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本編
第二十七話:惹かれあう愛の言葉
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「――詠寿、明澄さんを貰いに行くんだ。明澄さんのご両親の前で粗相のないようにな?」
「分かってるよ。」
父親らしく不知火王は詠寿に明澄のご両親に会いに行く際に無礼にならないよう言いつけると、詠寿はそう返事を返す。
「王族と言えど、我々は人魚だ。明澄さんのご両親が受け入れてくれるかどうかわからないが、そこは二人に任せるしかない。」
「――お願いしますよ? 詠寿。」
「お兄様、頑張れ!」
王族とはいえ自分たちは人魚なので明澄の両親が信じてくれるかもわからないし、明澄をくれるかどうかもわからない。しかし、もうそこは明澄と詠寿の誠意の見せ方次第だと不知火王は忠告する。
王妃も、ちゃんと明澄の両親の理解を深めるつつ説得するように詠寿に言いつけ、瑠璃音も兄にエールを送っていた。
「あぁ……ちゃんとやってみせる。」
詠寿はそう意気込みを入れたので、食事も終えたため一旦婚約の儀に向けての話は終わりとなった。
――翌朝、二人は明澄の両親に話をつける名目で一旦人間界に戻ることになった。
明澄の服は、人間界に行っても可笑しくない格好になっている。
「本当に御付が僕でいいんでしょうか……?」
「王の命令ですからしっかりやりましょう」
クリアが不安そうに聞くが厳生は命令通り遂行するしかないと返し、明澄達の元に行く。
そして、もしも詠寿や明澄に危険が及ぶ場合には不知火王の言いつけでアリヴ達を呼ぶための要員として厳生とクリアが御付として同行することになり、二人にはアリヴ達を呼ぶための笛を渡された。
「明澄様もいるため、こちらをご用意しております……イルカ車です。このイルカ車の滑車部分は念のために魔法使いたちが水避けの結界を張ってくれた為、水が入り込むことはありません」
厳生は明澄達が乗る“イルカ車”について説明していく。イルカ車と呼ばれた小型潜水艦には、空中遊泳ベルトがついてあるイルカが3頭ぐらい先頭についている。
「後、一応これも……」
「――これは?」
「“水中呼吸薬”です、トラブルが発生してイルカ車に水が入り込んだ場合これを速攻で飲んでください。水中でも呼吸できるようになります。」
クリアが移動中にハプニングが発生した場合、もしもの時にと水中でも呼吸できるようになる薬を予め明澄に差し出す。
「――ありがとう」
明澄はその薬が入っている瓶を受け取ってポケットにしまった、イルカ車の周りには王たちやリョウジ達、アリヴたちも明澄達を見送りに来ていた。
「頑張ってください、王子……何かあれば我々を頼ってください」
「――お気をつけて」
「あぁ、行ってくる」
アリヴとショットが労いの言葉を掛けてくれたため、詠寿はそれに答える。
「――王子を頼むな? 明澄ちゃん。」
「どうなるか分からないけれど、明澄様たちを信じてるから」
「兄のいない分、薬の開発も頑張ります。どうか、詠寿様をよろしくお願いします」
リョウジ達も明澄に労いの言葉を掛けてくれる。
そして最後には王族たちも……、
「二人とも、頼んだぞ?」
「頑張ってください。」
「――はい。父上、母上。行って参ります」
「不知火王様、浅葱王妃様……何から何までありがとうございます」
労いの言葉を掛けられ、二人はそれに答えてお礼を言うとイルカ車に乗った。
「――出発!」
船頭が出発の声を上げた瞬間、イルカ車にくくられていたイルカたちは動きだし泳いて行く。
手を振っている王たちや使用人、衛兵たちの姿と宮殿の姿が遠ざかって行く。
「水中に入ります」と呼ばれた瞬間、空気の筒から抜け出したような感覚が車内に走ったーー。
移動中、潜水艦の中は独特の揺れがあったため明澄は酔ってしまい、クリアは酔い止めをくれるなど気にかけてくれた。厳生はただ黙ったまま行き先の様子を見ていただけだったが詠寿は「もう少しだから我慢してくれ」と気遣いしてくれた。
――数時間後、ようやく沖に辿り着き明澄はえずく気分を取り払おうと必死だった。
「ふぅ……」
漸く浜辺にたどり着いて、明澄は酔いを醒まそうと懸命に空気を吸う。
岩場に隠れ人化薬を飲んで下の服を着てきた詠寿が気にかけて声をかけてきた。
「イルカ達の揺れは厳しかったかな? 大丈夫か?」
「はい、なんとか……」
一応大丈夫だと答えはするが、気分はすぐれないままだった。
「すまんな。もう帰っていい、無事岸に上がったと父上たちに連絡してくれ」
「お気をつけて~」
詠寿が船頭に声を掛けると、船頭は詠寿に労いの言葉を言うと同時にイルカ車を発進させ人魚界に帰って行った。
「すごいなぁ、あれ……」
「――あれは、父がリョウジと協力して作らせたものなんだよ。」
イルカ車をよく提案して作れたと明澄が呟くと、イルカ車は不知火王とリョウジが提案を出しあって作らせたものだと詠寿は教える。不知火王もあんなアイデアを出したりするのかと明澄は見えなくなったイルカ車を見つめていた。
「バイト、あんなこともあったから結構休んじゃったな……」
「あぁ、それなら手筈は済んでいますよ」
急に連れてこられたので、無断欠勤続きをしたならバイトは確実にクビだろうと諦めていたが人化薬を飲み、着替えを終えてこちらにやってきた厳生がそう答えてきた。
「――えっ!?」
「いたいた、王子~~」
「――えぇっ?! ボク!?」
声がする方向を見てみると自分に化けた見知らぬ者二人が来た、もう一人は詠寿に化けている。
自分の顔が目の前にいることに明澄は動揺を隠せない。
「ありがとう、お前たち。世話をかけた……」
「――いえいえ。あっ、これ明澄様の私物です。お預かりしてました」
詠寿が自分たちに化けた謎の二人に労いの言葉をかける、自分たちに化けた二人は返事を返しつつ明澄の私物が入ったカバンを返した後、明澄達を素通りして海に飛び込むと……、
「――!?」
「それでは……また呼んでください。」
海から顔を出すと自分たちに化けた二人は本来の顔に戻り、人魚界へと帰って行った。明澄は思わず目が点になる。
「あっ、あの~、あの人たちは……?」
「うちの遣いの者です、彼らには王子と明澄様の代役でバイトをしてもらう様言っておきました。」
「――えぇっ!?」
厳生は帰って行ったあの二人の人魚は明澄達が留守にしている間、替わりに自分たちに化けてくれていた王家の元で働く人魚たちだと明かす。
「あいつらは人間界の調査隊もやっていて人間界の知識はあるし大丈夫さ。俺とお前のいない間話が付くまで俺達に化けてバイトをやってくれていたんだ」
「言ったでしょう? 手筈は済んでいるはずと……」
二人が人魚界で過ごしている間、遣いの者に自分たちの代わりを演じさせていたと詠寿は話す。
明澄は今夏休み中で本当によかったと心の中で思っていた、アルバイト先ならまだしも学校があったら
きっと怪しまれて今頃色んな意味で終わりになると思っていたからだった。そ改めて夏休み中で良かったと思うのだった。
「遣いの者も帰ったところですし、一回家に帰られては?」
「あっ、そうだね。……携帯のメールとかチェックしたいし」
漸く人間に化けてこちらに来たクリアが、一旦家に帰ったらどうかと提案してきた。そんなことやらかしはしないだろうとは思うが、あの遣いの者たちが変に携帯を弄ったりしていないか等色々不安要素もあった為クリアの提案に乗る事にする。
詠寿と目が合ってしまい、明澄はすこし恥ずかしがりながらも……
「ウチ、来ますか……?」
詠寿に仮住まいしているアパートに来るか聞いてみた。
「! ……いいのか?」
詠寿は誘ってくれるとは思わなかったのか顔を赤くして聞き返す、明澄はその言葉に頷いて返事を返した。
「一人暮らしの部屋だし、狭いですよ?」
「――別にいい。」
一人暮らしして仮住まいしている部屋なので、王宮で暮らしてきた詠寿からすれば狭いと思うと明澄が言うが、詠寿はそんなこと気にしてはいない。その様子をみて厳生は耳打ちをし、耳打ちした言葉を聞いたクリアは頷くと……
「……詠寿様、我々は詠寿様の仮住まいしている場所で待機してますから、お二人でゆっくりなされてはどうですか?」
「厳生様が道を覚えていらっしゃるから、僕も大丈夫です。」
二人きりの時間を過ごしてもらおうと厳生は、詠寿の仮住まいしているところで自分たちは待機していると気を利かせようとし、クリアもそれに乗って自分たちに気付かうことなく二人きりの時間を過ごしてほしいと話した。
「……ありがとう」
二人の気遣いに詠寿は感謝して、詠寿は厳生に仮住まいしているマンションの鍵を渡した。
二人は手を振って厳生たちと別れた後、明澄は自分の仮住まいしているアパートに案内した。
仮住まいしているアパートに着くと何日か部屋を空けていたため、久しぶりに感じ取れる……。
家に帰ると、明澄は詠寿と一緒にご飯食べたり他愛もない話をしたり、まるでほんとうの夫婦のような時間を過ごしていた。
風呂を沸かし終えて詠寿には先に入っていいと言ったが、詠寿が手を握って……
「お風呂……一緒に入らないか?」
と聞いて来た、一瞬迷ったが明澄は笑みを浮かべる。
「……はい。」
一緒に入ることを決め、部屋の風呂場に向かい、明澄達は二人で浴槽に入って行った。
勿論、詠寿は情事の際に外したあのベルトを持っていくことを忘れていなかった。
「すまん、鮫だから少しざらざらするかも」など会話を挟みながら湯船に二人で浸かった、詠寿は体を洗ってくれる。確かにちょっとざらついた鮫肌が肌に触るが我慢できた。
「そういえば……あの写真にあったグッピー。お前が飼っていたペットか?」
「? あぁ……あれね、そうです。」
洗面所の前にあった写真立てにグッピーの写真が4匹あった、4匹のうちメス一匹だけで繁殖力の強い魚だし増えすぎるといけないからと母が一匹だけしかメスを入れてくれなかったっけと明澄は思い出しながら昔話をする。
「でも、最初に死んだのがメスで、病気で死んじゃって結局繁殖できなかったな」
「そうか……」
憂い顔で可愛がって飼っていたグッピーの思い出話を話す中、詠寿は黙って聞いていてくれた。
「俺はさ……お前のそういうところが好きなんだ」
「ーーえっ?」
詠寿は突然意味深な言い回しをしたため明澄はどういう意味か聞き返す。
「でも最初一目見た時は、まだわからなかったな。
……ただ、お前が浜辺で遊ぶ姿を見て、ああいう人間と仲良くなりたいなってそれだけだった」
詠寿は幼いころの明澄の第一印象を明澄に正直に話した。
「顔見た時一目惚れでまだ中身は分からなかった、でも……一緒に水族館でバイトとして働くようになったり、人魚界の日々を通して色々分かったんだ」
「たとえば、どんな?」
「魚たちを見る目が優しいところ……とか、人魚だからって差別的な反応をしないところ、かな。明澄はさ、クリアにも臆さないで接してくれたし、瑠璃音の事ちゃんと可愛がってくれるだろう? そういう人と一緒にいれば……人魚界の未来も変われる気がするって思ったんだ」
明澄のいいところと思ったところを詠寿は正直に話した、明澄が昔可愛がって飼っていたグッピーのように魚に限らず生き物を可愛がれる人だと、クリアの話を通してクリアや瑠璃音を人魚だからと臆さず優しくすることが出来る人だと思ったと詠寿は明かす。
そういう人間と一緒に過ごす日々が自分たちの住む人魚界の未来をも変えられる糧となる気がすると詠寿は言う。
自分でも気づかなかったそんなところまで彼は見てくれていたのかと、明澄は驚いた。
「いつから、そんな風に……?」
「お前が倒れ込んで部屋から去った後クリアからお前の話を聞いた、そしたらクリアが明澄は優しく接してくれたと言ったんだ。」
クリアが明澄と会話をした時に思ったことを聞かせて貰った時にそう打ち明けていたとのことだった。
「そういう人がそばにいてくれたら……俺は、人魚界を守れる王になろうって頑張れる気がするんだ」
明澄のような人間が自分の傍にいてくれて自分を愛してくれるなら、自分は少しでも良い王になろうともっと頑張れると思うと打ち明ける。それを聞いた明澄は驚いたが嬉しくも思っていた。
「ボクも……詠寿さんと一緒にいればきっと過去も克服できる気がする。過去のトラウマだけじゃない、これから降りかかるかもしれない色々な問題も。」
「――!?」
この先、色々な壁が自分たちの前に立ちふさがろうと詠寿が居ればきっと乗り越えられる気がすると明澄が告げると、詠寿は堪らなくなって明澄にキスをしていた。
「――んぁっ」
「ベッドに行きたい、早く上がろう?」
詠寿は明澄の唇を解放したあと、風呂から上がって明澄を抱きたいとねだった。
明澄はもちろん、その言葉に頷いたのだった……。
「分かってるよ。」
父親らしく不知火王は詠寿に明澄のご両親に会いに行く際に無礼にならないよう言いつけると、詠寿はそう返事を返す。
「王族と言えど、我々は人魚だ。明澄さんのご両親が受け入れてくれるかどうかわからないが、そこは二人に任せるしかない。」
「――お願いしますよ? 詠寿。」
「お兄様、頑張れ!」
王族とはいえ自分たちは人魚なので明澄の両親が信じてくれるかもわからないし、明澄をくれるかどうかもわからない。しかし、もうそこは明澄と詠寿の誠意の見せ方次第だと不知火王は忠告する。
王妃も、ちゃんと明澄の両親の理解を深めるつつ説得するように詠寿に言いつけ、瑠璃音も兄にエールを送っていた。
「あぁ……ちゃんとやってみせる。」
詠寿はそう意気込みを入れたので、食事も終えたため一旦婚約の儀に向けての話は終わりとなった。
――翌朝、二人は明澄の両親に話をつける名目で一旦人間界に戻ることになった。
明澄の服は、人間界に行っても可笑しくない格好になっている。
「本当に御付が僕でいいんでしょうか……?」
「王の命令ですからしっかりやりましょう」
クリアが不安そうに聞くが厳生は命令通り遂行するしかないと返し、明澄達の元に行く。
そして、もしも詠寿や明澄に危険が及ぶ場合には不知火王の言いつけでアリヴ達を呼ぶための要員として厳生とクリアが御付として同行することになり、二人にはアリヴ達を呼ぶための笛を渡された。
「明澄様もいるため、こちらをご用意しております……イルカ車です。このイルカ車の滑車部分は念のために魔法使いたちが水避けの結界を張ってくれた為、水が入り込むことはありません」
厳生は明澄達が乗る“イルカ車”について説明していく。イルカ車と呼ばれた小型潜水艦には、空中遊泳ベルトがついてあるイルカが3頭ぐらい先頭についている。
「後、一応これも……」
「――これは?」
「“水中呼吸薬”です、トラブルが発生してイルカ車に水が入り込んだ場合これを速攻で飲んでください。水中でも呼吸できるようになります。」
クリアが移動中にハプニングが発生した場合、もしもの時にと水中でも呼吸できるようになる薬を予め明澄に差し出す。
「――ありがとう」
明澄はその薬が入っている瓶を受け取ってポケットにしまった、イルカ車の周りには王たちやリョウジ達、アリヴたちも明澄達を見送りに来ていた。
「頑張ってください、王子……何かあれば我々を頼ってください」
「――お気をつけて」
「あぁ、行ってくる」
アリヴとショットが労いの言葉を掛けてくれたため、詠寿はそれに答える。
「――王子を頼むな? 明澄ちゃん。」
「どうなるか分からないけれど、明澄様たちを信じてるから」
「兄のいない分、薬の開発も頑張ります。どうか、詠寿様をよろしくお願いします」
リョウジ達も明澄に労いの言葉を掛けてくれる。
そして最後には王族たちも……、
「二人とも、頼んだぞ?」
「頑張ってください。」
「――はい。父上、母上。行って参ります」
「不知火王様、浅葱王妃様……何から何までありがとうございます」
労いの言葉を掛けられ、二人はそれに答えてお礼を言うとイルカ車に乗った。
「――出発!」
船頭が出発の声を上げた瞬間、イルカ車にくくられていたイルカたちは動きだし泳いて行く。
手を振っている王たちや使用人、衛兵たちの姿と宮殿の姿が遠ざかって行く。
「水中に入ります」と呼ばれた瞬間、空気の筒から抜け出したような感覚が車内に走ったーー。
移動中、潜水艦の中は独特の揺れがあったため明澄は酔ってしまい、クリアは酔い止めをくれるなど気にかけてくれた。厳生はただ黙ったまま行き先の様子を見ていただけだったが詠寿は「もう少しだから我慢してくれ」と気遣いしてくれた。
――数時間後、ようやく沖に辿り着き明澄はえずく気分を取り払おうと必死だった。
「ふぅ……」
漸く浜辺にたどり着いて、明澄は酔いを醒まそうと懸命に空気を吸う。
岩場に隠れ人化薬を飲んで下の服を着てきた詠寿が気にかけて声をかけてきた。
「イルカ達の揺れは厳しかったかな? 大丈夫か?」
「はい、なんとか……」
一応大丈夫だと答えはするが、気分はすぐれないままだった。
「すまんな。もう帰っていい、無事岸に上がったと父上たちに連絡してくれ」
「お気をつけて~」
詠寿が船頭に声を掛けると、船頭は詠寿に労いの言葉を言うと同時にイルカ車を発進させ人魚界に帰って行った。
「すごいなぁ、あれ……」
「――あれは、父がリョウジと協力して作らせたものなんだよ。」
イルカ車をよく提案して作れたと明澄が呟くと、イルカ車は不知火王とリョウジが提案を出しあって作らせたものだと詠寿は教える。不知火王もあんなアイデアを出したりするのかと明澄は見えなくなったイルカ車を見つめていた。
「バイト、あんなこともあったから結構休んじゃったな……」
「あぁ、それなら手筈は済んでいますよ」
急に連れてこられたので、無断欠勤続きをしたならバイトは確実にクビだろうと諦めていたが人化薬を飲み、着替えを終えてこちらにやってきた厳生がそう答えてきた。
「――えっ!?」
「いたいた、王子~~」
「――えぇっ?! ボク!?」
声がする方向を見てみると自分に化けた見知らぬ者二人が来た、もう一人は詠寿に化けている。
自分の顔が目の前にいることに明澄は動揺を隠せない。
「ありがとう、お前たち。世話をかけた……」
「――いえいえ。あっ、これ明澄様の私物です。お預かりしてました」
詠寿が自分たちに化けた謎の二人に労いの言葉をかける、自分たちに化けた二人は返事を返しつつ明澄の私物が入ったカバンを返した後、明澄達を素通りして海に飛び込むと……、
「――!?」
「それでは……また呼んでください。」
海から顔を出すと自分たちに化けた二人は本来の顔に戻り、人魚界へと帰って行った。明澄は思わず目が点になる。
「あっ、あの~、あの人たちは……?」
「うちの遣いの者です、彼らには王子と明澄様の代役でバイトをしてもらう様言っておきました。」
「――えぇっ!?」
厳生は帰って行ったあの二人の人魚は明澄達が留守にしている間、替わりに自分たちに化けてくれていた王家の元で働く人魚たちだと明かす。
「あいつらは人間界の調査隊もやっていて人間界の知識はあるし大丈夫さ。俺とお前のいない間話が付くまで俺達に化けてバイトをやってくれていたんだ」
「言ったでしょう? 手筈は済んでいるはずと……」
二人が人魚界で過ごしている間、遣いの者に自分たちの代わりを演じさせていたと詠寿は話す。
明澄は今夏休み中で本当によかったと心の中で思っていた、アルバイト先ならまだしも学校があったら
きっと怪しまれて今頃色んな意味で終わりになると思っていたからだった。そ改めて夏休み中で良かったと思うのだった。
「遣いの者も帰ったところですし、一回家に帰られては?」
「あっ、そうだね。……携帯のメールとかチェックしたいし」
漸く人間に化けてこちらに来たクリアが、一旦家に帰ったらどうかと提案してきた。そんなことやらかしはしないだろうとは思うが、あの遣いの者たちが変に携帯を弄ったりしていないか等色々不安要素もあった為クリアの提案に乗る事にする。
詠寿と目が合ってしまい、明澄はすこし恥ずかしがりながらも……
「ウチ、来ますか……?」
詠寿に仮住まいしているアパートに来るか聞いてみた。
「! ……いいのか?」
詠寿は誘ってくれるとは思わなかったのか顔を赤くして聞き返す、明澄はその言葉に頷いて返事を返した。
「一人暮らしの部屋だし、狭いですよ?」
「――別にいい。」
一人暮らしして仮住まいしている部屋なので、王宮で暮らしてきた詠寿からすれば狭いと思うと明澄が言うが、詠寿はそんなこと気にしてはいない。その様子をみて厳生は耳打ちをし、耳打ちした言葉を聞いたクリアは頷くと……
「……詠寿様、我々は詠寿様の仮住まいしている場所で待機してますから、お二人でゆっくりなされてはどうですか?」
「厳生様が道を覚えていらっしゃるから、僕も大丈夫です。」
二人きりの時間を過ごしてもらおうと厳生は、詠寿の仮住まいしているところで自分たちは待機していると気を利かせようとし、クリアもそれに乗って自分たちに気付かうことなく二人きりの時間を過ごしてほしいと話した。
「……ありがとう」
二人の気遣いに詠寿は感謝して、詠寿は厳生に仮住まいしているマンションの鍵を渡した。
二人は手を振って厳生たちと別れた後、明澄は自分の仮住まいしているアパートに案内した。
仮住まいしているアパートに着くと何日か部屋を空けていたため、久しぶりに感じ取れる……。
家に帰ると、明澄は詠寿と一緒にご飯食べたり他愛もない話をしたり、まるでほんとうの夫婦のような時間を過ごしていた。
風呂を沸かし終えて詠寿には先に入っていいと言ったが、詠寿が手を握って……
「お風呂……一緒に入らないか?」
と聞いて来た、一瞬迷ったが明澄は笑みを浮かべる。
「……はい。」
一緒に入ることを決め、部屋の風呂場に向かい、明澄達は二人で浴槽に入って行った。
勿論、詠寿は情事の際に外したあのベルトを持っていくことを忘れていなかった。
「すまん、鮫だから少しざらざらするかも」など会話を挟みながら湯船に二人で浸かった、詠寿は体を洗ってくれる。確かにちょっとざらついた鮫肌が肌に触るが我慢できた。
「そういえば……あの写真にあったグッピー。お前が飼っていたペットか?」
「? あぁ……あれね、そうです。」
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「でも、最初に死んだのがメスで、病気で死んじゃって結局繁殖できなかったな」
「そうか……」
憂い顔で可愛がって飼っていたグッピーの思い出話を話す中、詠寿は黙って聞いていてくれた。
「俺はさ……お前のそういうところが好きなんだ」
「ーーえっ?」
詠寿は突然意味深な言い回しをしたため明澄はどういう意味か聞き返す。
「でも最初一目見た時は、まだわからなかったな。
……ただ、お前が浜辺で遊ぶ姿を見て、ああいう人間と仲良くなりたいなってそれだけだった」
詠寿は幼いころの明澄の第一印象を明澄に正直に話した。
「顔見た時一目惚れでまだ中身は分からなかった、でも……一緒に水族館でバイトとして働くようになったり、人魚界の日々を通して色々分かったんだ」
「たとえば、どんな?」
「魚たちを見る目が優しいところ……とか、人魚だからって差別的な反応をしないところ、かな。明澄はさ、クリアにも臆さないで接してくれたし、瑠璃音の事ちゃんと可愛がってくれるだろう? そういう人と一緒にいれば……人魚界の未来も変われる気がするって思ったんだ」
明澄のいいところと思ったところを詠寿は正直に話した、明澄が昔可愛がって飼っていたグッピーのように魚に限らず生き物を可愛がれる人だと、クリアの話を通してクリアや瑠璃音を人魚だからと臆さず優しくすることが出来る人だと思ったと詠寿は明かす。
そういう人間と一緒に過ごす日々が自分たちの住む人魚界の未来をも変えられる糧となる気がすると詠寿は言う。
自分でも気づかなかったそんなところまで彼は見てくれていたのかと、明澄は驚いた。
「いつから、そんな風に……?」
「お前が倒れ込んで部屋から去った後クリアからお前の話を聞いた、そしたらクリアが明澄は優しく接してくれたと言ったんだ。」
クリアが明澄と会話をした時に思ったことを聞かせて貰った時にそう打ち明けていたとのことだった。
「そういう人がそばにいてくれたら……俺は、人魚界を守れる王になろうって頑張れる気がするんだ」
明澄のような人間が自分の傍にいてくれて自分を愛してくれるなら、自分は少しでも良い王になろうともっと頑張れると思うと打ち明ける。それを聞いた明澄は驚いたが嬉しくも思っていた。
「ボクも……詠寿さんと一緒にいればきっと過去も克服できる気がする。過去のトラウマだけじゃない、これから降りかかるかもしれない色々な問題も。」
「――!?」
この先、色々な壁が自分たちの前に立ちふさがろうと詠寿が居ればきっと乗り越えられる気がすると明澄が告げると、詠寿は堪らなくなって明澄にキスをしていた。
「――んぁっ」
「ベッドに行きたい、早く上がろう?」
詠寿は明澄の唇を解放したあと、風呂から上がって明澄を抱きたいとねだった。
明澄はもちろん、その言葉に頷いたのだった……。
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