シロワニの花嫁

水野あめんぼ

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本編

第三十話:変化と決着

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――ぎろっ

「鮫淵、てめぇ……!」

詠寿は何も言わず、鉄パイプで殴って来た阿久津を睨み、鉄パイプを強く握りしめ殴られた仕返し兼ねて詠寿を殴ったのに微動だにしない態度に阿久津は少し焦りを感じる。

――キッ

「……一度ならず、二度までも明澄を!」

鋭い眼光で詠寿は鉄パイプを握りしめ、阿久津に怒りを現して鉄パイプの先端をひしゃげさせたのちに鉄パイプを阿久津から奪い取って放り投げた。

「――鮫淵、ナイト気取りかぁ? でも丁度いい、てめぇは前から気に入らなかったんだよ!!」

「――?!」
「いい子ぶりやがって……!」

――ダァン!

阿久津は鉄パイプをひしゃげさせた詠寿に最初は怯んでいたが、阿久津が詠寿にずっと前から詠寿を気に入らなかったことを暴露した瞬間、銃声が倉庫の中に響き渡った。

「――っ」
「!? ――詠寿さん!」

ぎりぎり急所は外したが、詠寿の肩から血が噴き出して詠寿はその場に膝を着く。

「――逃げろ!」
「でも……!」
「――いいから早く!!」

詠寿は自分を置いて逃げるように言うが、そんなこと言われてもそんなことできるはずがない。
明澄は詠寿を置いて逃げるなんて出来る訳がなく阿久津の事を気にしつつも、その場に留まろうとするが……、

「――後で追ってちゃんと助けるから。」

詠寿が、真剣な眼差しで明澄にそう訴える。
絶対に生きて明澄を守るとでも言いたそうな目で訴える詠寿の表情に根負けした明澄は……、

「……わかった、信じるよ? 詠寿さん。」

逃げることを優先した、阿久津はひしゃげてない鉄パイプを手に取って隠し持っていた拳銃を構えた。

「――逃がすかよ!」

――バァン!

「――っ」

阿久津が銃弾を撃ち放ってくる、今のところ当たりはしないものの阿久津の殺意に恐怖を覚える。
倉庫が暗いのと物が多いのが幸いか、それが盾となって明澄を救う。

倉庫内は音が反響するため、阿久津が追い掛けてくるのが分かる。
彼には絶対に捕まらない、そう胸に決めながらも暗がりの中明澄は必死で厳生達が来てくれるまでやりきることを決める。

一方、クリアは厳生にアリヴ達を呼ぶのを任せペットショップにいる魚たちと会話して明澄の足取りを探していた。

店に飼われていたグッピーたちに明澄の写真を見せて聞くが首を横に振るばかりだった。
手掛かりを掴めず捜索は難航してたがスーパーのすぐ近くの喫茶店で飼われている熱帯魚が、見たとついに言ってくれた。

「! ――どこで!?」

どこで見かけたか、喫茶店の熱帯魚に問い詰める。クリアの様子は傍から見れば電波系の変人にしか見られないが、魚たちの言葉が多少分かる彼には熱帯魚たちの言葉は分かるのだ。

「――!?」

熱帯魚の証言から明澄は喫茶店の近くで不審者に拉致されたことをクリアは知る。熱帯魚にさらに車の特徴など問い詰めていると、ある人物がクリアの後ろに立つ。

「何しているの?」
「――えっ!? あなたは一体?」

急に話しかけられたことに驚くと桑野が立っており、何をしているのか尋ねられ見知らぬ人間に知り合いが拉致をされたと言って信じるか不安だったため迷っていると……、

「そうか、やっぱり当たったか」
「――えっ!?」

桑野がこうなることを予想していたような発言をして、クリアはその言葉に驚いた表情を見せると……。

「その様子だと、鮫淵君……いいや、?」
「――どうしてそれを!?」
「多分、阿久津だね……あの男、ずっと明澄君に目をつけていたからね」

桑野が詠寿の事を王子と言った上に自分の行動を悟った為、クリアは驚きを隠せない。桑野は、犯人が阿久津だということにもう薄々察していたことや阿久津が明澄を狙っていた事にも気づいていた発言をする。

「貴方、一体何者なんですか……?」

クリアは怪しそうな目で桑野が何もなのか問い詰めると桑野は携帯を取り出し……、

「――あっ、もしもし長門ながと? 急にすまないね。今いる場所教えるから車で迎えに来て指定した場所に行ってくれない?」

電話の相手が出た途端、桑野は指定する場所まで自分を連れて来てくれるようにお願いする。

「それと、を集めて。かもしれないと会長に伝えて……」

そして桑野は、電話の相手にもう一つお願いごとをした。クリアは桑野が何故不知火王の事を知っているのかと、桑野の様子に混乱するばかりだった。

雫が上からしたたり落ちた為、クリアは上を見上げてみると雨が降り始めた。水を大量に浴びたら人魚に戻ってしまう。人魚だとバレるわけにはいかず、屋根のある場所に避難しようとすると……、

――スッ

「――?」
「使いな……ばれると不味いだろ?」
「――!?」

考えを見通していたように桑野はクリアの手を引き、折り畳み傘を貸してくれてクリアは驚いた。 
するとある一台の車が、桑野の前に停車し桑野は乗るように促した。





その頃明澄はまだ、阿久津に追われて違う倉庫に移動して逃げ惑っていた。

「――止まれ、葉月!」

阿久津は容赦なく銃弾を撃ち込んでくる、明澄は必死で阿久津から距離を取ろうと逃げようとしていた。
漸く裏へ繋がるドアを見つけ倉庫の裏口から出て、外に逃げ出した時だった――。

――どしゃっ

「――あぅ!」

明澄は足を踏み外してその場で転んでしまった。
慌てて後ろを振り返ると、阿久津が銃を構えて立っていた。距離を取ろうと這いずって逃げようとするが……、

――ダァン!

「手間を取らせんなよ? 安心しな、お前は鮫淵の後でちゃんと可愛がってやるよ」

下卑た笑みで明澄の横に銃弾を撃ち込み、脅迫して来る阿久津を軽蔑の眼差しで睨みつけた。こんな男なんかのものになるなら死んだ方がましだと言い放てるくらいに阿久津に対する気持ちは嫌悪しかない。

――バキッ

「――!?」

 すると突然阿久津が殴られた、阿久津は詠寿が思ったより追いついたことに驚いていた。

――はぁっ、はぁっ……!

息を切らしながら詠寿は阿久津を鋭い眼光で睨み付ける、殴られたことで阿久津の鼻から血が出てしまっていた。

――ハッ!

「――詠寿さん!」

血を見た瞬間脳裏に悪癖の特徴を思いだし明澄は不味いと思い、詠寿名を叫ぶが手遅れだった。。

――はぁっ、はぁっ……!

息を切らしている詠寿の眼は、悪癖の症状が出てしまったと同じ目になっていた。
おそらく今日は薬を飲んでいなかったうえに、血のにおいを嗅いでしまった。

「――ぶっ殺してやる」

――バキッ、ドカッ!

詠寿は悪癖の症状が出てしまったことも相まってか、怒りに任せて容赦なく阿久津を殴りつける。
明澄は人を殺してしまうのではと思いつつも止める方法が思いつかず、不安そうに見守ることにしかできない。詠寿の攻撃を今まで受けていた阿久津が「調子に乗るなよ」と言って鉄パイプで詠寿が撃たれた箇所を攻撃した。

「――がぅっ!」
「――詠寿さん!」

 傷口を狙って攻撃されたため詠寿はその場に膝を着いた、明澄は姑息な手で膝を着かされた詠寿の姿を見て叫ぶ。

――ガッ!

「――ぐっ!?」

しかし詠寿はすぐ体勢を立て直し、阿久津の首を掴むと首を絞め始める。
宙づりの状態でぎりぎりと首を絞められ阿久津は苦しそうに抵抗する。

このままでは、詠寿は本当に人殺しに至ってしまう。

「ダメッ、ダメ……!」

その状況に明澄も焦りと恐怖が出てきた、詠寿が“人殺し”になってしまう。いくら碌でもない奴でも殺してしまったら、詠寿の目標である人間たちと人魚族の共存が水の泡へと消えてしまう。人間たちに人魚族を誤解される結果を産んでしまう。

(殺したらダメ……!)

――悪魔に、悪癖に負けないで!

明澄は、すぐ我に返って欲しいとばかりに首を横に振って詠寿に訴えかける。

「――詠寿さぁん!!」

いつの間にか声を張り上げて明澄は静止の声を詠寿に掛ける、詠寿には殺しなんて絶対してほしくない。
相手がどれだけ憎い相手であろうとも詠寿を狂暴に豹変させる悪癖という名の悪魔に打ち勝ってほしかった。そればかりが頭にあっていつの間にか大声で叫んでいた。

「――…っ」

「……?」

声を張り上げて制止を掛けると変化が見られた、詠寿が目を見開いた後阿久津の首を絞めていた手を緩めた。何が何だかわからないが、詠寿が自分の声を聴いて我に返ったのだと分かった。

――ドシャッ

「――ゲホッ、ゲホ……クソ!」

 詠寿はもう少しで殺してしまうところだったことに焦りを感じていたことと、我に返ることが出来たことに驚いていたようだった。ギリギリのところで投げ出された阿久津は、必死で息を整える。

――しかし、最悪な事はすぐに起きてしまった。

――ポタッ

「――!?」

(――まさかっ!?)

水が滴り落ちた為、明澄は慌てて上を見上げると雨が降り始めた。数分もしない内に激しくなって、地面は激しく水に打たれている。

転ぶ音が聞こえて明澄は詠寿の方を見ると、詠寿は下半身が鮫の姿になってしまっていた。これでは、立つことすらままならない。

「――にっ、人魚……サメ!?」

阿久津は詠寿の正体を知って唖然としていた、正体がバレてしまった。しかも、最悪な男に。

「……ははははっ、まさか気に入らねぇバイトの学生がまさかだったとはな!」
「――!」

阿久津は最初驚いてはいたが気持ちを整理し終わるとせせら笑いをしたのち、差別的な罵言を言い放ちながら鉄パイプを振り上げる。

「――危ない!」

――ガッ……ギリリッ

思わず明澄も叫ぶと詠寿は阿久津の攻撃を片手で受け止めるが、攻撃を受け止めた状態でも詠寿が危ない状況なことに変わりはない。しかも今詠寿は下半身が魚なため下半身に力が入らない状況なのだ。

「――忌々しいめ、生意気な目付きで睨みつけると思っていれば今度は明澄と付き合っているだと!? ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけているのはお前の方だろ……明澄に、あの子に酷いことしておいて!」

反省もなければ微塵も悪びれない阿久津の姿勢に、詠寿は憤慨する。

「――そうか、ようやく分かったぜ! てめぇか、あの時邪魔しやがったの」

阿久津は詠寿の言葉で、明澄を襲った際に助けを呼んだ声の正体が詠寿だと漸く理解しどうやってあの状態で助けを呼べたのか漸く答えが分かった様だった。

「だったら余計好都合だな。あの時、葉月を襲った奴が俺だってばれないし、気に入らねぇてめえも片づけられる。化け物の擁護なんか誰がするかよ!」

「――クソッ、ベルトがあれば!」

口封じと邪魔者を消すと言う面目で詠寿を消せるのなら殺すと宣言した後、阿久津は銃を構える。取り出せるなら取り出したいが手が塞がっている為取り出すことが出来ない。

「もう終わりだ! ――死ね!!」
「――っ」

「――詠寿さん!」

阿久津は銃の引き金を引こうとして明澄は叫んで詠寿の元に行こうとした瞬間――。

――ドシュッ

「! ――ぐぁっ?!」

明澄も詠寿も驚愕して目を見開いた、阿久津の右肩に矢が刺さり激痛で、肩を抑えて悶える。

「――この殺す価値もつかないようなクソ野郎が、よくもここまでやってくれましたね?」

「――ショット!」

倉庫の出入り口からショットが出てきた、アリヴ達の救助が間に合った証拠だった。

「良い度胸じゃねぇか、王家の跡継ぎを殺そうなんてよ」
「貴方にもう逃げ場はありませんよ、ここにいる全員、皆人魚ですよ? しかも王家直属の優秀な兵士ぞろいです」

ショットの後ろに続いて、アリヴと厳生も出てきた。その言葉で、多くの兵士たちが阿久津の周りを囲む。厳生も怒りを露わにし、阿久津は追い詰められた。

「くっ、へへへへ……だったら」

――すちゃっ

「――!?」

「明澄ぃ……お前を殺して俺も死んでやる!」

自暴自棄になったのか阿久津は降参するどころか明澄に銃を向け始めた。

「――明澄っ!」

――カチャッ

「――っ」

殺されると思って明澄は目を瞑ったが何も起きず目を開いてみると……。

「!……どうなってやがる!?」

「――やれやれ、ぎりぎりセーフだね」

阿久津は何かに動きを封じられているようで混乱しているようだ。声がした方向を見ると桑野がそこに立っていた。

「――桑野さん!?」

「ふふっ、王子にも俺の正体が分からないようなら“変身薬”は上出来な仕上がりなようで安心したよ」

桑野はベルトを取り出すとそれを装着して、着ていたレインコートを脱ぎ捨て雨に濡れ別の姿になって人魚になった、雨に濡れると桑野の姿は先程より若々しい別人のような容姿に変わっていく。詠寿も厳生達も兵士たちも桑野の正体に驚きを隠せなかった。

「――クエシス!?」
「――えっ、桑野さんが!?」

「お久しぶりですね、詠寿様?」

桑野もとい大魔導師クエシスは、本来の姿を明澄達に現したのだった……。
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