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本編
第二十九話:トラウマの再来
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――さらに数時間後、明澄の勤務時間が終わりを告げる。
「明澄君、お疲れ様~。」
「お疲れ様です、それじゃあお願いします」
シフトが入れ替わる売り場担当の人が、手を振って明澄と交代する。明澄は他の従業員にバトンタッチして帰宅することに決めた、スタッフルームに続くドアから他の従業員から頼まれたのかそれなりに大きい魚たちの餌であるオキアミが入っているバケツを持った詠寿が出てきた。
「!? ――あぁ、明澄か。」
「詠寿さん……」
ドアの前に明澄が出てくると思わなかったのか、詠寿は驚いていた。詠寿は落として台無しにならないよう、オキアミが入ったバケツをその場に置く。
「そう言えば、今日大雨来るらしいけど、大丈夫? 詠寿さん……」
「一応レインコートと予備の人化薬はもっているから、明澄はもう“あがり”か?」
「――うん。そうだ、今日何食べたいですか?」
先程先輩から豪雨注意報の情報を聞き、雨に濡れて人魚に戻ってしまわないか不安だった為、明澄は聞いてみると、予備の薬とレインコートを常備していると答えると同時に明澄にもう勤務時間を終えるのか聞てきたので頷いて答え、夕飯は何を食べたいか聞いた。
「――えっ!? えっと、そうだな、サバの塩焼きがいいかな」
「ふふっ、わかった……先に帰って待っているね」
「それじゃあ期待して頑張ってくる」
「……うん」
詠寿は少し照れながら、サバの塩焼きをリクエストすると明澄は了承し、詠寿は顔を赤くし手を振って先に出勤時間を終えてスタッフルームに入る明澄を見送っていた。
「おや、葉月君……お疲れ様。」
「――あっ、桑野さん!? お疲れ様です。」
スタッフルームの中にあるロッカー室で着替えを終えて観光者通路を歩いていると、いつの間にか桑野が立っていたことに驚いて慌てて挨拶をする。桑野は突然、人差し指の腹を明澄の眉間に当てて難しそうな顔をする。明澄は何事かと思い怪訝な表情で桑野を見ていると……
「ちょっと葉月君の運勢占ったら、君これからトラブルに巻き込まれそうだよ? 後ろからついてくる車や足音には十分気を付けてね?」
「――はっ、はぁ……」
運勢上昇させるためのアドバイスなのだろうか、桑野は明澄に意味深な忠告をする。
「心から好きな人を信じることが好転のカギ、好きな人がいればその人の事を信じてあげてな? 最近親しくなった人がいるならその人の事もちゃんと信じてあげる事、いいね?」
「――あっ、はい。」
運勢を好転させるための忠告をもう一つ言って、桑野は去って行った。言うだけ言って帰って行く桑野の後姿をただ明澄は呆気にとられるだけだった。去っていく桑野の後姿を見ながら明澄は不思議そうに眉間をさする、取りあえず言葉を覚えておこうと思いつつ、明澄はさきに仮住まいのアパートに帰って行った。しかし、明澄は後ろから見ている怪しい影に気付いてはいなかったのだ……。
――家に帰った後、家で待っていたクリアに留守を任せて近くのスーパーで活きのいいサバの切り身を買おうとしていた。
もしもの為に詠寿の電話番号が書いたメモもクリアにはあらかじめ渡しておき、4人分のサバの切り身を買ってスーパーから出て空を見上げると、空は怪しい雲行きに包まれていて雨が降りそうな予兆を匂わせていた。
早く帰った方がいいと思った明澄は、早く家路を辿る。家路を辿っている途中何かの違和感に気付く、後をつけられているようなそんな感覚だ。
後ろを見ると自分の後ろでゆっくり走っている車が、スーパーに止まっていた車の一台だということに気付き、それが自分をこっそり追っかけているような気がしてならない。明澄は、車を撒こうと逆の道をわざと通ったりする。この小道は幸いにも長い通路であるため明澄もようやく撒いたと思って胸を撫で下ろしたが、それもつかの間だった――。
「――んぅ!?」
小道を出て家路を辿る道に横切った瞬間、何者かに口を塞がれて気を失ってしまった。
明澄を追っていた不審者は、明澄を気絶させるなり車の後部座席に押し込んだ。
――その頃、詠寿は厳生とともに明澄の家を辿って明澄に会おうとしていた。
「よかったですね、明澄様に好物を作ってもらえるなんて。」
「……まぁな」
詠寿がサバの塩焼きをリクエストしたら応えてくれたことを厳生に話すと、厳生も二人がお互いに絆を深めつつあるその様子に笑顔になっていた。明澄が仮住まいしているアパートにあと数メートルくらいのところでクリアが部屋から出てきたことに気づき、クリアは階段を降りたところで二人に気付いて二人の元に駆けつける。
「――厳生様、詠寿様!? 丁度良かった!」
「どうしたんですか? 慌てて……」
二人の姿を見つけで安堵しているクリアの様子は明らかに取り乱していた。クリアの様子が明らかに可笑しいので、厳生は何があったのか聞いてみた。
「――明澄様が何分たっても戻ってこないのです、切り身を4人分買ってくると言って出て行ったきり帰ってこないんです! 何かあったんじゃないかって……!」
「――なっ、なんだって!?」
「どうしよう、僕のせいで……!」
クリア曰く明澄が詠寿のために買い物に行ったきり帰ってこないので不安になり、探しに行こうとしていたところだったとのことだ、明澄に何かあったことに間違いなかった。 明澄が買い物に行く際に自分が買うとクリアは一応言ったが買い物を譲らなかったため仕方なく折れたが、やはり自分が行くべきだったと後悔する。
「――まだ嘆くのは早いですよ、アリヴ達を呼ぶ笛はもっていますね?」
「はい……」
厳生は慌てふためくクリアに叱咤すると、アリヴ達王家直属兵士たちを呼ぶための笛はもっているか聞居てくる。厳生たちが話し合っている傍ら、詠寿は手掛かりになる事はないかと記憶を張り巡らさせているとある言葉を思い出した。
『“因縁の相手”が貴方の大切な人を傷つけるかもしれないよ? その相手には十分気を付けて』
勤務時間を終えた帰り際に、桑野が詠寿に意味深な忠告をしたのだった。まさかと思ったが、ここまで来ると嫌な予感しかない。桑野の言った言葉が的中したのと、もしかしたら桑野は明澄に危害を加えようとしている相手が誰なのか薄々気付いていて自分にそんな忠告をしたのではと思い始めた。桑野が言った“因縁の相手”……そして明澄に何があったのか、その言葉でもうはっきりした。
「!? ――王子! お待ちください!」
いてもたってもいられず、詠寿は厳生たちの制止も振り切って走り出した。
「うっ…――!?」
その頃、明澄はようやく目を覚まして起き上がろうとするが自分の手が太い縄で縛られていて、柱についているフックに縄が掛けられている状態だった。よく見ると倉庫のような場所で潮の音が聞こえるので海に近い場所だというのは分かった。
そして漸く明澄は自分に何があったのか思い出した、怪しい車に追い掛けられ撒いたと思ったら待ち伏せされて気絶させられたことを――。
「――目が覚めたかい? 明澄ぃ」
声の主に恐怖で胸の鼓動がうるさくなった、声の主の正体にすぐ気付いた。
明澄にとって話したくもないし会うことも嫌なもはや嫌悪の対象と言うべき人物だった。
阿久津が笑みを浮かべながら暗闇から出てきた。恐怖で声が上ずる、そしてよく見ると自分が昔着ていたパーカーと同じ色のパーカーを着せられていた。
「明澄はやっぱりかわいいね、あの時と同じだ」
「――っ」
「その様子だと、俺の事を思い出したようだな? 明澄……」
「いっ、嫌……」
恐怖で体が震える、トラウマを植え付けた張本人阿久津が近寄ってくる恐怖に、明澄は首を横に振って寄らないでと懇願する。嗜虐的な笑みを見せながら、阿久津は近づくのを止めない。
「ずっと前から目をつけていたんだぜ? 誰だかわからない奴に邪魔されて計画が狂っちまったけどな……」
「――どっ、どうしてこんな事……!」
「あの浜辺で女みたいな顔したお前を見て下半身が疼いた、オカズだけじゃあ物足りなくてね……ついにやっちまっただけさ」
阿久津はあの時の苛立ちを吐露して、本性を現す。明澄はあの時自分を襲った理由を問うと阿久津はそう動機を自白した、前々から自分の身体を狙っていて近付いたと言われると更に嫌悪感が増す。
「男だったら女より面倒くさいことにならないしちょうどいいと思った、けどお前の初物を拭えると思ったらとんだ邪魔が入ったよ。だが……写真のおかげでお世話になったぜ?」
――ひらっ
「――っ」
別に同性愛者ではないが女を襲う方が警察沙汰で煩くなるから女顔で男だった明澄は丁度良かったという碌でもない動機を吐きながら今度は明澄に写真を見せつけた、そこに映っていたのは6年前に阿久津に襲われて、服が肌蹴て泣いている自分だった。明澄は、蒼白の表情を浮かべた。
「また会った時、すぐ思い出したぜ? ……ただ、鮫淵に気があったのは腹立ったけどなぁ!」
乱暴に地面にたたきつけるように、阿久津は明澄を押し倒した。
「いけ好かねぇ野郎に目をつけていた奴が奪われる気持ちが、こんなに不快だとはなぁ!」
「――やっ、嫌っ……!」
「鮫淵に操立てでもするか? あいつとデキてんだろ!? 見せびらかす様にいちゃつきやがって――!」
あの時のトラウマが再燃してしまう、しかも目の前にはトラウマを植え付けた張本人。
恐怖は、今まで襲われ掛けたのよりはるか上だった。明澄を射止めたのがよりによって気に入らない相手である詠寿だったことが不服だったらしく、その鬱憤を晴らすかのようにパーカーの中に着ていた明澄の服を阿久津は左右に引きちぎる。
「――やぁああ!」
――嫌だ、こんな人にまた穢されるなんて……!
『心から好きな人を信じることが好転のカギ……好きな人がいればその人の事を信じてあげてな? 最近親しくなった人がいるならその人の事もちゃんと信じてあげる事、いいね?』
犯されそうになる恐怖の中で桑野の忠告を思い出し、もしかして桑野はこういうことを想定して自分に忠告してくれたのかと思い始めた。それが本当になるなら信じたい、彼が絶対に駆けつけてくれることを……。
阿久津は、あの記憶の続きをするかのように自分の下半身に手を伸ばそうとする。こんな男に穢される真似なんてされたくないと生理的な涙を浮かべる。
「――助けてぇ、詠寿さん!」
心の中で恐怖と嫌悪に苦しみながらも、声を張り上げて助けを求めた。
「――!」
(――えっ!?)
――詠、寿さん?
詠寿の声が聞こえた気がして、目をそっと開いてみると明澄の前で明澄を凌辱しようとした阿久津が詠寿に殴り飛ばされていた姿を捕え嘘や幻ではないのだろうかと明澄は目を見張る。息を切らしながら詠寿は、殴り飛ばされて痛みに悶える阿久津を見下ろしている。
「詠、寿さん……?」
「! ――明澄、大丈夫か!?」
明澄が話しかけると詠寿は我に返ったように明澄に駆けつけ、心配して肩に手を添える。
詠寿からくれるぬくもりから夢ではないことを教えられる。
「間に合わなかったか……?」
服が破けている明澄に不安そうに縄を解きながら聞いてきたため、明澄は涙を流して首を横に振る。
「――えい、じゅさ……」
「良かった……間に合って」
詠寿が来てくれたことに胸を撫で下ろし泣きつく、詠寿も間に合ったことに胸を撫で下ろしていた。
しかし、阿久津の存在を忘れていた二人は阿久津がぎろっと二人を睨んで起き上がり何かで詠寿を殴る。
――ドゴッ!
「――っ!?」
「!? ――詠寿さん!」
鈍い音が聞こえた、阿久津がそこに鉄パイプを握って詠寿の頭を殴ったのだった。
「明澄君、お疲れ様~。」
「お疲れ様です、それじゃあお願いします」
シフトが入れ替わる売り場担当の人が、手を振って明澄と交代する。明澄は他の従業員にバトンタッチして帰宅することに決めた、スタッフルームに続くドアから他の従業員から頼まれたのかそれなりに大きい魚たちの餌であるオキアミが入っているバケツを持った詠寿が出てきた。
「!? ――あぁ、明澄か。」
「詠寿さん……」
ドアの前に明澄が出てくると思わなかったのか、詠寿は驚いていた。詠寿は落として台無しにならないよう、オキアミが入ったバケツをその場に置く。
「そう言えば、今日大雨来るらしいけど、大丈夫? 詠寿さん……」
「一応レインコートと予備の人化薬はもっているから、明澄はもう“あがり”か?」
「――うん。そうだ、今日何食べたいですか?」
先程先輩から豪雨注意報の情報を聞き、雨に濡れて人魚に戻ってしまわないか不安だった為、明澄は聞いてみると、予備の薬とレインコートを常備していると答えると同時に明澄にもう勤務時間を終えるのか聞てきたので頷いて答え、夕飯は何を食べたいか聞いた。
「――えっ!? えっと、そうだな、サバの塩焼きがいいかな」
「ふふっ、わかった……先に帰って待っているね」
「それじゃあ期待して頑張ってくる」
「……うん」
詠寿は少し照れながら、サバの塩焼きをリクエストすると明澄は了承し、詠寿は顔を赤くし手を振って先に出勤時間を終えてスタッフルームに入る明澄を見送っていた。
「おや、葉月君……お疲れ様。」
「――あっ、桑野さん!? お疲れ様です。」
スタッフルームの中にあるロッカー室で着替えを終えて観光者通路を歩いていると、いつの間にか桑野が立っていたことに驚いて慌てて挨拶をする。桑野は突然、人差し指の腹を明澄の眉間に当てて難しそうな顔をする。明澄は何事かと思い怪訝な表情で桑野を見ていると……
「ちょっと葉月君の運勢占ったら、君これからトラブルに巻き込まれそうだよ? 後ろからついてくる車や足音には十分気を付けてね?」
「――はっ、はぁ……」
運勢上昇させるためのアドバイスなのだろうか、桑野は明澄に意味深な忠告をする。
「心から好きな人を信じることが好転のカギ、好きな人がいればその人の事を信じてあげてな? 最近親しくなった人がいるならその人の事もちゃんと信じてあげる事、いいね?」
「――あっ、はい。」
運勢を好転させるための忠告をもう一つ言って、桑野は去って行った。言うだけ言って帰って行く桑野の後姿をただ明澄は呆気にとられるだけだった。去っていく桑野の後姿を見ながら明澄は不思議そうに眉間をさする、取りあえず言葉を覚えておこうと思いつつ、明澄はさきに仮住まいのアパートに帰って行った。しかし、明澄は後ろから見ている怪しい影に気付いてはいなかったのだ……。
――家に帰った後、家で待っていたクリアに留守を任せて近くのスーパーで活きのいいサバの切り身を買おうとしていた。
もしもの為に詠寿の電話番号が書いたメモもクリアにはあらかじめ渡しておき、4人分のサバの切り身を買ってスーパーから出て空を見上げると、空は怪しい雲行きに包まれていて雨が降りそうな予兆を匂わせていた。
早く帰った方がいいと思った明澄は、早く家路を辿る。家路を辿っている途中何かの違和感に気付く、後をつけられているようなそんな感覚だ。
後ろを見ると自分の後ろでゆっくり走っている車が、スーパーに止まっていた車の一台だということに気付き、それが自分をこっそり追っかけているような気がしてならない。明澄は、車を撒こうと逆の道をわざと通ったりする。この小道は幸いにも長い通路であるため明澄もようやく撒いたと思って胸を撫で下ろしたが、それもつかの間だった――。
「――んぅ!?」
小道を出て家路を辿る道に横切った瞬間、何者かに口を塞がれて気を失ってしまった。
明澄を追っていた不審者は、明澄を気絶させるなり車の後部座席に押し込んだ。
――その頃、詠寿は厳生とともに明澄の家を辿って明澄に会おうとしていた。
「よかったですね、明澄様に好物を作ってもらえるなんて。」
「……まぁな」
詠寿がサバの塩焼きをリクエストしたら応えてくれたことを厳生に話すと、厳生も二人がお互いに絆を深めつつあるその様子に笑顔になっていた。明澄が仮住まいしているアパートにあと数メートルくらいのところでクリアが部屋から出てきたことに気づき、クリアは階段を降りたところで二人に気付いて二人の元に駆けつける。
「――厳生様、詠寿様!? 丁度良かった!」
「どうしたんですか? 慌てて……」
二人の姿を見つけで安堵しているクリアの様子は明らかに取り乱していた。クリアの様子が明らかに可笑しいので、厳生は何があったのか聞いてみた。
「――明澄様が何分たっても戻ってこないのです、切り身を4人分買ってくると言って出て行ったきり帰ってこないんです! 何かあったんじゃないかって……!」
「――なっ、なんだって!?」
「どうしよう、僕のせいで……!」
クリア曰く明澄が詠寿のために買い物に行ったきり帰ってこないので不安になり、探しに行こうとしていたところだったとのことだ、明澄に何かあったことに間違いなかった。 明澄が買い物に行く際に自分が買うとクリアは一応言ったが買い物を譲らなかったため仕方なく折れたが、やはり自分が行くべきだったと後悔する。
「――まだ嘆くのは早いですよ、アリヴ達を呼ぶ笛はもっていますね?」
「はい……」
厳生は慌てふためくクリアに叱咤すると、アリヴ達王家直属兵士たちを呼ぶための笛はもっているか聞居てくる。厳生たちが話し合っている傍ら、詠寿は手掛かりになる事はないかと記憶を張り巡らさせているとある言葉を思い出した。
『“因縁の相手”が貴方の大切な人を傷つけるかもしれないよ? その相手には十分気を付けて』
勤務時間を終えた帰り際に、桑野が詠寿に意味深な忠告をしたのだった。まさかと思ったが、ここまで来ると嫌な予感しかない。桑野の言った言葉が的中したのと、もしかしたら桑野は明澄に危害を加えようとしている相手が誰なのか薄々気付いていて自分にそんな忠告をしたのではと思い始めた。桑野が言った“因縁の相手”……そして明澄に何があったのか、その言葉でもうはっきりした。
「!? ――王子! お待ちください!」
いてもたってもいられず、詠寿は厳生たちの制止も振り切って走り出した。
「うっ…――!?」
その頃、明澄はようやく目を覚まして起き上がろうとするが自分の手が太い縄で縛られていて、柱についているフックに縄が掛けられている状態だった。よく見ると倉庫のような場所で潮の音が聞こえるので海に近い場所だというのは分かった。
そして漸く明澄は自分に何があったのか思い出した、怪しい車に追い掛けられ撒いたと思ったら待ち伏せされて気絶させられたことを――。
「――目が覚めたかい? 明澄ぃ」
声の主に恐怖で胸の鼓動がうるさくなった、声の主の正体にすぐ気付いた。
明澄にとって話したくもないし会うことも嫌なもはや嫌悪の対象と言うべき人物だった。
阿久津が笑みを浮かべながら暗闇から出てきた。恐怖で声が上ずる、そしてよく見ると自分が昔着ていたパーカーと同じ色のパーカーを着せられていた。
「明澄はやっぱりかわいいね、あの時と同じだ」
「――っ」
「その様子だと、俺の事を思い出したようだな? 明澄……」
「いっ、嫌……」
恐怖で体が震える、トラウマを植え付けた張本人阿久津が近寄ってくる恐怖に、明澄は首を横に振って寄らないでと懇願する。嗜虐的な笑みを見せながら、阿久津は近づくのを止めない。
「ずっと前から目をつけていたんだぜ? 誰だかわからない奴に邪魔されて計画が狂っちまったけどな……」
「――どっ、どうしてこんな事……!」
「あの浜辺で女みたいな顔したお前を見て下半身が疼いた、オカズだけじゃあ物足りなくてね……ついにやっちまっただけさ」
阿久津はあの時の苛立ちを吐露して、本性を現す。明澄はあの時自分を襲った理由を問うと阿久津はそう動機を自白した、前々から自分の身体を狙っていて近付いたと言われると更に嫌悪感が増す。
「男だったら女より面倒くさいことにならないしちょうどいいと思った、けどお前の初物を拭えると思ったらとんだ邪魔が入ったよ。だが……写真のおかげでお世話になったぜ?」
――ひらっ
「――っ」
別に同性愛者ではないが女を襲う方が警察沙汰で煩くなるから女顔で男だった明澄は丁度良かったという碌でもない動機を吐きながら今度は明澄に写真を見せつけた、そこに映っていたのは6年前に阿久津に襲われて、服が肌蹴て泣いている自分だった。明澄は、蒼白の表情を浮かべた。
「また会った時、すぐ思い出したぜ? ……ただ、鮫淵に気があったのは腹立ったけどなぁ!」
乱暴に地面にたたきつけるように、阿久津は明澄を押し倒した。
「いけ好かねぇ野郎に目をつけていた奴が奪われる気持ちが、こんなに不快だとはなぁ!」
「――やっ、嫌っ……!」
「鮫淵に操立てでもするか? あいつとデキてんだろ!? 見せびらかす様にいちゃつきやがって――!」
あの時のトラウマが再燃してしまう、しかも目の前にはトラウマを植え付けた張本人。
恐怖は、今まで襲われ掛けたのよりはるか上だった。明澄を射止めたのがよりによって気に入らない相手である詠寿だったことが不服だったらしく、その鬱憤を晴らすかのようにパーカーの中に着ていた明澄の服を阿久津は左右に引きちぎる。
「――やぁああ!」
――嫌だ、こんな人にまた穢されるなんて……!
『心から好きな人を信じることが好転のカギ……好きな人がいればその人の事を信じてあげてな? 最近親しくなった人がいるならその人の事もちゃんと信じてあげる事、いいね?』
犯されそうになる恐怖の中で桑野の忠告を思い出し、もしかして桑野はこういうことを想定して自分に忠告してくれたのかと思い始めた。それが本当になるなら信じたい、彼が絶対に駆けつけてくれることを……。
阿久津は、あの記憶の続きをするかのように自分の下半身に手を伸ばそうとする。こんな男に穢される真似なんてされたくないと生理的な涙を浮かべる。
「――助けてぇ、詠寿さん!」
心の中で恐怖と嫌悪に苦しみながらも、声を張り上げて助けを求めた。
「――!」
(――えっ!?)
――詠、寿さん?
詠寿の声が聞こえた気がして、目をそっと開いてみると明澄の前で明澄を凌辱しようとした阿久津が詠寿に殴り飛ばされていた姿を捕え嘘や幻ではないのだろうかと明澄は目を見張る。息を切らしながら詠寿は、殴り飛ばされて痛みに悶える阿久津を見下ろしている。
「詠、寿さん……?」
「! ――明澄、大丈夫か!?」
明澄が話しかけると詠寿は我に返ったように明澄に駆けつけ、心配して肩に手を添える。
詠寿からくれるぬくもりから夢ではないことを教えられる。
「間に合わなかったか……?」
服が破けている明澄に不安そうに縄を解きながら聞いてきたため、明澄は涙を流して首を横に振る。
「――えい、じゅさ……」
「良かった……間に合って」
詠寿が来てくれたことに胸を撫で下ろし泣きつく、詠寿も間に合ったことに胸を撫で下ろしていた。
しかし、阿久津の存在を忘れていた二人は阿久津がぎろっと二人を睨んで起き上がり何かで詠寿を殴る。
――ドゴッ!
「――っ!?」
「!? ――詠寿さん!」
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