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カオス
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「それで元カノとはどうなってんだ?いい女なんだろ?」
「それがえらいことになってんだよ。先週の金曜日に、旦那が出張でいないって言うからホテルに泊まったんだけどな。あいつ、前から旦那に怪しまれてたみたいでさぁ、出張ってのは嫁のしっぽつかむための嘘だったんだよ。ホテル出たところで証拠押さえられて、おまけに旦那が俺につかみかかってきて、弁護士通して話し合おうって言い出してさぁ。そんで慰謝料よこせって。完全にマズったよなぁ」
なんと、話はそこまで進んでいたのか!
これはまさしく泥沼と言っていいだろう。
それなのにこの軽さはなんなんだ?
「不倫の慰謝料の相場っていったら数百万だろ?橋口、そんな金持ってるのか?」
「あるわけねぇじゃん。だから彼女と結婚しとこうかなーって。手料理以外は別に好きじゃないけど、彼女もそろそろ結婚したいとか言ってたし、なんか適当な理由つけて金借りるつもり」
「あー……会長の孫だっけ?だったらそれくらいは余裕か。結婚したら好き放題できるな」
「でもこっちは切羽詰まってるってのに、仕事が忙しいとか言って全然会えないんだ。この間なんか久しぶりに会ってもやらしてくんねーし、いい歳してもったいぶんなってんだよ」
別にもったいぶった覚えはないんだが?
ただ単に、他の女を抱いた汚ない手で触られたくなかっただけだ。
いい歳で悪かったな、おまえのせいで貴重な3年を無駄にしたからだよ。
しかしなるほど、急に私と会いたいと言い出した理由はそれか。
とは言え私は会長の孫ではないし、どちらにしろあんな男にそんな大金を貸してやるつもりはない。
もちろん結婚なんて絶対にしない。
「でもあの子はどうするんだよ。商品管理部のマミちゃんだっけ?めちゃくちゃ相性がいいって言ってたじゃん。結婚しても愛人として囲うのか?」
「いやー……なんか最近俺の嫌いなレバーとかピーマンとか使った下手くそな料理作ってみたり、昼間に一緒に遊びに行きたいとか言いだしてさ、ただのセフレのくせにやけに彼女面したがるから面倒になってきたんだよな。俺はおまえにそんなもん求めてないっての。いいのは体だけなんだから、黙ってやらしてくれりゃそれだけでいいんだよ。でもちょっと飽きてきたとこだし、良かったら譲ってやろうか?」
「うっわ……おまえマジで最低だな。いつか刺されるぞ」
これが護の本音なのか。
自分のことはもちろんだけど、奥田さんの扱いもあまりにひどすぎる。
護の好きな食べ物を聞かれたときに、意地悪して護の嫌いな料理を教えたことを少し後悔した。
奥田さんは本気で護に好きになって欲しくて、苦手な料理に挑戦したり、体以外の繋がりが少しでも欲しくて模索していたんだと思う。
護には私や奥田さんの気持ちなんて、死んでもわからないだろう。
悔しい……!
やっぱりなんとかして叩きのめしてやりたい。
私が拳を強く握りしめて歯を食いしばっていると、瀧内くんが私の目の前にスマホをちらつかせ、人差し指を自分の唇にあてて見せた。
スマホがどうしたのかと思って黙って画面を見ると、赤い文字で『REC』と表示されている。
それから瀧内くんは後ろの席に近付けるようにして、ソファーの通路側の端にスマホを置いた。
どうやらスマホのボイスレコーダー機能を使って護たちの会話を録音しているようだ。
私たちは護たちのゲスな会話をバックに、店員が運んできた日替わりランチを一言もしゃべらず黙々と平らげ、食後のコーヒーを一気に飲み干すと、護たちに気付かれないよう一足早く店を出た。
店を出て少し離れたところで、私たちは大きく深呼吸した。
押し殺していた呼吸を解放したことで、溜め込んでいた言葉が一気に溢れ出す。
「前からわかっちゃいたけど……あいつ、ホントにゲスだな!」
「志織、結婚してまう前にそれがわかって良かったで!あんなやつと結婚なんかしたら、お先真っ暗や!」
「ホントにね。それを見抜けなかったなんて、私も男を見る目がないっていうか……とにかくムカつく!」
私たちの会話をよそに、瀧内くんはスマホを操作してさっき録音した会話を確認している。
「ちょっとノイズは多いけど、だいたいは録れてそうです。最近のスマホは本当に高性能で便利ですね」
「まさかこんなことにそれを使うとは……なんかもったいないね」
「さて……これをどう使うのかが問題ですね。あとは志織さん次第です。もちろん協力は惜しみませんよ」
いつもよりさらに冷たい瀧内くんの微笑みに背筋が寒くなった。
「それがえらいことになってんだよ。先週の金曜日に、旦那が出張でいないって言うからホテルに泊まったんだけどな。あいつ、前から旦那に怪しまれてたみたいでさぁ、出張ってのは嫁のしっぽつかむための嘘だったんだよ。ホテル出たところで証拠押さえられて、おまけに旦那が俺につかみかかってきて、弁護士通して話し合おうって言い出してさぁ。そんで慰謝料よこせって。完全にマズったよなぁ」
なんと、話はそこまで進んでいたのか!
これはまさしく泥沼と言っていいだろう。
それなのにこの軽さはなんなんだ?
「不倫の慰謝料の相場っていったら数百万だろ?橋口、そんな金持ってるのか?」
「あるわけねぇじゃん。だから彼女と結婚しとこうかなーって。手料理以外は別に好きじゃないけど、彼女もそろそろ結婚したいとか言ってたし、なんか適当な理由つけて金借りるつもり」
「あー……会長の孫だっけ?だったらそれくらいは余裕か。結婚したら好き放題できるな」
「でもこっちは切羽詰まってるってのに、仕事が忙しいとか言って全然会えないんだ。この間なんか久しぶりに会ってもやらしてくんねーし、いい歳してもったいぶんなってんだよ」
別にもったいぶった覚えはないんだが?
ただ単に、他の女を抱いた汚ない手で触られたくなかっただけだ。
いい歳で悪かったな、おまえのせいで貴重な3年を無駄にしたからだよ。
しかしなるほど、急に私と会いたいと言い出した理由はそれか。
とは言え私は会長の孫ではないし、どちらにしろあんな男にそんな大金を貸してやるつもりはない。
もちろん結婚なんて絶対にしない。
「でもあの子はどうするんだよ。商品管理部のマミちゃんだっけ?めちゃくちゃ相性がいいって言ってたじゃん。結婚しても愛人として囲うのか?」
「いやー……なんか最近俺の嫌いなレバーとかピーマンとか使った下手くそな料理作ってみたり、昼間に一緒に遊びに行きたいとか言いだしてさ、ただのセフレのくせにやけに彼女面したがるから面倒になってきたんだよな。俺はおまえにそんなもん求めてないっての。いいのは体だけなんだから、黙ってやらしてくれりゃそれだけでいいんだよ。でもちょっと飽きてきたとこだし、良かったら譲ってやろうか?」
「うっわ……おまえマジで最低だな。いつか刺されるぞ」
これが護の本音なのか。
自分のことはもちろんだけど、奥田さんの扱いもあまりにひどすぎる。
護の好きな食べ物を聞かれたときに、意地悪して護の嫌いな料理を教えたことを少し後悔した。
奥田さんは本気で護に好きになって欲しくて、苦手な料理に挑戦したり、体以外の繋がりが少しでも欲しくて模索していたんだと思う。
護には私や奥田さんの気持ちなんて、死んでもわからないだろう。
悔しい……!
やっぱりなんとかして叩きのめしてやりたい。
私が拳を強く握りしめて歯を食いしばっていると、瀧内くんが私の目の前にスマホをちらつかせ、人差し指を自分の唇にあてて見せた。
スマホがどうしたのかと思って黙って画面を見ると、赤い文字で『REC』と表示されている。
それから瀧内くんは後ろの席に近付けるようにして、ソファーの通路側の端にスマホを置いた。
どうやらスマホのボイスレコーダー機能を使って護たちの会話を録音しているようだ。
私たちは護たちのゲスな会話をバックに、店員が運んできた日替わりランチを一言もしゃべらず黙々と平らげ、食後のコーヒーを一気に飲み干すと、護たちに気付かれないよう一足早く店を出た。
店を出て少し離れたところで、私たちは大きく深呼吸した。
押し殺していた呼吸を解放したことで、溜め込んでいた言葉が一気に溢れ出す。
「前からわかっちゃいたけど……あいつ、ホントにゲスだな!」
「志織、結婚してまう前にそれがわかって良かったで!あんなやつと結婚なんかしたら、お先真っ暗や!」
「ホントにね。それを見抜けなかったなんて、私も男を見る目がないっていうか……とにかくムカつく!」
私たちの会話をよそに、瀧内くんはスマホを操作してさっき録音した会話を確認している。
「ちょっとノイズは多いけど、だいたいは録れてそうです。最近のスマホは本当に高性能で便利ですね」
「まさかこんなことにそれを使うとは……なんかもったいないね」
「さて……これをどう使うのかが問題ですね。あとは志織さん次第です。もちろん協力は惜しみませんよ」
いつもよりさらに冷たい瀧内くんの微笑みに背筋が寒くなった。
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