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本編
第二十四話:本心と告白
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――明澄が目覚める数分前、詠寿に明澄に本当のことを話そうと裏で動いていたことを気付かれて厳生は詠寿に詰問を受けていた。
「その前に一言……、何処で怪しいと思われました?」
厳生はいつ自分が裏でこそこそ明澄に教えていたことに気付いたのか詠寿に聞いた。
「昨日の買い物からアリヴが妙に時間を伸ばそうとしているような仕草や、快泉が俺と目を合わそうとしなかったからだ。とくに快泉は後ろめたいものがあると相手に目を合わそうとしない癖があるからな……」
詠寿はいつから厳生の行動に気付いたか教えた、快泉が妙に自分を中庭に入れたがらなかったことや彼のくせから何か隠していると察し、アリヴの不審とも取れる時間稼ごうと誤魔化す仕草などから詠寿は見抜いたらしく快泉は申し訳なさそうにルメルダの後ろに隠れた。
「――はぁっ、……王子の目敏さには参りました。」
ため息をつき、詠寿の目敏さを侮っていたのが誤算だったことを痛感した厳生はもう隠し事は通用しないと諦めた。
「彼には……貴方の持病の事も、彼にトラウマを植え付けた相手の事もすべて教えました」
「――!?」
「――厳生!」
明澄に、鮫の人魚の悪癖やトラウマを植え付けた阿久津の所業を詠寿が見ていたことを話したと白状した。白状した始めた厳生に静止を掛けるようにリョウジは厳生を呼ぶが、厳生は覚悟を決めていた。
「貴方の事を知らないまま記憶を消してなかったことになんて、彼にだけは絶対にして欲しくなかった……ただそれだけです。」
そして事実と悪癖を勝手に話した理由を、厳生は話した。
「――明澄には傷を抉る真似になるから話すなと言ったよな? ……命令違反だぞ!?」
「……処罰を受ける覚悟はできております」
その言葉が信じられず憤慨し、自分の命令に背いた厳生に厳罰が下ることを分かっての行為か詠寿が聞くと罰を受ける覚悟はとうにできていると厳生は眉を動かさず告げる。
「――待ってくれ、王子! それだったら俺も同罪のはずです、俺も勝手に色々話した。」
「――リョウジさん、いいんだ!」
義弟である厳生が自白して処罰を自分一人背負い込もうとしていると分かったリョウジは慌てて厳生を庇い、自分も加担したので同罪だと主張する。義兄であるリョウジが自分を庇い始めたのをみて処罰に巻き込みたくなかった厳生は慌ててリョウジに言わなくていいと促す。
「王子、それを言えば厳生の提案に乗った俺達も共犯で俺達にも処罰が与えられるはずです」
「アリヴの言う通りでございます、私もアリヴと同じ考えです!」
それに続いてアリヴ、ショットも自分たちも事実を話す時間の尺稼ぎとして加担したのだから自分たちも処罰されるべきだと主張する。
「――二人ともいいんだ……! 僕が無理言っただけなんだから!」
自分が無茶をお願いしただけなので、二人は関係ないと厳生は主張する。
しかし、その気まずい空気を意外な人物が声を上げて破った。
「――お兄様、妹として一言言うわ! 明澄お兄様はお兄様を決して嫌う真似なんてしないって約束してくれましたよ?」
「――瑠璃音、様?」
「瑠璃音……?」
明澄の気持ちを知らずに真実を話した厳生を責めるような様子に我慢できなかったのか、瑠璃音が明澄が詠寿の持病である鮫の人魚の悪癖についてどう思っていたのかを明かした。
「……私もお傍で聞いておりました、明澄様は貴方の持病を知ってもなお、貴方から遠ざかる真似なんて一切しないと、貴方が持病と必死で闘っているって分かっているからとおっしゃってましたよ?」
ルメルダも続いて、明澄は詠寿が鮫の人魚だからと言って軽蔑するようなことは一切しないと約束してくれたことや、その理由が詠寿が自分と闘っていることを明澄は気づいたからとルメルダは明かした。
「明澄、が……?」
その言葉に、詠寿は動揺を隠せない。
詠寿の中では、悪癖を知ったらきっと自分は嫌われると思っていたのだから。
「厳生が明澄お兄様に過去の事を話したのも、お兄様を思って良かれと思ってやったこと……厳生も悪意があって話したわけではありませんわ!」
厳生の行為は悪意ある行動では決してない、むしろ詠寿の幸せの願っての行為である為ここで厳生を責めるのはお門違いだと瑠璃音は強い口調で主張する。
「明澄お兄様言っていましたよ? お兄様を『最初に会った時から好いていらした』と……。」
「――!?」
先程よりトーンダウンした声で、明澄が詠寿に対する気持ちを自分に打ち明けてくれたことを瑠璃音は話した。
「本心を……ちゃんと明澄お兄様に伝えて、お兄様! 本当は明澄お兄様に何をしてほしいの!?」
「瑠璃音……」
明澄を好いているという気持ちは嘘だったのか、本当なのかはっきりしろと瑠璃音は怒る。
瑠璃音が自分に対してここまで怒る姿を見るのは初めてで、詠寿は正直狼狽えていた。
――ガチャン!
「――無理してはだめですよ、明澄様……!」
記憶の泉につながる扉から扉の開く音が響き、それと同時にクリアが明澄の足取りを止めようと必死になっている声が聞こえた。明澄は記憶を見て疲れた顔をしていたが何か伝えようと必死な形相だった。
「明澄ちゃん……!?」
明澄の乱入にリョウジは驚いていた、明澄は詠寿の姿を見つけると歩み寄る。
「どう、して……」
「……?」
「――どうして、本当の事教えてくれなかったんですか!? 厳生さんたちから教えて貰わなきゃきっとボクは何も知らないまま……!」
明澄は歩み寄ると何故本当の事を教えてくれなかったのか、詠寿の姿を見つけるなりそう詰め寄った。
「――っ」
よく見ると明澄の眼からは、涙がボロボロ零れていた。
「あの人から助けてくれたの……先輩だったんでしょ?」
明澄は、涙を流しながら詠寿が明澄を助けてくれた事実を見たことを詠寿に突き付ける。
「明澄様を助けた人が……詠寿様!?」
「明澄……」
明澄の過去を聞いていたクリアは明澄の恩人の正体が詠寿だったという事実に驚愕する。
事実を知られ、強く詰められたことに詠寿は狼狽えている。
「ボクに事実を言わなかったのは……、阿久津さんにされたことを思い出させたくなかったからですか?」
明澄は詠寿が事実を話したがらなかったのは、阿久津に強姦されかけたことを思い出させたくなかったからかと聞く。詠寿はずっと黙っていたものの、少し間を置くと……
「確かに、阿久津の事を知って傷を広げるような真似をしたくなかったのも事実だ……」
明澄が言っている通り、トラウマを思い出させたくなかったのも理由の一つだと明かす。
「それともう一つ……正体を知られて、連れて行った日、あの時助けたのが俺だって言ってはいけないって“戒め”を掛けていたんだ。」
「……?」
しかし、理由はもう一つあり、人魚だとばれて強制的に人魚界に連れて行ったときにその事実を言ってはいけないと自分で自分を戒めていたからだと詠寿は話し始める。
「拉致をしておいて、『あの日、助けた相手が俺だ』ってそんな図々しい事言える訳ないだろう――?」
拉致した分際で自分が明澄を助けた相手だと言えるわけがないと、詠寿は叫ぶように事実を言わなかった理由を明かした。
「拉致をした相手を好きになってくれなんて厚かまし過ぎる、それに……俺は鮫の人魚だし持病もあるし尚更だと思った。現に俺は、持病の悪癖を起こしてガラの悪い人魚の一人に怪我をさせた……明澄を傷つけさせない為にも、何も言わず記憶を消した方がいいって思ったんだ。」
拉致をしておいて告白するなんて厚かましいこと極まりない、鮫の人魚でもあるから明澄を傷つけない為にも戒めなければいけないと、記憶を消して人間界に返した方が明澄を傷つけないと思ったからだと詠寿は心境を語る。
「王子……」
その言葉を聞いていた全員は何も言えなくなってしまう。しかし、明澄はそっと口を開くと……
「でもボクはあなたにずっと会いたかった! 会って、ずっとお礼を言いたかった」
「――?!」
明澄は本当はずっとお礼を言いたかったことを告げる。
「ボク、あの時から慕ってくれていたことに気付きもしなかった……謝るのはボクの方、ごめんなさい、先輩。」
「あ、すみ……?」
詠寿がどれだけ“人間”である自分に合わせようと努力していたか、自分をずっと慕ってくれていた事にもずっと助けてくれた相手が詠寿だったと気付かずにいたことを謝った。
「お願い、記憶なんて消さないで先輩。先輩、一緒に中庭の魚の餌上げたことありましたよね?」
「……?」
「――あの時はまだ気付かなかったけど、ボクはきっといつか先輩とこういう日を過ごしていきたいって心のどこかで思っていたんだ。」
自分は無意識のうちにきっと詠寿と大切な時間を過ごしていきたいと願っていた、この人魚界で過ごしていく時間の中、彼が同性でも異種族でも構わないと思えていたのだ。
「貴方を嫌いになれなかったのも、身体の記憶が……貴方を憶えていたから。
ボクは……貴方の傍にいたい、いさせてください。先輩……ううん、詠寿さん」
「――!?」
おそらく耳の記憶が詠寿の優しさを覚えていたから嫌いになる事が出来ず、寧ろ彼に惹かれていた。
記憶を消さないでほしいと詠寿に願い、明澄は詠寿の前で初めて“下の名前”で呼んだ。
「リヴェラが言ってましたよね? 王子……」
今まで黙って二人のやりとりを周りと一緒に見ていたリョウジだったが、明澄の言葉を聞いたリョウジはリヴェラが死ぬ前に言っていた言葉を詠寿は憶えているか聞く。
『王子……鮫の人魚だからって、恋に見境なんてつけないで? あなたを受け入れてくれる人間が必ずいる。』
「――って、リヴェラは王子が本当は優しい人だってわかっていたから。王子の悪癖を知っても離れないで愛してくれる大切な人が王子にだってできる。そうおっしゃいたかったんだと俺は思う。」
リヴェラが言いたかったことを代弁するように、リヴェラの言葉の意味を自分の考察を交えて思い出させる。
「王子……お願いです、鮫の人魚だからって臆すのはもう止めにしよう? 明澄様は貴方が掟に従って連れてきたことをもう許してくれた、現に明澄様は貴方を受けいれる覚悟だってあるって言ってくれたじゃないですか。」
「……詠寿さんの本心を、聞かせてください。」
リョウジに続いてクローディオも、リヴェラの言葉を信じて自身が鮫の人魚というのを理由に本当の気持ちを話すことにもう臆さないで欲しいと説得する。
詠寿はその言葉に顔を伏せていたが、明澄は詠寿は本当は自分の事をどう思っているのか知りたいと伝えた。
少し間を置くと詠寿は……、
「本心を告げてはいけないと思っていた、でも……本当は『傍にいてほしい』と『俺を選んでほしい』と思っていた」
涙を流しながら明澄に本当に言いたかったことを明澄本人に伝える。
「俺は我儘で臆病だった。嫌われるのも嫌で、傷つけるのも嫌だった……そうしなきゃ阿久津と一緒になってしまってるんじゃないかってすごく不安だったんだ」
本心を今までちゃんと告げなかった理由を明澄に明確に話した、明澄の手を掴んでもう片方の手で涙を拭った。
「でももう……、迷うことはしない。」
明澄が自分を受け入れてくれると言ってくれたことで漸く覚悟が出来たと告げ……、
――ギュッ
「――好きだ、……明澄。一目見たあの日から、ずっと……。」
明澄を抱き寄せ、詠寿改めて告白の言葉を口にしたのだった。
「――もう何処にもいかないでくれ、俺を選んでくれ……明澄!」
もう自分から離れて行かないでほしいと、自分を選んでほしいと明澄に本心をぶつけた。
それを聞いた明澄は涙を流しながら微笑み……、
「ボクも、詠寿さんが好き。大学で会った時から……。ううん、多分助けてもらったあの日から」
そして阿久津から助けてくれたあの日からきっと詠寿に無意識に惹かれていたのだと、同じく詠寿が好きだと明澄は告げた。
執事として六年間の初恋を見守ってきた厳生は今、詠寿がそれを成就させた姿を見て亡き姉との約束を果たせたと感動のあまり涙を流していた。リョウジも安堵して手を厳生の肩に置いた。
瑠璃音とルメルダ、クリア、アリヴとショット、そしてクローディオも人魚の王子の長年の片恋が今、両想いになった姿を見て、穏やかな笑みを浮かべていた……。
「その前に一言……、何処で怪しいと思われました?」
厳生はいつ自分が裏でこそこそ明澄に教えていたことに気付いたのか詠寿に聞いた。
「昨日の買い物からアリヴが妙に時間を伸ばそうとしているような仕草や、快泉が俺と目を合わそうとしなかったからだ。とくに快泉は後ろめたいものがあると相手に目を合わそうとしない癖があるからな……」
詠寿はいつから厳生の行動に気付いたか教えた、快泉が妙に自分を中庭に入れたがらなかったことや彼のくせから何か隠していると察し、アリヴの不審とも取れる時間稼ごうと誤魔化す仕草などから詠寿は見抜いたらしく快泉は申し訳なさそうにルメルダの後ろに隠れた。
「――はぁっ、……王子の目敏さには参りました。」
ため息をつき、詠寿の目敏さを侮っていたのが誤算だったことを痛感した厳生はもう隠し事は通用しないと諦めた。
「彼には……貴方の持病の事も、彼にトラウマを植え付けた相手の事もすべて教えました」
「――!?」
「――厳生!」
明澄に、鮫の人魚の悪癖やトラウマを植え付けた阿久津の所業を詠寿が見ていたことを話したと白状した。白状した始めた厳生に静止を掛けるようにリョウジは厳生を呼ぶが、厳生は覚悟を決めていた。
「貴方の事を知らないまま記憶を消してなかったことになんて、彼にだけは絶対にして欲しくなかった……ただそれだけです。」
そして事実と悪癖を勝手に話した理由を、厳生は話した。
「――明澄には傷を抉る真似になるから話すなと言ったよな? ……命令違反だぞ!?」
「……処罰を受ける覚悟はできております」
その言葉が信じられず憤慨し、自分の命令に背いた厳生に厳罰が下ることを分かっての行為か詠寿が聞くと罰を受ける覚悟はとうにできていると厳生は眉を動かさず告げる。
「――待ってくれ、王子! それだったら俺も同罪のはずです、俺も勝手に色々話した。」
「――リョウジさん、いいんだ!」
義弟である厳生が自白して処罰を自分一人背負い込もうとしていると分かったリョウジは慌てて厳生を庇い、自分も加担したので同罪だと主張する。義兄であるリョウジが自分を庇い始めたのをみて処罰に巻き込みたくなかった厳生は慌ててリョウジに言わなくていいと促す。
「王子、それを言えば厳生の提案に乗った俺達も共犯で俺達にも処罰が与えられるはずです」
「アリヴの言う通りでございます、私もアリヴと同じ考えです!」
それに続いてアリヴ、ショットも自分たちも事実を話す時間の尺稼ぎとして加担したのだから自分たちも処罰されるべきだと主張する。
「――二人ともいいんだ……! 僕が無理言っただけなんだから!」
自分が無茶をお願いしただけなので、二人は関係ないと厳生は主張する。
しかし、その気まずい空気を意外な人物が声を上げて破った。
「――お兄様、妹として一言言うわ! 明澄お兄様はお兄様を決して嫌う真似なんてしないって約束してくれましたよ?」
「――瑠璃音、様?」
「瑠璃音……?」
明澄の気持ちを知らずに真実を話した厳生を責めるような様子に我慢できなかったのか、瑠璃音が明澄が詠寿の持病である鮫の人魚の悪癖についてどう思っていたのかを明かした。
「……私もお傍で聞いておりました、明澄様は貴方の持病を知ってもなお、貴方から遠ざかる真似なんて一切しないと、貴方が持病と必死で闘っているって分かっているからとおっしゃってましたよ?」
ルメルダも続いて、明澄は詠寿が鮫の人魚だからと言って軽蔑するようなことは一切しないと約束してくれたことや、その理由が詠寿が自分と闘っていることを明澄は気づいたからとルメルダは明かした。
「明澄、が……?」
その言葉に、詠寿は動揺を隠せない。
詠寿の中では、悪癖を知ったらきっと自分は嫌われると思っていたのだから。
「厳生が明澄お兄様に過去の事を話したのも、お兄様を思って良かれと思ってやったこと……厳生も悪意があって話したわけではありませんわ!」
厳生の行為は悪意ある行動では決してない、むしろ詠寿の幸せの願っての行為である為ここで厳生を責めるのはお門違いだと瑠璃音は強い口調で主張する。
「明澄お兄様言っていましたよ? お兄様を『最初に会った時から好いていらした』と……。」
「――!?」
先程よりトーンダウンした声で、明澄が詠寿に対する気持ちを自分に打ち明けてくれたことを瑠璃音は話した。
「本心を……ちゃんと明澄お兄様に伝えて、お兄様! 本当は明澄お兄様に何をしてほしいの!?」
「瑠璃音……」
明澄を好いているという気持ちは嘘だったのか、本当なのかはっきりしろと瑠璃音は怒る。
瑠璃音が自分に対してここまで怒る姿を見るのは初めてで、詠寿は正直狼狽えていた。
――ガチャン!
「――無理してはだめですよ、明澄様……!」
記憶の泉につながる扉から扉の開く音が響き、それと同時にクリアが明澄の足取りを止めようと必死になっている声が聞こえた。明澄は記憶を見て疲れた顔をしていたが何か伝えようと必死な形相だった。
「明澄ちゃん……!?」
明澄の乱入にリョウジは驚いていた、明澄は詠寿の姿を見つけると歩み寄る。
「どう、して……」
「……?」
「――どうして、本当の事教えてくれなかったんですか!? 厳生さんたちから教えて貰わなきゃきっとボクは何も知らないまま……!」
明澄は歩み寄ると何故本当の事を教えてくれなかったのか、詠寿の姿を見つけるなりそう詰め寄った。
「――っ」
よく見ると明澄の眼からは、涙がボロボロ零れていた。
「あの人から助けてくれたの……先輩だったんでしょ?」
明澄は、涙を流しながら詠寿が明澄を助けてくれた事実を見たことを詠寿に突き付ける。
「明澄様を助けた人が……詠寿様!?」
「明澄……」
明澄の過去を聞いていたクリアは明澄の恩人の正体が詠寿だったという事実に驚愕する。
事実を知られ、強く詰められたことに詠寿は狼狽えている。
「ボクに事実を言わなかったのは……、阿久津さんにされたことを思い出させたくなかったからですか?」
明澄は詠寿が事実を話したがらなかったのは、阿久津に強姦されかけたことを思い出させたくなかったからかと聞く。詠寿はずっと黙っていたものの、少し間を置くと……
「確かに、阿久津の事を知って傷を広げるような真似をしたくなかったのも事実だ……」
明澄が言っている通り、トラウマを思い出させたくなかったのも理由の一つだと明かす。
「それともう一つ……正体を知られて、連れて行った日、あの時助けたのが俺だって言ってはいけないって“戒め”を掛けていたんだ。」
「……?」
しかし、理由はもう一つあり、人魚だとばれて強制的に人魚界に連れて行ったときにその事実を言ってはいけないと自分で自分を戒めていたからだと詠寿は話し始める。
「拉致をしておいて、『あの日、助けた相手が俺だ』ってそんな図々しい事言える訳ないだろう――?」
拉致した分際で自分が明澄を助けた相手だと言えるわけがないと、詠寿は叫ぶように事実を言わなかった理由を明かした。
「拉致をした相手を好きになってくれなんて厚かまし過ぎる、それに……俺は鮫の人魚だし持病もあるし尚更だと思った。現に俺は、持病の悪癖を起こしてガラの悪い人魚の一人に怪我をさせた……明澄を傷つけさせない為にも、何も言わず記憶を消した方がいいって思ったんだ。」
拉致をしておいて告白するなんて厚かましいこと極まりない、鮫の人魚でもあるから明澄を傷つけない為にも戒めなければいけないと、記憶を消して人間界に返した方が明澄を傷つけないと思ったからだと詠寿は心境を語る。
「王子……」
その言葉を聞いていた全員は何も言えなくなってしまう。しかし、明澄はそっと口を開くと……
「でもボクはあなたにずっと会いたかった! 会って、ずっとお礼を言いたかった」
「――?!」
明澄は本当はずっとお礼を言いたかったことを告げる。
「ボク、あの時から慕ってくれていたことに気付きもしなかった……謝るのはボクの方、ごめんなさい、先輩。」
「あ、すみ……?」
詠寿がどれだけ“人間”である自分に合わせようと努力していたか、自分をずっと慕ってくれていた事にもずっと助けてくれた相手が詠寿だったと気付かずにいたことを謝った。
「お願い、記憶なんて消さないで先輩。先輩、一緒に中庭の魚の餌上げたことありましたよね?」
「……?」
「――あの時はまだ気付かなかったけど、ボクはきっといつか先輩とこういう日を過ごしていきたいって心のどこかで思っていたんだ。」
自分は無意識のうちにきっと詠寿と大切な時間を過ごしていきたいと願っていた、この人魚界で過ごしていく時間の中、彼が同性でも異種族でも構わないと思えていたのだ。
「貴方を嫌いになれなかったのも、身体の記憶が……貴方を憶えていたから。
ボクは……貴方の傍にいたい、いさせてください。先輩……ううん、詠寿さん」
「――!?」
おそらく耳の記憶が詠寿の優しさを覚えていたから嫌いになる事が出来ず、寧ろ彼に惹かれていた。
記憶を消さないでほしいと詠寿に願い、明澄は詠寿の前で初めて“下の名前”で呼んだ。
「リヴェラが言ってましたよね? 王子……」
今まで黙って二人のやりとりを周りと一緒に見ていたリョウジだったが、明澄の言葉を聞いたリョウジはリヴェラが死ぬ前に言っていた言葉を詠寿は憶えているか聞く。
『王子……鮫の人魚だからって、恋に見境なんてつけないで? あなたを受け入れてくれる人間が必ずいる。』
「――って、リヴェラは王子が本当は優しい人だってわかっていたから。王子の悪癖を知っても離れないで愛してくれる大切な人が王子にだってできる。そうおっしゃいたかったんだと俺は思う。」
リヴェラが言いたかったことを代弁するように、リヴェラの言葉の意味を自分の考察を交えて思い出させる。
「王子……お願いです、鮫の人魚だからって臆すのはもう止めにしよう? 明澄様は貴方が掟に従って連れてきたことをもう許してくれた、現に明澄様は貴方を受けいれる覚悟だってあるって言ってくれたじゃないですか。」
「……詠寿さんの本心を、聞かせてください。」
リョウジに続いてクローディオも、リヴェラの言葉を信じて自身が鮫の人魚というのを理由に本当の気持ちを話すことにもう臆さないで欲しいと説得する。
詠寿はその言葉に顔を伏せていたが、明澄は詠寿は本当は自分の事をどう思っているのか知りたいと伝えた。
少し間を置くと詠寿は……、
「本心を告げてはいけないと思っていた、でも……本当は『傍にいてほしい』と『俺を選んでほしい』と思っていた」
涙を流しながら明澄に本当に言いたかったことを明澄本人に伝える。
「俺は我儘で臆病だった。嫌われるのも嫌で、傷つけるのも嫌だった……そうしなきゃ阿久津と一緒になってしまってるんじゃないかってすごく不安だったんだ」
本心を今までちゃんと告げなかった理由を明澄に明確に話した、明澄の手を掴んでもう片方の手で涙を拭った。
「でももう……、迷うことはしない。」
明澄が自分を受け入れてくれると言ってくれたことで漸く覚悟が出来たと告げ……、
――ギュッ
「――好きだ、……明澄。一目見たあの日から、ずっと……。」
明澄を抱き寄せ、詠寿改めて告白の言葉を口にしたのだった。
「――もう何処にもいかないでくれ、俺を選んでくれ……明澄!」
もう自分から離れて行かないでほしいと、自分を選んでほしいと明澄に本心をぶつけた。
それを聞いた明澄は涙を流しながら微笑み……、
「ボクも、詠寿さんが好き。大学で会った時から……。ううん、多分助けてもらったあの日から」
そして阿久津から助けてくれたあの日からきっと詠寿に無意識に惹かれていたのだと、同じく詠寿が好きだと明澄は告げた。
執事として六年間の初恋を見守ってきた厳生は今、詠寿がそれを成就させた姿を見て亡き姉との約束を果たせたと感動のあまり涙を流していた。リョウジも安堵して手を厳生の肩に置いた。
瑠璃音とルメルダ、クリア、アリヴとショット、そしてクローディオも人魚の王子の長年の片恋が今、両想いになった姿を見て、穏やかな笑みを浮かべていた……。
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