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本編
第十九話:怯えと祈り
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「分かった、即刻で戻るようにします。クリア、王子に見つからない様明澄様を部屋に……ここにいるということがバレたら怪しまれますから。時間は私がなるべく稼ぎますので」
「……承知しました。」
少し考えると厳生は詠寿との会話を伸ばせるだけ伸ばして時間を稼ぐので、そのうちに明澄が部屋に戻れるように誘導するよう命令した。クリアはすぐ即答してその命令を承服する。
「申し訳ありません。明澄様……お時間があればあなたに教えたいことがもう一つあったのに」
「――えっ、あっ……」
そして一番教えたかったことを教えられなかったことを厳生は謝り、いきなりの時間切れに明澄は戸惑いを隠せない。
「――でも、きっと教えます。私が教えたいことを……」
「――はっ、はい」
厳生は必ず次の機会に話すと約束してきた、明澄はそれに答える。
「最後に一つ……貴方には、王子の事誤解してほしくない、悪癖を知っても貴方だけには王子の事を絶対に嫌わないであげて欲しいんです。」
そして厳生はショットとともに中庭を出て行き、即座に詠寿の元に去って行った。
「……」
――なんでボクに、そこまで先輩の事を誤解してほしくないって言うのだろう?
思わず焦って返事をしてしまったが、少し疑問が残っていた。
厳生がそこまでして事実を伝えたいのには何か理由があるのだろうかと、明澄にとって疑問が深まるばかりだった。
「もし王子がここに来て問い詰めて来ても、適当ぶっ扱いてやるから、早く行きな」
「早く戻りましょう。王子に見つかったら怪しまれます……」
「――うっ、うん。」
唖然と立ち尽くしているとリョウジに早く部屋に戻る様に発破を掛けられる、詠寿の命令などで厳生などとともにいるならまだしも今回は厳生の単独行動で呼ばれたものである為、今の状態で明澄が中庭にいれば怪しまれるのは一目瞭然だ。
絶対に詠寿の視界に触れないように部屋に戻らなければいけない。
「東側の階段から上がって部屋に戻りましょう、王子の部屋は西側の廊下の方が近いですし他の使用人も東側はあまり行くことないですし、その方が王子の目に着かないと思います。」
クリアは提案しながら明澄の手を引いて、明澄が使っている部屋まで誘導する。
もし仮に見つかって足止めされ問い詰められないか等心配だったが、幸い人も少なく無事部屋に戻ることが出来た。
――そして時間は夜に回り、部屋にある浴室で体を浄め終わってクリアが用意してくれたバスタオルで髪を拭いていた時だった。
コンコン……
「――ん?」
「……俺だ。」
「――先輩!? ……どっ、どうぞ?」
突然、詠寿が尋ねてきて明澄は驚いたものの冷静になり、扉の奥にいる詠寿に慌てて入室を許可した。
「――押しかけてすまない、ちょっと誘ってみたくてな……」
詠寿は入室すると、部屋を訪ねた理由を述べながら明澄の傍に寄ってくる。
「――どこに?」
「明日墓参りしようと思ってな、リヴェラの墓参りをな。」
「……!」
詠寿は、明澄が良ければリヴェラの墓参りに一緒に行かないかと誘ってきたのだった。
「リヴェラにお前の事教えておこうと思ってな。もちろん、お前が良ければの話だ」
一緒に墓参りしてくれたら墓の中で眠るリヴェラに明澄の事を教えようと思っていると、詠寿は正直に話した。
「その前に……少しだけ、リヴェラさんの事について教えて貰えないですか?」
明澄は少し考えると、逆にリヴェラの事について少し教えて欲しいことがあるとお願いしてみる。
「? ――それは、何故だ?」
「えっと……」
ここで厳生とリョウジが悪癖の事と同時にリヴェラについて教えてくれたと話せば厳生が独断で話したことが詠寿にばれて厳生が問い詰められる。明澄は少し戸惑い、正直に話すのは不味いと躊躇する。
「ただ、ちょっと気になったんだ……先輩から見たら、リヴェラさんはどんな人だったのかなって。」
思いついた言い訳をして、改めて詠寿から見たリヴェラについて聞いたのだった。
おおまかな理由を詠寿に話して納得してもらおうと試す、納得したのかあまり咎められなかった。
すると、詠寿はリヴェラの事を思い出したのか少しだけ黙り込むと少し悲しそうな表情を浮かべた……。
「……隣に座っても?」
「? ――どうぞ。」
明澄が許可を与えると、詠寿は明澄の隣に座る形でベッドに座る。
「……俺、持病持ちなんだ。大切な人まで傷つけかねない最悪の持病」
「……」
そして間を少し置くと、遠回しに自分も持っている鮫の人魚の悪癖の事を詠寿は明澄に教えたが、明澄は昼間に厳生たちから教えられていたため詠寿が何を指して言っているのか分かっていた。
「俺はその持病にいつも怯えて暮らしてきたんだ、薬で抑制されてるけど……いつか瑠璃音や父上や母上や厳生たちを傷つけるんじゃないかっていつも怯えてる、今でもだ。」
いつか悪癖のせいで大切な人を自らの手で傷つけてしまう、もしくはなくす日が来るのではないかといつもそのことで怯えていることを詠寿は話した。
「自分の手が大切な人達の血で真っ赤に染まる日が来るんじゃないかって、その恐怖にいつも怯えているんだ」
「――!」
大切なものを、我を忘れて自ら壊してしまうことになるのが怖いと話す詠寿の手が震えていることに明澄は気付いた。
「昔、左大臣の子に深手を負わせてしまったことあったんだ……」
「――!?」
幼い頃、左大臣の子供に悪癖が出て怪我を負わせてしまった事件を起こした事を詠寿は明澄に話した。
「一緒に遊んでくれていた左大臣の子が怪我をして血を流した時、自分で自分が何をしたかわからなかった。俺は駆けつけてその子の怪我を治そうとしたつもりだった、でもあの子から流れる血の匂いが鼻についた時、いつの間にか俺の手に血の付いた刃物が握ってあったんだ。」
その時の現状を細かく詠寿は教えてくれたのだった、ただ遊んで怪我をした左大臣の子に心配して駆けつけたとき、悪癖が出て自我を忘れ逆に刃傷沙汰を起こしたのだと明かす。
自我を取り戻した時には、さらに状況が悪化していたらしい……。
「……」
「――その後の事はあまり覚えていない、覚えていたのは謎の高揚感だった。そしてこの病気の事知った時分かったんだ……絶対に知ってはいけない高揚感だったんだって。自分が何をしたのかわからない、でも……俺が酷い事したのは紛れもない事実だってことは幼い俺でも分かった。」
詠寿は、最初に悪癖が出た時の心理や悪癖の事を知った時の心情を明澄に話した。
いくら自我を忘れて覚えていなくても、自分が左大臣の子を傷つけたのは紛れも無い事実。
子供ながら自分はとんでもない事をやらかしたのを察したと詠寿は語る。
「――あの、その時のこと……先輩のお父さんとお母さんは?」
「『お前のせいじゃない、病気のせいなんだ』と言ったが、でも俺はその病気が怖かった。この病気を知った時、悪魔に取り憑かれたみたいだっていつも恐怖に怯えて過ごさなければいけなくなるんだって思った」
その時は王達こと詠寿の両親はどんな反応をしたのか明澄は聞いてみると、両親は悪いのはあくまで鮫の人魚の悪癖という病気で詠寿は悪くないと自分を宥めてフォローしてくれて吐いたが、それ以来自分に潜む悪魔の陰に怯えるようになったと震える手を見つめながら明澄に答えた。
「――あの事件後、当時の使用人たちには敬遠された……。そりゃあそうだよな、そんな病気を持っている奴となんか深く関わりたくないだろうからな」
事件の後、当時働いていた使用人たちから敬遠されたことを自虐的に話す詠寿の姿はどこか心苦しいものに明澄には映った。
「でも、リヴェラだけは……俺がその病気に心を押し潰されそうになった時いつも言ってくれた。」
事情を知った他の使用人たちからは当然敬遠されてしまったものの、リヴェラだけは自分を敬遠せずいつも支えてくれていたリヴェラの人柄を明かす。
『大丈夫ですよ、きっと治る薬が作られますから。それまでの辛抱です。大丈夫……詠寿様、怯えないで。私は貴方を絶対に嫌ったりしないから』
「そう言って……持病に怯えて泣いてた俺にまじないのように言い聞かせて頭を撫でてくれたんだ」
自分が悪癖に怯えていた時、リヴェラが言い聞かせて慰めてくれた時の話をした詠寿の顔には涙の筋が目から流れていた。リヴェラを思い出して泣く詠寿の話からリヴェラがどれだけ心優しい人魚だったかよく分かる。
「……」
明澄はこの話を聞いてリョウジの言葉を思い出した。
彼は言っていた、リヴェラは詠寿にとってもリョウジにとっても心の拠り所だったと――。
幼かった詠寿にとって、厳生達以外の使用人たちから遠巻きにされていたのはとてもつらかっただろう。幼かった詠寿が心を押しつぶされそうになったときに言ってくれたリヴェラの言葉は、他の薬より効果的だった良薬だったに違いない。
先程詠寿が話してくれたリヴェラのことやリョウジが話してくれたリヴェラとの思い出話でリヴェラは慈愛に満ちた女性で詠寿のかけがえのない支えだったことを、明澄はより痛感した。
――ギュッ
「……明澄?」
明澄は思わず背中から抱きついた。支えになってくれた人を失ったのはどれだけ悲しかったかつらかったか、詠寿の事を思うと抱きつかずにはいられなかった。
「ごめんなさい……嫌でしたか?」
「いいや……」
自分ではリヴェラの代わりにはなれないだろうが、せめてこうするだけでも詠寿が悪癖に怯えずに済むのならこうしてやりたい。
明澄はそう思って抱きついた、詠寿は決して嫌ではないと答えたがいきなりの事で少し戸惑っていたようだった。
「ボクも……リヴェラさんに会いたいです、一緒に行ってもいいですか?」
「! …――あぁ。」
そして明澄は明日の墓参りに一緒について行っていいか返事を返した、詠寿は承諾の言葉を返す。
詠寿の厚い胸板から伝わる体温から、詠寿は常に自分と闘っているのだと明澄は感じていた……。
――翌朝、明澄達は王族専用の宙に浮く小舟を借り、リヴェラが眠る墓に向かっていた。
小舟の操作は護衛もかねてショットとその部下である兵士が担当し、二人の付き添いには厳生、クリア、クローディオとリョウジが同席した。目的地に当たる場所を真下から見ると、リヴェラも眠る人魚たちの墓に案内人兼墓守をしている人魚が明澄達を見つけて手を振っていた。
「もう少しで着くので降下しますよ、しっかり捕まってください?」
ショットが降下の合図を乗っている全員に呼びかけた途端、小舟は墓守のいる場所まで降下する。
――ぐぐっ
無事、降りても平気な高さにまで降下し、ショットたちは小舟に錨を下した。
「――良くいらっしゃいました、お待ちしていましたよ。王子様」
大人しそうな墓守のホトケドジョウの人魚が詠寿たちに挨拶をする。
「あぁ、早速だが……案内してくれ」
「――はい。」
物腰低い墓守の人魚は詠寿が案内を頼むと承諾し、リヴェラの墓まで案内し始めた。
そしてしばらく歩くと……、
「――ここですよ。」
墓守の人魚は足を止めてリヴェラの墓の前であることを教えた、墓の証拠に白い石が建てられ“Rivera”という文字が刻まれている墓石の前に一同は立ち止まる。
「リヴェラ……久しぶり。お前の好きだった青珊瑚を持って来たんだ、供えるな?」
リヴェラの墓の前で少し悲しそうな笑みを浮かべながら、詠寿は墓に声を掛けた。
詠寿は青珊瑚を厳生から貰い受けると墓に供え、屈んで祈りを捧げた。
「……」
その様子を見ていた明澄は前に進み、屈んで詠寿と同じ場所に立つと詠寿を真似て目を瞑ると祈りを捧げた。
「……明澄。」
――リヴェラさん、初めまして……。
(あなたの事はリョウジさんと先輩から聞きましたよ。)
もうこの世にはいない彼女に届いているか分からないが、念じながら明澄はじっと墓の前で祈りを捧げていた。
「……承知しました。」
少し考えると厳生は詠寿との会話を伸ばせるだけ伸ばして時間を稼ぐので、そのうちに明澄が部屋に戻れるように誘導するよう命令した。クリアはすぐ即答してその命令を承服する。
「申し訳ありません。明澄様……お時間があればあなたに教えたいことがもう一つあったのに」
「――えっ、あっ……」
そして一番教えたかったことを教えられなかったことを厳生は謝り、いきなりの時間切れに明澄は戸惑いを隠せない。
「――でも、きっと教えます。私が教えたいことを……」
「――はっ、はい」
厳生は必ず次の機会に話すと約束してきた、明澄はそれに答える。
「最後に一つ……貴方には、王子の事誤解してほしくない、悪癖を知っても貴方だけには王子の事を絶対に嫌わないであげて欲しいんです。」
そして厳生はショットとともに中庭を出て行き、即座に詠寿の元に去って行った。
「……」
――なんでボクに、そこまで先輩の事を誤解してほしくないって言うのだろう?
思わず焦って返事をしてしまったが、少し疑問が残っていた。
厳生がそこまでして事実を伝えたいのには何か理由があるのだろうかと、明澄にとって疑問が深まるばかりだった。
「もし王子がここに来て問い詰めて来ても、適当ぶっ扱いてやるから、早く行きな」
「早く戻りましょう。王子に見つかったら怪しまれます……」
「――うっ、うん。」
唖然と立ち尽くしているとリョウジに早く部屋に戻る様に発破を掛けられる、詠寿の命令などで厳生などとともにいるならまだしも今回は厳生の単独行動で呼ばれたものである為、今の状態で明澄が中庭にいれば怪しまれるのは一目瞭然だ。
絶対に詠寿の視界に触れないように部屋に戻らなければいけない。
「東側の階段から上がって部屋に戻りましょう、王子の部屋は西側の廊下の方が近いですし他の使用人も東側はあまり行くことないですし、その方が王子の目に着かないと思います。」
クリアは提案しながら明澄の手を引いて、明澄が使っている部屋まで誘導する。
もし仮に見つかって足止めされ問い詰められないか等心配だったが、幸い人も少なく無事部屋に戻ることが出来た。
――そして時間は夜に回り、部屋にある浴室で体を浄め終わってクリアが用意してくれたバスタオルで髪を拭いていた時だった。
コンコン……
「――ん?」
「……俺だ。」
「――先輩!? ……どっ、どうぞ?」
突然、詠寿が尋ねてきて明澄は驚いたものの冷静になり、扉の奥にいる詠寿に慌てて入室を許可した。
「――押しかけてすまない、ちょっと誘ってみたくてな……」
詠寿は入室すると、部屋を訪ねた理由を述べながら明澄の傍に寄ってくる。
「――どこに?」
「明日墓参りしようと思ってな、リヴェラの墓参りをな。」
「……!」
詠寿は、明澄が良ければリヴェラの墓参りに一緒に行かないかと誘ってきたのだった。
「リヴェラにお前の事教えておこうと思ってな。もちろん、お前が良ければの話だ」
一緒に墓参りしてくれたら墓の中で眠るリヴェラに明澄の事を教えようと思っていると、詠寿は正直に話した。
「その前に……少しだけ、リヴェラさんの事について教えて貰えないですか?」
明澄は少し考えると、逆にリヴェラの事について少し教えて欲しいことがあるとお願いしてみる。
「? ――それは、何故だ?」
「えっと……」
ここで厳生とリョウジが悪癖の事と同時にリヴェラについて教えてくれたと話せば厳生が独断で話したことが詠寿にばれて厳生が問い詰められる。明澄は少し戸惑い、正直に話すのは不味いと躊躇する。
「ただ、ちょっと気になったんだ……先輩から見たら、リヴェラさんはどんな人だったのかなって。」
思いついた言い訳をして、改めて詠寿から見たリヴェラについて聞いたのだった。
おおまかな理由を詠寿に話して納得してもらおうと試す、納得したのかあまり咎められなかった。
すると、詠寿はリヴェラの事を思い出したのか少しだけ黙り込むと少し悲しそうな表情を浮かべた……。
「……隣に座っても?」
「? ――どうぞ。」
明澄が許可を与えると、詠寿は明澄の隣に座る形でベッドに座る。
「……俺、持病持ちなんだ。大切な人まで傷つけかねない最悪の持病」
「……」
そして間を少し置くと、遠回しに自分も持っている鮫の人魚の悪癖の事を詠寿は明澄に教えたが、明澄は昼間に厳生たちから教えられていたため詠寿が何を指して言っているのか分かっていた。
「俺はその持病にいつも怯えて暮らしてきたんだ、薬で抑制されてるけど……いつか瑠璃音や父上や母上や厳生たちを傷つけるんじゃないかっていつも怯えてる、今でもだ。」
いつか悪癖のせいで大切な人を自らの手で傷つけてしまう、もしくはなくす日が来るのではないかといつもそのことで怯えていることを詠寿は話した。
「自分の手が大切な人達の血で真っ赤に染まる日が来るんじゃないかって、その恐怖にいつも怯えているんだ」
「――!」
大切なものを、我を忘れて自ら壊してしまうことになるのが怖いと話す詠寿の手が震えていることに明澄は気付いた。
「昔、左大臣の子に深手を負わせてしまったことあったんだ……」
「――!?」
幼い頃、左大臣の子供に悪癖が出て怪我を負わせてしまった事件を起こした事を詠寿は明澄に話した。
「一緒に遊んでくれていた左大臣の子が怪我をして血を流した時、自分で自分が何をしたかわからなかった。俺は駆けつけてその子の怪我を治そうとしたつもりだった、でもあの子から流れる血の匂いが鼻についた時、いつの間にか俺の手に血の付いた刃物が握ってあったんだ。」
その時の現状を細かく詠寿は教えてくれたのだった、ただ遊んで怪我をした左大臣の子に心配して駆けつけたとき、悪癖が出て自我を忘れ逆に刃傷沙汰を起こしたのだと明かす。
自我を取り戻した時には、さらに状況が悪化していたらしい……。
「……」
「――その後の事はあまり覚えていない、覚えていたのは謎の高揚感だった。そしてこの病気の事知った時分かったんだ……絶対に知ってはいけない高揚感だったんだって。自分が何をしたのかわからない、でも……俺が酷い事したのは紛れもない事実だってことは幼い俺でも分かった。」
詠寿は、最初に悪癖が出た時の心理や悪癖の事を知った時の心情を明澄に話した。
いくら自我を忘れて覚えていなくても、自分が左大臣の子を傷つけたのは紛れも無い事実。
子供ながら自分はとんでもない事をやらかしたのを察したと詠寿は語る。
「――あの、その時のこと……先輩のお父さんとお母さんは?」
「『お前のせいじゃない、病気のせいなんだ』と言ったが、でも俺はその病気が怖かった。この病気を知った時、悪魔に取り憑かれたみたいだっていつも恐怖に怯えて過ごさなければいけなくなるんだって思った」
その時は王達こと詠寿の両親はどんな反応をしたのか明澄は聞いてみると、両親は悪いのはあくまで鮫の人魚の悪癖という病気で詠寿は悪くないと自分を宥めてフォローしてくれて吐いたが、それ以来自分に潜む悪魔の陰に怯えるようになったと震える手を見つめながら明澄に答えた。
「――あの事件後、当時の使用人たちには敬遠された……。そりゃあそうだよな、そんな病気を持っている奴となんか深く関わりたくないだろうからな」
事件の後、当時働いていた使用人たちから敬遠されたことを自虐的に話す詠寿の姿はどこか心苦しいものに明澄には映った。
「でも、リヴェラだけは……俺がその病気に心を押し潰されそうになった時いつも言ってくれた。」
事情を知った他の使用人たちからは当然敬遠されてしまったものの、リヴェラだけは自分を敬遠せずいつも支えてくれていたリヴェラの人柄を明かす。
『大丈夫ですよ、きっと治る薬が作られますから。それまでの辛抱です。大丈夫……詠寿様、怯えないで。私は貴方を絶対に嫌ったりしないから』
「そう言って……持病に怯えて泣いてた俺にまじないのように言い聞かせて頭を撫でてくれたんだ」
自分が悪癖に怯えていた時、リヴェラが言い聞かせて慰めてくれた時の話をした詠寿の顔には涙の筋が目から流れていた。リヴェラを思い出して泣く詠寿の話からリヴェラがどれだけ心優しい人魚だったかよく分かる。
「……」
明澄はこの話を聞いてリョウジの言葉を思い出した。
彼は言っていた、リヴェラは詠寿にとってもリョウジにとっても心の拠り所だったと――。
幼かった詠寿にとって、厳生達以外の使用人たちから遠巻きにされていたのはとてもつらかっただろう。幼かった詠寿が心を押しつぶされそうになったときに言ってくれたリヴェラの言葉は、他の薬より効果的だった良薬だったに違いない。
先程詠寿が話してくれたリヴェラのことやリョウジが話してくれたリヴェラとの思い出話でリヴェラは慈愛に満ちた女性で詠寿のかけがえのない支えだったことを、明澄はより痛感した。
――ギュッ
「……明澄?」
明澄は思わず背中から抱きついた。支えになってくれた人を失ったのはどれだけ悲しかったかつらかったか、詠寿の事を思うと抱きつかずにはいられなかった。
「ごめんなさい……嫌でしたか?」
「いいや……」
自分ではリヴェラの代わりにはなれないだろうが、せめてこうするだけでも詠寿が悪癖に怯えずに済むのならこうしてやりたい。
明澄はそう思って抱きついた、詠寿は決して嫌ではないと答えたがいきなりの事で少し戸惑っていたようだった。
「ボクも……リヴェラさんに会いたいです、一緒に行ってもいいですか?」
「! …――あぁ。」
そして明澄は明日の墓参りに一緒について行っていいか返事を返した、詠寿は承諾の言葉を返す。
詠寿の厚い胸板から伝わる体温から、詠寿は常に自分と闘っているのだと明澄は感じていた……。
――翌朝、明澄達は王族専用の宙に浮く小舟を借り、リヴェラが眠る墓に向かっていた。
小舟の操作は護衛もかねてショットとその部下である兵士が担当し、二人の付き添いには厳生、クリア、クローディオとリョウジが同席した。目的地に当たる場所を真下から見ると、リヴェラも眠る人魚たちの墓に案内人兼墓守をしている人魚が明澄達を見つけて手を振っていた。
「もう少しで着くので降下しますよ、しっかり捕まってください?」
ショットが降下の合図を乗っている全員に呼びかけた途端、小舟は墓守のいる場所まで降下する。
――ぐぐっ
無事、降りても平気な高さにまで降下し、ショットたちは小舟に錨を下した。
「――良くいらっしゃいました、お待ちしていましたよ。王子様」
大人しそうな墓守のホトケドジョウの人魚が詠寿たちに挨拶をする。
「あぁ、早速だが……案内してくれ」
「――はい。」
物腰低い墓守の人魚は詠寿が案内を頼むと承諾し、リヴェラの墓まで案内し始めた。
そしてしばらく歩くと……、
「――ここですよ。」
墓守の人魚は足を止めてリヴェラの墓の前であることを教えた、墓の証拠に白い石が建てられ“Rivera”という文字が刻まれている墓石の前に一同は立ち止まる。
「リヴェラ……久しぶり。お前の好きだった青珊瑚を持って来たんだ、供えるな?」
リヴェラの墓の前で少し悲しそうな笑みを浮かべながら、詠寿は墓に声を掛けた。
詠寿は青珊瑚を厳生から貰い受けると墓に供え、屈んで祈りを捧げた。
「……」
その様子を見ていた明澄は前に進み、屈んで詠寿と同じ場所に立つと詠寿を真似て目を瞑ると祈りを捧げた。
「……明澄。」
――リヴェラさん、初めまして……。
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