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ep6.5
6.5-9
* * *
「……景」
「なあに?」
ガラガラとスーツケースを引きずる音に紛れそうな声で、御堂は三神峯の名前を呼んだ。
あれから御堂の家の近所を散歩したのはいいものの、散歩から帰ってきてからお互い我慢が出来ず、もう一度ベッドで体を重ねた。三神峯の体を気遣ってか御堂は最後まではすることはなく、お互いのものを擦り合わせるだけだった。それでも十分満たされたが、最後までしてほしいと思ってしまったのは少しだけ内緒だ。
「今度、時間が取れたらどこかに行こうよ」
「昨日言ってたクリームソーダのお店?」
「そうそう、そこもね。景と一緒に行きたいところが結構あるよ」
すっかり綺麗に洗濯された下着やワイシャツ、皺にならないようにとハンガーにかけてあったスーツ。家に帰ったら食べるようにと、フルーツの缶詰も渡されてしまった。御堂は甘えてほしいと何度も三神峯に言ったが、御堂が思っている以上に甘えさせてもらっている。今だって彼の家の最寄り駅まで送ってもらっているところだ。
「……ごめんね、本当は家まで送ればいいんだろうけど」
「そんなことないよ。ここまで送ってくれてありがとう」
「じゃあ、くれぐれも体に気を付けてね。左手、今日も消毒するんだよ。あと顔も」
家を出る時、顔の湿布が目立たないようにと彼はマスクまで渡してくれた。御堂が用意してくれたふつうサイズのマスクは大きく三神峯の顔のほとんどを覆ってしまうほどだったが、顔の傷を隠すにはちょうどよかった。
御堂は駅の改札手前でスーツケースを引き渡し、包帯の巻かれた三神峯の左手を取って包帯の端を整える。わかってる、心配しすぎだよ、と三神峯は困ったように笑ったが、御堂は名残惜しそうに何度も包帯の端を整えていた。
「また連絡するね、和樹」
「うん。無理だけはしないでね」
(……嫌な予感がするような気がするけど、考えすぎなのかな、俺)
改札を抜けてホームへと向かう三神峯の背中を見つめながら、これから先の不安が拭えないと御堂は静かにため息をつく。ホームに上がる手前で振り向いた三神峯は、御堂の姿を捉えると小さく手を振った。
「!」
(かわいいって思っちゃうくらい、景にハマりすぎてるんだよなあ……)
いや実際、景は美人だしかわいいとは思うけど、そう自分に突っ込みを入れて御堂は駅を出る。何か買い物でもして帰ろうかと思っていると、スマートフォンが震えた。
≪和樹、色々ありがとう。また今度お礼させてね≫
スマートフォンに入ったメッセージに、今度は安堵のため息がこぼれた。
彼の小さなSOSに、無理にでも踏み込んでよかったと思う。あの時、無理にでも会いに行かなかったら彼は今でも一人で痛みに耐えていたのだろうか。自分は心身ともにボロボロだった三神峯を、ひとりにさせるつもりだったのだろうか。
≪お礼なんていいよ。今度一緒に出掛けようね≫
それだけ返すと、御堂はアスファルトを蹴ったのだった。
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