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本編
第二十六話:王族たちとの言談
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二人はそのまま朝を迎えたのだった、二人で朝を迎えるのはこれで二回目だ。
――その後、もうすぐ朝食時だと厳生に呼ばれ、朝の身支度をするために詠寿は部屋を去って行こうとする。
「――じゃあ、また後で呼びに行く。」
そう言って詠寿は朝食に向かったのだった、厳生の顔を見て明澄は少し不安な顔をする。
詠寿が、厳生が勝手に過去を話したことをまだ怒っているのではないかと不安だった。
「あの……厳生さんは」
「あぁ、もうその件か……。もう、なかったことにするよ。」
詠寿は明澄の言いたいことを分かっていたのか厳生に厳しい処罰はせず、もうお咎めなしにすることにすると厳生の前で話した。明澄はその言葉に胸を撫で下ろし、厳生も「有難うございます」と頭を下げた。
「じゃあ、また……」
「……はい。」
そう会話を少し交わした後、詠寿は食堂の方へ去って行った。
詠寿たちとすれ違い、クリアが身支度の手伝いをしに明澄の元にやってきた。
「ブラッシングをしますので、腰かけてください」
「ありがとう」
部屋に入るなり、クリアは明澄の髪をブラッシングするため椅子に座るよう頼み込んでくる。
朝の身支度が終わると、衛兵の許可を貰って入室した配膳係が食事を持ってきて食事を済ませた。
――そして昼の4時ごろ。
コンコン……
「明澄様、詠寿様がお呼びです。参りましょう?」
「――あっ、はい」
厳生から呼び出され、厳生が詠寿の元まで明澄を案内する。
玄関ホールの入り口から丁度向かい側に、今までみた部屋より一番大きい扉があり、詠寿はそこに待機していた。
「明澄、早く呼びつけてすまない。父が食事前に少し話をしようと言ってな……」
「……いいえ。」
詠寿の父である王が話をしたいために少し予定を早めたと理由を話して詠寿は詫びる、明澄はそんなことはないと首を横に振った。
「こちらの部屋の奥で王がお待ちかねです、失礼のないようお願いします」
厳生が詠寿の父である王に失礼のない様に明澄に言いつけたのち、玉座につながる扉の見張り番をしていた衛兵が扉を開ける。
扉が開くと広い部屋が広がっており、王がいる玉座から扉まで細長いレッドカーペットが敷かれている。
レッドカーペットの向こうには、左右に衛兵たちが全員合わせて六人ほど並んでいる。
「――わぁ」
荘厳な玉座の風景に本当に王族の玉座に赴き、王族たちに挨拶するのだと思って明澄は緊張が高まる。
「――行こう。」
詠寿が明澄の手を引き、玉座まで手を引く。
後ろには厳生もついて来ている、玉座に誰かが座っている姿が認識できる位の距離まで二人は歩く。
そして玉座まであと2メートルくらいの間隔で詠寿は足を止め、「父上」と言いながら一礼したため明澄も慌てて一礼する。「陛下。」と言いながら厳生も一礼した。
「固い挨拶はいい、花嫁殿もそんなにかしこまらなくて結構だ……顔をあげなさい。」
王の声と思わしき声が顔をあげろと言ってきたので、顔をあげた。
玉座に座るのは詠寿同様、琉装に似たような臙脂色の服に身を包んだ瑠璃音と同じ茶髪の短髪で、顔はどこか詠寿に面影のある背の高い男性だった。
その右に昨日会った王妃である詠寿の母と、左側に右大臣と左大臣と思わしき五、六十代くらいの男性の人魚が二人いた。
「君が、明澄さんだな……?」
「――あっ、はい。詠寿さんのお父さん、いや……お父様で?」
いきなり呼ばれ、しどろもどろになり上手く敬語が使えない。
――ふふっ
「――初めまして。私はこの東の海を治めている“不知火”という者だ、詠寿からは話を聞いているよ」
その様子に失笑しつつも詠寿の父こと不知火王は自己紹介をしながら立ち上がり、明澄の元に歩み寄ってくる。立ち上がった時に不知火王の下半身は“シロチョウザメ”の尾ひれが見えていた。
「ここでは緊張してお話しづらいでしょう? 少し中庭でお話ししましょうか」
王の後ろには妃である詠寿の母が口を開き、玉座では明澄が緊張して話をしづらいと睨み中庭への移動を提案する。詠寿も明澄もその提案に乗り、中庭に移動することになったのだった。
中に入ると瑠璃音が、誰かが入ってきたのを見つけると不知火王達と明澄達の姿を見つけ……
「――あっ、お母様とお父様だ。」
「これはこれは、不知火王。お妃様も……ご機嫌麗しゅうございます。」
先程まで中庭の魚たちと戯れていた瑠璃音が、両親である王たちが中庭に入って来たのをリョウジ達に教える。リョウジ達も慌てて余程の事がない限りこちら側には来ない不知火王に驚いて、瑠璃音以外は頭を下げて挨拶をする。
「気にしないでくれ、少し明澄さんとお話をしたくて場所を借りたかっただけだ。」
不知火王は話をするために場所を借りるだけだとリョウジに言うとリョウジはそれを了承し、不知火王は「元気がいいな」と呟き、中庭に泳ぐ魚たちと戯れていた。
「お父様、明澄お兄様は魚たちに餌をあげるの上手なのよ。」
「……ほぉ」
瑠璃音が一度一緒に明澄と中庭の魚たちに餌をあげたことを話した、それを聞いた不知火王は感嘆の声を上げ、不知火王に近寄ってくる魚たちは不知火王にじゃれ付いてくる。不知火王はじゃれついて来た魚たちに大事な話があるから帰るように促すと魚たちはすぐその場を離れて行った。
「君の事は……、詠寿から聞いていろいろ聞いている。」
「――えっ?」
不知火王は詠寿の方から明澄の事はいろいろ話を聞いて、明澄の事情を知っていることを明かした。
「息子が貴方にずっと片思いしていたことも、貴方がある人間のせいで深い傷を負っていたこともね。
詠寿が貴方のために人間界の文化や色々な事を知りたいと言ってきた時は驚きましたわ。」
王妃が話に割り込み、当時詠寿が明澄の後を追うように人間界を行きたいと申し出てきた時には驚いたと話した。そんな風に言うタイプではなかった詠寿だったため、真剣にそんな風に行ってお願いして来た時は本当に驚いたとのことだった。
「祖先の妹の例があるから正直不安だったが、親としては応援してやりたくてね。」
「貴方が詠寿の正体を知った時、詠寿……ひどく狼狽えていたのよ。」
不知火王と王妃は人魚姫の事があるから不安要素はあったものの、親として息子の気持ちを応援してあげたかった事もあって人間界に行くことを許したことや、正体がばれた時の詠寿の反応を話してくれた。
「貴方が息子の気持ちを受け入れられたら紹介する形にするよう厳生から提案されて、貴方が息子を受け入れたら詠寿から貴方を紹介する形にするように言われていたの。それまでは私たちは顔を出さないことを約束していたのよ」
詠寿が明澄に正体がばれて掟に従わざる負えなくなり、拉致するような真似をしてしまったと負い目を感じて狼狽えていたことや厳生の提案に乗り、明澄が気持ちを受け入れてくれたら王たちにちゃんと顔を出すような形にすると約束していたことを王妃は明かす。
「瑠璃音のほうは言いつける前に貴方の顔をみたくて訪れてしまったみたいで……。」
そう言いながら王妃は瑠璃音の方を呆れ顔でじろっと見ると、瑠璃音は誤魔化して目をそらす。
「詠寿の持病……悪癖の事はもう存じているのかい?」
「……はい。」
鮫の人魚の悪癖の事はもう知っているのか聞かれ、明澄は正直に答える。少し間を置くと、王妃から口を開き……
「……詠寿が生まれた時、シロワニの人魚の子で生まれつき鼻が鋭敏だから色々悩みは尽きませんでした」
鮫の一種であるシロワニの人魚だった詠寿を育てるとき、鮫の人魚は持病ゆえに敬遠される傾向にあるため、当時色々な悩みは多かったと話した。
「馬鹿弟の方は甥のこれからの事を考えていませんでしたが、鮫の人魚は悪いところばかりではないということも分かっているつもりでも、鮫の人魚について回る悪癖の事が頭に過って正直将来嫁いでくれる人がいるかも……我々は不安だった。」
不知火王は弟である砕波の父に対する辛辣な言い回しを含めながら、鮫の人魚は身体能力に優れているのは良い事ではあるが、悪癖のせいで伴侶になると手をあげてくれる者が少ない為不安は拭えるものではなかったと話した。
「――でも、君はそんな息子を選んで受け入れてくれた、我々は君に感謝しなくてはいけない。」
「――!」
しかし、明澄はそんな悪癖がついて回る自分の息子である詠寿の気持ちを受け入れてくれたことを親としてもうれしく思うと不知火王は頭を下げる。
「どうもありがとう。」
不知火王は明澄に感謝の言葉を述べた、瑠璃音も王妃も頭を下げていた。
王族自ら頭を下げるなんて前代未聞の姿に、着いて来ていた衛兵たちもざわつく。
「――あっ、あげてください! ボクはそんな……」
王族に頭を下げられる状況に戸惑いを隠せず、明澄はすぐ顔をあげるように言った。
不知火王は顔あげた後、笑みを浮かべる。そして……
「――!本当に可愛い人だな、詠寿?」
「父上……」
からかうように詠寿に明澄を可愛いと評すと、詠寿は呆れたように返事を返す。
内心胸を撫で下ろしていた、男である自分を歓迎して王族の一員になる者として受け入れてくれているどころか感謝されるとは思ってもいなかった。この人たちは義理堅く穏やかな詠寿の両親なのだ、心の中で改めてそう思った。そして詠寿の言う通り、不知火王は内面がとても穏やかな人物だということは話をしてよく分かった。
「さっきから思っていたけど……細いし小っちゃいし可愛いなぁ♪ 一緒に魚の餌付けしないかい?」
「――!?」
いきなり抱きつかれて明澄は、不知火が詠寿に顔が似ていることもあってか顔を赤くして驚く。
「――あなた!」
「父上!」
不知火王が冗談を言いながら明澄に抱きつくと、詠寿は不知火王を明澄から引きはがそうとして王妃も突っ込みを兼ねた一喝をする。「冗談だって」と膨れ面で不知火王は離れる。
「あたくしはもうやったもんね~♪」
瑠璃音は、自慢のように明澄と一緒に魚の餌をあげたと話した。
この様子だと詠寿は、容姿は髪色以外父親似で性格はどちらかというと母親似。
瑠璃音は、容姿は髪色以外母親似で性格はどちらかというと父親似。
明澄はこの様子を見てここにいる王族四人は本当に“家族”なんだなと改めて痛感した。その証拠に両親の個性を、詠寿と瑠璃音はちゃんと受け継いでいると心の中で評した。
「あの、割って入ってすみませんが給仕係が『食事が出来た』と……」
「――おお、もうそんな時間か」
厳生がその様子に呆れながら、食事の用意が出来たことを不知火王たちに伝えると不知火王はそれを聞いて中庭の入り口に足取りを進めると明澄達の方を振り返る。
「では……、食堂で大事な話をしながら夕食と行こうか?」
食堂の方に不知火王は移動しようとし、明澄達もついて行く。
――王宮の食堂にて、王族たちとともに食事を摂っていた。
自分は詠寿の隣に座って食事をしていたが、王族と一緒ということもあり緊張してあまり箸が進まない。
他種族とはいえ、自分が王族と食事を囲っているなんて現実が未だ信じられずにいた。
「ところで明澄さん、“大学”といったか? そこでは最低でも4年は行かないといけないのだろう?」
「――えっ!? えぇ……まぁ」
食事をしていた時、不知火王はフォークとナイフを一旦止めて話を振ったのでその質問に答える。
ただし、大学と言うのは基本授業単位を卒業できると認められる単位まで取らないといけないので下手をすれば留年しなければならないのだが。
「式はおおよそ3年後……君が大学というところを卒業できるまで待とうと思っているんだが、それでいいかな?」
「……それは別にかまいませんが、母たちにも話をしないと。」
「――もちろん、君の両親にも話をしたいと思う。さすがに君の家族の同意なしで式を行う訳にはいかないからね」
不知火王はもちろん明澄の両親には自分達人魚の存在を黙っているわけにもいかないし、明澄の家族の同意なしでは結婚と婚約の儀を執り行えないと言う。
「そこで一度、我々のところに一度連れて来てもらえるよう説得してくれないか?」
「――えっ!?」
「論より証拠、目で見てもらった方が信じてくれると思ってな」
不知火王は普通の人間ならば自分たちの存在を口で言ってもなかなか信じてもらえないと睨み、明澄の両親を連れてくれるようお願いする。明澄は一旦人間界に返してもらえるのかと思い、目を丸くする。
「そこでだ、一旦君をご両親との話し合いもかねて人間界に帰そうと思う。……君もいろいろ話をしたいだろう?」
不知火王は、一度両親との話し合いの名義で明澄を人間界へ帰すことを提案した。
説得の時間も欲しいだろうということもあっての提案だったことを悟った明澄は……、
「――そうですね。」
その方が都合がいいと思い、不知火王の提案に乗ることに決めた。
――その後、もうすぐ朝食時だと厳生に呼ばれ、朝の身支度をするために詠寿は部屋を去って行こうとする。
「――じゃあ、また後で呼びに行く。」
そう言って詠寿は朝食に向かったのだった、厳生の顔を見て明澄は少し不安な顔をする。
詠寿が、厳生が勝手に過去を話したことをまだ怒っているのではないかと不安だった。
「あの……厳生さんは」
「あぁ、もうその件か……。もう、なかったことにするよ。」
詠寿は明澄の言いたいことを分かっていたのか厳生に厳しい処罰はせず、もうお咎めなしにすることにすると厳生の前で話した。明澄はその言葉に胸を撫で下ろし、厳生も「有難うございます」と頭を下げた。
「じゃあ、また……」
「……はい。」
そう会話を少し交わした後、詠寿は食堂の方へ去って行った。
詠寿たちとすれ違い、クリアが身支度の手伝いをしに明澄の元にやってきた。
「ブラッシングをしますので、腰かけてください」
「ありがとう」
部屋に入るなり、クリアは明澄の髪をブラッシングするため椅子に座るよう頼み込んでくる。
朝の身支度が終わると、衛兵の許可を貰って入室した配膳係が食事を持ってきて食事を済ませた。
――そして昼の4時ごろ。
コンコン……
「明澄様、詠寿様がお呼びです。参りましょう?」
「――あっ、はい」
厳生から呼び出され、厳生が詠寿の元まで明澄を案内する。
玄関ホールの入り口から丁度向かい側に、今までみた部屋より一番大きい扉があり、詠寿はそこに待機していた。
「明澄、早く呼びつけてすまない。父が食事前に少し話をしようと言ってな……」
「……いいえ。」
詠寿の父である王が話をしたいために少し予定を早めたと理由を話して詠寿は詫びる、明澄はそんなことはないと首を横に振った。
「こちらの部屋の奥で王がお待ちかねです、失礼のないようお願いします」
厳生が詠寿の父である王に失礼のない様に明澄に言いつけたのち、玉座につながる扉の見張り番をしていた衛兵が扉を開ける。
扉が開くと広い部屋が広がっており、王がいる玉座から扉まで細長いレッドカーペットが敷かれている。
レッドカーペットの向こうには、左右に衛兵たちが全員合わせて六人ほど並んでいる。
「――わぁ」
荘厳な玉座の風景に本当に王族の玉座に赴き、王族たちに挨拶するのだと思って明澄は緊張が高まる。
「――行こう。」
詠寿が明澄の手を引き、玉座まで手を引く。
後ろには厳生もついて来ている、玉座に誰かが座っている姿が認識できる位の距離まで二人は歩く。
そして玉座まであと2メートルくらいの間隔で詠寿は足を止め、「父上」と言いながら一礼したため明澄も慌てて一礼する。「陛下。」と言いながら厳生も一礼した。
「固い挨拶はいい、花嫁殿もそんなにかしこまらなくて結構だ……顔をあげなさい。」
王の声と思わしき声が顔をあげろと言ってきたので、顔をあげた。
玉座に座るのは詠寿同様、琉装に似たような臙脂色の服に身を包んだ瑠璃音と同じ茶髪の短髪で、顔はどこか詠寿に面影のある背の高い男性だった。
その右に昨日会った王妃である詠寿の母と、左側に右大臣と左大臣と思わしき五、六十代くらいの男性の人魚が二人いた。
「君が、明澄さんだな……?」
「――あっ、はい。詠寿さんのお父さん、いや……お父様で?」
いきなり呼ばれ、しどろもどろになり上手く敬語が使えない。
――ふふっ
「――初めまして。私はこの東の海を治めている“不知火”という者だ、詠寿からは話を聞いているよ」
その様子に失笑しつつも詠寿の父こと不知火王は自己紹介をしながら立ち上がり、明澄の元に歩み寄ってくる。立ち上がった時に不知火王の下半身は“シロチョウザメ”の尾ひれが見えていた。
「ここでは緊張してお話しづらいでしょう? 少し中庭でお話ししましょうか」
王の後ろには妃である詠寿の母が口を開き、玉座では明澄が緊張して話をしづらいと睨み中庭への移動を提案する。詠寿も明澄もその提案に乗り、中庭に移動することになったのだった。
中に入ると瑠璃音が、誰かが入ってきたのを見つけると不知火王達と明澄達の姿を見つけ……
「――あっ、お母様とお父様だ。」
「これはこれは、不知火王。お妃様も……ご機嫌麗しゅうございます。」
先程まで中庭の魚たちと戯れていた瑠璃音が、両親である王たちが中庭に入って来たのをリョウジ達に教える。リョウジ達も慌てて余程の事がない限りこちら側には来ない不知火王に驚いて、瑠璃音以外は頭を下げて挨拶をする。
「気にしないでくれ、少し明澄さんとお話をしたくて場所を借りたかっただけだ。」
不知火王は話をするために場所を借りるだけだとリョウジに言うとリョウジはそれを了承し、不知火王は「元気がいいな」と呟き、中庭に泳ぐ魚たちと戯れていた。
「お父様、明澄お兄様は魚たちに餌をあげるの上手なのよ。」
「……ほぉ」
瑠璃音が一度一緒に明澄と中庭の魚たちに餌をあげたことを話した、それを聞いた不知火王は感嘆の声を上げ、不知火王に近寄ってくる魚たちは不知火王にじゃれ付いてくる。不知火王はじゃれついて来た魚たちに大事な話があるから帰るように促すと魚たちはすぐその場を離れて行った。
「君の事は……、詠寿から聞いていろいろ聞いている。」
「――えっ?」
不知火王は詠寿の方から明澄の事はいろいろ話を聞いて、明澄の事情を知っていることを明かした。
「息子が貴方にずっと片思いしていたことも、貴方がある人間のせいで深い傷を負っていたこともね。
詠寿が貴方のために人間界の文化や色々な事を知りたいと言ってきた時は驚きましたわ。」
王妃が話に割り込み、当時詠寿が明澄の後を追うように人間界を行きたいと申し出てきた時には驚いたと話した。そんな風に言うタイプではなかった詠寿だったため、真剣にそんな風に行ってお願いして来た時は本当に驚いたとのことだった。
「祖先の妹の例があるから正直不安だったが、親としては応援してやりたくてね。」
「貴方が詠寿の正体を知った時、詠寿……ひどく狼狽えていたのよ。」
不知火王と王妃は人魚姫の事があるから不安要素はあったものの、親として息子の気持ちを応援してあげたかった事もあって人間界に行くことを許したことや、正体がばれた時の詠寿の反応を話してくれた。
「貴方が息子の気持ちを受け入れられたら紹介する形にするよう厳生から提案されて、貴方が息子を受け入れたら詠寿から貴方を紹介する形にするように言われていたの。それまでは私たちは顔を出さないことを約束していたのよ」
詠寿が明澄に正体がばれて掟に従わざる負えなくなり、拉致するような真似をしてしまったと負い目を感じて狼狽えていたことや厳生の提案に乗り、明澄が気持ちを受け入れてくれたら王たちにちゃんと顔を出すような形にすると約束していたことを王妃は明かす。
「瑠璃音のほうは言いつける前に貴方の顔をみたくて訪れてしまったみたいで……。」
そう言いながら王妃は瑠璃音の方を呆れ顔でじろっと見ると、瑠璃音は誤魔化して目をそらす。
「詠寿の持病……悪癖の事はもう存じているのかい?」
「……はい。」
鮫の人魚の悪癖の事はもう知っているのか聞かれ、明澄は正直に答える。少し間を置くと、王妃から口を開き……
「……詠寿が生まれた時、シロワニの人魚の子で生まれつき鼻が鋭敏だから色々悩みは尽きませんでした」
鮫の一種であるシロワニの人魚だった詠寿を育てるとき、鮫の人魚は持病ゆえに敬遠される傾向にあるため、当時色々な悩みは多かったと話した。
「馬鹿弟の方は甥のこれからの事を考えていませんでしたが、鮫の人魚は悪いところばかりではないということも分かっているつもりでも、鮫の人魚について回る悪癖の事が頭に過って正直将来嫁いでくれる人がいるかも……我々は不安だった。」
不知火王は弟である砕波の父に対する辛辣な言い回しを含めながら、鮫の人魚は身体能力に優れているのは良い事ではあるが、悪癖のせいで伴侶になると手をあげてくれる者が少ない為不安は拭えるものではなかったと話した。
「――でも、君はそんな息子を選んで受け入れてくれた、我々は君に感謝しなくてはいけない。」
「――!」
しかし、明澄はそんな悪癖がついて回る自分の息子である詠寿の気持ちを受け入れてくれたことを親としてもうれしく思うと不知火王は頭を下げる。
「どうもありがとう。」
不知火王は明澄に感謝の言葉を述べた、瑠璃音も王妃も頭を下げていた。
王族自ら頭を下げるなんて前代未聞の姿に、着いて来ていた衛兵たちもざわつく。
「――あっ、あげてください! ボクはそんな……」
王族に頭を下げられる状況に戸惑いを隠せず、明澄はすぐ顔をあげるように言った。
不知火王は顔あげた後、笑みを浮かべる。そして……
「――!本当に可愛い人だな、詠寿?」
「父上……」
からかうように詠寿に明澄を可愛いと評すと、詠寿は呆れたように返事を返す。
内心胸を撫で下ろしていた、男である自分を歓迎して王族の一員になる者として受け入れてくれているどころか感謝されるとは思ってもいなかった。この人たちは義理堅く穏やかな詠寿の両親なのだ、心の中で改めてそう思った。そして詠寿の言う通り、不知火王は内面がとても穏やかな人物だということは話をしてよく分かった。
「さっきから思っていたけど……細いし小っちゃいし可愛いなぁ♪ 一緒に魚の餌付けしないかい?」
「――!?」
いきなり抱きつかれて明澄は、不知火が詠寿に顔が似ていることもあってか顔を赤くして驚く。
「――あなた!」
「父上!」
不知火王が冗談を言いながら明澄に抱きつくと、詠寿は不知火王を明澄から引きはがそうとして王妃も突っ込みを兼ねた一喝をする。「冗談だって」と膨れ面で不知火王は離れる。
「あたくしはもうやったもんね~♪」
瑠璃音は、自慢のように明澄と一緒に魚の餌をあげたと話した。
この様子だと詠寿は、容姿は髪色以外父親似で性格はどちらかというと母親似。
瑠璃音は、容姿は髪色以外母親似で性格はどちらかというと父親似。
明澄はこの様子を見てここにいる王族四人は本当に“家族”なんだなと改めて痛感した。その証拠に両親の個性を、詠寿と瑠璃音はちゃんと受け継いでいると心の中で評した。
「あの、割って入ってすみませんが給仕係が『食事が出来た』と……」
「――おお、もうそんな時間か」
厳生がその様子に呆れながら、食事の用意が出来たことを不知火王たちに伝えると不知火王はそれを聞いて中庭の入り口に足取りを進めると明澄達の方を振り返る。
「では……、食堂で大事な話をしながら夕食と行こうか?」
食堂の方に不知火王は移動しようとし、明澄達もついて行く。
――王宮の食堂にて、王族たちとともに食事を摂っていた。
自分は詠寿の隣に座って食事をしていたが、王族と一緒ということもあり緊張してあまり箸が進まない。
他種族とはいえ、自分が王族と食事を囲っているなんて現実が未だ信じられずにいた。
「ところで明澄さん、“大学”といったか? そこでは最低でも4年は行かないといけないのだろう?」
「――えっ!? えぇ……まぁ」
食事をしていた時、不知火王はフォークとナイフを一旦止めて話を振ったのでその質問に答える。
ただし、大学と言うのは基本授業単位を卒業できると認められる単位まで取らないといけないので下手をすれば留年しなければならないのだが。
「式はおおよそ3年後……君が大学というところを卒業できるまで待とうと思っているんだが、それでいいかな?」
「……それは別にかまいませんが、母たちにも話をしないと。」
「――もちろん、君の両親にも話をしたいと思う。さすがに君の家族の同意なしで式を行う訳にはいかないからね」
不知火王はもちろん明澄の両親には自分達人魚の存在を黙っているわけにもいかないし、明澄の家族の同意なしでは結婚と婚約の儀を執り行えないと言う。
「そこで一度、我々のところに一度連れて来てもらえるよう説得してくれないか?」
「――えっ!?」
「論より証拠、目で見てもらった方が信じてくれると思ってな」
不知火王は普通の人間ならば自分たちの存在を口で言ってもなかなか信じてもらえないと睨み、明澄の両親を連れてくれるようお願いする。明澄は一旦人間界に返してもらえるのかと思い、目を丸くする。
「そこでだ、一旦君をご両親との話し合いもかねて人間界に帰そうと思う。……君もいろいろ話をしたいだろう?」
不知火王は、一度両親との話し合いの名義で明澄を人間界へ帰すことを提案した。
説得の時間も欲しいだろうということもあっての提案だったことを悟った明澄は……、
「――そうですね。」
その方が都合がいいと思い、不知火王の提案に乗ることに決めた。
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