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本編
第二十話:悪癖の実態
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そして祈りを捧げ終わると明澄はすっと立ち上がると……
「生きていたら会ってみたかったな」
「――へっ?」
「だって、先輩にとってお姉さん替わりみたいな人だったんでしょ?」
「……まぁな」
リヴェラがもし存命なら、一度だけ会ってみたかったと詠寿に明かした。詠寿のお世話係をやっていたうえで詠寿を支えていたのだから、詠寿にとってリヴェラは姉同然の存在だったのだろうと聞くと詠寿は笑顔で返答するも少し悲しい顔を浮かべる。
「――ここ、トイレ有りますか?」
「? えぇ……公衆が一番近いですけど、そこでいいですか?」
「はい、お願いします。」
明澄は追憶に耽る詠寿の邪魔をしたくない為、墓守にトイレの案内をお願いした。
墓守は了承の返事とともに公衆トイレの方が近いのでそちらでいいか聞いてきたので、明澄はそこまで離れていないのならと思い公衆トイレまで案内をお願いする。
そして、用を足してトイレから出て墓守が待つ外に出ようとした時だった――。
「こんちわぁ~~」
「! ――誰っ!?」
ガラの悪い男の人魚が3名ほど明澄の前に立ち塞がる、明澄は隙をついて逃げようとしたがすぐ立ち塞がれてしまう。
「おっと、逃げんなよ。それにしても、噂の人間がこの辺で見かけたってノゼルが言ってたから興味あってみてみたらホントにいやがる」
「――けっ……さすが人間、図々しいな。こんなところまで出入りしやがって」
(ノゼル……?)
ガラの悪い人魚たちは明澄を見つけると、汚らしい台詞を交えながら品を見定めるような目で明澄の逃げ場を塞ぐ。どこかで聞いたような名前をガラの悪い人魚たちの一人が言葉に挟んだが思い出せない。
「あっ! ――墓守さんは!?」
それより墓守の存在を思い出した明澄は墓守に何かしたのかガラの悪い人魚たちに聞くと、ガラの悪い人魚は少し肩を避けて明澄に見せやすいようにする。そこにはガラの悪い人魚たちの仲間に口を塞がれ、取り押さえられている墓守の姿が目に映った。
「うー、うー!」
「あんたさぁ、アスミ様って言うんだろ? 王子の婚約者だっていう……」
「――!」
「あんたに手を出そうとして波座と八重波とクレミオが城を出入り禁止になって砕波様も西館以外出入り禁止になったって聞かれてさぁ、どういうやつか俺達気になったんだよね。」
墓守は意見しようとくぐもった声で叫ぶが、ガラの悪い人魚の男たちは相手にしない。
男たちは自分の名前を知っていたことに驚いて目を見開くと、ガラの悪い人魚たちは自分たちが明澄の前に現れた理由は砕波に罰が下り城の移動範囲を制限されたのと、取り巻きたちも城を出入り禁止になった事を聞いてその原因になった明澄がどんな相手が気になったと下卑た眼で明かす。
「――だったら何? もう満足でしょ!?」
「くくくっ、人間にしては美人じゃねえか」
「男だってのは残念だが、これだけ美人ならイケるぜ。」
明澄は不良人魚たちを睨み付け自分を解放するように命令するが、不良人魚たちは言うことを聞いてくれるどころか、下卑た笑みを浮かべ好色な目で自分を見てきて不穏な雰囲気を醸し出す。
「――っ!」
――ゾクッ
男達の好色な笑みが、トラウマを植え付けたあの男を思い出させる。
(――嫌! このままだと!)
またトラウマが再発しそうになりそうな恐怖で明澄は逃げようとしたが……、
「おっと、逃げるとこの墓守を痛めつけるぞ?」
「あぐっ――!」
「!? ――止めてよ!」
墓守を押さえつけていた不良人魚の一人が墓守の腕を違う方向に捻り、墓守が腕を捻られた痛みを訴える声を上げる姿を見ていられなかった明澄が慌てて声を上げて墓守に手を出すなと静止をかける。
男は明澄がいうことを聞くほど大人しくなったのを見越すとにやりと笑い、明澄の腕を掴んでトイレに引きずり込もうとする。
「――ノゼルぅ、見張り番してろよ?」
「あいあい……たくっ」
不良人魚の一人が公衆トイレの上にいたノゼルに声を掛けて見張り番を命じる。
ノゼルは公衆トイレの屋根から姿を現し、面倒くさそうに見張り番に徹することを了解した。
「待って――! 嫌っ!」
こんな男達に輪姦されるのかと思うと、恐怖で震える声で明澄が振り絞って助けを求める。
「! ――貴様ら、王子の大切なお方となる人に何をしている!?」
「――たっ、助けて!」
様子を見に来た兵士の一人が明澄の異変に気付いてその場に駆けつける、明澄はチャンスを逃がすまいと兵士に声を上げて助けを求める。
「――おい、どうする!?」
ガラの悪い人魚たちは兵士がここに来るとは思わなかったようで慌てふためく。
「――ぐっ!」
「――逃がすかっ!!」
――シュッ!
ドスッ!
「――あぐっ!」
衛兵が傍にいたことに恐れ戦き不良人魚の一人が逃げようとすると、逃げようとした不良人魚の一人を兵士は持っていた弓で射抜く。
不良人魚の一人は矢を引き抜くものの、矢に神経毒が塗り込まれていたのかその場から動けなくなる。
「明澄ぃ――!」
するとすぐ近くから詠寿の声が聞こえてきて声が聞こえた方を見ると詠寿が駆け付けてくる。
「――あすっ……!」
――ドックン、ドックン……
「……?」
明澄達の距離まで数メートルくらいになると詠寿の顔つきが変わり、足取りがぴたりと止まる。
何かが起きそうな予感がする体制に入った。
「! 王子!? 貴方、今日薬は……!?」
(!? ――まさか、持病の悪癖!?)
兵士が詠寿の顔つきで何かに感づき、兵士が声を上げて詠寿に薬は飲んでいないのか聞くが返事はなくこれは不味いとばかり蒼白の表情を浮かべている、明澄も兵士の言葉でリョウジから聞いた鮫の人魚の悪癖の事を思い出し、詠寿が矢を刺された不良人魚の血の臭いを直に嗅いでしまった為、悪癖が出たのだと分かった。
「――あっ、血……血だ」
「――なんだぁ!? お前……!」
「止めろ! ――殺されかけたいのか!?」
詠寿は血の臭いに興奮して、嗜虐的な笑みを浮かべた。その姿は、普段の優しい詠寿とはかけ離れていた。不良人魚が急に出てきた詠寿を見てメンチを切って来たが、その行動が刺激になるため兵士が焦って不良人魚に叫んで忠告する。
「――はっ?」
――ドゴッ!!
「――!?」
(――先輩?!)
すると詠寿はメンチを切って来た不良人魚を、大きめの石を片手で持って殴りつけたのだった。
そこにある詠寿の顔はいつものものではなかった、ただ餌と認識した魚の血に興奮して狂暴化した鮫そのものだった。
「――ひぃ! ヤバいぞ、こいつ!!」
不良人魚たちは慌ててその場を逃げようとするが、神経毒で動けなくなっている不良人魚は逃げることが出来ない。
「!? 不味い……!」
「――王子?!」
異変に気付いたクローディオと厳生とクリアが駆け付ける、今の詠寿は不良人魚に更に危害を加える可能性がある。
――ギロッ
「ひぃ、止めろ! 止めてくれ……!!」
神経毒のせいで動けなくなっている不良人魚が詠寿ににらまれた途端、恐怖に顔を歪ませて必死で命乞いをする。
「ダメ、先輩……!」
「――駄目です、近付いては!」
「でも、先輩が……!」
手をあげるのを制止しようと明澄は近づこうとすると、兵士が慌てて明澄を止める。しかしこのままでは詠寿は下手をすれば殺人までしてしまう、どうすればいいのか困惑していた時――。
――ヒュッ!
ドスッ!!
すると何処からか矢が飛んできて、詠寿に掠って不良人魚にぎりぎり当たらないところで矢が地面に刺さる。動けなくなっている不良人魚は今の状況と矢が飛んできたことも相まって泣きべそをかいてその場を懸命に這いずっていた。
矢を撃った方向を見ると、この異常事態をどうにかしようとショットが気をそらすために矢を放ったことが分かった。
「こっちですよ……王子!」
ショットが明澄を傷つけさせない為にも囮になって気を引こうとしていた。
そう言われると詠寿は不良人魚の一人を殴った石を投げ太い棒を見つけるとそれを手に持ち、ゆらりとショットの方に向かって行く。
ギギギ……
ショットは冷や汗をかきながらも弓を構え、ぎりぎりまで引いたせいで弓の弦が撓って音を鳴らす。
ショットが気をそらしてくれている隙を突いてクローディオは墓守の様子を見に行き、安全を確保しようとする。墓守に異常はないが詠寿の姿を見て取り乱しているようだった。
明澄は兵士に抑えられながら様子を不安に募らせながら見守る……。
――ザッ
「――っ!」
――ドゴッ!!
鈍い音が聞こえた……。
詠寿の後ろにはいつの間にかリョウジが背後に回っており、詠寿はリョウジの気配に気付いて太い棒を頭にめがけて殴りつけていた。
「――リョウジさん!?」
明澄はリョウジが殴られたことに気付いて声をあげると……、
「大丈夫だよ、明澄ちゃん。薬はもう打ったから……」
リョウジはそう答えて、頭から血の筋を流しながらも詠寿の首筋の欠陥にめがけて抑制剤を注射したことを教えた。リョウジは体を張って詠寿を正気に戻させたのだ。
――がくっ
「――王子!」
持病の悪癖が収まった反動で詠寿が崩れ落ちた為、厳生が慌てて駆けつけて詠寿を支える。
「痛~~っ、さすが鮫の人魚だわ。打撃も半端じゃないな」
安心して気が抜けたらしく、リョウジは今更ながら頭を殴られた痛みを訴えて頭を押さえる。
――ザッ
「!? ――逃がしませんよ!!」
――どしゅっ!
「――ぐっ!」
何かが上から逃げる気配に気付いたショットは、上にいた人魚の腕をめがけて矢を放った。
矢を撃たれた反動でその人魚はその場に倒れ込む。上にいた人魚を取り押さえ、顔を見ると……
「――ノゼル!?」
「――げっ、兄貴っ!?」
クローディオが、見張り番をしていたと思われる不良人魚の仲間の一人の顔に驚いて目を見開く。
クローディオを目にすると、ノゼルと言われた人魚の青年は気不味い顔をしている。
ノゼルと呼ばれた人魚が持つタコの足には先程ショットが撃ち込んだ痺れ毒が塗り込んだ矢が突き刺さっている、クローディオは矢をノゼルから引き抜いてやるとノゼルは「痛えよへたくそ!」などヤジを飛ばす。
「――ノゼルって、……あっ!」
明澄は思い出した、クローディオの兄弟の一人がグレて家出したことをリョウジに聞いたのを……。
まさかこんな形でその兄弟の内の一人に会うことになるとは明澄も思わなかった。
「――お前、こんなところで何やってんだよ!?」
「別に、アタシぁ生活費稼ぎの一環。」
ノゼルと再会するなり説教口調でクローディオは問い詰め、家出中は情報を流して金をもらって生活していたとノゼルは鬱陶しそうな顔をしてクローディオに答える。
「――お前! 自分が何をしようとしたか分かっているのか!? 王子の大切な方にいかがわしいことをするための幇助をしたんだぞ!?」
「アタシは情報をやっただけ! 後はあいつらの自由だし、深く関わる気はなかったよ!」
クローディオはノゼルが明澄を襲おうとした男たちの幇助するような真似をしたことを叱責し始めるとノゼルはただ情報をやっただけで自分は深く関わるつもりはなかったと弁解する。
「アリヴが睨んでいた通りだ、貴方ですね? 砕波様に明澄様の情報を流したのは……」
「――!」
ノゼルを取り押さえていたショットが口を挟み、核心を突く尋問をした。
痛いところを突かれノゼルは顔つきが強張る。
「砕波様が明澄様にちょっかいをかけた夜、見回りの際に蛸の臭いが微かにしたとうちの兵士長が言ってね……アリヴ、蛸の臭いには敏感なんですよ。好物ですからね。」
ショットは、アリヴはノゼルがこっそり王宮を出入りしていたことを睨んでいたことを話しアリヴが蛸の臭いに敏感なのだと明かし、ノゼルの存在は知らなくても蛸の下半身を持つ人魚ではないかと読んでいたようだ。
「――あぁ、そうだよ。砕波の旦那はこんなアタシにもお金をくれる貴重なお得意様だったんでね、幻覚魔法と擬態を駆使しつつ王宮に入ったさ……良い金になったぜ? アスミ様。」
するとノゼルは観念し始め、開き直るように砕波に明澄に関する情報を流したことを白状した。
――パンッ!
乾いた音が墓場に響いた、クローディオがノゼルに平手打ちをかましたのだった。
「――お前! 明澄様と王子がどれだけ傷ついたか分かってるのか!? 『魔法は己の欲で使うことは身を滅ぼす』、親父に散々教わったろ!? そこまで落ちたかお前は!?」
クローディオは開き直った態度を取ったことが情けなくて許せなかったようだ、興奮してクローディオは開き直ったノゼルの態度に激怒する。叩かれたことに気付いてわなわな震えてノゼルは……、
「うっせーよ! 優秀でちやほやされてきた兄貴たちに“出来損ない”の俺の気持ちなんかわかるかよ! 名医だと崇められて偉そうに兄貴面するのもいい加減にしろよ!」
「ちょっ、クローディオ医務長!」
「――やっ、止めてください。明澄様もいるのに!」
ノゼルも興奮し始め今までの鬱憤を兄にぶつけ始めた為、兄弟喧嘩が勃発してしまう。
兵士とクリアが興奮するクローディオとノゼルと抑えようと仲裁に入ろうとする。
「――止めないか、兄弟喧嘩してる場合かっ!? 今の状況を把握しろ!」
リョウジが、声を張り上げてクローディオとノゼルの兄弟喧嘩を止めさせる。
そして、詠寿に目をやるように促すと……
「――また、俺……」
「王子……大丈夫、大丈夫ですよ」
厳生が詠寿の傍で慰めており、詠寿が意識を取り戻して悪癖が出てしまったことに気付きショックを隠しきれていない姿が見えた。
「あっ、すまない……」
リョウジの一喝で我に返りクローディオは詠寿が悪癖を出してしまったことに落ち込んでいる様子を見て気不味くし、口を噤んだ。
「生きていたら会ってみたかったな」
「――へっ?」
「だって、先輩にとってお姉さん替わりみたいな人だったんでしょ?」
「……まぁな」
リヴェラがもし存命なら、一度だけ会ってみたかったと詠寿に明かした。詠寿のお世話係をやっていたうえで詠寿を支えていたのだから、詠寿にとってリヴェラは姉同然の存在だったのだろうと聞くと詠寿は笑顔で返答するも少し悲しい顔を浮かべる。
「――ここ、トイレ有りますか?」
「? えぇ……公衆が一番近いですけど、そこでいいですか?」
「はい、お願いします。」
明澄は追憶に耽る詠寿の邪魔をしたくない為、墓守にトイレの案内をお願いした。
墓守は了承の返事とともに公衆トイレの方が近いのでそちらでいいか聞いてきたので、明澄はそこまで離れていないのならと思い公衆トイレまで案内をお願いする。
そして、用を足してトイレから出て墓守が待つ外に出ようとした時だった――。
「こんちわぁ~~」
「! ――誰っ!?」
ガラの悪い男の人魚が3名ほど明澄の前に立ち塞がる、明澄は隙をついて逃げようとしたがすぐ立ち塞がれてしまう。
「おっと、逃げんなよ。それにしても、噂の人間がこの辺で見かけたってノゼルが言ってたから興味あってみてみたらホントにいやがる」
「――けっ……さすが人間、図々しいな。こんなところまで出入りしやがって」
(ノゼル……?)
ガラの悪い人魚たちは明澄を見つけると、汚らしい台詞を交えながら品を見定めるような目で明澄の逃げ場を塞ぐ。どこかで聞いたような名前をガラの悪い人魚たちの一人が言葉に挟んだが思い出せない。
「あっ! ――墓守さんは!?」
それより墓守の存在を思い出した明澄は墓守に何かしたのかガラの悪い人魚たちに聞くと、ガラの悪い人魚は少し肩を避けて明澄に見せやすいようにする。そこにはガラの悪い人魚たちの仲間に口を塞がれ、取り押さえられている墓守の姿が目に映った。
「うー、うー!」
「あんたさぁ、アスミ様って言うんだろ? 王子の婚約者だっていう……」
「――!」
「あんたに手を出そうとして波座と八重波とクレミオが城を出入り禁止になって砕波様も西館以外出入り禁止になったって聞かれてさぁ、どういうやつか俺達気になったんだよね。」
墓守は意見しようとくぐもった声で叫ぶが、ガラの悪い人魚の男たちは相手にしない。
男たちは自分の名前を知っていたことに驚いて目を見開くと、ガラの悪い人魚たちは自分たちが明澄の前に現れた理由は砕波に罰が下り城の移動範囲を制限されたのと、取り巻きたちも城を出入り禁止になった事を聞いてその原因になった明澄がどんな相手が気になったと下卑た眼で明かす。
「――だったら何? もう満足でしょ!?」
「くくくっ、人間にしては美人じゃねえか」
「男だってのは残念だが、これだけ美人ならイケるぜ。」
明澄は不良人魚たちを睨み付け自分を解放するように命令するが、不良人魚たちは言うことを聞いてくれるどころか、下卑た笑みを浮かべ好色な目で自分を見てきて不穏な雰囲気を醸し出す。
「――っ!」
――ゾクッ
男達の好色な笑みが、トラウマを植え付けたあの男を思い出させる。
(――嫌! このままだと!)
またトラウマが再発しそうになりそうな恐怖で明澄は逃げようとしたが……、
「おっと、逃げるとこの墓守を痛めつけるぞ?」
「あぐっ――!」
「!? ――止めてよ!」
墓守を押さえつけていた不良人魚の一人が墓守の腕を違う方向に捻り、墓守が腕を捻られた痛みを訴える声を上げる姿を見ていられなかった明澄が慌てて声を上げて墓守に手を出すなと静止をかける。
男は明澄がいうことを聞くほど大人しくなったのを見越すとにやりと笑い、明澄の腕を掴んでトイレに引きずり込もうとする。
「――ノゼルぅ、見張り番してろよ?」
「あいあい……たくっ」
不良人魚の一人が公衆トイレの上にいたノゼルに声を掛けて見張り番を命じる。
ノゼルは公衆トイレの屋根から姿を現し、面倒くさそうに見張り番に徹することを了解した。
「待って――! 嫌っ!」
こんな男達に輪姦されるのかと思うと、恐怖で震える声で明澄が振り絞って助けを求める。
「! ――貴様ら、王子の大切なお方となる人に何をしている!?」
「――たっ、助けて!」
様子を見に来た兵士の一人が明澄の異変に気付いてその場に駆けつける、明澄はチャンスを逃がすまいと兵士に声を上げて助けを求める。
「――おい、どうする!?」
ガラの悪い人魚たちは兵士がここに来るとは思わなかったようで慌てふためく。
「――ぐっ!」
「――逃がすかっ!!」
――シュッ!
ドスッ!
「――あぐっ!」
衛兵が傍にいたことに恐れ戦き不良人魚の一人が逃げようとすると、逃げようとした不良人魚の一人を兵士は持っていた弓で射抜く。
不良人魚の一人は矢を引き抜くものの、矢に神経毒が塗り込まれていたのかその場から動けなくなる。
「明澄ぃ――!」
するとすぐ近くから詠寿の声が聞こえてきて声が聞こえた方を見ると詠寿が駆け付けてくる。
「――あすっ……!」
――ドックン、ドックン……
「……?」
明澄達の距離まで数メートルくらいになると詠寿の顔つきが変わり、足取りがぴたりと止まる。
何かが起きそうな予感がする体制に入った。
「! 王子!? 貴方、今日薬は……!?」
(!? ――まさか、持病の悪癖!?)
兵士が詠寿の顔つきで何かに感づき、兵士が声を上げて詠寿に薬は飲んでいないのか聞くが返事はなくこれは不味いとばかり蒼白の表情を浮かべている、明澄も兵士の言葉でリョウジから聞いた鮫の人魚の悪癖の事を思い出し、詠寿が矢を刺された不良人魚の血の臭いを直に嗅いでしまった為、悪癖が出たのだと分かった。
「――あっ、血……血だ」
「――なんだぁ!? お前……!」
「止めろ! ――殺されかけたいのか!?」
詠寿は血の臭いに興奮して、嗜虐的な笑みを浮かべた。その姿は、普段の優しい詠寿とはかけ離れていた。不良人魚が急に出てきた詠寿を見てメンチを切って来たが、その行動が刺激になるため兵士が焦って不良人魚に叫んで忠告する。
「――はっ?」
――ドゴッ!!
「――!?」
(――先輩?!)
すると詠寿はメンチを切って来た不良人魚を、大きめの石を片手で持って殴りつけたのだった。
そこにある詠寿の顔はいつものものではなかった、ただ餌と認識した魚の血に興奮して狂暴化した鮫そのものだった。
「――ひぃ! ヤバいぞ、こいつ!!」
不良人魚たちは慌ててその場を逃げようとするが、神経毒で動けなくなっている不良人魚は逃げることが出来ない。
「!? 不味い……!」
「――王子?!」
異変に気付いたクローディオと厳生とクリアが駆け付ける、今の詠寿は不良人魚に更に危害を加える可能性がある。
――ギロッ
「ひぃ、止めろ! 止めてくれ……!!」
神経毒のせいで動けなくなっている不良人魚が詠寿ににらまれた途端、恐怖に顔を歪ませて必死で命乞いをする。
「ダメ、先輩……!」
「――駄目です、近付いては!」
「でも、先輩が……!」
手をあげるのを制止しようと明澄は近づこうとすると、兵士が慌てて明澄を止める。しかしこのままでは詠寿は下手をすれば殺人までしてしまう、どうすればいいのか困惑していた時――。
――ヒュッ!
ドスッ!!
すると何処からか矢が飛んできて、詠寿に掠って不良人魚にぎりぎり当たらないところで矢が地面に刺さる。動けなくなっている不良人魚は今の状況と矢が飛んできたことも相まって泣きべそをかいてその場を懸命に這いずっていた。
矢を撃った方向を見ると、この異常事態をどうにかしようとショットが気をそらすために矢を放ったことが分かった。
「こっちですよ……王子!」
ショットが明澄を傷つけさせない為にも囮になって気を引こうとしていた。
そう言われると詠寿は不良人魚の一人を殴った石を投げ太い棒を見つけるとそれを手に持ち、ゆらりとショットの方に向かって行く。
ギギギ……
ショットは冷や汗をかきながらも弓を構え、ぎりぎりまで引いたせいで弓の弦が撓って音を鳴らす。
ショットが気をそらしてくれている隙を突いてクローディオは墓守の様子を見に行き、安全を確保しようとする。墓守に異常はないが詠寿の姿を見て取り乱しているようだった。
明澄は兵士に抑えられながら様子を不安に募らせながら見守る……。
――ザッ
「――っ!」
――ドゴッ!!
鈍い音が聞こえた……。
詠寿の後ろにはいつの間にかリョウジが背後に回っており、詠寿はリョウジの気配に気付いて太い棒を頭にめがけて殴りつけていた。
「――リョウジさん!?」
明澄はリョウジが殴られたことに気付いて声をあげると……、
「大丈夫だよ、明澄ちゃん。薬はもう打ったから……」
リョウジはそう答えて、頭から血の筋を流しながらも詠寿の首筋の欠陥にめがけて抑制剤を注射したことを教えた。リョウジは体を張って詠寿を正気に戻させたのだ。
――がくっ
「――王子!」
持病の悪癖が収まった反動で詠寿が崩れ落ちた為、厳生が慌てて駆けつけて詠寿を支える。
「痛~~っ、さすが鮫の人魚だわ。打撃も半端じゃないな」
安心して気が抜けたらしく、リョウジは今更ながら頭を殴られた痛みを訴えて頭を押さえる。
――ザッ
「!? ――逃がしませんよ!!」
――どしゅっ!
「――ぐっ!」
何かが上から逃げる気配に気付いたショットは、上にいた人魚の腕をめがけて矢を放った。
矢を撃たれた反動でその人魚はその場に倒れ込む。上にいた人魚を取り押さえ、顔を見ると……
「――ノゼル!?」
「――げっ、兄貴っ!?」
クローディオが、見張り番をしていたと思われる不良人魚の仲間の一人の顔に驚いて目を見開く。
クローディオを目にすると、ノゼルと言われた人魚の青年は気不味い顔をしている。
ノゼルと呼ばれた人魚が持つタコの足には先程ショットが撃ち込んだ痺れ毒が塗り込んだ矢が突き刺さっている、クローディオは矢をノゼルから引き抜いてやるとノゼルは「痛えよへたくそ!」などヤジを飛ばす。
「――ノゼルって、……あっ!」
明澄は思い出した、クローディオの兄弟の一人がグレて家出したことをリョウジに聞いたのを……。
まさかこんな形でその兄弟の内の一人に会うことになるとは明澄も思わなかった。
「――お前、こんなところで何やってんだよ!?」
「別に、アタシぁ生活費稼ぎの一環。」
ノゼルと再会するなり説教口調でクローディオは問い詰め、家出中は情報を流して金をもらって生活していたとノゼルは鬱陶しそうな顔をしてクローディオに答える。
「――お前! 自分が何をしようとしたか分かっているのか!? 王子の大切な方にいかがわしいことをするための幇助をしたんだぞ!?」
「アタシは情報をやっただけ! 後はあいつらの自由だし、深く関わる気はなかったよ!」
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「アリヴが睨んでいた通りだ、貴方ですね? 砕波様に明澄様の情報を流したのは……」
「――!」
ノゼルを取り押さえていたショットが口を挟み、核心を突く尋問をした。
痛いところを突かれノゼルは顔つきが強張る。
「砕波様が明澄様にちょっかいをかけた夜、見回りの際に蛸の臭いが微かにしたとうちの兵士長が言ってね……アリヴ、蛸の臭いには敏感なんですよ。好物ですからね。」
ショットは、アリヴはノゼルがこっそり王宮を出入りしていたことを睨んでいたことを話しアリヴが蛸の臭いに敏感なのだと明かし、ノゼルの存在は知らなくても蛸の下半身を持つ人魚ではないかと読んでいたようだ。
「――あぁ、そうだよ。砕波の旦那はこんなアタシにもお金をくれる貴重なお得意様だったんでね、幻覚魔法と擬態を駆使しつつ王宮に入ったさ……良い金になったぜ? アスミ様。」
するとノゼルは観念し始め、開き直るように砕波に明澄に関する情報を流したことを白状した。
――パンッ!
乾いた音が墓場に響いた、クローディオがノゼルに平手打ちをかましたのだった。
「――お前! 明澄様と王子がどれだけ傷ついたか分かってるのか!? 『魔法は己の欲で使うことは身を滅ぼす』、親父に散々教わったろ!? そこまで落ちたかお前は!?」
クローディオは開き直った態度を取ったことが情けなくて許せなかったようだ、興奮してクローディオは開き直ったノゼルの態度に激怒する。叩かれたことに気付いてわなわな震えてノゼルは……、
「うっせーよ! 優秀でちやほやされてきた兄貴たちに“出来損ない”の俺の気持ちなんかわかるかよ! 名医だと崇められて偉そうに兄貴面するのもいい加減にしろよ!」
「ちょっ、クローディオ医務長!」
「――やっ、止めてください。明澄様もいるのに!」
ノゼルも興奮し始め今までの鬱憤を兄にぶつけ始めた為、兄弟喧嘩が勃発してしまう。
兵士とクリアが興奮するクローディオとノゼルと抑えようと仲裁に入ろうとする。
「――止めないか、兄弟喧嘩してる場合かっ!? 今の状況を把握しろ!」
リョウジが、声を張り上げてクローディオとノゼルの兄弟喧嘩を止めさせる。
そして、詠寿に目をやるように促すと……
「――また、俺……」
「王子……大丈夫、大丈夫ですよ」
厳生が詠寿の傍で慰めており、詠寿が意識を取り戻して悪癖が出てしまったことに気付きショックを隠しきれていない姿が見えた。
「あっ、すまない……」
リョウジの一喝で我に返りクローディオは詠寿が悪癖を出してしまったことに落ち込んでいる様子を見て気不味くし、口を噤んだ。
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真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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