パドックで会いましょう

櫻井音衣

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競馬場デビュー

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「どっちや?」
「んー……ハナ差で3番やな。最後はもう首の上げ下げやった」
「はあーっ……。やっぱりおねーちゃんの審馬眼はすごいで……」

当たり馬券をマジマジと見つめながら、おじさんはため息をついた。
そして嬉しそうに笑って、ねえさんの肩をガシッと掴んだ。

「よっしゃ!!おねーちゃん、今日はおごったる!!飲みに行くで!!」
「ホンマ?」
「ホンマや。おねーちゃんのおかげで大穴当てたからな!アンチャンも来い!ついでにおごったる!」
「あ……ありがとうございます……」

なんだかよくわからないけど、おじさんがおごってくれるらしい。

「アンチャン、酒飲めるんか?」
「あまり強くはないですけど、少しなら」
「まあ、無理せん程度に飲めや」
「はい……」

あれ?
僕はどうして今日初めて会ったばかりの、どこの誰かも知らない人たちとこうしているんだろう?
だけど全然イヤじゃない。
なんだかとっても不思議な気分だ。



お昼時になり、さっきまで脇目もふらず馬を観ていたねえさんが大きく伸びをした。

「なぁ、お腹空かへん?そろそろお昼にしよか」

ねえさんはまた僕の腕を掴んで歩き出した。

「あの……どちらへ?」
「フードコーナー。お昼ごはん食べるやろ?」
「おじさんはいいんですか?」
「おっちゃんはおっちゃんで、好きなようにしてるからええねん」

ねえさんとおじさんは顔見知りではあるようだけど、ここで顔を合わせたからと言って、常に行動を共にしているわけではなさそうだ。

「そうや。今やったら馬券売り場空いてるはずやで。頼まれた馬券、先にうとき」

ねえさんは僕を馬券売り場に連れて行き、馬券の買い方を教えてくれた。
ねえさんに教わりながら、マークシートを鉛筆で塗りつぶす。
まるで学生の時のマークシート試験みたいだ。
そんなことを思いながらも、僕のすぐとなりにいるねえさんとの距離の近さに思わずドキドキしてしまう。
モテた経験がないからな。
女の人がこんな近くにいることなんて、滅多にない。
わざと失敗して時間稼ぎをしてやろうかなんて、バカみたいなことまで考えてしまう僕が情けない。
よこしまな考えは捨てよう。

素直にねえさんの言うことを聞いて、頼まれていた馬券を無事に買うことができた。
馬券売り場からフードコーナーへ移動して、ねえさんは僕の手を引きながら人だかりへと向かう。

「ここのカツサンドがな、めっちゃ美味しいねん」
「そうなんですか?僕、カツサンド大好きです。食べたいな」
「よし、カツサンドに決まりやな」

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