私の主人が自分を悪役令息だというのですがそれは大きな問題ではございません

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私の主人、エルフから悪意のある悪戯をされる

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「それとも君に絶対服従する従順な性格にしてあげようか☆」


その一言を囁かれた瞬間、嫌悪がまるで冷水のように私の背筋に走り、指先に溜めていた魔力をエルフに向かって放っていました。
「うわっ、あっつ!」
無意識に出したのは小さな火種を出す生活魔法でしたが、不意をつくには十分で不躾なエルフから離れることができました。
「火?!えっ、何故」
驚いていた相手は私が火の魔法を使えると勘違いしたように慌てているようでした。
その様子を見ながら、触れられていた肩に残る感触が、打ち身をした時同様にじくじくとした不快感を主張しているのに気がつきました。それをぬぐい去ろうと何度か右手で払いながら何やら無性に苛立ったと思うと、私の口が勝手に動き出しました。

「あなたは何か勘違いされているようですね。私は別にどちらのご気性でも構わないのです」
「はっ?」
「先ほど言われていた質問への回答です。『どちらが良い?』かときかれましても、どちらでも結構です。シニフェ様であればご本人が仰る『悪役』だろうと『それを回避した別の存在』であろうと私をお側に置いて下さるのでしたら問題ございません」

勢いに任せながら、指先に残った魔力で部屋に明かりを灯しました。
すると先ほどの火種に驚いたのでしょうか、仰向けに座り込む間抜けなエルフが眼に入りました。しかし私の舌は止まりません。

「私は選ぶ立場ではございません。シニフェ様が選ばれた方に進めるようにお手伝いするだけなのです」
「でも主君が悪い事をするのであれば、止めてあげるのも忠誠ってもんじゃないの?」
「いいえ、私は忠誠でご一緒しているのではありません。ただただ自分のエゴでシニフェ様が進まれるのでしたらご一緒に死の影の谷を歩み、その靴が汚れないように整備したいと思いますし、地獄に行くのでしたら閻魔の懐柔をお手伝いするだけと思っておりますので!共にいられれば十分幸せです」
「…プッ!あーはっはっはっは!!」

私がまくしたてるように言い切ると妙なエルフはとうとう爆笑し出しました。
自分でも不思議な程にこれまで朧げだった感情を言語化出来た気がします。しかし、これも恐らくこの嫌らしいエルフが何かしたに違いありません。
笑っている姿に冷めた視線を送ると、なんとか笑いを納めようと声を殺していました。

「いやぁ、噂には聞いていたけどガスピアージェのグランメションへの心酔は病的だね☆やっぱり君はガスピアージェの養子とは言っても遠縁から引き取られている縁者だと思うよ☆」
「そんな事は存じません。どうでも良いです」
「はーっ、笑った。さすがグランメションに焦がれて人間になった一族なだけあるね☆」
「は?」

人間になった?誰がでしょう。
話の脈絡から言うと、ガスピアージェがでしょうか?
そんなの紳士目録には書かれていませんでしたよ。

「今のどういう意味ですか?」
「え?知らないの?んーどうしよっかな☆さっきの火種で僕の髪の毛、少し燃えたし教えたくーー」
「グラン伯爵に全部伝えたら、さすがに取引は中断されると思いますが?」
とは言いましてもシニフェ様に害を加えられたので報告は須くすべからくさせていただきますが、まあ『教えていただいたら報告しません』とは言ってませんし嘘はついていません。

「あー、そっか。まぁ別に僕の切り札でもナンでもないし、いっか☆あれだよ、初代ガスピアージェは元々は僕らに近い一族、ダークエルフだったんだよね。それがグランメション侯爵の何代目だっけか、2代目とかそこらと出会って、懐いて人間の世界に行ったんだってさ。それから永らく人間と婚姻を結んでるからほとんど血は残っちゃいないだろうけど、家系魔術とか魔法薬作りの腕とかで片鱗が残ってるじゃないかな」
「…嘘です」
「いや、嘘じゃないって。僕らエルフ族でも有名だもの」
「有り得ません、嘘くさ過ぎます、大体あなた全てが嘘くさいんですよ」
「分かるぞ、坊ちゃん!!」

と私に同意する荒っぽい声が聞こえた瞬間、窓ガラスが粉々に砕けました。

「フォッ、フォジュロン!?」
「ペルソン!おェまた下らないことやってんじゃねぇか?!」
「久しぶりだね☆元気?どうだい一杯飲ま「誤摩化すな!坊ちゃん方に迷惑かけてんじゃネェか?」」

窓ガラスを豪快に割って入って来たのは以前プランとご一緒されていた、シニフェ様が大ファンだと仰っていたフォジュロン氏でした。
フォジュロン氏は焦るエルフの言い訳を無視して私の方を見ていましたので、静かに頷いてみせました。ええ、大変迷惑を被っておりますよ、と。

「来て早々、毒を嗅がされて3人とも意識を失い、その後シニフェ様に関しては思考に手を加えられたようでお人柄を変えられてしまいました」
「っかーーぁ!グランさんに聞いて心配して来てみたらその通りだったとは!おいペルソン、おェ、グランメションのお坊ちゃんに何したんだ!?」

フォジュロン氏は情けないエルフの両肩を掴んで前後に振ると、詰問を始めて下さいました。
取り調べはあちらに任せましょう。この方ならなんとかして下さるに違いありません。
私は2人のやり取りを椅子に座ってしばらく眺めていましょうか。ちょうど良いですし紅茶でもあればシニフェ様達のところへ持って行きましょうかね。あ、あそこにポットがありますね。

「いや、別に悪さなんかじゃないよ、ちょっとしたジョークさ!」
「ジョークって範囲じゃぁねェだろうがっ!『人柄を変えちまう』なんて大問題じゃねェか!」
「いやいやいや、そんな大それた事じゃないよ☆ちょーーっと数年分ばかり精神時間を戻しただけさ!」
「そりゃおェさん達の禁術じゃねぇか!」
「痛いっ!痛いよフォジュロン!大丈夫大丈夫、軽ーくかけただけだから二三日で戻るからさ☆」
「まだ言うか!!!」

ありがとうございます。フォジュロンさん、もっとやってしまって下さい!
紅茶を蒸らしながら私の代わりに愉快犯エルフを締めてくださっているフォジュロン氏はシニフェ様に掛けられた謎まで解いて下さいました。
後で何かお礼をいたしましょう。
ともかくご病気や記憶喪失といった”人間避け”での重篤な後遺症ではなく安心致しました。
ああ、茶葉もいい具合に開きましたね。
とりあえず持って行ってこの件をご報告致しましょう。

私はポットとカップをトレーに乗せて、騒ぐエルフとドワーフをおいて先ほどまでいた部屋に戻りました。

「シニフェ様、プラン、入りますよ」
ドアを開けましたが返事がありません。
視線を部屋に向けると、部屋には誰もおりませんでした。
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