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私の主人、推しに遭遇される

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「なぁエノーム」
シニフェ様と並んで歩いていると、ふいにシニフェ様が私を見上げきました。私との身長差で自然に上目遣いになってしまっております。
「なんでしょう?」
「荷物重くないのか?俺のだし自分で持つけど」
と仰ると、私が持っている荷物をいくつか取ろうとなさいます。
「なりません!グランメション侯爵子息が荷物を持って歩く等…」
「いや、そーいうエノームだってガスピアージェ子爵令息じゃん。やっぱり従僕のフリュートを連れてくるべきだったか」
「大人数での外出を嫌うのはシニフェ様でしょう?なんでしたっけ『ダイミョーギョーレツ』?とかおっしゃっていたじゃないですか」
「そーだけど…でもこんなんじゃ顔も見れないし」
「?顔ですか?私の??」
「んんんっ、なんでもないっ!ーーそれにしてもプランがいればまだ良かったのにな。プランは最近鍛えてるからもっと買い物出来ただろうし!」

そうなのです。今日はプランは別行動をしています。
先日のシニフェ様の話を聞き、なにやらグラン商会でやっているようです。私も私で動いているので、お互いある程度見通しがつくまでは何をしているのかは教え合いません。これは昔からそうなのです。
別に牽制し合っているとかではなく、昔2人で色々対応していた際にシニフェ様が『仲間はずれにされた』と酷くご立腹されたことが理由です。まぁどうせならお互いも驚かせたいというのもあります。
私もクーラッジュとシニフェ様が直接対決しないようにちょっとした細工と魔法薬を作っていますが、誰にも言っていません。

さて、そんな私たちのしている行動も知らないシニフェ様は、買いたいものをあらかた買ったので私と2人で馬車に乗っています。ぼんやりと頬杖をついて窓の外を眺めていらっしゃる姿は肖像画の中のようで素晴らしい構図だと感嘆の息が漏れてしまいます。
物憂げな表情を浮かべていらっしゃるのは先日のお話のことでも考えているのでしょう。これまであまり見られなかった面持ちに不謹慎かもしれませんが、瞳孔が開くような脈拍が上がってくる感覚がしてきます。これはシニフェ様の仰っている事柄を絶対に起こさないという自信があるからなのですけども。
残念ながらシニフェ様は私たちが「大丈夫」と申し上げてもそれを信じて下さらないのです。
悲しいですね。

などと思っていると馬車はグランメション邸の車止めに入りました。
馬車が止まるやいなやフリュートが玄関口から馬車へ駆け寄り馬車の扉を開けるので、荷物の事を伝えていると、私たちとは行き違いに外に出てくるプランともう1人小柄な老人ーーいえ、これは珍しいドワーフ族の方に出会いました。

「あれー?エノーム早かったんだね~。もうちょっとゆっくりでも良かったんだよ~」
プランがそう言っていると、横にいたドワーフ族にシニフェ様が駆け寄って行った。
「あっ、あなた、あの、もしかして」
「うん?なんだ坊主?」
「僕はシニフェ・グランメションと言います。この家の息子です。あ、あのもしかするとあなたはナン、フォジュロン・ナンーーさんですか?」
「グランメションっつーことはここん家の子かぁ。すまん坊主なんと言ってしもうて。おお、ワシがフォジュロンだ」
「キャーっ!!本物!!!エノーム本物だ!!」
ドワーフ族の方のお名前を確認された途端に黄色い声を叫ばれました。
フォジュロン・ナン?恥ずかしながら私はそのお名前を存じませんが、シニフェ様のご様子を拝見する限りとても有名な方なのでしょう。
「初めまして。エノーム・ガスピアージェと申します」
「おお、えらい丁寧な坊主だな。俺はフォジュロン・ナンっつーただのしがない鍛冶屋だ。坊ちゃんがなんで俺の事を知っとるのかは知らんがな、がははは」
「そんな!しがないなんてご謙遜を!!良ければ中でお茶でも・・・」


シニフェ様は興奮しながらフォジュロン氏とプランを引き止めましたが、フォジュロン氏は『既に丁重にもてなされたし、用は済んだ』と言って帰ってしまったので、部屋に戻ったシニフェ様は残念だと何度もため息をつかれていました。
「シニフェ様、不勉強で恐縮なのですが先ほどのフォジュロン様はそれほどご高名なのでしょうか?」
「いいや?多分今時点だと、せいぜい鍛冶職人の仲間内で有名って位だと思うよ」
「では何故そんなに残念がっているのです?」
剣術はそれなりにお好きなのは存じていますが、シニフェ様が鍛冶職人ネットワークにまで知見があるなど初めて知りました。

「ああ、そりゃそうだよね。あれなの、フォジュロンは『ゲーム』に出てくんだ。クーラッジュの仲間に成る斧使いとして」
なるほど。それであれば名前をご存知であったのも納得ですね。
いや、でもあの興奮の仕方は異常ではないでしょうか?と思っていますと、私の顔に出ていたようでシニフェ様が補足して下さいました。
「フォジュロンはなー、クーラッジュがへこたれると叱咤激励してやる気を出させてくれるポジションで、気の良いパーティ内のお父様的なポジションなんだ。俺が『ゲーム』内で一番好きだったキャラ。でも魔王戦のムービーでは魔王が放つ即死技をクーラッジュの代わりに受けるんだ」
「即死・・・」
「あ、大丈夫。死なないぞ。魔王がやっつけられて浄化の光で生き返るから。でも何でウチに来てたんだろう。シニフェとフォジュロンのエピソードなんてなかったけどなぁ」
そう言って何か火が点いてしまったのか、その晩のシニフェ様は楽しそうに私にゲームの話をし続けたのでした。
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