oldies ~僕たちの時間[とき]

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3.――“homeostasis&transistasis” [2]

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「――最初ハナっから上手くいくはずなんて無いって、思わない……?」
 部活が終わった後の声楽室へ真っ先にやってきた渡辺くんをグランドピアノ越しに眺めながら。
 タメ息混じりに、僕は告げる。
「全くテンデバラバラな方向性の人間が集まったところで……何やったって、上手くいくはずなんて無いじゃないか」
 時間のムダだよ。…と、今度は彼を見つめて、呆れたような口調でキッパリと言ってやった途端。
「…そうかな?」
 やっぱり真っ直ぐに僕を見つめ返した渡辺くんは、相変わらずキョトンとした表情で…でもキッパリとした口調で、それを返した。
「一つでも同じものがある仲間同士なら、他はバラバラでも、どうにかなってくれるモンじゃない?」
「『一つでも』…? あるの、『同じもの』なんて? そもそも君たちに?」
「あるだろ。――四人とも“音楽が好き”だ、っていうこととか」
「ちょっと待ってよ? 『四人』って、いま僕のことまで入れただろ人数に?」
「うん。だって同じバンド仲間じゃん」
「………勝手に『仲間』にしないでよ」
 再び、今度はキッパリはっきり、タメ息一つ。
 僕がこんなにもイヤそげな素振りをしているというのに。
 照れも臆面もなくヌケヌケと『仲間』なんて言葉を、どうして口に出せるんだろうコイツは。
 見た目の無愛想さからは想像もできないが、見知ってみれば良く分かる。
 良く言えば“素直”、悪く言えば“単純馬鹿”、という、典型的な直情径行タイプ。
 何故このタイプの連中ときたら、良く知りもしない人間を、そう簡単に『仲間』だなんて言い切れるのか。
 ただ単に、葉山が勝手に僕を『ウチのキーボード担当』と言い切っただけのことでしかないのに。


 ――コイツも苦手だ。
 話しているうちに自分のペースを狂わされてしまうから。
 葉山と同じ。――僕が“人間”であることを思い出させようとするから。


「オレたちが一緒にバンド組むこと……ひょっとして竹内くんには、迷惑なことだった?」
 相変わらずの無愛想さで、でもどことなくおずおずとした風情で訊いてきた、そんな渡辺くんに。
 チロリと横目で“今さら改まって何を言いやがってんだコイツは?”とでも言いたいかの如く睨み付けるように見上げながら、呟くように「かなりね」と、僕は返してやった。
「君たちが入れ替わり立ち代わりCDやら何やらを押し付けてってくれるおかげで、僕のピアノの練習時間も減ってくれちゃったことだしねっ!」
 それを、あからさまなイヤミッ気たっぷりに言ってやったら、まるで条件反射のように、「ああ、ゴメン」と返ってはきたものの。
 続く言葉が、「そうだったんだ…」。――って、気付いてなかったのかよ!
「じゃあ負担にならないよう、今度からは一度に持ってこないで、少しずつにするから」
「…………」


 そういう問題じゃない! …と叫びたい気力が一気に脱力感に変わった瞬間を、今まさに、僕は、味わった―――。


 どうしてコイツには、“僕を仲間とは認めない”という選択肢が、そこで出てこないのだろうか。
 それが、どうしても不思議でならない。
 てゆーか、そもそも……、
「渡辺くんは……どうして今まで何の関わりすらなかった僕を、そうやって簡単にすぐ『バンド仲間』だなんて、認められるのさ……?」
 ――これに尽きる。
 なのに、それこそ“今さら何を言っているんだ?”とでも言いたいような表情で、キョトンと、さも当然のことのように、彼は答えたのだ。
「だって君はケンの友達なんだろ? ケンが『仲間だ』って言うなら、もう仲間じゃん」
 そんなことを、そんなにもアッサリ言われては……僕は絶句するしか出来ないではないか。
 だが、こんなことなどコイツにとっては、所詮“そんな理由”でしかないのだ。
 僕が葉山の『友達』だって……? ――そんなんじゃないのに……!


 ――葉山、僕は君の“友人”になりたかったんだ。


 あのとき……去っていくヤツの足音を聞きながら、呆然と僕は、それを思った。
 そして、ふいに泣きたくなった。
 悲しい…と思った。
 誰かに背を向けられることを“悲しい”と思うことさえ、これまで僕は知らなかったのだ。
 この気持ちを、どうすればいいのか分からなかった。
 どうすれば、葉山に再びコチラを振り向いてもらえるのか……そんなこと分からない。僕には。


 ――所詮、全てを諦めることを覚えてしまった僕は……自分のもとから去ってゆく人間を引き止める術など、何も知らないのだから。


 だから諦めた。
 抱いてしまった感情ごと忘れようと思った。
 そうすることが、多分、僕にとっては最もラクな方法だから。
 葉山と出会う前の僕に戻ればいい、…それだけのことだ。
 ピアノを弾くためだけの“機械”である僕で居る方がいいんだ。――あんな感情を知ることもないから。


 なのに……目の前に居る、この端正な顔をした直情バカは。
 僕が忘れ捨て去ろうとしたものを、事も無げに、カンタンに目の前に突き付ける。
 僕が葉山の『友達』だって……? ――何故そんなことを僕に言うんだ。
 軽くイラッとした。少しだけ腹立たしくなった。
 …でも同時に、少しだけ羨ましくもあった。
 葉山の友達なら自分の仲間、と……そんなことを簡単に言い切ってしまえるだけの“信頼”が、自然と二人の間に存在しているのだろう、と……我知らず、それが感じられてしまったから。
 そんなことをアタリマエのように出来てしまう二人が、なんだかとても眩しく思えたから。


 葉山と渡辺……この二人は、どことなく、良く似てる。――目には見えない“底”の部分で。


 きっと二人は“似たもの同士”なんだろう多分。
 そんな直情径行な単純馬鹿二人と“友人”で居られる生徒会長も、また……きっと同じものを“底”の部分に持っているはずだ。
 しかし、二人と違って彼の場合、なにごとも表面に出さない。すべてを内に秘めてしまうけど。
 まだ短い付き合いとはいえ、次第にそれが見えてきた。


 ――山崎くんだけが……まだ読めない。内心で何を考えているのか。


 無条件に僕を“仲間”にしようとしてる他の二人に合わせているのだろう、僕に対して『ウチのキーボード担当』っていう扱いを、とりあえず一応は、してくれているものの……でも、時々探るような含みある視線を向けてくることがあるから。
 ようするに彼だけは、まだ納得していない、ということなんだろう。僕がメンバーに加わるということに。
 当たり障りの無い笑顔で僕と相対しながら……その実、笑顔の裏側で“品さだめ”しているんだろう。
 僕が、バンドのメンバーとして…“仲間”として、自分たちの中に迎え入れるに足る“資格”を有しているかどうか―――。
 何も言わずに微笑みながら、そうやって僕を観察している。密やかに。


 何があろうと常に当たり障りの無い笑顔を崩さず、ナニゴトも無いように受け流しては、他人に本心を絶対に見せようとしない。
 そんな山崎くんのようなタイプは、おそらく僕が最も係わり合いになりたくない部類の人間だ。
 自分の周囲のもの全て自分の掌の上で転がせる、と思ってるタイプ。
 それは、金持ちばかりが集まる小学校に通っていた経験上……決して少なくはない“馬鹿息子”の存在を目にしてきた中で、おぼろげながら理解したこと。
“自分の周囲のものすべて自分の掌の上で転がせると思ってるタイプ”には、二通りある。――“すべてが自分の思う通りにと思ってるだけの〈井の中のかわず〉な馬鹿王子”と、“すべてが自分の思う通りにと思ってる計算高い独裁者”と。
 山崎くんは、多分“後者”だ。
 こういうタイプの人間にとって、思う通りに動いてはくれない馬鹿なんて、“友達”になるどころか、扱い難い“計算外の荷物”なだけだろうと思うのだが。


 だからこそ……それゆえに、ヤツら二人の存在を否定できないのかもしれない。
 彼も、きっとヤツらに通じるものを持っているからこそ、――既に知っているんだろう。
“計算外”という存在が在る以上、世の中なんて、絶対に自分の思う通りになんて動かせない、っていうことを。


 決して思うがままにならないのが“現実”というもの、…それは確固たる真実だ。
 常に現実には“計算外”というものが付きまとう。
 それを如何に回避することが出来るかにより、現実を限りなく“理想”に近付けていくことが出来るのだ。
 …しかし、もう一つ。
 同時に、その“計算外”という存在を自分の中に受け入れる、というテも、存在すると云うこと―――。


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