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いつの日かまた、パドックで
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「おじさんは……もう、ここには来ない……」
「え?」
「これ、ねえさんに渡してくれって、おじさんから預かってたんです」
僕はおじさんから預かった指輪の入った小箱をねえさんに差し出した。
ねえさんはそれを受け取り、ゆっくりと蓋を開く。
「何これ……指輪?なんで……?」
「もう……会えないから……今までねえさんに何度も馬券当てさせてもらったお礼に、プレゼントだって……」
僕の下手な嘘に、ねえさんは気付いていないだろうか?
僕はうまく笑えているかな?
ねえさんは指輪をじっと眺めて、そっと手に取った。
「おじさんがね……ねえさんには、幸せになって欲しいって、言ってました……。ねえさんと一緒に過ごせて楽しかった、出会えて本当に良かった、って……」
ねえさんは指輪を眺めながら、ポロポロと涙をこぼした。
自分が泣いていることに驚いて、ねえさんは慌てて涙を拭った。
「あれ……?なんでやろ……?なんでアタシ泣いてんのやろ……?」
おじさんは僕にこの指輪を託した時に言っていた。
『これな……あの子が欲しがってたもんなんや。あの子は口には出さんかったけど、一緒に買い物行った時に見掛けてな……。やっぱり女の子やな、目ぇキラキラさせとった……』
もしかしたらねえさんは、失ってしまった記憶の片隅で、この指輪を覚えているのかも知れない。
愛する人と穏やかに過ごした、束の間の幸せだった日々の記憶を守るため、誰にも汚されないように、心の奥に閉じ込めてしまったんじゃないだろうか。
「アンチャン、ごめんな。アタシ……ホンマはもう、ここには来んつもりやった……」
やっぱり……。
もう、僕には会いたくなかったんだな……。
「でもな、夕べ、夢見たんよ」
「夢……ですか?」
「うん……。夢におっちゃんが出てきてな、『ありがとう』言うて何回も頭撫でてくれてさ……。『誰にも遠慮なんかせんでええ、今度こそ幸せになれよ。パドックで待ってるで』って……」
おじさんは最期にどうしても会いたくて、ねえさんの夢の中まで会いに行ったんだろう。
最期の時まで自分の正体を明かさなかったなんて、おじさんは人が好すぎるよ。
それだけねえさんを大事にしたかったんだな。
「なぁ、アンチャン……正直に言うて。もう会えんって、もしかしておっちゃん……」
ねえさんは勘付いているみたいだ。
つらいけれど、隠すのはもうやめよう。
僕はゆっくりと口を開く。
「……先週、おじさんの知り合いが運営しているホスピスで……」
「……おっちゃん……死んでもうたん……?」
僕が黙ってうなずくと、ねえさんは大粒の涙をこぼした。
「おっちゃん、アタシになんの断りもなく死ぬってどういうこっちゃ!散々儲けさせたったのに、挨拶もなしか!」
ねえさんは涙を拭って、無理して作り笑いを浮かべようとした。
その泣き笑いが痛々しくて、僕はねえさんを強く抱きしめた。
「ねえさん、無理して笑わなくていいんです。大事な人とのお別れの時はね……思いきり泣いていいんですよ……」
ねえさんは僕の胸に顔をうずめて、子供のように声をあげて泣いた。
僕は涙を堪えて、ねえさんを抱きしめていた。
「え?」
「これ、ねえさんに渡してくれって、おじさんから預かってたんです」
僕はおじさんから預かった指輪の入った小箱をねえさんに差し出した。
ねえさんはそれを受け取り、ゆっくりと蓋を開く。
「何これ……指輪?なんで……?」
「もう……会えないから……今までねえさんに何度も馬券当てさせてもらったお礼に、プレゼントだって……」
僕の下手な嘘に、ねえさんは気付いていないだろうか?
僕はうまく笑えているかな?
ねえさんは指輪をじっと眺めて、そっと手に取った。
「おじさんがね……ねえさんには、幸せになって欲しいって、言ってました……。ねえさんと一緒に過ごせて楽しかった、出会えて本当に良かった、って……」
ねえさんは指輪を眺めながら、ポロポロと涙をこぼした。
自分が泣いていることに驚いて、ねえさんは慌てて涙を拭った。
「あれ……?なんでやろ……?なんでアタシ泣いてんのやろ……?」
おじさんは僕にこの指輪を託した時に言っていた。
『これな……あの子が欲しがってたもんなんや。あの子は口には出さんかったけど、一緒に買い物行った時に見掛けてな……。やっぱり女の子やな、目ぇキラキラさせとった……』
もしかしたらねえさんは、失ってしまった記憶の片隅で、この指輪を覚えているのかも知れない。
愛する人と穏やかに過ごした、束の間の幸せだった日々の記憶を守るため、誰にも汚されないように、心の奥に閉じ込めてしまったんじゃないだろうか。
「アンチャン、ごめんな。アタシ……ホンマはもう、ここには来んつもりやった……」
やっぱり……。
もう、僕には会いたくなかったんだな……。
「でもな、夕べ、夢見たんよ」
「夢……ですか?」
「うん……。夢におっちゃんが出てきてな、『ありがとう』言うて何回も頭撫でてくれてさ……。『誰にも遠慮なんかせんでええ、今度こそ幸せになれよ。パドックで待ってるで』って……」
おじさんは最期にどうしても会いたくて、ねえさんの夢の中まで会いに行ったんだろう。
最期の時まで自分の正体を明かさなかったなんて、おじさんは人が好すぎるよ。
それだけねえさんを大事にしたかったんだな。
「なぁ、アンチャン……正直に言うて。もう会えんって、もしかしておっちゃん……」
ねえさんは勘付いているみたいだ。
つらいけれど、隠すのはもうやめよう。
僕はゆっくりと口を開く。
「……先週、おじさんの知り合いが運営しているホスピスで……」
「……おっちゃん……死んでもうたん……?」
僕が黙ってうなずくと、ねえさんは大粒の涙をこぼした。
「おっちゃん、アタシになんの断りもなく死ぬってどういうこっちゃ!散々儲けさせたったのに、挨拶もなしか!」
ねえさんは涙を拭って、無理して作り笑いを浮かべようとした。
その泣き笑いが痛々しくて、僕はねえさんを強く抱きしめた。
「ねえさん、無理して笑わなくていいんです。大事な人とのお別れの時はね……思いきり泣いていいんですよ……」
ねえさんは僕の胸に顔をうずめて、子供のように声をあげて泣いた。
僕は涙を堪えて、ねえさんを抱きしめていた。
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