出したようにリョウジの顔が曇り始める。
――ガシャン!
『リヴェラ……!』
リョウジの脳内にリヴェラが倒れた光景が浮かび上がった。忘れもしない突然の別れ。
「……数年後、リヴェラが危篤状態に陥った。ただでさえ体が弱いのに研究の手伝いと王子の世話係までしていたのが堪えたんだろうって、医者に言われた。」
「――!?」
リョウジはリヴェラとの夫婦の時間は思ったより早く終わりを告げたことを話した、危篤に陥った原因は重度の過労に病弱な体がついて行けなかったのだったという。詠寿が大人になる前に早く薬を完成させたかった彼女は焦って無理を続けたのだろうとのことだった。
リョウジはリヴェラが危篤状態に陥った時に、自分たちに彼女が訴えたあの言葉を思い出していた……。
『お願い、あなた……王子を、詠寿様の、鮫の悪癖を治す薬を必ず作ってあげて? 王子は優しすぎるうえに不器用でもろい方だから……心配なの』
『わかった。必ず成功させて鮫の人魚たちの悪癖治してやるから……!』
危篤状態の中、リヴェラは夫であるリョウジにそうお願いしてきた。
リョウジは涙を流しながら手を握って約束を守ると宣言する。
『姉さん……』
『厳生……王子をお願いね、私の分まで、しっかり支えてあげて。王子には支えになってくれる人が必要なの。王子がもし、人間を好きになったら……貴方が王子の恋の行方をしっかり見守ってあげて欲しいの』
『わかった、分かったよ……お姉さん』
危篤状態の姉を横で見ていた厳生がリヴェラに声を掛けると、リヴェラは自分の代わりに王子を支えてあげてほしいと弟である厳生にお願いしてきた。
厳生は必死で頷いて姉の代わりに詠寿を支えると約束する。
『リヴェラ……!』
『王子、人間に恋をした人魚は報われないという話があるけど私は……あれは“嘘”だと思います。』
危篤状態を聞きつけ、駆けつけた詠寿に息を切らしながらリヴェラは詠寿に伝えたいことを伝えようとする。リヴェラは昔から人魚は人間に恋をすると報われずに終わるという言葉に疑問を抱いていたが、自分の中で漸く答えが見つかったと話す。
『だって私は、リョウジに愛されて幸せだったんだもの。』
『――!』
そしてリヴェラは言った、リョウジに愛されて“幸せ”だったと……。
『王子……鮫の人魚だからって、恋に見境なんてつけないで? あなたを受け入れてくれる人間が必ずいる。リョウジみたいに……種族が違くたって構わないと言ってくれる大切な人が、貴方にもできるはずだから……それを信じて。人魚が人に恋することは絶対に悪い事じゃないから……“愛”に種族なんて、ないんですよ?』
『――っ』
自分がリョウジに出会えて結婚までできたように、もし詠寿が人間を好きになってもその恋を種族が違うからと言って諦めないでほしいと人魚が人間に恋をすることは決していけないことではないと、リヴェラは詠寿に教えた。
『王子……貴方の幸せを、祈っています。』
リヴェラは詠寿に笑顔を向け、リョウジの方を向くと……
『リョウジ、愛してくれてありがとう。』
リョウジにそう告げて息を引き取った、享年28歳という若い生涯を彼女は閉じた。
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リヴェラがどんな人物だったかリョウジは語り終えた後……、
――ポロッ
「――だから何としてでも悪癖を治さなきゃいけないんだ。治せなきゃ、俺は彼女に顔を合わせられないじゃねえか!」
涙を流しながらリョウジはリヴェラの為にも研究を何とか完成させなければいけないのだと話す。
厳生の目にも、涙の筋が流れていた。
「リョウジさん……」
涙を流して過去とリヴェラとの約束を自分に語ってくれたリョウジの姿に、明澄は
胸を締め付けられるような気持ちに襲われた。そして話を聞かせて貰って色々わかった……。
厳生の詠寿に対する忠誠心が強い理由は姉との約束もあるからだと、鮫の人魚の悪癖がどれだけ
鮫の人魚の心を苛むのかも、優しい心の持ち主の鮫の人魚ほどこの悪癖に苦しむことになる、明澄はそう直感した。
――そして厳生は少し前に自分にこう言った……、
『詠寿様は……この悪癖で貴方を傷つけるのではないかと不安視されていました。』
詠寿が悪癖でいつか自分を傷つけるのではないのかと懸念していたと。
「先輩……」
もしそれが本当なら明澄は信じたかった。
詠寿は、悪癖でいつか自分を傷つける事になるのではと怯えていたくらい本来はとても優しい性格な人魚なのだと。そちらが本当の詠寿の姿だと……。
「差し控えなければ、貴方には……もう一つ見てもらいたいものがあるんですが」
そして涙を拭うと厳生はもう一つ見てほしいものがあると告げるが……、
――ガチャン!
「――厳生、タイムリミットだ!」
ショットが突然慌てたように中庭に駆けつけ、厳生にそう告げる。
「王子が、帰ってこられたのですね?」
「あぁ……お帰りになられた! もう厳生も明澄様ももう戻った方がいい!」
詠寿が帰って来たことをショットが息を切らしながら告げ、もう明澄は部屋に戻っていた方がいいと話す。
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