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派閥同盟篇
8.四刀乱武流Ⅲ
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2022年1月1日土曜日。京都府亀岡市某所。
午前3時20分。
低勾配から姿を現した少女を見つけると、女性は待ちくたびれたと言わんばかりに嘆息する。
そして真っすぐ向き直ると、大きく右腕を掲げて、
「おぉ、帰ってきたな。任務はどうだっ――」
しかし少女の変わり果てた姿を確認するや否や、女性の天空に突き立てた腕の力は抜けていき、しまいには力なく垂れ下がってしまう。先ほどまで安堵の笑みを浮かべていた口元も、今や情けなく開き切ってしまっている。
少女は絶望感に侵されていた。普段凛として前だけを見据える双眸はすっかり濁り、清潔感に満ち満ちていた頭髪や衣装は、痛々しい傷跡と共に荒れ放題。まるで別の人物像を纏った彼女の姿からは、微塵も生気が感じられない。
「……何があった?」
おぼつかない足どりで女性を素通りした少女の腕を捕まえ、女性は訝しげに訊ねる。
女性に触れられたことで多少正気を取り戻したのか、少女の瞳に青色が差した。
「……犯人と思しき2人組に、逃げられました」
「そうか。任務に失敗したんだな。……わかったよ」
すると女性は、少女に思い切りジェットヘルメットを被せた。少女は物言いたげな様子で戸惑っているが、女性は少女に構うことなく手を引いて自らのバイクに乗せた。
「双葉、さん……?」
「反省は帰ってから。取りあえず今は、黙って後ろに跨ってなさい」
「……はい」
女性自身もジェットヘルメットを装着すると、徐に相棒のハイスピードツアラーに跨る。バイクのモデルはZZR1400だが、内部のエンジンに『水双刃』の技術を応用しているため、駆動音とエネルギー源となる水分を極限まで抑えた超エコロジカル走行が可能である。
「何があったか、ちゃんと聞いてやるから。その代わり、頭ぁ整理しときなさいよ?」
「……はい」
冷気を僅かに揺らしたエンジン音に耳をそばだてると、女性の胸に微かな不安が生じた。
きっとこの少女は危ない、今すぐに助けないと――そんな使命感に突き動かされ、女性はいつの間にかとてつもない速度でバイクを走らせていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
深夜、急きょ集められた四刀派の要人たちを含む8名の新人類は、マイや双葉という女性が宿泊する旅館のすぐ隣――小さな木造の小屋に集結している。
藁を敷いただけの土床と3つばかりの携帯電話が照らす空間は、すでに陰気な空気が充満しており、その原因となった少女は最初に謝罪の言葉を述べた。
「この度は、わたしの実力不足により叛乱者を取り逃がしてしまい、誠に申し訳ありません」
生憎、四刀派当主の伝一閃は兵器倉庫を確認するため外出しており、この場にいるのは彼の傍仕えを務める男性を筆頭とした、彼の補佐官たちだ。あくまで当主の補佐を任されている彼らに当然物事を決める権限はない。つまり彼らが招集された目的は、マイと恵光は諜報員たちの意思を伝一閃に伝えることである。
「結局、相手方の目論見さえ見破ることができませんでした」
己の至らなさを恨んで、後悔して、恥じて、マイは謝罪の言葉を続けた。
「すごすごと尻尾を巻いて帰ってきて……誠に慙愧の念に堪えません。わたしは――」
目を伏せて必死に謝るマイ、彼女の頬に突如として宛がわれた両手は、柔らかい頬肉をむんずと摑んで引っ張り上げた。
マイの目線の先には、侮蔑の情を宿した瞳でこちらを見つめ返す女性の顔。彼女の行為の意味が理解できず逡巡するマイに対して、次に女性が見せたのは、驚くほど穏やかな微笑みだった。
「お嬢、アンタはなんのために戦った、なんのために傷ついた?」
「わ、わたしはただ、任務に従っただけで……」
「だったら、しゃんとしなさい。反省はあとであたしが聞くって言ったろ?」
女性は、マイを諫めるように言葉を紡いでいく。彼女の真摯な表情と慈愛に満ち溢れた瞳は全てマイに向けられ、どこまでも実直で自分に厳しい彼女を、常にクールで自他共に許すことのできる一人前のリーダーへ成長させるため、間違いを正そうとしてくれていた。
マイはようやく彼女の真意に気付き、不意に湧き上がる感謝と愛を堪えられなかった。
「双葉、さん……ぁ、あの、わたし……っ」
「――おいおい、マジかよ……」
すがりつくような抱擁に、若干頬を引きつらせた女性。だが自身の眼下で苦痛を気兼ねなく吐き出す少女の弱々しくも健気な姿に、思わず母性を刺激されてしまう。
「ったく、今はエマージェンシーだってのに。わかってんのか?」
「――――」
「お嬢のダム、脆すぎだろ」
まるで親子のようなやり取りは、室内の空気を一変させた。
今までは、居るだけで気が滅入ってしまう程に鬱屈した空気だったが、少女の涙と女性の優しさが生んだ和やかな雰囲気に感化され、全員が問題に対してたいへん意欲的な姿勢を見せている。
「今回の戦闘において、叛乱者らが無属性兵器と思われる刀剣を使用していたことが判明しており、その件について、四刀派兵器開発部の責任者の方に訊ねたいことがございます」
「無所属兵器……噂を耳にしたことはありますが、開発部のほうではそのような兵器の研究を行っておりません。ましてや、兵器開発に携わってまだ2年目のわたしに、コラージュ技術を超える特殊技術を備えた兵器を創り出す術などございません」
「そう、ですか……」
――しかし、全員が意欲的に問題と向き合っていても、思うように話は進まなかった。
当然といえばそのとおりだが、元より四刀派の兵器倉庫を襲撃した連中が、四刀派に所属していながら叛乱を企てている者たちと同一人物である確証など、どこにもない。
あくまで倉庫襲撃は伝一閃の不安とは関係のない事象で、偶然に時期が重なってしまっただけという可能性も当たり前にあり得る。
つまり今、マイたちが最も優先すべき事柄は、
「わたしたちは伝一閃様より、四刀派同志の中に紛れ込む叛逆者を取り除いて欲しいとの依頼を受けました。幾ら兵器倉庫の内容が重要であったとしても、わたしたちは伝一閃様の依頼を優先させていただきます」
「では、我々はどうしたら良いのですか!?」
『内側に悪腫があるならば、それを除くのは内側の者の使命だ』
木造家屋に轟く低音、その主はなぜか全身に雪を纏っていた。
「伝一閃様……。どういう、ことでしょう?」
「昨日は貴方らに無理を言ってしまったこと、誠、申し訳ない。四刀派の内に潜む叛逆者を排除するのは、他でもない私たちの仕事。何より、貴方らにはこれと比較しようもない、壮大で素晴らしい計画がありましょう」
「ですが、実行にはまだかなりの猶予が……」
「私たちは、新旧大戦後に己の技能のみで生き抜く術を体得する必要があります。此度の題目こそ千載一遇の好機、私たちがさらなる進化を遂げるために不可欠な障害なのです」
伝一閃の言葉は、少なくとも現状の恵光・ローレンスにも当てはまることだ。ヴォルカンの企てる新旧大戦とは、いうなれば日本全土を舞台とした革命戦争であり、事後のことも考えておく必要がある。
四刀派内の問題を自身らで解決できなければ、他の派閥に助けを求めなければならない、そういった習慣がついてしまわないよう、伝一閃はマイたちに委託してよい問題か否かを正しく判断したのだ。
派閥の未来を慮ったうえでの、伝一閃による直々の任務破棄に対して、マイは深く頷きながら了解した。それが現状における最善の判断であり、彼女の正しい分別によって、今度の会商はうまく纏まった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
2022年1月2日日曜日。京都府亀岡市某所。
「……なんも居ねぇじゃんか」
「松五殿、その言葉はもう19度目です。濫用にも程があります」
「松五ぉ。雅輝ぅ。こっちも収穫なしだー」
「竹耶殿、お疲れ様です」
マイの指示のもと、昨夜襲撃された四刀派の兵器倉庫周辺では犯人の捜索が行われていた。
尤も、今は日が昇って間もない午前6時過ぎ、プレハブ小屋ひとつ見当たらない山奥で野宿をする程、犯人たちも迂闊ではないだろう。しかし周辺にいる可能性が皆無だと断言できない以上、どれだけ矮小な可能性だろうと見逃さないのがマイの信条なのだ。
そして彼女の、もはやマゾヒズムを超越した我慢強さに付き合わされている同志たちは、この地味な任務への愚痴を零しながらも熱心に草陰や木の上を探し続けた。
恵光派の#双葉__ふたば__#松五・竹耶、そして四刀派の眞田雅輝も、黒髪美少女が指揮を執るRPG戦略の被害者である。
「このまま、徒労に終わんのかなー……?」
「松五、お前……その言い様だと、まるでマイさんが悪いみたいじゃないか」
「違いないだろ。住居侵入常習者の勇者でさえ決められた区画内だけでアイテムとか人探しすんのに、こんなだだっ広い場所で、たった二人を見つけるとか無謀すぎるって」
「確かに、広漠とした森林で人物像も朧げな人間を見つけ出すのは、相当困難だと思われます」
「だろだろ、雅輝もそう思うよな?」
「ですが松五殿、カーマイン殿もいち統率者であり剣士です。なんの考えもなくこのような場所の捜索を指示されているとは、自分には思えません」
「そ、そうだよな。マイさんは仕事熱心な人だし……」
松五は自分の発言を恥じて目を伏せた。――その刹那、彼の携帯電話がけたたましい音を上げ、激しく震え出した。
怪訝な顔で液晶画面を確認すると、大きな『本部』の文字。
「……もしもし、こちら双葉班ですけど」
『こちら本部。『ヘヴィーズ』より入電、関東にハイエナが逃亡したため、双葉班は早急に帰還してください。繰り返します――』
それから再度同じ内容が読み上げられると、すぐに携帯電話は沈黙する。
「なあ竹耶。マイさんには本当に、考えとかあんのかな」
「お、俺に聞くなよ……」
そして同日正午、双葉兄弟はなぜか関東ではなく東北の、青森県へと送り出された。
また眞田雅輝も、独りで山中を見回る羽目になってしまった。
もしかすると彼らは、マイの思いどおりに動かされていただけなのかもしれない。
午前3時20分。
低勾配から姿を現した少女を見つけると、女性は待ちくたびれたと言わんばかりに嘆息する。
そして真っすぐ向き直ると、大きく右腕を掲げて、
「おぉ、帰ってきたな。任務はどうだっ――」
しかし少女の変わり果てた姿を確認するや否や、女性の天空に突き立てた腕の力は抜けていき、しまいには力なく垂れ下がってしまう。先ほどまで安堵の笑みを浮かべていた口元も、今や情けなく開き切ってしまっている。
少女は絶望感に侵されていた。普段凛として前だけを見据える双眸はすっかり濁り、清潔感に満ち満ちていた頭髪や衣装は、痛々しい傷跡と共に荒れ放題。まるで別の人物像を纏った彼女の姿からは、微塵も生気が感じられない。
「……何があった?」
おぼつかない足どりで女性を素通りした少女の腕を捕まえ、女性は訝しげに訊ねる。
女性に触れられたことで多少正気を取り戻したのか、少女の瞳に青色が差した。
「……犯人と思しき2人組に、逃げられました」
「そうか。任務に失敗したんだな。……わかったよ」
すると女性は、少女に思い切りジェットヘルメットを被せた。少女は物言いたげな様子で戸惑っているが、女性は少女に構うことなく手を引いて自らのバイクに乗せた。
「双葉、さん……?」
「反省は帰ってから。取りあえず今は、黙って後ろに跨ってなさい」
「……はい」
女性自身もジェットヘルメットを装着すると、徐に相棒のハイスピードツアラーに跨る。バイクのモデルはZZR1400だが、内部のエンジンに『水双刃』の技術を応用しているため、駆動音とエネルギー源となる水分を極限まで抑えた超エコロジカル走行が可能である。
「何があったか、ちゃんと聞いてやるから。その代わり、頭ぁ整理しときなさいよ?」
「……はい」
冷気を僅かに揺らしたエンジン音に耳をそばだてると、女性の胸に微かな不安が生じた。
きっとこの少女は危ない、今すぐに助けないと――そんな使命感に突き動かされ、女性はいつの間にかとてつもない速度でバイクを走らせていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
深夜、急きょ集められた四刀派の要人たちを含む8名の新人類は、マイや双葉という女性が宿泊する旅館のすぐ隣――小さな木造の小屋に集結している。
藁を敷いただけの土床と3つばかりの携帯電話が照らす空間は、すでに陰気な空気が充満しており、その原因となった少女は最初に謝罪の言葉を述べた。
「この度は、わたしの実力不足により叛乱者を取り逃がしてしまい、誠に申し訳ありません」
生憎、四刀派当主の伝一閃は兵器倉庫を確認するため外出しており、この場にいるのは彼の傍仕えを務める男性を筆頭とした、彼の補佐官たちだ。あくまで当主の補佐を任されている彼らに当然物事を決める権限はない。つまり彼らが招集された目的は、マイと恵光は諜報員たちの意思を伝一閃に伝えることである。
「結局、相手方の目論見さえ見破ることができませんでした」
己の至らなさを恨んで、後悔して、恥じて、マイは謝罪の言葉を続けた。
「すごすごと尻尾を巻いて帰ってきて……誠に慙愧の念に堪えません。わたしは――」
目を伏せて必死に謝るマイ、彼女の頬に突如として宛がわれた両手は、柔らかい頬肉をむんずと摑んで引っ張り上げた。
マイの目線の先には、侮蔑の情を宿した瞳でこちらを見つめ返す女性の顔。彼女の行為の意味が理解できず逡巡するマイに対して、次に女性が見せたのは、驚くほど穏やかな微笑みだった。
「お嬢、アンタはなんのために戦った、なんのために傷ついた?」
「わ、わたしはただ、任務に従っただけで……」
「だったら、しゃんとしなさい。反省はあとであたしが聞くって言ったろ?」
女性は、マイを諫めるように言葉を紡いでいく。彼女の真摯な表情と慈愛に満ち溢れた瞳は全てマイに向けられ、どこまでも実直で自分に厳しい彼女を、常にクールで自他共に許すことのできる一人前のリーダーへ成長させるため、間違いを正そうとしてくれていた。
マイはようやく彼女の真意に気付き、不意に湧き上がる感謝と愛を堪えられなかった。
「双葉、さん……ぁ、あの、わたし……っ」
「――おいおい、マジかよ……」
すがりつくような抱擁に、若干頬を引きつらせた女性。だが自身の眼下で苦痛を気兼ねなく吐き出す少女の弱々しくも健気な姿に、思わず母性を刺激されてしまう。
「ったく、今はエマージェンシーだってのに。わかってんのか?」
「――――」
「お嬢のダム、脆すぎだろ」
まるで親子のようなやり取りは、室内の空気を一変させた。
今までは、居るだけで気が滅入ってしまう程に鬱屈した空気だったが、少女の涙と女性の優しさが生んだ和やかな雰囲気に感化され、全員が問題に対してたいへん意欲的な姿勢を見せている。
「今回の戦闘において、叛乱者らが無属性兵器と思われる刀剣を使用していたことが判明しており、その件について、四刀派兵器開発部の責任者の方に訊ねたいことがございます」
「無所属兵器……噂を耳にしたことはありますが、開発部のほうではそのような兵器の研究を行っておりません。ましてや、兵器開発に携わってまだ2年目のわたしに、コラージュ技術を超える特殊技術を備えた兵器を創り出す術などございません」
「そう、ですか……」
――しかし、全員が意欲的に問題と向き合っていても、思うように話は進まなかった。
当然といえばそのとおりだが、元より四刀派の兵器倉庫を襲撃した連中が、四刀派に所属していながら叛乱を企てている者たちと同一人物である確証など、どこにもない。
あくまで倉庫襲撃は伝一閃の不安とは関係のない事象で、偶然に時期が重なってしまっただけという可能性も当たり前にあり得る。
つまり今、マイたちが最も優先すべき事柄は、
「わたしたちは伝一閃様より、四刀派同志の中に紛れ込む叛逆者を取り除いて欲しいとの依頼を受けました。幾ら兵器倉庫の内容が重要であったとしても、わたしたちは伝一閃様の依頼を優先させていただきます」
「では、我々はどうしたら良いのですか!?」
『内側に悪腫があるならば、それを除くのは内側の者の使命だ』
木造家屋に轟く低音、その主はなぜか全身に雪を纏っていた。
「伝一閃様……。どういう、ことでしょう?」
「昨日は貴方らに無理を言ってしまったこと、誠、申し訳ない。四刀派の内に潜む叛逆者を排除するのは、他でもない私たちの仕事。何より、貴方らにはこれと比較しようもない、壮大で素晴らしい計画がありましょう」
「ですが、実行にはまだかなりの猶予が……」
「私たちは、新旧大戦後に己の技能のみで生き抜く術を体得する必要があります。此度の題目こそ千載一遇の好機、私たちがさらなる進化を遂げるために不可欠な障害なのです」
伝一閃の言葉は、少なくとも現状の恵光・ローレンスにも当てはまることだ。ヴォルカンの企てる新旧大戦とは、いうなれば日本全土を舞台とした革命戦争であり、事後のことも考えておく必要がある。
四刀派内の問題を自身らで解決できなければ、他の派閥に助けを求めなければならない、そういった習慣がついてしまわないよう、伝一閃はマイたちに委託してよい問題か否かを正しく判断したのだ。
派閥の未来を慮ったうえでの、伝一閃による直々の任務破棄に対して、マイは深く頷きながら了解した。それが現状における最善の判断であり、彼女の正しい分別によって、今度の会商はうまく纏まった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
2022年1月2日日曜日。京都府亀岡市某所。
「……なんも居ねぇじゃんか」
「松五殿、その言葉はもう19度目です。濫用にも程があります」
「松五ぉ。雅輝ぅ。こっちも収穫なしだー」
「竹耶殿、お疲れ様です」
マイの指示のもと、昨夜襲撃された四刀派の兵器倉庫周辺では犯人の捜索が行われていた。
尤も、今は日が昇って間もない午前6時過ぎ、プレハブ小屋ひとつ見当たらない山奥で野宿をする程、犯人たちも迂闊ではないだろう。しかし周辺にいる可能性が皆無だと断言できない以上、どれだけ矮小な可能性だろうと見逃さないのがマイの信条なのだ。
そして彼女の、もはやマゾヒズムを超越した我慢強さに付き合わされている同志たちは、この地味な任務への愚痴を零しながらも熱心に草陰や木の上を探し続けた。
恵光派の#双葉__ふたば__#松五・竹耶、そして四刀派の眞田雅輝も、黒髪美少女が指揮を執るRPG戦略の被害者である。
「このまま、徒労に終わんのかなー……?」
「松五、お前……その言い様だと、まるでマイさんが悪いみたいじゃないか」
「違いないだろ。住居侵入常習者の勇者でさえ決められた区画内だけでアイテムとか人探しすんのに、こんなだだっ広い場所で、たった二人を見つけるとか無謀すぎるって」
「確かに、広漠とした森林で人物像も朧げな人間を見つけ出すのは、相当困難だと思われます」
「だろだろ、雅輝もそう思うよな?」
「ですが松五殿、カーマイン殿もいち統率者であり剣士です。なんの考えもなくこのような場所の捜索を指示されているとは、自分には思えません」
「そ、そうだよな。マイさんは仕事熱心な人だし……」
松五は自分の発言を恥じて目を伏せた。――その刹那、彼の携帯電話がけたたましい音を上げ、激しく震え出した。
怪訝な顔で液晶画面を確認すると、大きな『本部』の文字。
「……もしもし、こちら双葉班ですけど」
『こちら本部。『ヘヴィーズ』より入電、関東にハイエナが逃亡したため、双葉班は早急に帰還してください。繰り返します――』
それから再度同じ内容が読み上げられると、すぐに携帯電話は沈黙する。
「なあ竹耶。マイさんには本当に、考えとかあんのかな」
「お、俺に聞くなよ……」
そして同日正午、双葉兄弟はなぜか関東ではなく東北の、青森県へと送り出された。
また眞田雅輝も、独りで山中を見回る羽目になってしまった。
もしかすると彼らは、マイの思いどおりに動かされていただけなのかもしれない。
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