パドックで会いましょう

櫻井音衣

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卒業アルバム

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「休みの日にね……飲むんですよ、ビール」
「そうなんか。それで慣れたんやな」
「多分……」

一緒にいてもいなくても、僕の頭の中はねえさんのことでいっぱいだ。
ねえさんは今、どこで何をしているだろう?
日曜日、ねえさんは競馬場に来るだろうか?
もしかしたら、もう会えないかも知れない。
あんなふうに僕の心と体に、たしかにそこにいた痕だけを残して消えてしまうなんて。
もう会えなかったら、僕のこの気持ちはどうすればいいんだろう?

「なんや……最近なんかあったんか?」

先輩はさきいかを噛み締めながら僕に尋ねた。
意外なその言葉に、僕は軽く首をかしげる。

「仕事の合間も、なんやボーッとしとるやろ?気になってたんや」

驚いた。
先輩は僕のこと、ちゃんと見てたんだ。
女の人のことばかり考えている人だと思っていたのが申し訳ない。

「僕、ボーッとしてますか?」
「なんちゅうか……どこ見とんねん!ってツッコミ入れたなるような感じや。目の焦点がうとらん」
「そうですかねぇ……」

ねえさんとのことを話したって、どうにかなるわけじゃない。
ただ、先輩の目から見てもわかるくらい、僕は落ち込んでいるってだけだ。

「なんや?女にフラれたんか?」

こういうことにだけは鋭いな、先輩は。

「フラれた……ってわけじゃないです」

何がなんだか、僕にもさっぱりわからない。
あの夜、ねえさんがなぜ僕にあんなことを言ったのか。
なぜ、僕と一夜限りの関係を持ったのか。
僕にはどうしてもわからないことばかりだから、その理由をこちらが教えて欲しいくらいだ。

「僕にもね、何がなんだか、さっぱりわからないんですよ」
「なんのこっちゃ……。おまえがわからんのやったら、俺にもわからんわ」

呆れたように先輩が呟いた。

「……ですよね」

僕はやりきれない気持ちを、ビールと一緒に喉の奥に流し込んだ。
ねえさん本人に確かめなければ、ねえさんの気持ちはわからない。
だけどもし問い詰めたところで、うまくかわされてしまうのかも知れない。
確実に言えるのは、『今だけ』と言ったと言うことは、ねえさんが僕と一緒にいる未来を求めてはいないと言うことだ。
ねえさんはあの夜、僕のことなんか好きでもないのに『今だけ』と言って僕を求めた。
それが無性に悲しくて、虚しい。

なんで僕はあの時、ねえさんを欲しいと思う気持ちを抑えきれなかったんだろう。
体だけ重ねたって、心がそこにないと虚しいだけだと、あとになって気付いた。
僕だけがどれだけ想っても、どんなに優しく抱きしめても、ねえさんの心は僕のものにはならないのに。


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